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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 200

公開日:2022.7. 28


今週のジャーナル

Nature Vol 607, Issue 7919(2022年7月21日)日本語版 英語版

Sci Transl Med Vol.14, Issue 654(2021年7月20日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 3(2022年7月21日)日本語版 英語版








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腸内細菌は宿主の中で進化する/David Schwarzのグループから-IL-6による末梢気道上皮の流動化がリモデリングを促進する―IPFの胸部CT像細気管支拡張の機序か?/BNT162b2ワクチンは小児のオミクロン予防に有効

•Nature

1)細菌学
腸の病原性共生細菌の宿主内進化が肝臓への菌移行を促進する(Within-host evolution of a gut pathobiont facilitates liver translocation
 腸管バリアーを通過する能力を持つ腸内常在菌は,様々な免疫関連疾患の発症の引き金になる可能性がある。しかし,このような細菌の移行(bacterial translocation:BT)を規定する要因は不明であった。最近の研究によって,腸内の細菌叢は宿主の生涯を通じて進化することが明らかになり(リンク),個々のヒト常在菌自体の経年的変化が炎症性疾患の発症に影響を与える可能性が示唆される。

 今回米国イエール大学のグループは,モデルとなる病原性常在細菌としてEnterococcus (E). gallinarumの宿主内進化が,細菌の移動と炎症を促進することを示した。マウスを用いた実験的な細菌の進化と比較ゲノム解析によって,E. gallinarumは,腸管の内腔もしくは粘膜ニッチのどちらかににコロニーを形成し,2種類に分岐して進化することがわかった(Figure 1g)。さらに,E. gallinarumで本来存在する型と粘膜型を比較した場合,粘膜に適応した系統は免疫系による検出・除去を回避し,腸間膜リンパ節や肝臓への移行し,腸や肝臓の炎症を誘発することがわかった。特に肝臓に移行している細菌の遺伝子発現解析を実施したところ,このような挙動変化の背景には,E. gallinarumの制御遺伝子におけるアミノ酸配列の変化,挿入−欠失,微生物遺伝子発現プログラムの変化,細胞壁構造の再構築などと関連していることが示唆された。実際のデータとして,カテリシジン関連抗菌ペプチドへの抵抗性,リゾチームに対する抵抗性,骨髄由来マクロファージによる貪食作用の阻害などを認めた(Figure 3a〜c)。さらに肝臓に移行した細菌群と便に排泄される細菌群を比較すると,後者では特に粘液産生誘導が強く,バリア機能の維持に関わる一方,前者は炎症性サイトカインの産生を誘導した(Figure 4b,g)。
 また,異なる菌としてLactobacillus reuteriは,単菌のコロニゼーションに基づく宿主内進化モデルにおいて,E. gallinarumと同様に進化および免疫抵抗性の性質を示した。つまりいくつかの共生細菌は,宿主内で進化の過程を経由し,例えば肝臓へ移行するような免疫に対する抵抗性を獲得する(Figure 5a〜c

 以上から,宿主内進化は共生細菌の病原性を制御する重要な因子であり,微生物が関与する疾患の発生や進行に影響を与えることがわかった。通常発癌の際に生じる癌免疫編集のような事象が,宿主内の細菌でも生じていること,さらにそれが肝内への移行に関わっていることは驚きであった。


•Sci Transl Med

1)呼吸器病
IL-6による肺胞上皮の液状化(流動化)が肺の線維化リモデリングを誘発する(Interleukin-6–dependent epithelial fluidization initiates fibrotic lung remodeling
 あのMUC5BのSNP(リンク)で有名なSchwarz先生のグループが,末梢気道の線維化の機序としてユニークな知見の報告をしている。

 動物モデルやヒトの肺疾患では,肺の損傷に反応して気道上皮細胞が動員され,機能的な細胞型と実質的な構造を持続的に失った気道様囊胞が形成される。その背景には肺の損傷後に,組織が固体相から液体相へと移行する流動化が関係している可能性が示唆されていたが,このメカニズムは十分に解明されていなかった。

