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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 179

公開日:2022.2.15


今週のジャーナル

Nature  Vol.602 No. 7896 (2022年2月10日)日本語版 英語版

Sci Trans Med Vol.14, Issue 631(2022年2月9日)英語版

NEJM Vol.386 No.6(2022年2月10日)日本語版 英語版








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COVID-19小児で軽症が多い理由ーその本質は?SARS-CoV-2既感染者におけるワクチン接種の免疫応答/COVID-19経口治療薬のモルヌピラビル

 3月6日まで13都県に「まん延防止」が延長されたSARS-CoV-2感染拡大,やはり今週も全てSARS-CoV-2の論文を紹介したい。小児COVID-19で軽症が多い理由,これは留学中の慈恵呼吸器内科の先生の素晴らしい仕事である。  

 臨床現場ではSARS-CoV-2変異株により重症患者数や診療体制は変化し続けている,だからこそSARS-CoV-2論文からの情報はどの時期の,どの変異株での成果であったか把握し,今後の臨床・研究に役立たせていきたい。


•Nature

1)Original Research:感染免疫学

小児および成人におけるSARS-CoV-2感染に対する局所・全身性反応(Local and systemic responses to SARS-CoV-2 infection in children and adults

 英国のロンドン大学からの論文であるが,筆頭者は慈恵医大呼吸器内科から留学中の吉田昌弘先生である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が一般的に小児で軽症である理由を探求した研究で,小児および成人のCOVID-19患者,ならびに健常対照者(計n=93)でマッチする鼻腔,気管支,血液検体の臨床検体でシングルセルmulti-omic profilingを行っている。

 SARS-CoV-2ワクチンを接種していない成人の有症者では14%が,強い炎症性免疫反応を示しながら進行性の呼吸不全を発症する。これまでCOVID-19の炎症性免疫反応については,成人でのシングルセル解析にて,炎症性単球/マクロファージ,クローン性の細胞傷害性T細胞,好中球など,様々な免疫細胞の関与が報告,小児と成人のbulk RNAシーケンス(RNA-seq)およびサイトカインプロファイルを比較した研究で,血漿中のIFNγおよびインターロイキン17(IL-17A)レベルが成人で上昇し,小児ではSARS-CoV-2に対する抗体反応や中和活性の減少がみられた報告,小児の軽症COVID-19での上気道を分析した最新のシングルセル・トランスクリプトミクスで,パターン認識受容体経路の高い発現が,より強い自然免疫反応と関連などが報告されている。本論文では,それらの炎症性免疫反応が,COVID-19の重症化へとつながるメカニズムについて局所的および全身的免疫応答について論じている。

 無症状から重症までCOVID-19の小児19名と成人18名,そして健常な小児と成人41名を対象に,気道(鼻腔,気管,気道,気管支ブラッシング)および適合する末梢血単核細胞(PBMC)を用いて解析している。気道では未記載のものを含む59種類,血液では34種類の同定した細胞タイプのUMAPがFig.1に示されている。

 まず健常小児の気道では,すでにインターフェロンによる活性化状態にある細胞集団が観察され,SARS-CoV-2感染後には特に気道の免疫細胞でその活性化がさらに誘導されたことを明らかにした。つまり小児では,自然免疫のインターフェロン応答が成人よりも高度であることが,ウイルス複製や疾患進行の抑制に効果的に作用している可能性を挙げている。次に,SARS-CoV-2感染後の全身性免疫応答を解析して,小児ではナイーブリンパ球の増加とナチュラルキラー細胞の減少,しかし成人では細胞傷害性T細胞とインターフェロンにより刺激された亜集団が有意に増加と明らかに異なる特徴を示していた。さらに,感染初期に樹状細胞がインターフェロンシグナル伝達を開始させるという証拠を示し,COVID-19と年齢に相関する気道上皮細胞の状態を特定している。気道局所の強いインターフェロン応答とともに全身性のインターフェロンにより刺激された細胞集団の誘導が明らかになったが,この全身性の細胞集団は小児患者で著しく少ないことも示している。

