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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 173

公開日:2021.12. 24


今週のジャーナル

Nature  Vol. 600, Issue 78892021年12月16日)日本語版 英語版

Sci Adv Vol. 7, Issue 51(2021年12月17日)英語版

NEJM Vol.385 No.25(2021年12月16日)日本語版 英語版








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COVID-19疾患感受性遺伝子探索に向けた加速する国際共同研究/スマホで出来る高精度SARS-CoV-2同定/アストラゼネカ社ワクチンの有効性と安全性

•Nature

1)遺伝学:Article
COVID-19のヒト遺伝的構造のマッピング(Mapping the human genetic architecture of COVID-19
 筆者が,事務局を務めているコロナ制圧タスクフォース(Link)では,日本人集団におけるCOVID-19の疾患感受性遺伝子を探索すべく,100以上の医療機関と多施設共同研究を進めている。
 当然のことながら,このような疾患感受性遺伝子探索に向けた研究は世界中で行われており,その代表的な国際共同研究コンソーシアムがCOVID-19 Host Genetics Initiative(Link)であり,コロナ制圧タスクフォースはアジアからは最大の研究グループとして参加した(Figure 1)。今回の論文はこの研究グループからの発表である。
 COVID-19 Host Genetics Initiativeでは,世界中のコンソーシアムからSARS-CoV-2が陽性と判定された約5万人の患者と,多数のバイオバンクや23andMeなどの遺伝子に関連する企業等が保有する約200万人の対照群から得られた臨床データ・遺伝子データを用いて,重症化・入院・感染に関わる因子に関してゲノムワイド関連解析を実施した。
 今回の大規模GWAS解析から得られた結果の中には,ネアンデルタール人から継承されたことで注目された染色体3番に位置する遺伝子多型(Link)やABO血液型に関連する遺伝子多型(Link)など,既知のCOVID-19の重症化に関連する遺伝子多型に加えて,新たな遺伝子多型も多く同定されている。その中は,EGFR陽性肺癌と関連が指摘されているFOXP4(Link),間質性肺炎との関連が指摘されているDPP9(Link),免疫機能に関与するTYK2のそれぞれの近くに位置するものがあった。
 特に本研究で示された13カ所の遺伝子多型のうち(Figure 2),2個の遺伝子多型(FOXP4,TMEM65)は,ヨーロッパ人集団での頻度よりも東アジア人集団および南アジア人集団での頻度が高く,多様な集団が国際共同研究に参画することの重要性があらためて認識され,筆者もこの結果に勇気づけられた。
 本論文の趣旨とは異なるが,COVID-19 Host Genetics InitiativeはHP上(Link)で,下記の7つの原則をしっかりと掲げている。

・誠実,公平,信頼のある環境で共同作業を行う。
・若手研究者の育成。
・他のグループのデータの尊重。
・サプライズを起こさないことを目標に,透明性のある運営。
・結果を公表する前に,各グループから使用許可を得る。
・他のグループの結果を許可なく他者と共有しない。
・個々の研究内(あるいは2つの研究間)で行われている研究を阻害しない。

 オープンサイエンスのもと,国際共同研究を進めていき,研究成果にしていく運営を筆者は傍目から見ていて,自分自身にとって大変勉強になった。

•Sci Adv

1)診断:Research Article
Harmony COVID-19:SARS-CoV-2 RNA検出のための,すぐに使えるキット,安価な検出器,スマートフォンアプリケーション(Harmony COVID-19: A ready-to-use kit, low-cost detector, and smartphone app for point-of-care SARS-CoV-2 RNA detection
 COVID-19はパンデミック当初から,PCR論争がずっと続いている。特に初期の頃は,PCRの検査件数に上限があり,PCR抑制論争がイデオロギー化していた。今ではSARS-CoV-2のPCRに関する派手なCMを多く目にして,PCRはCOVID-19において常に話題の中心である。
 手軽に,即座に,安価にPCR検査を行う需要があるわけだが,そのような需要に応えるスマホ接続型のLAMPを,シアトルのワシントン大学が開発した(「Harmony COVID-19」)。
 スマホに接続するHarmony COVID-19のインターフェースは至ってシンプルで,省スペースである(Figure 4)。スマホに接続できる簡易な機器であることからもわかるように,核酸増幅は等温で行うRT-LAMP法が採用されている。
 SARS-CoV-2 RNAを0.38 copies/μLまで検出でき,高ウイルス量検体(5000 copies/μL)であっても,17分以内に報告することができる(Figure 3)。Harmony COVID-19は,鼻腔中および唾液中の≧0.5ウイルス粒子/μLのサンプルに対して,各々97%・83%で検出できたと研究グループは報告している。
 鼻腔からの臨床検体(n=101)での評価では,SARS-CoV-2 RNAが0.5copies/μL以上存在する検体からは100%で検出することができ,他の呼吸器の病原体が共存する場合であっても100%の特異性を示した。
 鼻腔から,いかに適切に検体を採取するかという問題点はもちろん残っているが,本機器はSARS-CoV-2の診断リソースが不足している発展途上国(スマホは普及している!)でも展開可能な機器であると感じられた。

•NEJM

1)感染症:Original Article
AZD1222(ChAdOx1 nCoV-19)Covid-19 ワクチンの第3相試験における安全性と有効性〔Phase 3 safety and efficacy of AZD1222 (ChAdOx1 nCoV-19) Covid-19 vaccine
 米国,チリ,ペルーで,COVID-19の感染リスクの高い集団を対象にAZD1222(ChAdOx1 nCoV-19)ワクチンの安全性と有効性を調べた二重盲検無作為化プラセボ対照第3相試験の報告である。AZD1222,2回目の接種後15日以降の,症状を伴うCOVID-19および重症COVID-19の予防効果をプラセボと比較している。
 32,451例中,AZD1222を接種する群(21,635例)とプラセボを接種する群(10,816例)に無作為に割り付けられた.AZD1222では重篤な有害事象,特に注目すべき有害事象の発現率は低く,プラセボ群と同程度であった。安全性データとして収集した局所反応および全身反応は,いずれの群においても大部分が軽度または中等度であった。ワクチンの有効性は,全体では74.0%(95%CI:65.3-80.5,p<0.001),65歳以上では83.5%(95%CI:54.2-94.1)と推定された。接種を完了した対象者の解析において,重症または重篤なCOVID-19の症例は,AZD1222群の17,662例では認められず,プラセボ群の8,550例では8例(<0.1%)に認められた(Link)。SARS-CoV-2感染の予防に対するワクチンの有効性は,64.3%(95%CI:56.1-71.0,p<0.001)と推定された。SARS-CoV-2 S蛋白の結合抗体および中和抗体は初回接種後に増加し,2回目の接種後28日目の測定ではさらに増加した。
 AZD1222は,高齢者を含む多様な集団において,症状を伴うCOVID-19および重症COVID-19の予防に安全かつ有効であった.

2)肺循環:Review
肺高血圧(Pulmonary arterial hypertension
 新薬開発が著しい肺高血圧に関して,疫学,病理(Link),遺伝的特徴,診断,治療(Link)に関して広くまとめられている。近年,次々,遺伝的素因が判明していることは非常に興味深い。

今週の写真:APSRの際に訪れた紅葉の銀閣寺。多忙な毎日の中で,心洗われる週末を過ごすことができた。

(南宮湖)


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