•Nature
1)進化学:Article
哺乳類では体細胞変異率は寿命に応じて変化する(Somatic mutation rates scale with lifespan across mammals) |
マウスの寿命は2年,犬の寿命は15年,馬の寿命は30年,ヒトの寿命は80年超と,同じ哺乳類といっても種によって様々である(
News & Viewsの図)。もし体細胞の遺伝子変異率が種を超えて一定であれば,寿命の長い生物はすべて癌で亡くなることになる。しかし,実際哺乳類はどの種も癌になる確率に大差はないことは,「
Petoのパラドックス」と呼ばれている。今回英国のWellcome Sanger研究所の筆者らは,哺乳類16種56個体の208の腸陰窩の全ゲノム塩基配列解読を行い,年間の体細胞変異率は種によって大きく異なり,種の寿命と強い逆相関となることを明らかにした(
図3c)。「寿命と体格は相関する」とはよく言われているが,年間の体細胞変異率と体格との間では,寿命より弱い逆相関しか認められなかった(
図3e)。遺伝子変異のパターン「mutational signature」を見てみると,いずれの種でも,脱アミノ反応によりCpG部位に獲得されるC>T変異(SBS1)が,T>C変異(SBS5/SBSB)やC>A変異(SBS18/SBSC)に比し,加齢に伴って最も増える傾向を認めた(
図2d)。
Petoのパラドックスは,「種のレベルで見ると癌の発生率は生体の細胞数と相関していない」という観点から,種の体格に焦点が当てられていた。体格ではなく寿命が体細胞変異率と逆相関する,という本研究の知見は,老化を考える上で重要な情報と思われる。
なお,本論文は
AASJの論文ウォッチでも,「4月19日 体細胞突然変異は寿命のバロメーター(4月13日 Nature オンライン掲載論文)」として紹介されている。
•Science
1)癌ゲノミクス:RESEARCH ARTICLE
英国の癌全ゲノム解析で明らかになった置換変異パターン(Substitution mutational signatures in whole-genome–sequenced cancers in the UK population) |
英国ケンブリッジ大学からの報告で,4月28日号のNature誌の
Newsで「腫瘍のゲノムは宝の山:かつてない規模の研究によって,癌化の原因かもしれない変異パターンが明らかに」と紹介されている。これまで報告されている癌全ゲノム解析の最大は
5,000例規模で,今回は前向きに収集された12,222例の癌全ゲノムデータを解析している。解析例数を倍以上に増やすことによって,よりまれな変異を検出できるようになった。癌全ゲノム解析自体は,1塩基置換(single-base substitution/SBS)のパターンと2塩基置換(double-base substitution/DBS)のパターンを調べる,という比較的単純な手法で行われている。その結果,これまで知られていなかったSBSパターンとDBSパターンを,それぞれ40パターンと18パターン見つけることができた(
SUMMARYの図参照)。
本研究では,Genomics England(GEL)の10万ゲノムプロジェクトで収集された腫瘍-正常ペア検体を用いて行われた。解析された腫瘍は19種類で,1,009検体の肺癌,1,355検体の腎癌,2,572検体の乳癌,1,480検体の骨軟部腫瘍検体などが含まれている(
図1)。個別の癌種で1,000を超える検体数を解析したことと,高速シークエンスの解析深度を既報より10倍から100倍上げたことによって,腫瘍の1%以下のまれな変異も同定することができている。そして,各癌種内で多く認められるSBSパターンは135種類,稀なSBSパターンは180種類であった。これらのデータを既存の2つのデータベース(3,001検体のInternational Cancer Genome Consortium/ICGCと,3,417検体のHartwig Medical Foundation)と比較することによって検証した結果,各癌種において多く認められる変異は,5種類から10種類と極めて限定されていることがわかった。そして82種類のSBSパターンと27種類のDBSパターンを,高品質な「参照変異パターン(reference mutational signatures)」として確立した。
今回確立した参照変異パターンを,Catalogue of Somatic Mutations in Cancer(
COSMIC)のデータと比較すると,42種類のSBSパターンと9種類のDBSパターンは既にCOSMICに記載されていた。従って,40種類のSBSパターンと18種類のDBSパターンが今回新たに同定されたことになる(
図2)。これらの今回同定されたSBSパターンのうち,4種類はいくつかの癌種に共通していた一方で,3種類はそれぞれ中枢神経腫瘍,肉腫,リンパ腫に特異的であった。
同様にDBSも解析し,27種類のDBSパターンを,高品質な「参照変異パターン(reference mutational signatures)」として同定した(
図3)。それらのDBSの中には,
APOBEC(RNAや一本鎖DNAのCをU/Tに置換する核酸編集酵素群),ミスマッチ修復の欠損,紫外線,喫煙,白金製剤治療など病因に関わる変異が認められた。またSBSについても,APOBECやミスマッチ修復の欠損など内因性(
図4)と,紫外線,喫煙,白金製剤治療など外因性(
図5),それぞれ関連する変異が認められている。
現在の高速シークエンスの技術によって,癌の主要な遺伝子変異はほぼ網羅されたものの,今後さらにシークエンスの精度や解析手法が進歩すれば,よりまれな遺伝子変異も検出できるようになって個別化医療へより近づいていく,という癌ゲノム研究の大きな方向性を示唆する論文である。
•NEJM
1)代謝内科学:ORIGINAL ARTICLE
減量における摂食時間を制限するカロリー制限と摂食時間を制限しないカロリー制限との比較(Calorie restriction with or without time-restricted eating in weight loss) |
ご覧になった方もいるかもしれないが,2021年10月11日放送のNHK番組「
万物トリセツショー」で,食欲がテーマに取り上げられている。その番組の中では「1日の間に16〜18時間の空腹時間を作ることで,残りの時間は食べる量を意識して変えなくても,体重減少や血圧低下などの健康効果が期待されます」と,1日の中で空腹時間をしっかり作ること(「time-restricted eating」)の重要性が強調されている。
そこで今回,「カロリー制限に加えて食事時間帯も制限すると,より強い体重減量効果が得られるのか?」が無作為化臨床試験で検証された。中国広州の南方医科大学からの報告である。主要評価項目は12カ月後の体重減少で,カロリー制限のみ群は−6.3kg,カロリー制限に食事時間帯の制限も加えた群は−8.0kgと,食事時間帯を制限すると体重減少効果がより大きくなったものの,2群間に有意差は認められなかった(95%信頼区間は−4.0〜0.4,p=0.11)。ちなみに食事時間帯の制限では,午前8時から午後4時までの間に食事を摂るように指導されている。
食事時間帯の制限で有意差を得られなかった理由としては,研究参加者の食事時間帯がそもそもあまり長くなかった(10時間23分)こと,同時に行ったカロリー制限の効果が大きかったことなどが挙げられている。
今日の夕食の時間は少し早めにした方がよさそう,というのが現時点の結論と思われる。
今週の写真:家の近くの小川と桜です。 |
(TK)