•Nature
1)腫瘍生物学
血糖を抑える食事は脂質代謝を変化させることによって腫瘍増殖に影響を与える(Low glycaemic diets alter lipid metabolism to influence tumour growth) |
腫瘍細胞と正常細胞の代謝機構の違いを利用して,癌の増殖を抑えようとする試みは重要なトッピクスとなっているが,治療中の食事摂取の低下や悪液質の誘導,栄養吸収に直接関わる部位の癌など,癌という疾患そのものの様々な背景によって臨床応用には大きなハードルがある。今回,米国MITのグループから,マウスモデルを用いた検証ではあるが,カロリー制限による膵臓癌モデルの腫瘍増殖抑制のメカニズムにおいて,腫瘍内の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸のバランスが影響することが報告されている。わかりやすいサマリーが示されているので参照頂きたい(
News & Views,
Figure4m)。
栄養介入による癌患者の補助的な治療介入の可能性として,カロリー制限食(caloric restriction:CR)とケトン食(ketogenic diet:KD)の2種類の低血糖を誘導する栄養介入が検討されている。いずれも,血糖とインスリンを低下させ,動物モデルでは腫瘍の増殖を遅らせることが示されている。今回の研究では,トランスジェニックマウスから樹立した膵臓癌細胞株AL1376(
Krasと
Tp53の変異を持つ)を皮下移植したモデルで,CRとKDを摂取した際の効果について比較したところ,CRでは腫瘍増殖の抑制を認めたのに対して,KDでは腫瘍増殖は抑制されなかった。その原因を探索したところ,血漿や腫瘍間質における糖やアミノ酸に関しては,いずれの食餌でも同様に抑えられる傾向を認めたのに対し,脂肪酸に関してはKDではむしろ上昇していることがわかった 〔
Figure2e:後半の実験でKDによる18:1(n-9)オレイン酸の上昇が抗腫瘍効果の消失する原因となる〕。癌細胞株AL1376を脂肪が枯渇した条件で培養すると,増殖は抑制される一方で,培養上清中に,特定のmonounsaturated fatty acids(MUFAs;一価不飽和脂肪酸)が上昇することが明らかになった。その合成にはStearoyl-CoA desaturase(SCD;ステアロイルCoAデサチュラーゼ)が関わることを,阻害薬を用いた実験と併せて証明している。つまり脂肪が制限された環境中では,癌細胞の種類によってはSCDを上昇させることによって代謝環境に適応していることがわかった。脂肪を制限した培養の場合,SCDを阻害する治療を加えることで,SCDで代償しようとする癌に対しては,その増殖をさらに抑制することが可能であった。さらに,SCDを阻害しても,SCDによって合成される18:1(n-9)オレイン酸を添加してあげることで癌細胞の増殖がレスキューされることも明らかにしている。
改めてCRがSCDに与える影響を評価すると,SCDの活性化を低下させることで,不飽和脂肪酸18:1(n-9)オレイン酸が低下し,逆にsaturated fatty acid(SFA;飽和脂肪酸)である18:0ステアリン酸が増加し,癌の増殖は抑制された。KDでは先述のとおり,脂肪含有が多く,18:1(n-9)オレイン酸を腫瘍環境中でレスキューできる状況がつくられてしまうため,結果的には腫瘍増殖が抑制されないということがそのメカニズムとして証明された(
Figure4m)。癌細胞によって増殖に必要なエネルギーの利用パターンが異なることから,今回のような複雑なバイパス機構を癌毎に理解する必要があると考えられる。さらに臓器特異的な代謝環境などにも配慮が必要と思われる。
•Science
1)神経免疫学
CD4陽性T細胞がLevy小体型認知症の神経変性に関わる(CD4+T cells contribute to neurodegeneration in Lewy body dementia) |
Levy小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)は,本邦ではアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症と並び三大認知症と呼ばれている(
Wiki)。その病態はパーキンソン病と同じく,レビー小体(αシヌクレインの異常な沈着)の形成とそれに伴うドーパミン作動性ニューロンの変性によって説明されている。今回,米国ノースウェスタン大学のグループは,CXCR4というケモカインレセプターを発現し,αシヌクレインに反応してIL-17を産生するCD4陽性のTh17型T細胞が神経変性の原因となっていることを解き明かした。わかりやすいサマリーがPerspectiveで紹介されている(
リンク)。
剖検検体を用いて,黒質の免疫染色したところ,DLB患者においては,コントロールの検体と比較して,T細胞の浸潤が有意に多く認められた。さらにレビー小体(αシヌクレイン沈着部)とドーパミン作動性ニューロンに接するようにT細胞が存在することがわかった。
