•Nature
1)Covid-19とGWAS
全ゲノムシーケンスにより,COVID-19重症化の素因となる宿主因子(Whole-genome sequencing reveals host factors underlying critical COVID-19) |
Covid-19流行は現在第7波であり,ワクチン接種が進み,幸い重症者は減少している。
そもそも,Pandemicの最初には重症者と軽症者の差が何であるのかわからなかった。当然GWASでの検討は誰もが考えるところで,実際にそうした初期のGWAS解析は2020年から報告され,一報では1型インターフェロン関連遺伝子のinborn errorが報告されている(
リンク)。
それから2年を経て今週号には重症者約7,500名をWGS(whole genome sequencing)で解析した成績が国際共同研究として掲載されている。そこには新たな何が示されているのか? 興味があるところだ。なお本論文は2022年3月にはオンライン発表でかつOpen access論文なので,ご存知の方も多いかもしれない。
著者らはGenOMICC(Genetics of Mortality in Critical Care)グループの検体など7,491名と100K Genome Project cohortから対照として48,600名を解析している。日本の現状からすると圧倒的な数である。Quality controlに関してはextended data Fig.1にあるが,年齢,性別,BMI等を考慮し,ヨーロッパ人が多いが,アフリカ,南アジア,東アジアの症例も数百例含まれている。残念ながらこうした解析内容には素人であるので概説にとどめる。
最終的には23カ所の独立したvariantが同定された(
Fig.1)。2021年3月の2,244名解析(リンク)と比較し,このときは6カ所を取り上げたが,このうち4カ所は今回でもreplicateされている。
これらのうちinterferon signalingに関与するものがIFNA10,IFNR2,TYK2などである。加えてPLSCR1(RNA virus replication制御),IL10RBなどがある。
さらにlymphopoiesisに関連するBCL11AとTAC4などがあり,さらにCSF2(GM-CSF;現在臨床試験も?),あるいは長鎖脂肪酸合成関連のACSL6等が優位となった。
Mendelian randomization(GSMR,詳細不明)では,血液凝固系もF8,PDGFRL,SELE(e-selectin),ICAM5,DC-SIGN(CD209)が有意となった。
興味あるのは,通常のGWASと遺伝子発現データベースを組み合わせ,より生物学的な意味を加味するTWAS(transcriptome wide association study)を実施している点である。もともとは2017年立ち上げのThe Genotype-Tissue Expression(GTEx)projects(
リンク)のver 8のeQTL(expression quatitative tissue loci)を用いている(TWASに関しては最近の
総説)。
TWASの結果は
Fig.2に示されるが,実際には肺組織と血液細胞のeQTLを用いて解析され,16カ所のloci(GWASとのreplicationも多い)が示されている。注目されるのは呼吸器にはなじみのMUC1が挙げられている。日本ではKL-6を測定しているのでWebで検索すると,血清での高値症例はあるものの予後との相関は弱いようである。
以上,コロナ重症者GWASの解説である。GenOMICCにはコロナ流行以前のICU入室者のデータもあるので,コロナ前後でのGWAS解析の差も知りたいところである。
•Science
1)創傷治癒
インターロイキン-17は損傷した上皮の低酸素適応を左右する(Interleukin-17 governs hypoxic adaptation of injured epithelium) |
2020年以降,一方でCorona pandemicは7波にも及び続いているが,他方で2010年以降の生命科学研究手技の変化が方法論開発論文から,実際の研究方法として日常化してきた。
それらは細胞単位の発現遺伝子解析(scRNAseq)が中心ではあるが,その背景にbarcodingからコンピュータ操作に直結する数理生物学という新規分野が登場している。
本論文は創傷治癒wound healingという,かかる細胞単位の遺伝子発現解析が必須である医療課題に対し,驚くべき事実を提示する。主体はIL-17Aである。実は復習のためWikipediaのIL-17(
リンク)を一読したが,それは特異なサイトカインで,他とは違いCystine knot motif(
Wiki英語リンク)を持ち,NGF同様の増殖因子機能を持つことを知った。もともと肺損傷を実験していた経緯もあり,創傷治癒にはつねに問題意識がある。
米国ニューヨーク大学のグループからの報告である。役者は複雑で,RORγt+γδT細胞,IL-17A/F,皮膚上皮細胞創傷edge,mTOR(ERK,AKT),HIF-1α等が次々と解析される。Summaryの
図が理解を助ける。著者らの主張は創傷によるhypoxic環境がHIF-1αによるwound re-epithelizationを惹起するのではなく,皮膚環境のリンパ球からのIL-17A産生が治癒への起点であると新規Theoryを展開する。
まず正常皮膚と創傷皮膚(day 3.day 6)からCITEseq(Cellular Indexing of Transcriptomes and Epitopes)(
