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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 167

公開日:2021.11.10


今週のジャーナル

Nature  Vol. 598 Issue 78822021年10月28日)日本語版 英語版

Science Vol. 374, Issue 6567(2021年10月29日)英語版

NEJM Vol.385 No.18(2021年10月28日)日本語版 英語版








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癌の老廃物からL-アルギニン産生可能なプロバイオティック大腸菌による癌免疫治療/ネアンデルタール人由来のCOVID-19重症化に保護的な関連遺伝子OAS1の抗ウイルス機能分子メカニズム/気管支喘息の新たな生物学的製剤・抗IL-33抗体

•Nature

1)癌免疫療法
免疫療法用に改変した細菌による腫瘍の代謝調節(Metabolic modulation of tumours with engineered bacteria for immunotherapy
 抗腫瘍免疫で中心となるT細胞において,L-アルギニンはT細胞の長期生存や免疫記憶生成や殺腫瘍効果といった様々な重要な働きをしており,動物実験ではL-アルギニンの投与によって抗腫瘍効果がみられることが報告されている(リンク1リンク2)。しかしながら,腫瘍環境内ではL-アルギニン濃度が低く,腫瘍局所に十分な濃度にするためには非現実的な大量のL-アルギニンを毎日投与することが必要であることが明らかとなっていた(マウスの研究から換算すると体重60㎏のヒトでは120g/日)。
 スイスのベリンツォーナの大学(Università della Svizzera italiana)からの本研究では,非病原性の大腸菌(E. coli Nissle 1917:ECN)を遺伝子改変して,腫瘍内に蓄積する代謝老廃物であるアンモニアを継続的にL-アルギニンに変換するプロバイオティック大腸菌を開発している(Fig. 2)。この遺伝子改変大腸菌をマウスの腫瘍モデルで腫瘍内に注入すると腫瘍内で生着し,腫瘍内L-アルギニン濃度の上昇と腫瘍浸潤T細胞数の増加が引き起こされ,免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-L1抗体治療との著明な相乗効果がみられた。この抗腫瘍効果はL-アルギニンを介しており,T細胞に依存した効果であることが確認された。さらにこの遺伝子改変大腸菌をマウス腫瘍モデルに全身投与(静脈注射)すると,菌は特異的に腫瘍に定着し,抗PD-L1抗体治療との併用で著明な抗腫瘍効果がみられた(Fig. 4)。今後の臨床応用に向けてヒトでの効果や安全性をはじめ,どのような癌種でどの程度の期間の効果があるかなど解決すべき問題点はまだありそうである。しかしながら腫瘍内の老廃物であるアンモニアからL-アルギニンを産生できる遺伝子改変大腸菌の投与によって,腫瘍微小環境内の代謝を調節することで免疫療法の効果が増強できることが確認された点で大変興味深い研究である。本研究はNews & Viewsでも紹介されている。

•Science

1)新型コロナウイルス感染症
プレニル化されたdsRNAセンサーは重度のCOVID-19から保護する(A prenylated dsRNA sensor protects against severe COVID-19
 この1年半以上にわたり新型コロナウイルス感染症では様々な重症化関連の要素〔人種,性別,年齢,基礎疾患,血液型,遺伝子一塩基多型(SNP)など〕について研究報告されてきている。これまでのGWAS研究などで,そのネアンデルタール人由来の塩基配列の多型(SNP)がCOVID-19の重症化を防いでいるのではないかと指摘されていた2'-5'-オリゴアデニル酸シンテターゼ1(2’-5’-oligoadenylate synthetase 1:OAS1)についての新しい知見が英国グラスゴー大学より報告されたので紹介したい。
 まず,この研究グループは抗ウイルス免疫反応におけるインターフェロン(IFN)の重要性から,in vitroでIFN刺激遺伝子発現スクリーニングを使用し,そこから新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を強力に阻害する遺伝子としてOAS1を確認している。SARS-CoV-2などのウイルスでは膜に囲まれた小胞体などの細胞内小器官の中で複製するが,その際にOAS1はSARS-CoV-2 の5'-UTRのdsRNA構造に結合すると活性化し,ATPからセカンドメッセンジャーとなる2’-5’-oligoadenylateを生成する。2’-5’-oligoadenylatehaによって活性化されたribonuclease L(RNaseL)はウイルスRNAを切断するために複製を阻害して抗ウイルス作用を示す。
 本研究では,このウイルスの複製部位である小胞体内でOAS1が有効に働く機構として,OAS1分子のC末端の修飾が重要であることが示された。すなわち,OAS1は疎水性のプレニル基を付加するプレニル化反応(Prenylation)(Wiki)を受けるが,OAS1はこのプレニル基によって小胞体の膜に付着することができるためにウイルス複製部位に局在できる()。プレニル化されないOAS1は小胞体に局在できずに有効な抗ウイルス効果を発揮できないのである。実はヒトOAS1にはp46とp42の2つのアイソフォームがあり,p46ではプレニル化部位があるのでプレニル化型になり小胞体局在が可能であるが,p42はその部位がないので抗ウイルス作用が乏しい。
 さて以前にCOVID-19の重症化と関連が報告されたSNPであるOAS1(Rs10774671)は,スプライスアクセプター部位の対立遺伝子であり,この位置にGを持つ対立遺伝子が少なくとも1つある人は,プレニル化型のOAS1(p46)を発現できるが,そうでない人は発現できずに有効な抗ウイルス効果がない可能性が示唆された。そこでCOVID-19入院患者499人についてOAS1遺伝子解析したところ,42.5%でプレニル化型(p46)を発現しておらず,重症化と関連していることが判明し,たしかにプレニル化OAS1の発現がCOVID-19の重症化から保護的に働いている可能性が明らかになった。
 続いてSARS-CoV-2の大元の保有動物・感染源として疑われているコウモリ(horseshoe bat,キクガシラコウモリ,Rhinolophus ferrumequinum)(Wiki)についても研究している。このコウモリのプレニル化シグナルが存在するはずのゲノム領域を調べたところ,長い末端反復配列のレトロトランスポゾンによってこのシグナルが除去されており,プレニル化OAS1の発現が妨げられていた。すなわちこれらのコウモリは,遺伝学的,進化的にもウイルスが除去されにくい保有動物としての性質が示された。
 本論文はPERSPECTIVESにも取り上げられており,わかりやすいと共に解説されている。
 ちなみに,蛇足であるが,OAS1の機能獲得型(gain of function)の遺伝子変異が低ガンマグロブリン血症を伴う肺胞蛋白症を発症することが2018年に北海道大学の長先生のグループから報告されている(リンク)。続いて本年6月にはこのOAS1の機能獲得型遺伝子変異による自己炎症性免疫不全症の発症のメカニズムとしてRNase Lを介したRNAの切断が重要であること,およびOAS1がⅠ型IFNによって誘発される単球およびB細胞の過剰炎症炎症を制御する重要な因子であることが報告され(リンク),本トップジャーナルハックでも詳しく紹介しているので参照していただきたい(No. 149)。