 今回米国コロラド大学のグループは,ヒト肺の培養上皮細胞およびマウス精密切断肺スライスのライブセルイメージングを用いて,肺傷害後および線維性肺疾患において遠位の気道上皮が流動化することを明らかにした。また特発性肺線維症患者の遠位気道上皮や蜂巣肺からの細胞培養では,インターロイキン-6(IL-6)シグナルが組織流動化のドライバーであり,そのシグナル伝達は,標準的なJanus kinase(JAK)- Signal Transducer and Activator of Transcription(STAT)シグナルとは無関係に起こり,代わりに下流の SRC family kinase(SFK)-yes-associated protein(YAP)軸に依存したものであることがわかった。

 間質性肺炎を伴う患者由来の近位気道上皮,遠位気道上皮,蜂巣肺部からそれぞれ細胞を採取し,air-liquid interface(ALI)という手法を用いて培養すると,遠位気道上皮・蜂巣肺部から採取した上皮細胞は伸長した細胞形態を示し流動化の状態を維持していることがわかった(Figure 1I)。このような流動化を示している上皮細胞のトランスクリプトーム解析を実施するとIL-6ファミリー(IL-6,IL-11,oncostatin-M)のサイトカインが増加していることがわかった。さらにこれらのサイトカインを流動化が生じていない近位気道上皮に振りかけると流動化を誘導できること(Figure 2E),抗IL-6R抗体を用いることでそれが抑制できること(Figure 4C),さらにIL-6KOマウスではブレオマイシンによる肺線維化誘導が有意に低下することを示した(Figure 5)。

 以上の結果から,間質性肺炎では,末梢側で特にIL-6-SFK-YAPを介した流動化が生じており,細胞の形態変化・細胞接着などを介して,蜂巣肺が形成される可能性が示された。
 同時に,気道上皮の流動化が,恒常的な肺修復と線維性気腔のリモデリングのバランスを調整する上で重要な役割を担っていることがわかった。間質性肺炎によって異なる画像所見が,このような流動性の観点から説明できるのかもしれない。


•NEJM

1)感染症
5~11歳児のオミクロン株感染予防におけるBNT162b2ワクチンの有効性(BNT162b2 vaccine effectiveness against omicron in children 5 to 11 years of age
 ファイザーのBNT162b2ワクチンについて,特に5~11歳児のオミクロン株感染予防における実社会での有効性に関するエビデンスは限られている。今回もイスラエルからの報告であるが,オミクロン株の流行中に初めてワクチン接種を受けた小児におけるBNT162b2ワクチンの有効性を検討した。イスラエル最大データベースを活用して,2021年11月23日以降にワクチン接種を受けた5から11歳児を,ワクチン未接種の対照とマッチさせ,「検査で確認された感染の予防」と「有症状のCovid-19の予防」におけるワクチンの有効性を,初回接種後と2回目接種後に推定した。接種群と未接種群における,2022年1月7日までの累積発生率をKaplan–Meierを用いて推定し,ワクチンの有効性を1からリスク比を引いた値として算出し,年齢別の3つのサブグループでワクチンの有効性を推定した。

 ワクチン接種を受けた小児のうち,94,728例がワクチン未接種の対照群とマッチした。「検査で確認された感染の予防」におけるワクチンの有効率の推定値は,初回接種後14~27日で17%(95%信頼区間 [CI]:7~25),2回目接種後7~21日で51%(95%CI:39~61)であった。「有症状のCovid-19の予防」におけるワクチンの有効率の推定値は,初回接種後14~27日で18%(95%CI:-2~34),2回目接種後7~21日で48%(95%CI:29~63)であった(Figure 2)。ワクチンの有効性は,年齢が最も低いサブグループ(5歳か6歳)のほうが,年齢がもっとも高いサブグループ(10歳か11歳)よりも高い傾向が認められた.これらの解析結果は,オミクロン株が優勢株になりつつあるなかで,5~11歳児に対するBNT162b2の2回接種が,「検査で確認されたSARS-CoV-2感染」および「有症状のCovid-19」に対して,中等度の防御効果を示すことがわかった。小児に対するワクチン接種を考える上で非常に有用な試験である。

今週の写真:雨上がりの宍道湖

(小山正平)

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