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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 192

公開日:2022.6.3


今週のジャーナル

Nature  Vol.605 No. 7911 (2022年5月26日)日本語版 英語版

Science Vol.376, Issue 6596(2021年5月27日)英語版

NEJM (2022年5月15日)英語版








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腫瘍特異的に集積する制御性T細胞のマーカー/抗原によらずCD8陽性T細胞の活性化を制御するシステム/ホスホジエステラーゼ4B阻害薬はIPFに有効

•Nature

1)免疫学
組織の炎症からヒト腫瘍に特徴的な免疫学的変化を分けて捉える(Extricating human tumour immune alterations from tissue inflammation
 腫瘍には炎症を伴うことが多いが,炎症における免疫細胞の動態は十分には理解されていないため,炎症を伴った腫瘍から,腫瘍特異的な炎症細胞のサブセットもしくはシグナルを分離することが難しかった(例えばCD8陽性T細胞や制御性T細胞は,腫瘍がない炎症病変でもPD-1やCTLA-4を発現しているので,腫瘍特異的なT細胞サブセットを同定するマーカーが重要)。今回米国のフレッドハッチンソンがんセンターのグループは,炎症性病変として口腔内粘膜(歯周病やインプラント治療の際に歯科にて採取)を頭頚部扁平上皮癌の病変と対比することで,腫瘍特異的な免疫抑制性細胞として特定の制御性T細胞(Treg)のサブセットを同定したという報告。
 多色のフローサイトメトリーという細胞マーカーを評価する解析機器を用いて腫瘍内の細胞集団と炎症病変の細胞集団について機械学習を用いたクラスタリングを実施し,特に腫瘍のみで発現が高くなっているマーカーを探索したところ,ICOS陽性のTregとCD40陽性PD-L1陽性の抗原提示細胞がハイライトされた。そこで腫瘍および炎症性病変からT細胞と抗原提示細胞のみを回収してシングルセルRNA/TCRシークエンスを行ったところ,成熟した抑制性のCCL17陽性樹状細胞,CXCL16陽性の単球,ICOSL陽性の樹状細胞が特に腫瘍内で増加していることがわかった。そこで,抗原提示細胞と各T細胞サブセットのネットワーク解析を行ったところ,特にICOSL陽性IL-1β陽性の樹状細胞とICOS陽性IL-1R1陽性のTregが特に腫瘍環境のみで増加していることがわかった()。さらに,このICOS陽性IL-1R1陽性のTregを見ると,その機能的なマーカーであるFOXP3やCTLA-4の発現が上昇しており,Tregとしての抑制活性が高まっていることがわかった。次に,IL-1R1の発現が何によって誘導されているかを調べたところ,TregのT細胞受容体刺激によって発現が上昇していることがわかり,TCRレパトア解析によってT細胞のクローナリティーを評価したところ,IL-1R1陽性Tregはクローナルに増加していることがわかった。つまり腫瘍内で腫瘍由来の抗原にさらされたTregは,T細胞受容体のシグナルと樹状細胞による刺激を介して活性化し,抑制活性の高いTregが誘導されていることがわかった。
 本研究から抑制機能の高い腫瘍で特に発現が増加しているTregの表面マーカーを同定することが出来たため,効率的なTreg除去治療の標的として今後治療への応用が期待される。


