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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 178

公開日:2022.2.9


今週のジャーナル

Nature  Vol.602 No. 7895 (2022年2月3日)日本語版 英語版

Science Vol.375, Issue 6580(2022年2月4日)英語版

NEJM Vol.386 No.5(2022年2月3日)日本語版 英語版








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ペット犬の壮大な加齢研究ーそのProtocolは?/ウイルスの病原性と感染性ーHIVにみる新知見/モルヌピラビルに重大な懸念/βサラセミアの遺伝子治療

•Nature            

1)生物学:Perspective
オープンサイエンスによるペット犬の加齢研究(An open science study of ageing in companion dogs
 加齢は生物学の重要な研究テーマである。しかし,ヒトの加齢変化は,遺伝的素因,環境,生活様式が複雑に絡み合った結果であり,酵母や線虫やハエやマウスといった均一な実験動物の系で再現することは不可能である。そこで,Texas A&M University College of Veterinary Medicine & Biomedical Sciencesの筆者らは,ヒトと同じ環境で生活しながらも,ヒトより7〜10倍の速さで加齢するペット犬に着目し,Dog Aging Project(DAP)を立ち上げた。
 DAPには20以上の研究施設から100名以上のスタッフが関わっており,全米各地から3万頭以上のペット犬が現在登録されている(図1)。登録は1家族に1頭という制限はあるものの,総登録頭数に上限はない。その性別・年齢構成のピラミッド図によると,オスメスともに2歳齢が最多で,年齢が上がるにつれて12歳齢まで緩やかに登録頭数は減少し,13歳齢から急激に登録頭数が減少している。12〜13歳齢がペット犬の平均的な寿命と思われる。
 飼い主がDAPに登録すると,飼い主は臨床試験さながらのEDC(Electronic Data Capture)のデータ入力と,毎年のデータ更新を求められる。それらの入力データには,ペット犬の体重,性別,年齢,純血/雑種,居住地といった基礎データのほか,ペット犬の習性,餌,治療薬や予防薬の摂取歴,運動量,室内外の環境,既往歴といった詳細なデータが含まれている。そしてこれらの入力データを元に,一部の登録犬は,老化や長寿との関連を調べるGWAS研究(それぞれ8,500頭と300頭),加齢のバイオマーカー研究(1,000頭),ラパマイシンの寿命延長効果を調べるプラセボ対照研究(350頭)に割り付けられる(図2)。そのため集積するデータは多岐にわたり(表1),飼い主には口腔粘膜DNA,末梢血,尿,便,毛を収集する採取キットが送付される(図3)。
 大学の運営交付金が年々減りバイオ研究の地盤沈下が真剣に議論されているわが国では考えられない研究スケールで,その結果が楽しみである。

