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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 195

公開日:2022.6.23


今週のジャーナル

Nature Vol 606, Issue 7914(2022年6月16日)日本語版 英語版

Science Vol.376, Issue 6599(2021年6月17日)英語版

NEJM  Vol. 386 Issue 24(2022年6月16日)日本語版 英語版








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ワクチン接種率向上には重要なことは?/地球温暖化からイネを守る遺伝子/大腸癌術後のctDNA指標に基づく補助化学療法

 今週のNatureでは国際社会問題としてコロナワクチン接種をいかに高められるかという課題に注目した臨床研究が取り上げられている。とても正当な結論だが論理的な内容で検証されているのは圧巻である。Scienceからは医学ではないが地球温暖化による食糧難への取り組み,そしてNEJMでは大腸癌の術後補助化学療法としてctDNA指標による新たな治療指針を紹介する。

•Nature

1)コロナワクチン
医師の統一見解を正しく広められればコロナワクチン接種率は上がる(Communicating doctors’ consensus persistently increases COVID-19 vaccinations
 わが国においても急激にCovid-19患者数が減少してきた原因として,ワクチン接種は大きいのではないか。6月20日現在,わが国で2回接種済みは総人口の80.7%,65歳以上の高齢者では92.7%である。そして3回目接種済みは高齢者で89.6%となっている。この数字は米国や英国に比べて高いが,豪州やカナダよりは低い。このワクチン接種普及は各国の大きな課題になっているが,その改善策を科学的に論じた論文を紹介する。
 ドイツのミュンヘン大学からの報告で,COVID-19ワクチン接種に関する医師の考えを人々に伝えると,9カ月後にワクチン接種率が良化したという内容である。軽い教育的な一押しが,持続的な好ましい効果に繋がるという当然ではあるが,現実的にはとても重要なことになるのを示している。この内容はNews and viewsでも取り上げられている。
 本研究はチェコ共和国(ワクチン接種率は約65%,そして医師に対する信頼感や満足度については29カ国のうち中央値)を対象に行われた。COVID-19ワクチンの普及前の調査では,医師9,650人において90%は自ら接種する意向を持ち,89%は承認されたワクチンを信頼していた。しかし,一般の成人2,101人の9割以上は医師の50%しかワクチンを信頼していないと考えていたようである。医師の真の見解について無作為に提供された情報を,9カ月にわたってワクチン接種状況を定期的に監視した長期的データ収集に統合した。すると,3月の9%から5月には20%,7月には70%近くまで上昇した。その後,徐々に伸びて11月末には77%になった()。このような処置は,思い込みを修正し,ワクチン接種の持続的な増加につながった。医学界のコンセンサスに関する情報を広めることが,介入後すぐに人々の信念とワクチン接種の意思に影響を与えた可能性がある。これは,ワクチン接種に関する信頼性の高いアドバイスを提供できるのは医師であり,大規模に個々の医師の見解を強力に引き出せるような専門的な医師会・学会などの団体活動が重要であることを示している。メディアによる報道は,医師の間でワクチン論争が広がっているような不正確な印象を与える場合もある。しかし,ワクチン忌避を助長する可能性のある誤解を特定することや,それらを取り除くための効果的なコミュニケーション戦略こそ,世界的な公衆衛生上の優先事項である。

 付録:日本の都道府県別コロナワクチン3回目年齢階級別接種率(リンク)を示す

•Science

1)植物学
イネの1遺伝子座の遺伝的モジュールが塩酸塩を保護し,耐熱性を高める(A genetic module at one locus in rice protectschloroplasts to enhance thermotolerance
 世界で多く生産・消費しているのはインディカ米で,それを最も生産されているのは中国である(年間生産量は日本の20倍以上)。ちなみに日本で消費されている米はジャポニカ米である。この稲作においても地球温暖化は深刻な問題であり,未熟粒米の発生率が高まり見た目も味も品質低下を起こしてしまう(リンク)。特に炊くとビショビショの米になるらしい。
 本論文は中国の上海にある生命科学研究院植物生理生態研究所からの報告で,温暖化に強いイネの品種改良に重要な遺伝子を明らかにしたものである。
 植物は,ユビキチン・プロテアソームシステムや葉緑体ストレス応答などの複数の抵抗機構を発達させて,温度変化に対応している。しかし,イネの細胞膜が熱ストレスのシグナルをどう感知し,葉緑体との間で熱耐性の情報伝達を行うシステムは不明のままであった。本研究では,イネの耐熱性を向上させ,熱ストレスによる収量減少を抑制する2つの遺伝子Thermo-tolerance 3.1(TT3.1)およびTT3.2からなる量的形質座を同定した。TT3.1は葉緑体前駆体タンパク質TT3.2をユビキチン化し,液胞で分解されることから,TT3.1は熱センサーとして機能することが示唆された(図6)。TT3.1-TT3.2遺伝子が細胞膜と葉緑体をつなぎ,葉緑体を熱ストレスによる損傷から守り,熱ストレス下の穀物収量を増加させることを明らかにした。アフリカ産イネCG14では,TT3.1が高いE3ユビキチンリガーゼ活性を持ち,TT3.2葉緑体前駆体タンパク質を速やかに分解するため,熱ストレスによって引き起こされるTT3.2による葉緑体の損傷を軽減でき,熱ストレスに対して高い耐性を有している。しかし,アジアのイネWYJ品種では,TT3.1のE3ユビキチンリガーゼ活性が低く,熱ストレス下でTT3.2の蓄積と葉緑体の破壊が起こり,熱感受性表現型として現れてしまうようである。日本のジャポニカ米でも温暖化に強いイネは,品種交配により「秋はるか」,「にこまる」,「恋の予感」,「笑みの絆」,「にじのきらめき」などの新品種が作られているが,本研究のような温度変化に対応するシステムに関与が明らかになった遺伝子が反映されているものではない。本研究での遺伝子は,トウモロコシや小麦などの主要作物にも保存されており,熱ストレス耐性の高い作物を育種するための貴重な資源であると考えられる。

