" /> T細胞がもつアンドロゲン受容体が抗腫瘍免疫にブレーキをかける/ナイアシンは脳内異物の掃除屋ミクログリアに働きかけてアルツハイマーを防ぐ/ヒドロコルチゾン治療は超未熟児の気管支肺異形成症発症を十分には抑えられない |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 184

公開日:2022.3.30


今週のジャーナル

Nature  Vol.603 No. 7902 (2022年3月24日)日本語版 英語版

Sci Trans Med Vol.14, Issue 637(2022年3月23日)英語版

NEJM Vol.386 No.12(2022年3月24日)日本語版 英語版








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T細胞がもつアンドロゲン受容体が抗腫瘍免疫にブレーキをかける/ナイアシンは脳内異物の掃除屋ミクログリアに働きかけてアルツハイマーを防ぐ/ヒドロコルチゾン治療は超未熟児の気管支肺異形成症発症を十分には抑えられない

•Nature

1)腫瘍免疫学
T細胞のアンドロゲン受容体が免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を阻害する(Androgen receptor activity in T cells limits checkpoint blockade efficacy
 免疫チェックポイント阻害薬ICIの治療効果に性別が関係しているのではないかという議論は以前よりあるものの(リンク),その科学的根拠を証明するためには,癌の原発組織や発癌の原因などに基づいた考察が必須である。今回,オレゴン健康科学大学から,元来前立腺癌に対する抗腫瘍作用のために実施されているアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy:ADT)やアンドロゲン受容体拮抗薬治療が,T細胞が発現するアンドロゲン受容体に作用することで,ICI感受性を改善する可能性を明らかにした報告である。もともと前立腺癌はほとんどがICIに抵抗性であることが知られているが,抗PD-1抗体にアンドロゲン受容体拮抗薬を併用した臨床試験(NCT02312557)の奏功率が18%と良好であることからもその背景にあるメカニズムが注目されていた。

 合計8例と症例数は限られている検討であるが,3例の奏功例と5例の非奏功例に関して腫瘍環境における各構成細胞をシングルセルシークエンスにて解析している。奏功例に関しては,腫瘍環境中のCD8陽性T細胞浸潤は顕著に認められた。興味深いことに,非奏功例5例中2例については奏功例と同様にCD8陽性T細胞の十分な浸潤を認めた。この様な結果からCD8陽性T細胞における細胞内シグナルが何らかの形でCD8陽性T細胞の機能を障害させている可能性が示唆され,そのメカニズムを検討している。8例全例のCD8陽性T細胞のシングルセルシークエンスデータから,細胞集団を大きく2種類に分けられることがわかり,K1およびK2と命名している()。おおまかには,K1がエフェクター機能に関連する分子の発現が高い群,K2は休止状態の維持に関連する分子の発現が高い群である。さらに今回奏功した患者と奏功しなかった患者についても再解析を行うと,その分布がK1とK2に類似することがわかった。これまで固形癌のICI奏功例で発現の上昇が繰り返し報告されてきたTOX,TCF7,FOXP1,BCL2などの因子についてはほとんど上昇が認められず,前立腺癌ならではのメカニズムが示唆された。奏功例と非奏功例と比較した場合に,特に発現が異なる上位20種類の転写因子とその活性化シグナルを評価したところ,アンドロゲン受容体とそのシグナルの活性化がICIの抵抗性に関わっていることが明らかになった。

 マウスに前立腺癌細胞株を移植するモデルを用いて,抗PD-L1抗体・アンドロゲン遮断薬およびアンドロゲン受容体拮抗薬を単剤もしくは併用で投与し,その効果を比較検討した。その結果,併用治療で有意に生存が延長することがわかった。さらに腫瘍内の免疫解析では,CD8陽性T細胞のIFNγやグランザイムBの産生が亢進するとともに,併用治療と単剤治療を比較したマウスCD8陽性T細胞の遺伝発現パターンは,ICI治療を受けた患者の奏功・非奏功の違いのパターンに類似していた。次に,アンドロゲン受容体の遮断がどのようにCD8陽性T細胞の活性化を誘導するのか,細胞内のメカニズムに着眼したところ,アンドロゲン受容体がIFNγやグランザイムBのオープンクロマチン領域に結合し,その発現を阻害していることを見出した()。さらにアンドロゲン受容体を欠損させたCD8陽性T細胞は,野生型と比較してIFNγの産生が改善することもわかった。アンドロゲン受容体を欠損することで,慢性刺激が生じた場合にはむしろ疲弊が誘導されやすくなるのではないかという懸念から,慢性ウイルス感染モデルを用いてT細胞の評価をしたところ,30日以降でも十分なIFNγ産生が維持できた。最終的には,すでに論文化されたICI治療を受けたメラノーマコホートのデータからも,CD8陽性T細胞におけるアンドロゲン受容体の発現は治療抵抗性と関連することがわかった。

 本研究によりCD8陽性T細胞におけるアンドロゲン受容体の役割が明らかになるとともに,バイオ―マーカーもしくは新規治療標的として今後の可能性が期待される。


•Sci Trans Med

1)神経学
ミクログリアのナイアシン受容体がアルツハイマー病の進展を抑制する(The niacin receptor HCAR2 modulates microglial response and limits disease progression in a mouse model of Alzheimer’s disease
 今週はScience Translational Medicineからアルツハイマー病に関する報告を紹介する。
 脳内のβアミロイド沈着は,アルツハイマー病の疾患発症における重要なメカニズムであり,沈着をいかに予防し,発症を遅らせられるか,ワクチン治療などを含む様々な取り組みが試みられている。