T細胞がどのように脳実質内のレビー小体へ浸潤していくのか,そのメカニズムを検討するため,健常人とレビー小体型認知症の患者由来の髄液中の細胞について,シングルセルRNAシークエンスによる比較を行ったところ,CD4陽性T細胞でJAK1,CD69,CXCR4などの発現が亢進していることが明らかになった(
Figure2D)。CXCR4が高いCD4陽性T細胞が黒質に浸潤し,レビー小体と反応している可能性が示唆されたため,パーキンソン病患者の黒質で,CXCR4のリガンドであるCXCL12の発現を確認したところ,CD31陽性の脳血管内皮細胞に発現を認め,その近傍にT細胞が浸潤していることを突き止めた。さらに髄液中のCXCL12と相関する液性因子として,疾患活動性とも関わりがあるとされるneurofilament light polypeptide(NEFL)を同定した(健常人では相関がなく,パーキンソン病の患者では相関を認めた)。さらに末梢血中と髄液中のCD4陽性T細胞のシークエンスデータを併せて統合解析したところ,患者の髄液中のCD4陽性T細胞で特にCD69,CXCR4が上昇していることが明らかになった。
さらに患者の末梢血T細胞に,HLAマッチしたαシヌクレイン由来のペプチドを加えて培養したところ,HLADR,CD38,Ki67といった活性化マーカーの上昇を認めるとともに,IL-17Aの発現上昇を認めた。IL-17Aを発現するT細胞のT細胞受容体(TCR)レパトアを解析すると,クローナルに増殖していることがわかり,IL-17産生型のCD4陽性T細胞(Th17細胞)が,αシヌクレインに反応し,増殖していることが証明された。最後に,患者の脳組織においても浸潤しているT細胞ではIL-17Aを発現していることが確かめている。以上から,Th17型CD4陽性T細胞が,レビー小体型認知症における神経変性を誘導している可能性が明らかになった。異常な沈着に対する免疫応答が病態に関わることが明らかにされたことで,治療標的として今後の臨床展開が期待される。
•NEJM
1)子宮頸癌
進行期子宮頸癌(持続性,再発性,転移性を含む)に対するペムブロリズマブの有効性(Pembrolizumab for persistent, recurrent, or metastatic cervical cancer) |
呼吸器科のテーマから少し離れるが,子宮頸癌に対する化学療法とペンブロリズマブの併用治療による有効性に関する臨床試験(KEYNOTE-826)の報告があったので紹介する。簡単なサマリーが動画でも参照可能である(
リンク)。
進行期の子宮頸癌(持続性,再発,転移性を含む)に対して,白金製剤ベースの化学療法に加えてペムブロリズマブ(200mg)を3週毎最大35サイクル(2年間)投与する群とプラセボ群を比較したP3試験。ベバシズマブは主治医判断で追加可能とされている。プライマリーエンドポイントは,無増悪生存期間と全生存期間として,それぞれをPD-L1の複合発現スコア〔いわゆるCPS。PD-L1を発現した細胞(腫瘍細胞と免疫細胞)を総腫瘍細胞で除して100を乗じた値〕が1以上の患者集団,intention-to-treat集団,PD-L1複合発現スコア10以上の集団でそれぞれ評価した。PD-L1のCPS1以上の患者は548例で,PFSの中央値はペムブロリズマブ投与群で10.4カ月,プラセボ群で8.2カ月(ハザード比:0.62,p<0.001)。Intention-to-treat集団は617例で,結果はほとんど同じで,10.4カ月と8.2カ月(ハザード比:0.65,p<0.001)。CPS 10以上は317例で,それぞれ10.4カ月と8.1カ月(ハザード比:0.58,p<0.001)という結果であった(
図)。24カ月全生存率は,CPS 1以上ではペムブロリズマブ投与群で53.0%,プラセボ群で41.7%(ハザード比:0.64,p<0.001)。Intention-to-treat集団では50.4%と40.4%(ハザード比0.67,p<0.001),CPS 10以上の患者集団では54.4%と44.6%(ハザード比:0.61,p=0.001)という結果であった(
図)。グレード3以上の有害事象のうち頻度が高かったのは,貧血(ペムブロリズマブ群30.3%,プラセボ群26.9%)と好中球減少(それぞれ12.4%,9.7%)であった(
表)。
進行期の子宮頸癌に対しては,これまでにもPD-1/L1阻害薬の単剤もしくは化学療法との併用で有効性を示す報告がある。EMPOWER-Cervical 1/GOG-3016/ENGOT-cx9というP3のトライアルでは,再発もしくは転移性の子宮頸癌で,化学療法後の増悪症例に対してcemiplimab(Sanofi社の抗PD-1抗体)の有効性が示されている(
リンク)。今回は,ベバシズマブ併用の有無を含む化学療法を受けている進行期の子宮頸癌で,ペムブロリズマブの併用により無増悪生存期間と全生存期間が有意に延長した。化学放射性療法との併用に関するP3試験もKEYNOTE-A18/ENGOT-cx11/GOG-3047として実施されている。PD-1阻害薬と化学療法の併用が子宮頸癌でも標準治療となる日も遠くないようである。
(小山正平)