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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 197

公開日:2022.7.9


今週のジャーナル

Nat Med Vol 28, Issue 8(2022年5月23日)英語版

Sci Immunol Vol.7, Issue 73(2021年7月1日)英語版

NEJM  Vol. 386 Issue 26(2022年6月30日)日本語版 英語版








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コロナ後遺症の心腎連関/インフルエンザ感染後の肺胞マクロファージの入れ替わり/敗血症性ショック患者に対する制限輸液vs.標準輸液

•Nat Med

1)感染症:Article
COVID-19後遺症の心臓・腎臓の多面的検討(A multisystem, cardio-renal investigation of post-COVID-19 illness
 気づかないうちに,Nature Medicineも臨床試験,臨床研究を多く取り扱うようになっているようだ。本号では,コロナ後遺症関連のイギリス・グラスゴー大学からの臨床研究を取り上げる。
 従来から,コロナ後遺症研究は,選択バイアスをはじめとする様々なバイアスが存在することが問題視されており,筆者自身もCOVID-19に罹患していないコントロール群の不在がコロナ後遺症研究の根源的な問題であると認識していた。
 そのような問題を克服すべく,本研究グループは,コロナ後遺症に関する前向きコホート研究を実施し,さらには一部の評価項目に関しては,背景因子を一致させたコントロール群を設定している。
 具体的には入院中および退院後28~60日に,血液バイオマーカー・心電図・Patient Reported Outcome(いわゆるPRO)の評価を行い,さらには胸部CT,冠動脈造影,心・腎MRIによる多臓器画像診断も実施している。これらの評価(冠動脈造影・MRIを含めて!)をCOVID-19に罹患していない方にも実施できているのは風土・文化・国力の違いを感じざるを得ない。
 コロナ後遺症の159人のコホートと背景因子をマッチさせた29人の対照群とを比較した主要アウトカムはTable1に要約されている。バイオマーカーとしては退院後28~60日目において,COVID-19患者(n=159,平均年齢55歳,43%女性)は,第VIII因子とNT-proBNPが上昇していた。欧州心臓学会による心筋炎の診断基準(Link)に基づく心筋炎の可能性は,コロナ後遺症の159人のコホートにおいて,21人(13%)が「非常に高い」,65人(41%)が「高い」,56人(35%)が「低い」,17人(11%)が「ない」と判定された.退院後28~60日目において,COVID-19は健康関連のQOLの悪化(EQ-5D-5Lスコア 0.77vs. 0.87),不安とうつ(PHQ-4トータルスコア 3.59vs. 1.28),予測最大酸素利用量で示される有酸素運動能力(20.0vs. 29.5mL/kg/分)と相関していた(すべてp<0.01)。フォローアップ期間中(平均450日),患者24例(15%)と対照群2例(7%)が死亡または再入院し,患者108例(68%)と対照群7例(26%)が外来での再診療を受けた(p=0.017)。

