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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 170

公開日:2021.12.1


今週のジャーナル

Nature  Vol. 599 Issue 78862021年11月25日)日本語版 英語版

Science Vol. 374, Issue 6571(2021年11月26日)英語版

NEJM Vol.385 No.22(2021年11月25日)日本語版 英語版








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KRAS(G12C)阻害薬の耐性変異/ウイルス感染症のファクターX/von Hippel–Lindau病の第2相試験

•Nature              

1)腫瘍学:Article
KRAS(G12C)阻害に対する抵抗性に関連する多様な変異〔Diverse alterations associated with resistance to KRAS(G12C)inhibition
 KRASは肺腺癌のドライバー遺伝子変異として最多であり,その最も主要なKRAS(G12C)変異に対する阻害薬は,奏効率30〜40%,無増悪生存期間6カ月と,本邦での上市が期待されている(第1相試験結果はNo. 114参照)。ただし「無増悪生存期間6カ月」は,本剤の治療を開始しても半年程度で耐性化してしまうことを意味している(耐性化についての既報はNo. 80No. 150を参照)。この耐性化機構について,今回は米国メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターからの報告である。
まずKRAS(G12C)変異に対する阻害薬sotorasib(No. 72で取り上げたAMG510)を投与された43例について,治療前後に生検(血漿あるいは組織)を行った(表1)。うち36例が非小細胞肺癌の症例で,8例が「responder(治療反応良好者)」であった(表中*)。治療反応良好者では,治療前の血漿KRAS変異アリル頻度と腫瘍量が少ない傾向があった。
 Sotorasib治療により,43例中27例で新たな変異が検出されるようになった(図1)。うち10例はKRASあるいはNRASに関わる「二次性RAS変異」,3例はV600E以外のBRAF変異だった。ヒト肺癌細胞株H358をsotorasibで耐性化させたクローンを単細胞シークエンスしたところ,やはり同様の変異が検出された(図2)。なお,1,432例のKRAS(G12C)変異腫瘍を調べてみたところ,40例しか二次性RAS変異は見つからなかった。すなわち,元々あった二次性RAS変異がsotorasib治療で顕在化したのではなく,sotorasib治療によって新たに二次性RAS変異が生じたと考えられた。そしてこの二次性RAS変異が生じる過程を,H358をsotorasibで耐性化させながら,in vitroで明らかにしている(図3)。
 最後に,H358のsotorasib 耐性株をCRISPR-Cas9で網羅的に遺伝子欠損させた後に,sotorasibあるいは溶媒のみで処理し,生存した細胞内のガイドRNAをsotorasib群と溶媒群で比較した(図4)。溶媒群に比しsotorasib群で減少した(sotorasibが効いて除去された細胞の)ガイドRNAの標的は,ERKとMETのシグナル関連であった。すなわち,sotorasib 耐性株であっても,ERKやMETのシグナルを抑制すると,再びsotorasibの抗腫瘍効果が期待できることになる。実際xenograftモデルでは,MET阻害薬(trametinib)をsotorasibへ併用することにより抗腫瘍効果が増強された。
 肺癌薬物治療の分野では,既にKRAS(G12C)阻害薬の次に向けて動き出していることを示す論文である。