•NEJM

1)腫瘍学
ステージII結腸癌に対する術後補助療法の指標となる血中循環腫瘍DNA解析(Circulating tumor DNA analysis guiding adjuvant therapy in stage II colon cancer
 わが国の大腸癌治療ガイドライン2019年版においても,ステージⅡ大腸癌の術後補助化学療法を一律に行うことは推奨されていない(CQ18)。再発高リスク因子として,ASCO 2004ガイドラインでは郭清リンパ節個数12個未満,T4,穿孔例,低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌症例,ESMOガイドラインではT4,低分化腺癌または未分化癌,脈管侵襲,リンパ管侵襲,傍神経浸潤,初発症状が腸閉塞または腸穿孔,郭清リンパ節個数が12個未満とされている。これらのリスクを加味して期待される効果と予想される副作用を十分説明したうえで術後補助化学療法を行うことが推奨されている。上述のリスク因子がない症例では,これまで多くのランダム化試験が行われてきたが再発抑制効果は不明である。
 豪州のメルボルン大学やPeter Mac Cancer Centerが中心となったPhaseⅡランダム化試験(DYNAMIC trail)である。ステージⅡの大腸癌術後に血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を指標とする治療指針により,再発リスクを高めることなく術後補助化学療法の実施を減らせることができるかを検証している。ctDNA解析結果を指標に治療の意思決定を行う群と,標準的な臨床病理学的特徴を指標に治療の意思決定を行う群に2:1の割合で無作為に割り付けられた。ctDNAを指標とする群では術後4週または7週時点におけるctDNA解析が陽性の場合にはオキサリプラチンベースの化学療法またはフルオロピリミジン系薬単剤による化学療法を行った。主要有効性エンドポイントは2年無再発生存率,副次的エンドポイントは術後補助化学療法の実施とした。
 無作為化された455例のうち,302例がctDNA指標管理群,153例が標準的管理群に割り付けられ,追跡期間の中央値は37カ月であった。2年無再発生存率はctDNA指標管理群は,標準的管理群に対して非劣性(それぞれ93.5%と92.4%,絶対差1.1パーセントポイント,95%CI:-4.1~6.2[非劣性マージン -8.5パーセントポイント])を示した。それにもかかわらず,術後補助化学療法を受けた割合は,ctDNA指標管理群のほうが標準的管理群よりも低かった(15%対28%,相対リスク:1.82,95%信頼区間[CI]:1.25~2.65)。また3年無再発生存率は,術後補助化学療法を受けたctDNA陽性患者で86.4%,受けなかったctDNA陰性患者で92.5%であった。ctDNAガイド群では,標準管理群に比べ,術後補助化学療法を受けた患者の割合が低かった(15%vs.28%,相対リスク:1.82,CI:1.25~2.65)。この差は,リンパ節転移が12個以下の患者と70歳以上の患者を除く,ほぼすべての患者サブグループで認められた(Fig. 1)。以上のことから,ステージII大腸癌の術後治療において,ctDNAを指標する治療指針は無再発生存率を低下させることなく,術後補助化学療法の実施が減少させた。
 本試験の概要は,動画コンテンツ(アカウントなしでは視聴不可)がとてもわかりやすい。

 補足:肺癌術後補助化学療法として,わが国でも2022年5月に抗PD-L1抗体テセントリクが,PD-L1陽性の非小細胞肺がんにおける術後補助療法として承認された。非小細胞肺がんの術後補助療法における第III相臨床試験(IMpower010試験)で,腫瘍細胞でPD-L1が1%以上発現しているII期~IIIA期の非小細胞肺癌の手術および化学療法を実施した後,テセントリクによる治療が再発または死亡のリスク(無病生存期間,DFS:disease-free survival)を34%低下させた(ハザード比:0.66,95%信頼区間:0.50~0.88)ことに基づいている。

今週の写真:八王子ラーメン
東京都八王子市のご当地ラーメンで,醤油ラーメンに生の刻みタマネギをのせているもの。

(石井晴之)

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