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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 196

公開日:2022.6.30


今週のジャーナル

Nature Vol 606, Issue 7915(2022年6月23日)日本語版 英語版

Science Vol.376, Issue 6600(2021年6月24日)英語版

NEJM  Vol. 386 Issue 25(2022年6月23日)日本語版 英語版








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心肺を制御する自律神経回路の解明/過剰なTNFが抗酸菌感染症を悪化させる機序とメトホルミンの可能性/ビタミンCは敗血症の予後を改善させない

•Nature

1)心血管呼吸器生物学:Article
心血管系制御と心肺系制御の分子的に定義された2つの副交感神経回路(Molecularly defined circuits for cardiovascular and cardiopulmonary control
 自律神経系は不随意に生体機能を制御する神経細胞の広大なネットワークであり,恒常性の維持には不可欠である。その構成要素である交感神経系と副交感神経系は内臓活動を制御しているがその構成ニューロンや回路の分子や機能の多様性はほとんどわかっていない。今回紹介する論文は,以前TJHでも取り上げた肺細胞アトラスを報告している米国スタンフォード大学のKrasnowラボからの報告である。心臓の副交感神経制御を司る回路を,逆行性神経細胞トレース,sc-RNAseq,光遺伝学,生理学的手法を用いて解析し,2つの分子的に異なる回路が存在することを報告している。私たち呼吸器内科医としては,その過程の中で気道に関与する副交感神経が同一の回路で投射されていたことにも注目をしたい。

 脳幹から心臓への副交感神経系の回路を解析するために,心腔内にコレラ毒素Bを散布し逆行性に神経細胞標識(この標識された神経細胞は延髄の疑核(Amb)に投射され,AmbCardiac神経と呼んでいる)を行い,その細胞を選択的にsc-RNAseq解析へ持ち込んでいる。クラスタリングの結果,2つの異なるプロファイルをもつ神経細胞が同定されそれぞれACP,ACVと命名された(Fig 2a,b)。それぞれの特異的なマーカーとしてCALB1とBChEによる免疫染色を行い,それぞれがタンパク質レベルでも異なり,疑核における局在でも異なる集団であることを確認している(Fig2c,d,e)。次にACP,ACVの各神経細胞が心臓神経節叢でどのように投射するのかを確認するために,double-floxed inverted ORF(DIO)を有するAAVを用いて目的とした神経細胞で特異的に蛍光色素発現ができるベクターを,CALB1creマウス(ACP特異的),Ghsrcreマウス(ACV特異的)に導入した(Ext Fig 5)。結果,投射される神経はACP・ACVで特異的に,発出した延髄疑核と同側の心臓神経節内コリン作動性神経へつながっており,両者が同じ神経を支配することはなかった(Fig 3)。これは,個々の神経節に存在する神経細胞が確実に1つの入力だけを受ける仕組みがあることを示唆する。続いて,この特異的な神経支配が実際に心機能に及ぼす影響を光遺伝学の手法と生理機能の評価で確認されている。先ほどのAAVベクターシステムにて光反応性特異的刺激をACP,ACVの両者に与えると,洞調律を低下させ,心電図上でP R感覚の延長をきたした。さらにこの反応はアトロピンによりブロックされることから,コリン作動性神経節ニューロンへの投射を媒介していることが明らかになった(Fig 4)。
 次に,ACP・ACVを活性化する生理的刺激の同定を行っている。大動脈弓に存在する圧受容器からの上行性の刺激はACV選択的に活性化を起こし(Fig 5a〜d),潜水反射(鼻腔に水が入る刺激により徐脈,血管収縮,気管収縮を起こす反射)はACPがACVに比べ優先的に下流神経への投射をすることにより生じていることを示した(Fig 5e〜h)。
 以前より延髄疑核の頭側(つまりACPが分布する領域)を興奮性アミノ酸で刺激すると全肺抵抗が上昇する事が示されていたことから,関連して肺におけるコリン作動性神経節にACP・ACVが及ぼす影響を検討している。特にACPは今回検討されたマウスの詳細な解析では,複数のACPが対側肺の近位気管支に分布するコリン作動性神経節に分布することが明らかになり,前述の光遺伝学手法で各回路を刺激すると,ACPのみで刺激直後に全肺抵抗が10%程度上昇したことから,ACPは心臓とともに肺(気道)にも投射を行い制御している事が示唆された(Fig 6)。

 最終的に今回の実験結果より明になったACP/ACVによる心臓と肺の副交感神経支配が図示されている(Fig 7)。難しい事を羅列して説明したが,要するに「迷走神経が心拍や気管収縮に影響する」という古典的に私達が知っている事を,最新の手法を駆使することにより関与する2つの下行性の神経経路を科学的に明確にしたという研究である。「こんなこともわかっていなかったんだ…。」というのが個人的な感想である。この手法は他の自律神経系にも応用可能であり,これから続々と関連する新たな知見が明らかになっていくだろう。