 今回インディアナ大学のグループから,アルツハイマー病のモデルマウスを用いた解析の結果,ナイアシンによるhydroxy carboxylic acid receptor 2 (HCAR2)(別名GPR109A)を介した刺激によって,脳内マクロファージ(ミクログリア)のβアミロイド貪食機能が促進され,アルツハイマー病の発症が抑制される可能性を示している。

 HCAR2を介したミクログリアの活性化は,老化した神経の機能改善や脳腫瘍に対する抗腫瘍免疫応答の改善などに寄与する可能性がいくつかの論文で報告されている(リンク)。今回アルツハイマー病モデルである5xFADマウス(リンク)を用いた解析の結果,生後4〜6カ月のアミロイド沈着の時期に,ミクログリアにおけるHCAR2の発現がマウスの大脳皮質およびアルツハイマー病患者の海馬で有意に増加していることが確認された()。Hcar2欠損マウスを5xFADマウスと交配し,海馬の遺伝子発現を元の5xFADマウスと比較したところ,ミクログリアの貪食と関連する一連の遺伝子群の発現が有意に低下することがわかった()。さらに,Hcar2欠損マウスでは,アミロイド沈着が有意に増悪し,マウスの神経機能が低下することが示された()。その背景のメカニズムとして,Hcar2欠損ミクログリアでは,細胞の増殖能およびアミロイド貪食能が低下していることがわかった。さらにナイアシンの刺激により,アミロイド貪食能が改善することが示された。最終的に,FDAで承認されているナイアシン配合薬であるNiaspanを生後5カ月から1カ月内服させたところ(すでにアミロイド沈着がある状態から増悪を抑える治療という位置づけ),ミクログリアの活性化を介してアミロイド沈着および神経所見の悪化を有意に抑制した()。

 以上から,ナイアシンの摂取によって脳内マクロファージのミクログリアが活性化し,その貪食機能の改善から,アミロイド沈着を阻害できる可能性が示唆された。

•NEJM

1)新生児学
ヒドロコルチゾンによる気管支肺異形成症を伴わない生存の改善(Hydrocortisone to improve survival without bronchopulmonary dysplasia
 気管支肺異形成症は,超早産児で頻度が高い合併症であり,生存者の約半数が罹患していると報告されている。臓器の未熟性,人工呼吸管理,酸素暴露などに伴う炎症が複合的に発症に寄与している可能性が考えられているが,その疾患のアウトカムは,長年に渡って改善しておらず,発病および増悪の抑制に繋がるような何らかの治療介入が急務である。気管支肺異形成症の発症予防を目的としたステロイド治療の歴史は長く,これまでヒドロコルチゾンもしくはデキサメタゾンを用いたトライアルが複数実施されてきたが,ヒドロコルチゾンに関してはポジティブの報告がある(リンク)。一方,デキサメタゾンでは予防効果の反面,神経発達の障害が懸念されていた(リンク)。

 本試験はNIHを中心とした米国のNICUを有する19の多施設共同試験で,生後2週を過ぎてからのヒドロコルチゾン投与が,気管支肺異形成症や神経発達への有害作用を伴わずに生存を改善できるかどうか検討した試験である(Visual abstractが示されている)。妊娠30週未満で出生した新生児のうち,生後14~28日の間に7日間以上挿管された乳児を対象として,ヒドロコルチゾン投与群(4mg/kg/日を10日間で漸減)とプラセボ群で比較した。Primary efficacy outcomeは,最終月経から36週の時点における中等度もしくは重度の気管支肺異形成症を伴わない生存とした。Primary safety outcomeは,修正月齢(早産児や低出生体重児で生まれたときに,実際の誕生日ではなく出産予定日から数えた月齢)として22~26カ月の時点における中等度または重度の神経発達障害を伴わない生存と定義した。全体で800 例が登録され,Primary efficacy outcomeは,ヒドロコルチゾン投与群398 例中66例(16.6%),プラセボ群402例中53例(13.2%)で有意な改善は認めなかった(95%信頼区間 0.93~1.74)()。Primary safety outcomeの評価が可能であったのは全体の 91.0%で,ヒドロコルチゾン群は358例中132例(36.9%),プラセボ群は359例中134例(37.3%)で,こちらも有意差は認めなかった(95%信頼区間 0.81~1.18)。有害事象の頻度については2群間で差はなかった()。

 今回の結果から,生後14~28日の間にヒドロコルチゾン治療を開始しても,中等度または重度の気管支肺異形成症を伴わない生存は,プラセボコントロールと比較しても有意に改善することはなく,中等度または重度の神経発達障害を伴わない生存割合にも明らかな差は認めなかった。過去の報告とは異なり,今回の試験では,ヒドロコルチゾンの有効性は示されず,今後も治療介入の検討が重要と思われる。また,今回のように発症予防に関するトライアルはこれまでにも多く報告されているが,発症後の気管支肺異形成症に対する長期的な管理ガイドラインがERJから報告されている(リンク)。

(小山正平)

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