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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 190

公開日:2022.5.25


今週のジャーナル

Nature  Vol.605 No. 7909 (2022年5月12日)日本語版 英語版

Science Vol.376, Issue 6594(2021年5月13日)英語版

NEJM Vol.386 No.19(2022年5月12日)日本語版 英語版








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TMPRSS2を阻害する新規SARS-CoV-2阻害薬/組織横断的なヒト免疫細胞アトラス/多剤耐性HIV-1感染に効く新規機序の抗HIV-1薬

•Nature

1)ウイルス学:Article
すべてのタイプのSARS-CoV-2感染に予防薬・治療薬として効果があるTMPRSS2阻害薬(A TMPRSS2 inhibitor acts as a pan-SARS-CoV-2 prophylactic and therapeutic
 TMPRSS2は気道内で呼吸器ウイルスを活性化している主要なプロテアーゼの1つである。TMPRSS2はII型膜貫通型セリンプロテアーゼの一種で,主には前立腺や気道上皮に発現している。TMPRSS2遺伝子を人工的に欠失させたマウスはウイルス感染に抵抗性であることから,当然のことながら治療ターゲットとなる。日本においても,ナファモスタット(フサン®)がTMPRSS2活性を阻害することでSARS-CoV-2のS蛋白質による膜融合を阻害するのではないかとう研究が報告され,治験も行われていた(Link)。
 著者らのグループは,ケトベンゾチアゾールをもとにペプチドミメティック〔生理活性天然ペプチドの構造を模倣(mimic)した合成化合物を調製し,ペプチドの活性や安定性を改善した化合物〕(Link)を設計し,宿主の膜結合セリンプロテアーゼ群(TTSP)であるマトリプターゼに対して阻害活性を示した化合物を有していた。この化合物をもとに,TMPRSS2依存的な蛋白分解活性の測定系を確立し,この測定系からN-0385という化合物がTMPRSS2を強力に阻害することを見出している(Fig.1)。
 次に,このN-0385を始めとするペプチドミメティックがSARS-CoV-2のヒト肺上皮細胞株(Calu-3細胞)およびヒト大腸様の細胞を用いて,SARS-CoV-2の阻害作用があることを示している(Fig.2)。なお,Calu-3細胞は,Vero細胞,やHeLa細胞と違い,TMPRSS2を発現している細胞株である(Link)。
 その他にも様々な変異株に対するin vitroの実験(Fig.3),K18-hACE2マウスモデルを用いたSARS-CoV-2のin vivoの実験(Fig.4)およびSARS-CoV-2デルタ株によるin vivoの実験(Fig.5)を行い,N-0385がCOVID-19に対して高い使用可能性を持つ抗ウイルス薬であることを示している。今後の臨床試験が待たれると共に,構造生物学および化合物精製の威力を痛感するプロジェクトである。

•Science

1)免疫学:Research Article 
組織横断的な免疫細胞解析によるヒトの組織特異的な特徴の解明(Cross-tissue immune cell analysis reveals tissue-specific features in humans
 近年,NGSの進化に伴い,リソース論文の一流紙への掲載が増加している。本論文では,成人の死亡臓器提供者12人の16種類の組織から抽出した30万個以上の個々の免疫細胞の遺伝子発現プロファイルに関して,シングルセルRNAシーケンスとVDJシーケンスを実施している。
 細胞の識別は,著者らのグループが開発した自動細胞分類ツール「CellTypist」を用いて行っている。この「CellTypist」は,公開されているデータセットをキュレーションし,統合させることで,包括的な免疫細胞型参照データベースとしており,すでに解析ツールもweb上でオープンにしており(Link),コードもgithubで公開されている。次に,この「CellTypist」と著者らが今回,解析したデータを投影させることで,合計101個の免疫集団を検出し,それぞれのサブセットについて組織横断的に比較している(Link)。
 マクロファージは組織ごと特異的な特徴を顕著に示した一方,いくつかの共通した特徴も検出された。例えば,赤血球貪食関連遺伝子を発現するマクロファージは,脾臓,肝臓,骨髄,リンパ節に広く検出された。また,遊走様の樹状細胞(migratory dendritic cells)のように,定義されているサブクラスの中でも異質性が観察された。獲得免疫においては,記憶細胞集団の組織特異的な分布が確認された。血漿細胞は限られた組織にしか分布していないが,メモリーB細胞はより広い組織に分布していた。同様に,組織常在型メモリーT(TRM)細胞は限定的な組織に分布しているのに対し,セントラルメモリーT細胞やエフェクターメモリーT細胞は広範な組織に分布している。TRM細胞は,VDJ配列の解析では,αβ系とγδ系を含む多様性を有しており,また,TRM細胞ではクローン形成が最も盛んであった。
 こちらの論文はカタログ的な要素が強いが,アトラスを見ているだけでも大変楽しい。例えば,肺には肺胞マクロファージ,間質マクロファージに加えて,DC2,単球,NK細胞などが豊富に存在することが確認できる(Link)。

