" /> 焼肉を食べると愛を告白したくなるわけ/耐性菌の出現をデータ駆動型医療で抑える/リアルワールドでの思春期児に対するコロナワクチンの効果 |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 180

公開日:2022.3.2


今週のジャーナル

Nature  Vol.602 No. 7898 (2022年2月24日)日本語版 英語版

Science Vol.375, Issue 6583(2022年2月25日)英語版

NEJM Vol.386 No.8(2022年2月24日)日本語版 英語版








Archive

焼肉を食べると愛を告白したくなるわけ/耐性菌の出現をデータ駆動型医療で抑える/リアルワールドでの思春期児に対するコロナワクチンの効果

•Nature

1)神経科学:Article
求愛と摂食の優先順位を決めるホルモン(A nutrient-specific gut hormone arbitrates between courtship and feeding
 我々ヒトは様々な感覚刺激が混在する環境の中で,ある行動を他の行動より優先し,順序付けしながら行うことを自然と選択している。昭和の時代の,あこがれの異性との初デートを想像してみると……。ウキウキの中でプランを立てるであろう,あそこに行って,ここに寄って,そして食事をしてから告白するか,告白してから食事をするか……。

 動物は生まれながらにして,生存に必須の行動のレパートリーを複数持っている。例えば,摂食,休養,攻撃,回避,求愛などである。それらは無秩序に行われるのではなく,適した外的刺激により引き起こされる,適切なタイミングに行われない場合には進化的に淘汰されていくはずである。通常は,一度に1つの行動しか行えないことから,行動開始だけでなく,適切なタイミングで1つの行動から別の行動に切り替えるメカニズムも備わっていると考えられる。その中でも摂食と求愛の間の優先順位付けは種の生存において重要な意味を持つ。食べてばかりでは繁殖機会を失うが,食べなくても繁殖能力が低下する。今回紹介するUCSDからの報告では,ショウジョウバエにおける摂食と求愛の優先順位を決定する神経学的なメカニズムを明らかにしている。

 最初は現象の観察である。通常,雄と雌のショウジョウバエを同じ飼育器の中に同居させると,雄は盛んに求愛行動(片方の羽を震わせる)を示す。その様子を飼育器の中に餌を置いた状態にし,雄を24時間の飢餓状態に置いた後に同居させて観察している。この際に置く餌を酵母(通常の餌),糖質,タンパク質に分けて検討したところ,事前に酵母を摂食していた雄は,餌にわき目もふらずに求愛行動を呈したが,飢餓状態の雄は当初は求愛行動を示さず摂食行動を優先し,数分以内に求愛行動に移行した。またこの変化は,糖質食餌ではほぼ認められず,タンパク質食餌の際に大きく認められている(図1)。これは,飢餓は食餌行動を最優先し,タンパク質摂取が優先行動を食餌行動から求愛行動へ移行したと解釈できる。つまり,タンパク質が媚薬として働いたということである。
 次に,この変化を起こす分子メカニズムの解明を試みている。アミノ酸摂取で細胞内カルシウムレベルの上昇を認めるDh31+腸内分泌細胞に注目し,その分泌ホルモンであるDh31(神経ペプチドホルモン)を中心に解析を行っている。非常に多様な実験手法を用いて検討が行われている。腸管でのDh31のノックダウン,中枢神経でのDh31Rのノックダウン(図2),腸管内分泌細胞を刺激する光遺伝学手法,3光子機能イメージングによる生きたショウジョウバエの中枢神経深部の細胞レベルでの観察(図3)など用いて,Dh31が食餌から求愛への行動変化に必須のホルモンであること,またアミノ酸刺激によりDh31+腸内分泌細胞より放出されたDh31が血液循環に乗り中枢神経に到達し,Dh31R+コラゾニン(Crz)+神経細胞を刺激することにより求愛行動を起こすことを証明している。
 求愛行動の促進メカニズムはわかったが,求愛中に食餌を行わない,つまり食餌行動を抑制する(負のフィードバック)メカニズムはどうであろうか。前述のDh31R+crz+神経細胞でのDh31Rノックダウンではタンパク質摂取量は変わらなかったことから,他のDh31R(Dh31Rは体内時計を支配する時計ニューロン群の一部に発現している)を発現する神経細胞においてノックダウンを作成した。結果としてショウジョウバエのアミノ酸摂取量を増加させたDh31R+AstC+神経細胞を同定し,アミノ酸摂取による食餌行動の抑制回路として明らかにしている。Crz+とAstC+の神経細胞は求愛,食餌行動には互いに干渉せず並行して活動することも明らかになり,図4fに集約されてアミノ酸摂取による求愛と食餌の優先順位決定のメカニズムがまとめられている。まさに『花より団子』である。とんでもない量と最新の技術を用いた実験が行われており感嘆した。ヒトでも相同の仕組みが働いているのかはまったく不明である。ただ,Dh31Rに相当するマウスのカルシトニン受容体がショウジョウバエと共通して体温の日内リズムを制御していることが2018年に報告されており,活動の順序や周期を決定づける共通の仕組みとして哺乳類にも保存されている可能性はあるのかもしれない。考察にはマズローの三角形とも照らし合わせられており,ヒトにおいても心理学的には欲求には辿るべき順序があることが想定されており興味深い。

 ここで,最初の疑問に戻ってみたい。おじさんになってしまった今はもう考えることもなくなったが,よくよく考えると告白されたいヒトが使える情報ということに気づいた。もし,その場面がやってくるとしたら,カフェでパンケーキ(糖質)を食べるのではなく,『焼肉』(タンパク質)一択であろう。