Wiki英語版リンク:原理図参照,Fig S1も)で,CD45.2+CD90.2+TCRVγ3-ベースの免疫系細胞を集め,scRNAseqによりUMAP(uniform manifold approximation and projection:t-SNE図よりリンパ球のような類似細胞のclusteringに適する)で12個のclusteringを見た(Fig.1A,Fig.S1)。これらのうちwound edgeは,RORγt+細胞が集まり,またここにはIL-17やtype 1, 2のサイトカインが見られた。
ではどのRORγt+細胞が関与するのか?ここで使用された方法が話題のST法(spatial transcriptomics;
Wiki英語版リンク)である。まさに創傷部のどこに位置する,どの細胞が何を産生しているのかが見事に示される。Wound edgeにはRORγt+γδT細胞が集まり,IL-17A/Fを産生し,切創部皮膚上皮(wound edge epithelium)ではヘテロ二量体受容体(IL-17RC/IL-17RA)を発現している(
Fig.2)。この場でγδT細胞は増殖し,IL-17Aを産生する事実がしめされ,確かにmrIL-17A添加で皮膚上皮のmigrationが亢進する。
以降は適宜適切なノックアウトマウス群を対照としながら,最初のschema(
再リンク)が証明されていく。ここでは簡略に述べるが,重要なポイントはgrowth factorとしてのIL-17のsignalingである。まずERK1/2,AKTのリン酸化が起こり,p-mTOR,p-S6Kを経て,一部はHIF-1α発現にも関与し,一方HIF-1αは核に移動してglycolysis関与の酵素遺伝子群発現を亢進し,細胞分裂の準備を経てre-epithelizationが起こる。この膨大な実験データはFig.4.5(
リンク),6,Suppl図などに示されている。
すなわちγδT細胞/IL-17/mTOR/HIF-1αという創傷治癒にみられるaxisが綺麗に提示できたことになる。
最近,東洋系操体の生理背景で,進化の旧,新神経機構の連携をいつも頭の隅で考えている。創傷治癒の事象はおそらく進化のかなり旧い機能と予想される。それに直接関与するγδT細胞はILCではないが,自然免疫の一部として重要な防御機能を担っていると認識した。
もう一点は著者らもdiscussionしているが,IL-17に増殖因子機能が明らかとなり,臨床的にはIL-17過剰の病態(疥癬,喘息,IBDなどの自己免疫病態)において,多様な段階の創薬の可能性も広がると予想される。
•NEJM
1)ワクチン
ワクチン忌避のとき(The vaccine-hesitant moment) |
今週号にはオリジナル論文として遺伝子改変ブタの異種心臓移植がEditorial付きで掲載されている。先の異種腎移植(TJH
#191)もあり,食肉用家畜から臓器移植用家畜への移行か?(殺生という面では同じかもしれないが,仏教徒としては抵抗感がある)。また呼吸器としてはPulmonary Embolismの総説がある。
さて,筆者はワクチン忌避の総説を選んだ。
日本では高齢者はほぼ90%がワクチン済で,業務上筆者も本日(7/12)第4回目を接種し,やや左腕が痛む。しかし残り10%の高齢者は日本にもいる忌避者である。仙台で呼吸法を指導して,対面稽古があるので,ワクチン摂取は必須だが,やはり10%は稽古に来ない。私はこの人たちは‘ fear of needle(注射針恐怖)‘と考えている。
シアトルのワシントン大学からの総説である。
内容はCovid-19のみならず,MMR(measles-mumps-rubella)やHPV(human papilloma virus)のワクチンに関しても盛りこまれている。
“Vaccine hesitancy”の定義としては,WHOのSAGE(strategic advisory group of experts)が2011年“Complex and context specific; varying over time and place; vaccine specific”とも述べている。
中国やかつての日本のように半強制処置ではなく,幼少時から生き方を自分で考えて自分で選べと教育される欧米では,近年の権威者や専門家の失墜を受け,過去よりも状況は複雑になっている。
加えて近年のSNSの隆盛問題がある。当然ワクチンが嫌だと思う人は,否定的な内容を盲信する。例えばvaccine ingredientsの問題も今回コロナワクチンでは問題になった。筆者らはSNS発展史と最近20年間のpandemic時系列を図示している。
海外のワクチン情報は専門家でないと知らないことが多いが,MMRワクチンとautismの問題がYouTube等で広がっているようである。一方,日本で問題となったHPVワクチンの2013年のエピソードが, Twitterを介して2014年デンマーク,アイルランド,コロンビアに伝播したという。日本では9年間実施がsuspendされたが,それによる死者は5,000名前後とも紹介されている。
インターネットによる影響はもはや無視できない。これに対抗するには,ネット情報の迅速な抽出とそれに対する戦略が必要な時代である。筆者らはFacebook社の協力による全米ZIP-Codes区域別のvaccine hesitancyを図示している(
Fig.2)。Trump支持の関連も想起される分布である。ミネソタ州のある郡ではZIP-Codesごとに7%~49%の忌避者率であるという。
しかし日本ではデジタル化政策の遅れ,スマホ使用者の年齢格差などの問題があり,情報抽出モニターすら困難であるだろう。
今週の写真:自宅庭で実り始めたブルーベリー 一応,防鳥ネットは張っている。最近,完熟鑑別法をネットで知った。〔この写真はTwitter(@GamoHigata)にも挙げた。〕 |
(貫和敏博)