•Science

1)感染症学:Research Article 
TNFはミトコンドリアでの逆電子輸送により結核防御において有害な活性酸素種を誘導する(Tumor necrosis factor induces pathogenic mitochondrial ROS in tuberculosis through reverse electron transport
 TNFと言えば抗酸菌防御には重要なサイトカインであり,リウマチなどに用いられる中和抗体(インフリキシマブ等)の使用例における抗酸菌感染症に対する注意喚起などは周知のことであろう。このTNFは抗酸菌感染防御には疾患制御的にも促進的にも働く両刃の剣であることが近年明らかになっている。
 イギリスケンブリッジ大学からの報告である。責任著者のRamakrishnan博士のグループは2000年代初頭より,抗酸菌感染における宿主の感受性・抵抗性の検討を進めている。ゼブラフィッシュを用いた抗酸菌感染モデルを得意としており,TNFの働きについては,その過剰が抗酸菌感染マクロファージにおいてミトコンドリア活性酸素種(mROS)の産生増加を促すことにより壊死を引き起こし,抗酸菌が細胞外に脱出し増殖を続ける事,高TNF状態を引き起こすLTA4Hの過剰状態が高TNF状態を引き起こす事,さらにはヒトにおいてLTA4H高発現バリアントと高TNF状態,結核性髄膜炎による死亡率の増加,それらがステロイドにより緩和されることを明らかにしている。今回の報告は,高TNF状態が抗酸菌感染下でマクロファージの壊死を引き起こすメカニズムをゼブラフィッシュとTHP-1を用いて明らかにしている。メカニズムを理解する基礎として高校生物の細胞呼吸(内呼吸),特に電子伝達系の知識の復習が必要であった。東邦大学理学部生物学科のHPにわかりやすく記載されている。

押さえておきたい知識としては,
①電子伝達系は通常は構成成分の複合体ⅠからⅤの方向に向かって順方向の電子の流れ(ETC)が生じ34個のATPが生成されること。
②最近では複合体IIからIへ逆行性に電子が流れるreverse electron transport(RET)と言われる現象が生じ得ること。
③ETC,RETのいずれにおいてもmROSが産生されうること。
があり,Fig 2 A, Bにまとめられている。

 多くのデータが示されているが,実験の系としてはそこまで複雑ではない。高TNF状態をきたすように改変されたゼブラフィッシュに抗酸菌を感染させ,同時に電子伝達系に関与する様々な阻害薬や促進剤を用いてmROSの産生に影響をあたえる経路を明らかにしている。結果を以下にサマライズする。

1. 高TNF状態でのマクロファージへの抗酸菌感染はmROS産生を亢進させるが,電子伝達系の阻害で抑制されることから,電子伝達系が関与している。(Fig 1
2. そのmROS産生亢進は複合体Ⅰの阻害薬により抑制されることから,RETによる産生亢進である。(Fig 2
3. RETの亢進はコハク酸濃度の増加が原因である。(Fig 3
4. 循環グルタミン酸のミトコンドリア内への取り込みの促進がコハク酸濃度を増加させる主要因であり,その取り込み促進には抗酸菌感染と抗TNF状態の両者が関与する。(Fig 4, Fig 5
5. 高TNF状態はRIP3とPGAM5と関連してグルタミン酸取り込み亢進にのみ関わり,mROS産生から壊死にいたる経路には影響を与えない。(Fig 6,特に6H
6. 現在存在するmROS生成に影響を与える4種の薬剤を用いてマクロファージの壊死抑制を検討したところ4種ともに効果をみとめた。特にメトホルミンは複合体Ⅰ阻害薬であるが,RETが生成するmROSを阻害することにより,TNFによるマクロファージの壊死を特異的に阻害する。(Fig 7Fig S5

 図で概念的に理解するにはFig S1Fig 2A, BFig S5が適している。抗酸菌感染症の病態形成には宿主要因が強く関与する事は確実であり,そのメカニズムの1つであろう。TNFの抗酸菌感染症における疾患促進的に働き得るメカニズムの一端を明らかにしており,さらにドラッグリポジショニングに期待をいただかせる報告である。なお,本論文はAASJでも紹介されている。

•NEJM

1)集中治療:Original Article 
ICU入室の必要な成人敗血症例におけるビタミンC静注効果(Intravenous vitamin C in adults with sepsis in the intensive care unit
 敗血症は感染に対する宿主応答の異常によって引き起こされる臓器障害と定義される。ビタミンCは抗酸化作用を持ち酸化ストレスによる組織障害を軽減する可能性が考えられており,今までに複数の前向き,後ろ向きの検討結果が報告されているが,最近のメタ解析からはその効果が明確でない事が指摘されている。今回はカナダで行われた第3相多施設共同無作為化比較試験であるLOVIT試験の結果報告である。
 内容はResearch SummaryもしくはQuick Takeアクセスは会員のみ可能)に要約されている。872名のICUで昇圧治療を受けている成人敗血症例が登録され,無作為に50mg/kgのビタミンCの点滴静注を6時間毎に最大4日間の投与を受ける群と,プラセボ群に割り付けられた。主要評価項目は28日後の死亡と持続臓器障害を有する例の率であり,Table 2に示されている。結果は,ビタミンC投与群が有意に不良であった(44.2% vs. 38.5%,RR:1.21,p=0.01)。この有害性の機序を推定するために副次的解析(7日目までの組織の低酸素,炎症,内皮障害などのバイオマーカー)が行われたが,結論を得る事は不可能であった。
 個人的に敗血症例に効果を期待してビタミンCを使用する考えはなかったが,現状はいかがなのであろうか。敗血症はいまだに年間で1,100万人以上の死者を出しており,特に開発途上国などでは安価で効果的な対処法が必要とされている。今回の結果はそういった意味では残念な結果である。

今週の写真:東京タワー
久しぶりに上京した際に皇居から品川まで夜の都会をジョギングをしてみました。
(坂上拓郎)


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