•Science                  

1)ウイルス学:RESEARCH ARTICLE
オランダで流行しているHIV-1強毒株(A highly virulent variant of HIV-1 circulating in the Netherlands
 SARS-CoV-2がデルタ株からオミクロン株に置き換わることによって,「ウイルスの感染力の増加で感染者が増えた一方,毒性の低下で重症者の割合は減った」とされている。「ウイルスの感染力と毒性は相いれないので,これから新型コロナウイルスは単なるカゼになる」という見立てに疑問を投げかける,英国オックスフォード大学からの報告である。病原性も感染性も高いHIVウイルスB型強毒株がオランダでは流行しており,その端緒は,1992年アムステルダムで診断された2人のHIVウイルス感染者まで遡ることを示している。
 筆者らはまず,ヨーロッパとウガンダのHIV感染者2461名のBEEHIVEコホートで,HIVウイルスB型強毒株に感染していた15名でウイルス量が多いことを見出した(表1)。別のヨーロッパのATHENAコホート(5 363名)でも同様の結果でも,B型強毒株に感染していた91名で,ウイルス量が有意に高かった。そしてこの傾向は2002年から続いていた(図1A)。さらにB型強毒株の感染者では,CD4陽性T細胞の減少スピードが速く,ウイルス量を調整してもおよそ2倍の速さであった(図1B)。しかし,治療後のCD4陽性T細胞の回復や死亡率については,B型強毒株と非B型強毒株で有意な差は認められなかった(図1C)。
 続いて筆者らはウイルスの全ゲノム解析を行った(図2)。B型強毒株の病原性を説明しうる遺伝子変異などは見つけることができなかった。しかし,オランダで流行しているHIVウイルスの系統樹解析の結果,B型強毒株がウイルス量の多い一群を形成し,その起源が1998年まで遡ることを見出した(図2)。さらにこの系統樹解析のlocal branching index(2014年にNeherらが提唱した概念)から,B型強毒株の感染性は,非B型強毒株より高いことがわかった。
 最後に筆者らは,後にB型強毒株となるHIVウイルスは,1992年にアムステルダムで診断された2人の患者で検出されていたことを明らかにし,(1人の患者の中でB型強毒株ができたのではなく)ヒト-ヒト感染を繰り返すことによってB型強毒株が出現してきたことが示唆された。

2)COVID-19:PERSPECTIVE
ウイルス治療に伴う致死性変異(Lethal mutagenesis as an antiviral strategy
 モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)は,初の経口COVID-19治療薬として,本邦の臨床現場でも重用されている。このモルヌピラビルの長期的安全性はまったく不明で,発癌性,催奇形性,新たな変異SARS-CoV-2の誘導,という3つの重大な危険性が懸念される()。ノースカロライナ大学のSwanstrom博士とエモリー大学のSchinazi博士の共著で,Swanstrom博士の研究室から昨年8月に発表されたin vitro実験の結果に基づいている。この論文がScience誌に掲載された影響は今後多方面に及ぶことが予想される。

•NEJM

1)血液内科学:ORIGINAL ARTICLE
βサラセミアに対する遺伝子治療(Betibeglogene autotemcel gene therapy for non–β00 genotype β-thalassemia
 ヘモグロビンβ鎖が減少しているβサラセミアに対して,患者自身のCD34陽性造血幹細胞(あるいは前駆細胞)にレンチウイルスでβ鎖を導入したex vivo遺伝子治療「beti-cel(betibeglogene autotemcel,商品名Zynteglo)」の結果である。患者23例に対する非盲検第3相試験で,ローマ大学からの報告で,同号のEditorialにも取り上げられている。ちなみに,β鎖が完全欠失しているβサラセミアの遺伝子型は「β00」と表現され,この臨床研究では,β鎖が完全欠失していないβサラセミア(non–β00)を対象としている。現行のβサラセミアに対する治療は,HLAが一致しているドナーのいる14歳以下では,同種造血幹細胞移植とされている。本研究では8名の12歳以下若年者も含まれている。
 本研究では輸血依存性のβサラセミア患者23例に対し,主要評価項目は輸血非依存性(1年以上輸血せずにヘモグロビン9g/dL以上)で行われた(表1)。観察期間の中央値は29.5カ月である。
 評価可能症例22例のうち,91%にあたる20例で輸血非依存性を獲得した(図2)。その平均ヘモグロビンは11.7g/dLで,beti-cel療法由来のヘモグロビン量(ヘモグロビン蛋白質の87番目アミノ酸がトレオニンからグルタミンに置換されている)は8.7g/dLであった(図1)。本治療によると考えられた主な有害事象は,今のところ2例に認めたグレード3の血小板減少だけであった(表2)。
 本邦ではiPS細胞に代表される再生治療の脚光に隠れ,「失敗し葬られた過去の治療」と捉えられがちな遺伝子治療ではあるが,決して派手ではないものの着実な成果を海外では積み上げている。

今週の写真:大好きなテニスボールをくわえたコーギー(当時3歳)


(TK)

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