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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 175

公開日:2022.1.20


今週のジャーナル

Nature  Vol. 601, Issue 78922022年1月13日)日本語版 英語版

Science Vol. 375, Issue 6577(2022年1月14日)英語版

NEJM Vol.386 No.2(2022年1月13日)日本語版 英語版








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動物の体の大きさや寿命と発癌リスクは関連するか?ピートのパラドックスの検証/嗅覚受容体が動脈硬化に関係する/ファイザーとモデルナの新型コロナウイルスワクチンの比較

•Nature

1)癌

哺乳類全体にわたって調べた癌リスク(Cancer risk across mammals
 癌は一般に細胞分裂に伴う遺伝子変異の蓄積が原因であり,加齢とともに発症が増えることを考えると,体の大きさがより大型で寿命の長い生物は発癌の可能性がより高そうに思われる。しかし実際には必ずしもそうでないこと(種のレベルで見ると癌の発生率は生体の細胞数と相関していないように見える)が「ピートのパラドックス(Peto’s paradox)」として知られている。
 本論文は上記についてのフランスモンペリエ大学などの国際研究で,動物園で飼育されている哺乳類成体の大規模コホート(191種の11万148個体)を用いることによって,癌関連死亡率に関するデータベースの構築と解析を行い,齢で対照付けした癌死亡率を,哺乳類の系統樹に照らし合わせて解析している(Fig.1)。ある動物種では20~40%以上が癌によって亡くなっており,哺乳類での発癌現象は広く見られ,かつ高頻度であること,哺乳類の主要な目にわたって癌死亡率にかなりの差異があることが示された。癌死亡率の系統的分布はむしろ食餌と関連しており,癌関連死亡率が最も高いのは肉食哺乳類で,特に哺乳類を食べる動物であり,逆に昆虫など無脊椎動物や魚や爬虫類や鳥を食べることによっては癌関連死亡率リスクを上げないことがわかった。さらに,癌死亡率リスクは種にわたって体重と成体平均余命のどちらにもおおむね依存しないことが明らかになった。本論文はAASJでも紹介されており,動物園の膨大なデータを用いた解析でとても興味深い研究である。

•Science

1)動脈硬化
血管マクロファージの嗅覚受容体2(Olfactory receptor 2)は,NLRP3依存性IL-1産生によりアテローム性動脈硬化症を促進する(Olfactory receptor 2 in vascular macrophages drives atherosclerosis by NLRP3-dependent IL-1 production
 鼻で嗅覚を検出する役割をもつ嗅覚受容体(olfactory receptors:OLFRs)は,7回膜貫通型受容体であるG蛋白質共役受容体(G protein-coupled receptors:GPCRs)のファミリーに属し,マウスでは1,100個あり,ヒトでも400個もの遺伝子があることが知られている。米国ラホーヤ免疫研究所からの本論文は,嗅覚受容体が動脈硬化の促進に関連するという驚きの報告である。PERSPECTIVEでも紹介されており,にわかりやすくまとめられている。
 粥状動脈硬化症は動脈壁の炎症性疾患であり,マクロファージなどの免疫細胞が関与している。マウスでは嗅覚受容体の1つであるOlfactory receptor 2(Olfr2)が動脈硬化に関連する血管マクロファージに発現しており,悪玉コレステロールとして知られる酸化LDLコレステロールなどから酸化ストレスの結果で脂質過酸化の副産物として生成されるオクタナール(Octanal)によって刺激され,NLRP3インフラマソームを活性化してIL-βを産生することが明らかにされた。このNLRP3インフラマソーム経路の活性化にはオクタナールだけの刺激では不十分で,LPSなどのTLR4経路による共刺激が必要なことも示された。マウスでは高脂肪食によってオクタナールの値が上昇することや,ヒトとマウスの血漿には,脂質過酸化の産物であるオクタナールが,Olfr2とヒトのオルソログ嗅覚受容体6A2(OR6A2)を活性化するのに十分な濃度で含まれていることが認められた。オクタナールの量を上げると粥状動脈硬化症が悪化し,Olfr2ノックアウトマウスでは粥状動脈硬化症のプラークが大幅に減少することから動脈硬化病態に重要な役割をもつことが明らかとなった。OR6A2を阻害することは,アテローム性動脈硬化症を予防および治療するための有望な戦略を提供する可能性があることが示唆された。本論文もAASJで紹介されている。


•NEJM

1)新型コロナウイルス感染症
米国の退役軍人における BNT162b2 ワクチンと mRNA-1273 ワクチンの相対的有効性(Comparative effectiveness of BNT162b2 and mRNA-1273 vaccines in U.S. veterans
 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対してmRNAを用いたBNT162b2ワクチン(ファイザー社)とmRNA-1273ワクチン(モデルナ社)はどちらも90%を超える有効性があるが直接比較した試験はなくその違いは不明である。どちらもSARS-CoV-2のスパイク蛋白を標的としているが,投与量〔100μg(mRNA-1273)vs. 30μg(BNT162b2)〕や投与間隔〔4weeks(mRNA-1273)vs. 3weeks(BNT162b2)〕が異なっている。
 これら2つのワクチンについて比較した米国ハーバード大学からの本論文は,米国でも最大の診療情報である米国退役軍人の電子診療録のデータを用いた研究である。アルファ株優勢期間中の2021年1月4日~5月14日とデルタ株優勢期間中の2021年7月1日~9月20日にBNT162b2ワクチンまたはmRNA-1273ワクチンの初回接種を受けた米国退役軍人の電子診療録を用いて解析を行った。target-trial emulation(理想の無作為化比較試験を模倣する手法)による解析を行い,各ワクチンの接種を受けた人を,それぞれの危険因子に基づいて1:1の割合でマッチさせて解析した。SARS-CoV-2の確定感染,症状を伴うCovid-19,Covid-19による入院,Covid-19による集中治療室(ICU)入室,Covid-19による死亡などの転帰について調べた。各ワクチン群219,842人について解析され,アルファ株優勢期間中の24週の追跡期間における確定感染のリスクは,BNT162b2ワクチン群では1,000人あたり5.75件〔95%信頼区間(CI):5.39~6.23〕,mRNA-1273ワクチン群では1,000人あたり4.52件(95%CI:4.17~4.84)と推定された。BNT162b2ワクチンのmRNA-1273ワクチンと比較した1,000人あたりの超過イベント数は,確定感染が1.23件(95%CI:0.72~1.81),症状を伴うCovid-19が0.44件(95%CI:0.25~0.70),Covid-19による入院が0.55件(95%CI:0.36~0.83),Covid-19によるICU入室が0.10件(95%CI:0.00~0.26),Covid-19による死亡が0.02件(95%CI:-0.06~0.12)であった()。デルタ株優勢期間中の12週の追跡期間では,BNT162b2ワクチンのmRNA-1273ワクチンと比較した確定感染の超過リスクは,1,000人あたり6.54件(95%CI:-2.58~11.82)であった。どちらのワクチンの接種後24週間のCovid-19関連転帰のリスクは低かったが,リスクはmRNA-1273ワクチンのほうがBNT162b2ワクチンよりも低かった。この傾向はアルファ株優勢期間とデルタ株優勢期間で同様の結果であった。

今週の写真:千葉市の雪だるま(2022年1月7日)

(鈴木拓児)

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