•Science              

1)免疫遺伝学:RESEARCH ARTICLE
ウイルス感染の防御において人種差は広範かつ細胞特異的に影響を及ぼす(Genetic ancestry effects on the response to viral infection are pervasive but cell type specific
 「遺伝的背景によってウイルス感染に対する免疫反応は異なること」は知られている。今回シカゴ大学のグループ(遺伝学・ゲノム学・システム生物学委員会)は,インフルエンザウイルスをin vitroで感染させたヒトPBMC(末梢血単核球)を単細胞RNAシークエンスすることによって,より詳細に遺伝的背景と免疫反応との関連を解析した。
 まず筆者らは,90人男性のPBMC検体にインフルエンザウイルスH1N1を感染させ,6時間後に単細胞RNAシークエンスを行った。同時に全ゲノム解析も行い,うち89人でアフリカ系/ヨーロッパ系の遺伝的比率を明らかにした。PBMCの主な細胞種クラスターは,CD4+T細胞,CD8+T細胞,B細胞,NK細胞,単球であった(図1)。そしてそのうち,感染で最も多くの遺伝子が発現変化したのは単球であった。また発現変化した遺伝子の中には,単球とNK細胞で発現の増減が逆になるような遺伝子もいくつかあり,単細胞解析の重要性が示唆された(図1F)。発現変化した遺伝子群と細胞特異性との関連を見てみると,ウイルス遺伝子は細胞特異性が高く,1型インターフェロン関連遺伝子は細胞特異性が低かった(5種の免疫細胞に共有されていた)。
 続いて,人種差で発現が異なる遺伝子(本論文ではpopDE: population differentially expressed)が1,949個見つかった(図2)。そのpopDEの多くは5種の免疫細胞で共有されていなかった。そこで細胞別・シグナル別にpopDEを見てみると,単球のTNF-α,INF-γ,IFN-α,炎症反応,IL-2シグナルが,非感染ではアフリカ系で発現上昇していたのに対し,感染では逆転しヨーロッパ系で発現上昇していた(図2C,本論文の肝)。ウイルス遺伝子の転写活性が強い程,感染後のIFN反応は強くなり,その後のウイルス量は減少したことから,感染後IFN反応が強いヨーロッパ系は,インフルエンザウイルス感染の重症化リスクが低いと考えられた。
 次に感染の遺伝子発現に関連するQTL(quantitative trait locus)としてSNPを検索したところ,近傍(プロモーター領域あるいはエンハンサー領域)に1つ以上のSNPを有する遺伝子を2,234個同定した(eGenesと命名,図3)。eGenesは高い確からしさでpopDEと分類され,そのようなSNPを有するpopDEの半分以上では,そのSNPで遺伝子発現の人種差を説明することができた。すなわち,ヨーロッパ系の人種では,度重なるウイルス感染による選択圧によって,このようなSNPが蓄積してきたと考えられた。
 最後に,in vitroのインフルエンザウイルス感染モデルで見つけたpopDEが,ウイルス感染一般に,少なくとも1本鎖RNAウイルスの感染にも普遍化できるかを検証した(インフルエンザウイルスは1本鎖RNAマイナス鎖,SARS-CoV-2は1本鎖RNAプラス鎖)。公開されているCOVID-19患者129例のPBMCの単細胞RNAシークエンスを用いて,COVID-19重症化に関連する遺伝子は,高い確からしさでインフルエンザのpopDEに分類された(図4)。そして,これらのCOVID-19重症化に関連する遺伝子は,ヨーロッパ系患者の単球でより発現上昇している傾向が認められた。そのような遺伝子群の代表として,S100ファミリーが挙げられた。
 健常者のPBMCにvitroでインフルエンザウイルス感染させる,という極めてシンプルな実験系ながら,90例(mockを合わせて)180検体の単細胞RNAシークエンスとゲノム解析を組み合わせたデータ解析で,「ファクターX」を明らかにした論文である。

•NEJM     

1)腫瘍学:ORIGINAL ARTICLE
フォン・ヒッペル・リンドウ病(以下VHL病)の腎細胞癌に対するbelzutifan(Belzutifan for renal cell carcinoma in von Hippel–Lindau disease
 VHL病に発症した腎細胞癌に対する,belzutifan(第2世代の小分子HIF-2α阻害薬)の第2相試験(非盲検単群)の結果である。米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターからの報告である。61例に2年弱経口投与したところ,忍容性は良好で,腎細胞癌および併発する悪性腫瘍に対して抗腫瘍効果を示した(まとめの図参照)。
 VHL病は常染色体優性遺伝性疾患で日本国内に200家系程度知られている。VHL蛋白質は転写因子HIFをユビキチン化して,HIF下流の転写産物を抑制している。VHL病では,VHL遺伝子の生殖系変異のためにこの転写抑制が機能せず,疑似低酸素状態となってVEGF遺伝子などの転写活性が恒常的に続いている。このため,腎細胞癌や悪性の膵臓腫瘍の他,脳脊髄血管腫,網膜血管腫,副腎褐色細胞腫などが多発し再発を繰り返すことになる。
 今回中央値47歳の腎細胞癌を有するVHL病症例61例に対して,belzutifanを経口投与し,腎細胞癌の客観的腫瘍縮小効果を評価した。CR(完全奏効),PR(部分奏効)を合わせた奏効率は49%であった(図1)。この他副次的評価項目ではあるが,合併する膵病変の奏効率は77%,脳脊髄血管腫の奏効率は30%,網膜血管腫の改善率は100%であった。主な有害事象は貧血(症例の90%)と易疲労感(症例の66%)で,そのほとんどが軽症あるいは中等症であった。結局54例(症例の89%)が完遂できている。
 なお同号では,同じbelzutifanを, HIF-2αの機能獲得型(gain-of-function)変異によるPacak–Zhuang症候群の6歳患児に使用したBrief Reportも掲載されている。

今週の写真:熊本名物「タイピーエン」を食べてきました。
こちらは紅蘭亭(熊本)のメニューです。
(TK)












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