2)ゲノミクス:PERSPECTIVE
ヒト組織における細胞タイプのマッピング(Mapping cell types across human tissues
 現在,多くの研究が臓器ごとの細胞の特徴や疾患ごとの細胞の特徴を詳細に解析してきたが,これらの研究はしばしば単一の器官に限定されたものであった。これらの解析を通じて,希少な細胞タイプが同定され,疾患発症の重要と考えられる細胞についての知見が得られてきた。例えば,the Tabula Sapiens Consortiumでは肺,心臓,子宮,肝臓,膵臓,脂肪,筋肉の内皮細胞が最も異なる転写シグネチャーを示し,高度に特殊な機能を示唆している一方,胸腺,血管系,前立腺,眼の内皮細胞は互いに類似していることを明らかにした。また,心臓内皮細胞のマーカーとしてSLC14A1が発見され,これはおそらく心臓血管の特殊な代謝を反映していると考えられた。本稿では,その他にも各種のシングルセル解析でわかってきた知見を概説している。
 興味深いことに,GWASで同定されたアリルは,疾患が発現する組織に関連する特定の細胞タイプに濃縮されるだけでなく,疾患に罹患していなくとも,同様のgene signatureを有する組織に存在する同様の細胞タイプにも濃縮されていることがわかってきた。例えば,冠状動脈性心疾患と心拍数のアリルが,心臓に加えて,乳房,食道,骨格筋のpericyteにも濃縮されていた。これらの知見は,組織の微小環境と細胞間相互作用がどのように組み合わさって,各臓器での疾患発症につながるのか,さらに研究の余地が必あることを示唆している。
 また,これらの細胞種ごとのデータは新薬の副作用や安全性の問題を理解し予測するための重要なレファレンスデータセットとなっている。新薬のターゲットが特異的になっている一方で,これらの薬剤は通常全身に投与されるため,オフターゲット効果が懸念されている。理想的には,オンターゲット,オフティッシュの副作用(ターゲット遺伝子がわかっていながら,違う組織・臓器に作用して出現する副作用)は,臨床で発見されるのではなく,今後,事前予測され,モニターされるべきである。よって,組織全体に渡って,治療標的のシングルセル解析を調べることは,first in humanの実験を行う段階で,治療薬の毒性を予測する上で役に立つと考えられる。今後は,コホート研究においても,シングルセル解析を行われていくであろう,と著者らは締めている。

•NEJM

1)感染症:Original Article
多剤耐性HIV-1感染におけるレナカパビルによるカプシドの阻害(Capsid inhibition with lenacapavir in multidrug-resistant HIV-1 infection
 ウイルスの構造生物学がそのまま治療薬につながるのはSARS-CoV-2/COVID-19で我々は身をもって体感した。今回は多剤耐性HIVをターゲットにした新規カプシド阻害薬の臨床試験である。カプシドとは,一般的にウイルスゲノムを取り囲む殻のことで,HIVの場合には円錐様の形を有するカプシドが特徴である。HIVカプシドはCA(p24とも呼称される)によって構成されている。HIVカプシドの構造はPDBJのページ(Link)に詳しく,また,カプシド阻害薬に関してはAMEDのプレスリリース(Link)などにも詳しい。
 多剤耐性HIV-1感染症の患者には,治療法の選択肢が限られている中で,カプシド阻害薬であるレナカパビルは,第Ib相試験で抗ウイルス活性が確認されていた。
 第III相試験では,多剤耐性HIV-1感染患者を,スクリーニング時とコホート選択時の血漿中HIV-1 RNA量の変化に応じて,2つのコホートに分けて登録した。コホート1では,まず患者を2:1の割合で無作為に割り付け,14日間,レナカパビルまたはプラセボを上乗せで経口投与し,15日目からの維持期間では,レナカパビル群では6カ月に1回レナカパビル皮下投与,プラセボ群ではレナカパビルを経口投与後レナカパビルを皮下投与し,どちらの群にも背景療法も最適化された状態で投与した。コホート2では,全例にオープンラベルの経口レナカパビルを投与し,1日目から14日目までは最適なバックグラウンド療法を行い,15日目から6カ月に1回レナカパビルの皮下注射を行った。主要エンドポイントは,15日目までにウイルス量が0.5log10コピー/mL以上減少したコホート1患者の割合として,セカンダリーエンドポイントは,26週目のウイルス量が50コピー/mL未満であることと設定した。
 合計72人の患者が登録され,各コホートには36人が登録された。コホート1では,15日目までにウイルス量が少なくとも0.5log10コピー/mL減少したのは,レナカパビル群では24例中21例(88%),プラセボ群では12例中2例(17%)であった。26週目の時点で,ウイルス量が50コピー/mL未満であったのは,コホート1では81%,コホート2では83%であり,CD4陽性細胞数の最小二乗平均増加量はそれぞれ75個,104個/mm3であった。レナカパビルに関連する重篤な有害事象は確認されなかった。両コホートにおいて,維持期間中に,感受性低下に関連するレナカパビル関連のカプシド置換が8人の患者に発現した(その内,M66I置換が6人であった)。以上より,多剤耐性HIV-1感染症患者において,レナカパビル投与群はプラセボ投与群に比較し,ベースラインからのウイルス量の減少が顕著であった。

今週の写真:金沢の金箔アイスクリーム

(南宮湖)

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