•Science

1)免疫学
CD8aとPILRaの相互作用によってCD8陽性T細胞の静止状態が維持される(The CD8a–PILRa interaction maintains CD8+ T cell quiescence
 T細胞の静止状態は,微生物や腫瘍などの多様な抗原に対して,幅広いT細胞のレパートリーを維持するために不可欠であるが,その背景にある分子機構(特にCD8陽性T細胞から外的な因子によってどのように静止状態が維持されるのか)はほとんどわかっていなかった。今回,イエール大学のLieping Chenのグループから,CD8aは末梢リンパ臓器におけるCD8陽性T細胞の生理的静止状態の維持に重要であることを明らかにした。タモキシフェンを投与することによってコンディショナルにCD8aを欠損させることができる遺伝子改変マウスからCD8陽性T細胞を回収後,野生型マウスに投与し,タモキシフェンを投与した。その結果,輸注した末梢血中のCD8欠損T細胞のメモリー細胞およびナイーブ細胞は生理的に静止した状態となり,細胞数は野生型と比べて有意に減少した()。またメモリーCD8陽性T細胞はCD69・Fasなどの活性化マーカーを抗原曝露やTCRシグナルには非依存的に獲得する一方,CD127,CD122などのサイトカイン受容体の発現は減少し,最終的にはアポトーシスで死滅することがわかった。このようなフェノタイプからCD8と相互作用する何らかの分子の影響が考えられたため,CD8aと結合する6000種類の蛋白に関してスクリーニングを行った。その結果,PILRa(Wiki)がCD8aのリガンドとしてマウスとヒトの両方で同定された。CD8a–PILRaのT細胞上の相互作用を阻害すると,CD8陽性T細胞の静止状態を解除することができた。以上から,CD8a-PILRaの相互作用によって,抗原に曝露されていない場合でも,末梢T細胞のプールサイズが動的に維持されていることが明らかになった。
 定常状態においてPILRaは多様な細胞に発現しており,特に骨髄球系の細胞で高発現している。またCD8aはナイーブCD8陽性T細胞にもメモリーCD8陽性T細胞にも高発現していることから,末梢組織ではこの相互作用が頻繁に生じていることが考えられる。その生物学的意義については,抗原暴露時にメモリーCD8陽性T細胞の活性化誘導を調整するとともに,免疫応答が収束した後にT細胞を正常化する際に貢献している可能性が考えられる。CD8陽性T細胞の末梢におけるターンオーバーにCD8そのものが関与していたという事実は,まさに灯台下暗しであり,興味深い現象である。


•NEJM

 切除可能な非小細胞肺癌に対するニボルマブ化学療法併用のネオアジュバント治療に関する臨床試験が掲載されているので是非参照頂きたい(リンク1リンク2)。今回はIPFに関する興味深い臨床試験の結果を紹介する(出典は先週のメール配信から)。

1)IPF
特発性肺線維症に対するホスホジエステラーゼ4B阻害薬の臨床試験(Trial of a preferential phosphodiesterase 4B inhibitor for idiopathic pulmonary fibrosis
 Phosphodiesterase 4(PDE4)阻害は,特発性肺線維症IPF患者において有用となる可能性がある抗炎症作用と抗線維化作用を保有している。今回,IPF患者を対象として,経口PDE4Bサブタイプの優先的な阻害薬であるBI 1015550の有効性と安全性に関して,国内の施設を含むグローバルの第2相二重盲検プラセボ対照試験が行われた。対象となるIPF患者合計147名は,BI1015550を18mg1日2回投与する群(治療群)とプラセボを投与する群(プラセボ群)として2:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目は,12週間後の強制換気量(FVC)のベースラインからの変化とし,臨床的背景として抗線維化薬の不使用・使用に応じて個別にベイズ推定で解析した。抗線維化薬を使用していない患者においては,FVCの変化の中央値は,BI 1015550群で5.7mL(95%信頼区間:−39.1~50.5),プラセボ群で−81.7ml(95%信頼区間:−133.5~44.8)となり,中央値の差は88.4mLであった。また抗線維化薬を使用している背景のある患者では,FVCの変化の中央値は,BI 1015550群で2.7mL(95%信頼区間:−32.8~38.2),プラセボ群で−59.2mL(95%信頼区間:−111.8~17.9)となり,中央値の差は62.4mLであった()。最も頻度の高い有害事象は下痢であった。合計13名の患者が,有害事象のためにBI 1015550の投与を中止した。重大な有害事象または重篤な有害事象を示した患者の割合は,2つの試験グループで同程度でした。今回の試験では,BI 1015550の単独投与または抗線維化薬のバックグラウンド使用により,IPF患者の肺機能低下が抑制されることが示された()。
IPF治療の増悪阻止と予後改善につながる可能性が期待される重要な試験である。BI 1015550の薬理作用については最近の論文を参照されたい(リンク )

今週の写真:淡路島南端から見る鳴門海峡


(小山正平)

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