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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 172

公開日:2021.12.15


今週のジャーナル

Nature  Vol. 600, Issue 78882021年12月9日)日本語版 英語版

Sci Adv Vol. 7, Issue 50(2021年12月8日)英語版

NEJM Vol.385 No.24(2021年12月9日)日本語版 英語版








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LC-SCRUMによる新規非小細胞肺癌ドライバーの同定/ゲノム編集による治療を臓器特異的,病態特異的に届ける/コロナワクチン免疫の経時的な減衰

•Nature

1)腫瘍学:Article
CLIP1-LTK融合は非小細胞肺癌の発癌ドライバーである(The CLIP1-LTK fusion is an oncogenic driver in non-small-cell lung cancer
 国立がんセンター東病院の後藤功一先生をPIとして2013年から開始されたLC-SCRUM-Asiaからの報告でありプレスリリースがされている。2021年9月現在で日本全国の307施設から14,000人以上の肺癌患者が登録されている。今回の結果が得られた要因のひとつとしては,このプロジェクトにおいては新鮮凍結標本の収集が行われている事が大きい。

 はじめに網羅的解析にて新規融合遺伝子の検出を試みている。既知のドライバーを持たないサンプルの全トランスクリプトームシークエンスを75例で行い。融合遺伝子同定のプラットフォームであるSTAR-fusion pipelineを用いて解析を行ったところ,1名で染色体12q24上のCLIP1と15q15上のLTKの融合転写物の存在を同定した(Fig1a)。CLIP1はALKやRET,ROS1の融合パートナーとなり得ることが腎細胞癌や非小細胞肺癌などで観察されていたことから,またLTKは肺には通常発現はないがALKとキナーゼドメインで80%以上の相同を持つサブファミリーを形成していることから,ドライバーとして有望であることが示唆された。LC-SCRUM-Asiaにて集積されたサンプルでの陽性率をRT-PCRを用いて確認したところ,NSCLCの542サンプル中で2例で陽性(0.4%)であった(Fig1d)。
 次に,CLIP1-LTK融合がドライバーであるのかの確認をin vitroin vivoの両者で行っている(Fig2)。3T3細胞あるいはIL3依存性の形質を持つBa/F3細胞に融合遺伝子をトランスフェクトすると,恒常的なLTKのリン酸化と,細胞増殖の増強かつ無秩序化が認められ,Ba/F3においてはIL3の添加のない培地でも増殖が続くことが確認された。またヌードマウスへの移植実験でも,トランスフェクト細胞の生着と腫瘍としての増大を確認している。これらの“癌化”所見はLTKのリン酸化を消失させる変異であるK1140M変異を導入した融合遺伝子のトランスフェクトでは完全に消失してしまうことも確認しており,リン酸化依存的に“癌化”が起こることを証明している。これらのデータからCLIP1-LTK融合はドライバーと結論付けた。
 最終的にこの発見を症例に還元したデータを提示している。ALKとキナーゼドメインの相同性の高いLTKに対しては既存のALK阻害薬が効果を示す可能性が考えられたために,in vitroで各種薬剤のリン酸化抑制実験,細胞死誘導の確認,また腫瘍移植ヌードマウスへの治療実験を行い,いずれにおいてもロルラチニブの有効性を確認した(Fig3a〜d)。最後のデータとして,CLIP1-LTK融合遺伝子の確認がされた症例に対してロルラチニブを投与し奏功が得られたことが示されている(Fig3e,f)。

 頻度は高くないものの間違いなくこの発見により恩恵を受ける症例は存在する。素晴らしい成果であり,LC-SCRUM-Asiaのストラテジーが正しかったことが証明された。基礎的検討だけでなくこの研究の真骨頂は実際の症例への治療によりPOC(Proof of Concept)を達成しているところであろう。

•Sci Adv

1)創薬:Research Article
プロドラッグによるゲノム編集:炎症性疾患の精緻医療にむけたCRISPR-Cas9の臓器特異的送達と活性化(Genome-editing prodrug: Targeted delivery and conditional stabilization of CRISPR-Cas9 for precision therapy of inflammatory disease
 2012年に報告されたゲノム編集は医療技術に応用する目的での関連する開発が急速に進んでいる。疾病のコントロールを行うには組織レベルでのオフターゲット活性の問題を解決するために臓器特異的な送達と時間特異的なコントロールを行うことが大きな課題であり,今回は中国の浙江大学からのマウスモデルでの実証がなされた報告を紹介する。

 アデノ随伴ウイルスによるCRISPR-Cas9の送達では,肝臓,心臓,脳,筋肉などの多種の臓器に非特異的に分布することから,最近では光照射による活性制御を用いた戦略の開発が進んでいる。しかし光の侵透深度からは深部臓器でのコントロールは難しく,小分子を用いたCas9機能の調節である化学制御法が新たな道として見出されてきた。生体内で上記のストラテジーをワークさせるためには,以下の2つの課題を解決する必要があり,本報告ではその確認に加え,モデル動物での実証実験が行われている。

 ①標的臓器に同時に送達される低分子化合物と,活性条件が疾病管理に最適化されたコンディショナルCRISPR-Cas9システムであること
 ②標的外臓器でのオフターゲット活性が限りなく少ないこと