•Science

1)感染症:Letter
細菌感染症における抗菌薬耐性化を最小化する(Minimizing treatment-induced emergence of antibiotic resistance in bacterial infections
 細菌感染症診療の基本は,検体採取により起炎菌を同定し,感受性検査を行うことにより適した抗菌薬を使用することが標準的である。むろん,なるべく早期の介入が医療的に良好なアウトカムを生み出すことは現在までによく証明されている。よって,起炎菌判明前に普通に暮らしている方の肺炎では,この起因菌の頻度が最も高いから,この抗菌薬を使用しておこう!というエンピリックな抗菌治療も頻繁に行われる。しかし,様々な局所感染症において再発率は高く,尿路感染症の女性では約25%が6カ月以内に別の感染症を発症しているとされる。紹介する報告では,膨大な過去データを元に,尿路感染症もしくは創傷感染症を起こした例における,①再発を起こす耐性菌の由来,②耐性菌による再発リスクを低下させる抗菌薬選択を個別にサポートするデータ駆動型医療の実現可能性,を示している。

 イスラエルのグループからの報告である。用いたデータセットは2つである。1つは2007年から2019年にかけての同国のヘルスケアサービスの1つに在籍した全例の抗菌薬感受性プロファイル,実際の処方抗菌薬等の情報を含む大規模縦断データセット。2つ目は治療前後に分離された1113株の全ゲノムシークエンスデータである。
 どのようなデータを取得して解析したのかは,実際とは微妙にことなるが図3Dが理解しやすい。あるタイミングで感染症を発症した例のうち治療後28日以内に再び発症した場合に再燃としている。そういった例の一般情報に加え,過去の同感染症の履歴,抗菌薬使用歴等を主たるデータセットとしている。
再発例のうち再発時に耐性化が進んだ例は30%存在した。感受性のある抗菌薬での治療は再発率を低下させるものの,再発した場合には耐性菌による再発であるリスクを高めていた(図1)。耐性化する機序としては,突然変異,耐性遺伝子,菌株の入れ替わり(図2A)などが考えられるが,シークエンスデータからは,菌株の入れ替わりが強く考えられる結果であった。また,初回に検出された菌種と異なる菌種が再発で検出される割合は高く(図2G),同一菌種のde-novoでの耐性獲得進化ではなく,既存の耐性株に対する選択が主な機序であることが示唆された。これにより,抗菌薬治療後の再発を起こす耐性菌は既存の細菌叢に存在していた耐性菌由来であることが示された。このことからは,早期再発や耐性化のリスクは予測不可能ではなく,過去データをもとに個人レベルで実際に予測できる可能性が示唆された。そこで,得られた大規模縦断データによる耐性化リスクを最小化するための推奨抗菌薬を選択するための機械学習アルゴリズムを開発した。これにより推奨されなかった抗菌薬で治療された例は有意に耐性獲得率が高いことが示された(図3E)。シミュレーションでは医師が選択した抗菌薬に比べ,機械学習アルゴリズムでの結果を用いた際には尿路感染症においては耐性菌発現リスクを77%減少させる可能性が示されている(図3F)。

 有効かつ継続性のある抗菌薬の使用はAMSとして普及しつつある。その観点にAIによるデータサイエンスを導入するデータ駆動型医療の可能性を紹介する報告である。個人的に感心したこととしては,イスラエルでは1990年代半ばから個人の医療データが出世時から生涯にわたり継続して電子データの形で蓄積されているという事実である。周回遅れどころの話ではない。

•NEJM

1)感染症:Original Article
思春期におけるBNT162b2ワクチンのCOVID-19重篤化予防効果(Effectiveness of BNT162b2 vaccine against critical Covid-19 in adolescents
 後方視的な症例-対照研究であるが,NEJM誌に掲載されるということはCOVID-19の相変わらずの医療的・社会的重要性ということであろう。米国でのリアルワールドにおける思春期児(12〜18歳)におけるコロナワクチンの有効性を評価している。2021年7月から10月にかけて,23州の31の病院より入院記録を抽出した。実際に入院している患児のうち,コロナ陽性患児,コロナ様の症状のあるコロナ陰性患児,症状のなかった患児を選びワクチン接種完了のオッズを求めている。結果はResearch summaryにキレイにまとめられている。入院に対しての有効性は94%(95%CI,90 to 96),ICU入室,生命維持に対しての有効性はともに98%であった。7名のコロナ関連死はすべてワクチン未接種児であった。

 リアルワールドデータであり,治験のセッティングよりはずっと実臨床に近い結果である。ワクチン接種の効果はこの年代でも確実であり,心筋炎のリスクが論じられるものの,公衆衛生学的には“お勧めする”という結果と理解した。

今週の写真:杖立温泉郷のむし場

熊本北部の山間地にも沢山の温泉郷がある。そのうちの1つ杖立温泉郷。2年前に豪雨災害で大きな被害を受け復興の最中である。自噴する温泉(というより高温蒸気)の配管が縦横無尽に走っており,街中に写真のような『むし場』なるものが存在する。コロナが下火の折に出かけていき,人間様が温泉で十分に蒸された後に,卵,サツマイモ,ウインナーも十分に蒸したうえでいただいた。雰囲気もあり別格の美味しさであった。
(坂上拓郎)

※500文字以内で書いてください