 筆者らは,小児におけるCOVID-19軽症が多い理由のメカニズムをFig.4で説明している。まず,①気道上皮のIFN応答遺伝子の定常発現量が小児で高いこと。SARS-CoV-2はインターフェロンによる前刺激に高い感受性を示すことが報告されており,小児では前活性化がウイルスの拡散を制限している可能性がある。次に,②小児では血液中の全身性免疫反応が,よりナイーブな状態であること。一方,成人では,おそらくウイルスの拡散を制限できず,血液中の細胞障害性の高い免疫コンパートメントがみられ,免疫に関連した臓器障害が広範囲に及ぶ可能性がある。そして,③小児では成人よりTCRレパートリーの多様性が高いこと。小児期から成人期にかけてメモリーT細胞やメモリーB細胞が獲得され,さらに胸腺の働きが低下することによって,高齢者では適応免疫系がよりメモリーベースの領域に移行している。これは,ナイーブリンパ球内のユニークな免疫受容体のプールを減少させ,SARS-CoV-2抗原に対して高親和性免疫受容体が直接作用できる可能性を低くしている。さらに④成人では感染初期においてIFN刺激細胞状態にあること。これは,COVID-19の成人患者において,すでに細胞傷害性である免疫区画に,さらに炎症性の特徴が加わり,おそらく全身的な免疫反応の病的効果を増幅させている可能性がある。また自然免疫反応の開始における上皮細胞の重要な役割についても述べている。SARS-CoV-2感染において上皮の杯細胞,繊毛細胞,分化細胞に最も高い総ウイルス量がみられるが,それはウイルス感染が細胞死と感染細胞の除去によって解消されている。このため,気道上皮は非常にダイナミックに再構築され,発生中間体,特に通過上皮の集団が著しく増加し,感染後にバランスが保たれることも明らかにしている。


•Sci Trans Med

1)Research article:感染免疫学

SARS-CoV-2既感染者ではBNT162b2 mRNAワクチン1回投与後には強固な免疫応答がみられる(Robust immune responses are observed after one dose of BNT162b2 mRNA vaccine dose in SARS-CoV-2-experienced individuals

 ニューヨーク大学からの報告で,これまでのSARS-CoV-2ワクチン効果の臨床試験と異なり既感染者におけるワクチン接種後の免疫応答を明らかにした研究である。SARS-CoV-2未発症者21名と既感染者15名を対象に,BNT162b2 mRNAワクチン接種1回目,2回目ともに前後で静脈血を採取し高次元スペクトルフローサイトメトリーで解析している。

 まず,両グループ共にKi67+CD38+CD8+T細胞頻度は,ワクチン接種1回目も2回目も1週間後に増加していた,そしてKi67+CD38+CD8+T細胞は強い細胞障害性を示唆するグランザイムBを発現し,SARS-CoV-2抗原への反復暴露に対して記憶動態で応答していたことを明らかにしている。これはどちらもmRNAワクチン接種が細胞傷害性CD8+T細胞反応と関連していることを示しているFig.1。抗原特異的体液性細胞応答に関して,SARS-CoV-2既感染者は未発症者と比較して1回目のワクチン接種1週間後の循環中の抗原特異的ASCの頻度が高かった。しかし,2回目接種後の抗原特異的ASC(antibody secreting cell)の頻度は,既感染者では高くならなかったことを示しているFig.4。ワクチン接種後のRBD特異的なB細胞の循環頻度は,既感染者も未発症者も増加していた。しかし,COVID-19既感染者では1回目接種後の抗スパイク蛋白S1結合IgG抗体価は100~1000倍と上昇していたのに2回目接種時の上昇は限定的で,SARS-CoV-2未発症者では2回目以降も抗体価は経時的に上昇していた。しかし,既感染者における中和力価は2回目時点でも2回目終了1か月後でも上昇し続けていた。つまり既感染者では高親和性抗体の消失ではなく,親和性成熟を経ていないde novo B細胞反応が親和性の経時的減少を起こしているかもしれないと推測している。また抗S1 IgG応答の非常に高い中和力価が,その後のワクチン接種後の非記憶B細胞クローンの刺激に利用できる抗原を制限している可能性も考えられるとしており,ベースラインの抗S1 IgG力価と初回ワクチン接種後の抗S1 IgG力価の倍率変化との間には強い負の相関があったことを示しているFig.6 。