 まずは,疾病部位特異的に活性化が可能なNanoProCas9というシステムを開発し,その実証がなされた。本研究のストラテジーはFig1にわかりやすく記載されており,この図だけで大まかな理解が可能である。送達particleとして,ガイドRNA,DHFR(ジヒドロ葉酸還元酵素ドメイン:TMPの作用点として),不安定化Cas9(dsCas9)を含むコンストラクトよりなるプラスミドを,送達担体であるPBAEと併せ,RAW264.7細胞より採取したマクロファージ膜でコーティングしたものを作成した。これにより,マクロファージ膜の機能により炎症部位に効率的に送達が行われ,細胞内にエンドサイトーシスで取り込まれた後に,DHFRドメインを発現したdsCas9が発現することとなる。このままでは,不安定化してあるdsCas9はユビキチン依存性に分解される。そこで,活性酸素により離断されるチオケタールリンカー(TK)と結合したTMP(トリメトプリム)をマクロファージ膜面に結合させた。これは,炎症部位では活性酸素が豊富に産生されていることからTMPが離断され,そのTMPが不安定Cas9のDHFRに結合することにより安定化がはかられ,ユビキチン分解を逃れることを目的としている。果たして,設計されたNanoProCas9は理論通りに作成されたことをFig2で解説している。
 続いて,NanoProCas9はCT26細胞にトランスフェクトされうること,H2O2により離断されたTMPが速やかに細胞内へ分布しdsCas9が安定化すること。標的遺伝子としてプロリルヒドキシラーゼドメイン2(PHD2)を選択し(この理由としては,PHD2の発現低下は,HIF-1αを安定化させ,炎症を緩和させるためである),活性酸素刺激の際にのみ効率的に標的遺伝子の破壊が起こることをFig3で確認している。
 最終的に生体への投与実験を行っている。マウスDSS誘発大腸炎モデルでNanoProCas9を投与すると,24時間後には主に炎症を惹起している大腸に集積し,その後の経過で投与マウスでは大腸の短縮,体重減少,症状スコアの改善を認めることが確認された(Fig4)。また大腸組織の解析からは14.8%のindel頻度が検出され,編集が成功したことが示された。炎症の指標に関しても大腸の組織の解析からは,TNFαの発現抑制,MPO活性の抑制,白血球増多の抑制に加え,病理学的にも炎症がコントロールされたことが示された(Fig5)。
 不安定化Cas9ではなく野生型のCas9を組み込んだparticleの投与では,多くが単核球系のマクロファージに取り込まれることから,大腸以外の肝臓,脾臓,肺においてオフターゲットとしてゲノム編集が行われた(Fig5A)が,不安定化Cas9では肝臓でわずかにオフターゲット活性をみとめるものの臓器特異性は高い結果であった。

 これらの結果からNanoProCas9は前述した2つの課題を解決し得ることが可能であり,臓器特異的,病態特異的にCRISPR-Cas9を用いて疾病の治療を行うことが可能なストラテジーであることが証明された。炎症という観点のみではなく,様々な病態への応用を期待できる一歩と考えられる。

•NEJM

1)感染症:Original Article 

12月9日号のNEJMではコロナワクチンの経時的な効果の減衰に関する3報が掲載されている。

カタールにおけるBNT162b2ワクチンnoSARS-CoV-2感染に対する防御効果の減衰(Waning of BNT162b2 vaccine protection against SARS-CoV-2 infection in Qatar
 2021年1月1日より9月2日までにカタールでBNT162b2(ファイザー社)ワクチンの2回接種を終了者における,感染予防効果,重症化・死亡抑制効果の経時的変化をまとめている。同タイミングでのファイザーワクチン完了者は907,763であった。Fig2が主たる結果であり,感染予防に対する有効性は2回目接種後の1カ月でピークの77.5%(95%CI:6.4-78.6)となり,4カ月後に減衰がはじまり,半年後には17.3%まで低下した。また重症化・死亡抑制効果は1カ月で95%以上となり,半年後もほぼ維持ができていた。

イスラエルにおけるCovid-19に対する免疫の減衰(Waning Covid-19 immunity in Israel
 世界で最もワクチン接種の進んだイスラエルでもブレークスルー感染が大きな話題となった。デルタ株によるのか,ワクチン効果の減衰なのかの解明を試みたデータである。線形混合モデル解析を用いて3,808例をエントリーしている。中和抗体価は最初の3カ月間で急速にその後半年までは緩やかに減衰した(Fig2B)。半年後の中和抗体価は年令の上昇に伴い低く(Fig2D),男性は女性より低値(Fig2F)であった。この結果からはブレークスルー感染の要因の1つとして中和抗体価の低下が考えられることが示唆されている。

Covid-19ワクチンを接種したイスラエル人における免疫の減衰(Waning immunity after the BNT162b2 vaccine in Israel
 イスラエルからはもう一報である。2021年6月より以前にワクチン接種を完了した全例の2021年7月11日から7月31日までのSARS-CoV-2感染の発生率と重症化率を完了時期によって比較した。感染の発生率は60歳以上では1月完了者と3月完了者では前者の方が高く(RR:1.6,95%CI:1.3-2.0),40〜59歳でも同様に2月完了者と4月完了者の比較で前者(RR:1.7,95%CI:1.4-2.1),16〜39歳でも3月完了者と5月完了者の比較で前者(RR:1.6,95%CI:1.3-2.0)が高かった。重症化率についても60歳以上,40〜59歳の両集団で接種時期の早い集団の方が高い結果(Table3)が得られた。これらのデータからは接種完了後数カ月でワクチン免疫が低下したことを示している。

 これらの報告から,ワクチン免疫は感染予防効果も重症化予防効果も2回接種後から経時的に減衰することは明らかと考えざるを得ず,ブースター接種の必要性を訴えかける結果である。NEJM誌に3報も同様の報告が並ぶことに驚くが,それだけ世界中で注目されるタイムリーな公衆衛生学的な興味なのだと再認識した。

今週の写真:塚原古墳群

 温暖で肥沃,水にも困らない熊本郊外には古墳群があちこちにある。こちらはそのひとつ。市内から30分ほどの距離であり,ピクニック感覚でお昼ごはんを食べ,ひとしきり体を動かした後には,すぐそばに温泉もひかえている。
(坂上拓郎)

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