•Sci Immunol

1)呼吸器学:Research Article
単球由来の肺胞マクロファージが,呼吸器ウイルス感染の予後を決定する(Monocyte-derived alveolar macrophages autonomously determine severe outcome of respiratory viral infection
 肺胞マクロファージは,感染防御における中心的役割を担う。マクロファージの多様性は以前から指摘されているが,組織常在マクロファージである肺胞マクロファージは。卵黄嚢の一次造血から由来するマクロファージと二次造血後の骨髄由来のマクロファージに大別される(Link)。A型インフルエンザウイルス(IAV)感染の際の肺胞マクロファージは,胎児単球由来の肺胞マクロファージ(FeMo-AM)(卵黄嚢の一次造血由来)は枯渇することが報告されているが,その後,自己複製性のFeMo-AMによって補充されるのか,もしくは,骨髄由来肺胞マクロファージ(BMo-AM)の浸潤によって補充されるのかは不明であった。今回の研究では,IAVの再感染モデルにおいて複数のマウスモデルを用いて,FeMo-肺胞マクロファージおよびBMo-肺胞マクロファージを解析している。
 まず,スイス・チューリッヒ大学の研究グループは,以前から実験モデルとして確立している,内因性の肺胞マクロファージを有さないCsf2ra-/-胎児マウスへの経鼻投与モデルを用いている。Csf2raと言えば,本TJHメンバーであるの鈴木先生,坂上先生が以前に,抗GM-CSF抗体陰性の家族性の肺胞蛋白症の患者においてGM-CSF受容体α鎖(つまりCSF2RA)の遺伝子変異を報告している(Link)。Csf2ra-/-マウスへの経鼻投与モデルにより,通常の状態(未感染の状態)では,BMo-AMよりもFeMo-AMが定着することを示している。
 次に,通常マウスをIAV(PR8)に感染させ,急性感染の過程を詳細に解析している。BAL中の細胞数,タンパク量を指標にした炎症のピークは,感染後day4-day7にピークに達するの対し(Fig1),Siglec-Fhi CD11bloの肺胞マクロファージは感染後day4から減少し,day10に最も低値になる。Day15には,肺胞マクロファージの総数は元の数に戻り,その後数週間は,肺胞マクロファージの数は感染前の数を超える状態となっている(Fig1D)。さらにSiglec-FのマーカーによりDay15以降は,定常状態で存在する肺胞マクロファージ(Siglec-Fhi)とは異なった集団(Siglec-Flo)で構成されることが示されている。
 これまでウイルス肺炎後に肺胞マクロファージが消失し,再度,回復する現象に関して,残存している自己複製性の肺胞マクロファージが出現するのか,それとも体内を循環している単球系の細胞が寄与しているのか,議論が分かれていた。この問題を解決すべく,FeMoをCsf2ra-/-の胎児マウス(骨髄由来肺胞マクロファージ:BMo-AMが存在しない)に経鼻投与した後,8週間後にインフルエンザ感染を行っている。この系を用いることで,FeMo-AM自身も,感染後に肺胞マクロファージを回復させる能力を有していることを示している(Fig2)。
 次に,インフルエンザウイルス感染後に回復してくるSiglec-Floの肺胞マクロファージの集団が,骨髄由来であることを精緻に示すために,CD45.1,CD45.2のシステムを用いて,キメラマウスを作成している(組織マクロファージである肺胞マクロファージは2Gyの放射線には耐性なので,肺胞マクロファージはレシピエント由来となる)。さらには,Rag−/−Il2rg−/−KitW/Wvマウス(骨髄由来のリンパ球,骨髄球は欠損しているが,組織常在性マクロファージが存在するマウス)を用いることで,BMo由来のSiglec-Flo肺胞マクロファージが感染回復後,遅れて出現し,肺内を占拠することを示している(Fig3)。さらに経時的なsingle-cell RNAseqおよびRNA velocity解析により,感染後早期から徐々に,血中の単球由来の前駆細胞からSiglec-Flo肺胞マクロファージが徐々に蓄積していくことが示されている(Fig4)。
 細胞内の代謝を測定するSeaHorse(Link)を利用して,Siglec-Flo肺胞マクロファージはSiglec-Fhi肺胞マクロファージよりも解糖系が亢進しており,増殖能が高いことを明示している。これらの性質が,感染後の肺胞マクロファージの回復においてSiglec-Flo肺胞マクロファージが有意になることに寄与していると結論付けている。
 一方,Siglec-Flo肺胞マクロファージはSiglec-Fhi肺胞マクロファージよりも,炎症を惹起する性質を有しており,Csf2ra-/-マウスへの経鼻養子移入モデルでSiglec-Flo肺胞マクロファージを移入したマウスの方がインフルエンザ感染の予後が不良であることを示している。
 免疫学的には王道である各種のin vivo解析(ノックアウトマウス,養子移入,キメラマウス)とsingle-cell RNAseqを組み合わせることで,緻密に感染後の肺胞マクロファージの挙動を解析した論文と言えよう。

•NEJM

1)集中治療:Original Article
ICU入室の敗血症性ショック患者に対する輸液制限(Restriction of intravenous fluid in ICU patients with septic shock
 静脈内輸液は,敗血症性ショックの患者に推奨されるが,ICU在室中の患者では,輸液量と予後不良の関連が示唆されている。1L以上の静脈内輸液を受けたICU在室中の敗血症性ショック患者を,輸液を制限する群と標準的な輸液療法を行う国際共同のRCTが実施された。プライマリーアウトカムは90日以内の全死因死亡としている。
 1,554例が登録され,770例が輸液制限群,784例が標準輸液群に割り付けられた。輸液制限群では中央値で1,798mL(IQR 500~4,366mL),標準輸液群では3,811mL(IQR 1,861~6,762mL)の静脈内輸液を受けた.90日の時点で,輸液制限群の764例中323例(42.3%)が死亡していたのに対し,標準輸液群では781例中329例(42.1%)が死亡していた(p=0.96)Link.ICU在室中に重篤な有害事象が1回以上発現した患者は,輸液制限群では751例中221例(29.4%),標準輸液群では772例中238例(30.8%)であった。以上より,ICU在室中の敗血症性ショックの成人患者に対して,制限的静脈内輸液療法を行った場合,標準的静脈内輸液療法を行った場合と比較して,90日時点での死亡が減少することはなかった。

今週の写真:美瑛の「青い池」
 週末を利用して,久しぶりに「飛行機移動」の学会に参加した。その道中に,旭川近郊の美瑛にある「青い池」を観光。大雪山系の麓にある白金温泉から湧き出る水酸化アルミニウム〔Al(OH)3〕が美瑛川に流入すると微粒子が分散しコロイド粒子を形成することで,チンダル現象を引き起こし,太陽光のうち,青い色の光を優先的に反射させ,「青い池」を作っていると言われているが,まだ詳細な機序はわかっていないとの記載も散見された。
(南宮湖)

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