 世界中でパンデミックを生じているCovid-19を終結させるためにも,既感染者を含めた感染拡大予防策は重要な課題である。そのため,本研究からのブースターショットの免疫学的情報は大きい。


•NEJM

1)Original article:感染症

Covid-19非入院症例の経口治療薬であるモルヌピラビル(Molnupiravir for oral treatment of Covid-19 in nonhospitalized patients

 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対する新たな経口治療薬として米国メルク社が開発製造したモルヌピラビル,すでにわが国でも2021年12月24日に特例承認されMSD株式会社にて販売されている(211224 モルヌピラビル承認プレス:リンク)。その第3相試験結果の報告で,入院していない軽症~中等症Covid-19の成人患者で,SARS-CoV-2感染が検査で確認され,重症Covid-19の危険因子(高齢,肥満,糖尿病など)を1つ以上有し,ワクチン未接種である患者を対象に,Covid-19の徴候または症状出現後5日以内に投与開始するモルヌピラビルの有効性と安全性を評価する第3相二重盲検無作為化プラセボ対照試験である。モルヌピラビル800mgを1日2回5日間投与する群と,プラセボを投与する群に無作為に分け,主要有効性エンドポイントは29日時点での入院または死亡の発生率とし,有害事象の発現率を主要安全性エンドポイントとしている。

 1,433例(716例がモルヌピラビル群,717例がプラセボ群)が登録され,中間解析ではモルヌピラビルの優越性が示され,29日目までのあらゆる原因による入院または死亡のリスクは,モルヌピラビル群(385例中28例 [7.3%] )が有意にプラセボ群(377例中53例 [14.1%] )よりも低い。そして,無作為化されたすべての患者の解析においても29日目までに入院または死亡した割合は,モルヌピラビル群がプラセボ群よりも低い結果であった(6.8% [709例中48例] 対9.7% [699例中68例] ,差-3.0パーセントポイント,95%CI:-5.9~-0.1)Fig.2。モルヌピラビルにてリスク軽減が期待できるサブグループとして,SARS-CoV-2初回感染者,発症から3日超えている患者,白人患者,肥満患者が挙げられているが,逆にSARS-CoV-2感染の既往ある患者,ベースライン時のウイルス量が低い患者,糖尿病患者ではプラセボ群の方がリスク軽減させる結果Fig.3であった。29日目までに,死亡はモルヌピラビル群で1例,プラセボ群で9例。そして有害事象はモルヌピラビル群710例中216例(30.4%),プラセボ群701例中231例(33.0%)であった。

 登録された患者の7割以上がBMI 30を超える肥満で,中等症が40%以上の対象者であった。そしてデルタ株が30%以上を占めており日本では第5波の時期に行われていたが,レムデシビルやモノクローナル抗体などのCOVID-19治療薬は使用されていないのでワクチン未接種のプラセボ群の臨床経過も重要な情報だと思われる。モルヌピラビル群はプラセボ群に比して入院および死亡のリスクは軽減している。しかし,プラセボ群の多大なリスクを考えると,治療開始10日を過ぎて両群ともほぼプラトーになった結果,そこは色々と気になる点である。そしてすでにオミクロン株が9割以上を占める状況下で,本治験の有効性をどのように解釈するかも問題である。


今週の写真:年なしクロダイ(51cm,三浦半島にて)

50cmを超えるクロダイは何年生きているのかわからないほど大きい,という意味の名前です。実際には,広島大学の研究で平均17年生きていることが調査されています。


(石井晴之)


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