•NEJM

1)気管支喘息
中等症~重症喘息患者に対するイテペキマブの有効性と安全性(Efficacy and safety of itepekimab in patients with moderate-to-severe asthma
 重症の気管支喘息に対して,IgE,IL-4,IL-5,IL-13などのシグナル伝達を標的とした生物学的製剤の使用が可能となっている。IL-33は損傷上皮細胞などから産生される炎症を惹起するアラーミンとして上記のサイトカインなどのシグナルの上流に位置すると考えられている(リンク)。GWAS研究成果などからもIL-33は喘息感受性と関連することが多く報告されている。また,IL-33を標的とした前臨床試験では2型炎症でも非2型炎症でも喘息モデルを抑制することが示されていることや,IL-4とIL13とあわせてIL-33のシグナル伝達を阻害することにより相加効果がみられることが報告されている。
 サノフィ社と米国・英国・ドイツなどの多施設からの本研究は,インターロイキン-33に対する新しいモノクローナル抗体であるイテペキマブ(itepekimab)による喘息治療の第2相試験の多施設二重盲検研究である。IL-4とIL-13の阻害となる抗IL-4受容体α鎖抗体であるデュピルマブ治療を併用あるいはコントロールとして比較している。試験としては吸入ステロイド薬(ICS)+長時間作用性β刺激薬(LABA)の投与を受けている中等症~重症喘息の成人患者をイテペキマブ(用量300mg)群,イテペキマブ+デュピルマブ(併用療法)群,デュピルマブ(300mg)群,プラセボ群に1:1:1:1の割合で無作為に割り付け,2週ごとに12週間皮下投与した。LABAは無作為化後4週目に中止し,ICSは6週目から9週目にかけて漸減している。
 296例が無作為化され,主要評価項目の喘息コントロール喪失を示すイベントは12週目までにイテペキマブ群の22%,併用療法群の27%,デュピルマブ群の19%で発生し,プラセボ群では41%であった()。単剤治療群はどちらもプラセボ群に比べて治療効果がみられたが,治療群間で統計学的な有意差はみられなかった。理由は明らかではないが,イテペキマブとデュピルマブの併用群では,当初の期待と逆の結果となり,プラセボ群と比較しても有意な治療効果がみられなかった。副次的評価項目として,気管支拡張薬投与前の1秒量はイテペキマブ単剤療法群とデュピルマブ単剤療法群ではプラセボ群と比較して増加したが,併用療法群では増加しなかった。さらにイテペキマブ群はプラセボ群と比較して喘息コントロールとQOLが改善し,平均血中好酸球数が大幅に減少し,有害事象の発現率は4群で同程度であった。結論として,中等症~重症喘息患者において,IL-33を標的としたイテペキマブによる治療は,喘息コントロール喪失を示すイベントの発生率がプラセボ群よりも低くなり,肺機能は改善した。Visual abstractに本研究の結果は簡潔にまとめられている。
 同じくNEJM誌に,IL-23を標的としたリサンキズマブによる喘息治療について,第2a相多施設共同無作為化二重盲検試験の論文も掲載されている。リサンキズマブ群でプラセボ群と比較して初回の喘息悪化までの期間が短く,喘息悪化の年間発生率が高く,有益性はみられなかった。
 これらの喘息についての2つの臨床試験結果については,Editorialに「喘息における基礎科学の臨床応用(Clinical Translation of Basic Science in Asthma)」として取り上げられており(リンク),解説のもわかりやすい。

今週の写真:大阪御堂筋を美しく彩るイルミネーション


(鈴木拓児)

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