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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 202

公開日:2022.8.10


今週のジャーナル

Nature Vol 608, Issue 7921(2022年8月4日)日本語版 英語版

Science Vol.377, Issue 6606(2021年8月5日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 5(2022年8月4日)日本語版 英語版








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AKTによるCoA合成/蛋白質ナノ粒子による新型コロナワクチン/抗体療法によるマラリア予防

•Nature             

1)細胞生物学:Article
PI3KシグナルがビタミンB5からの補酵素A(CoA)の新規合成を促進する(PI3K drives the de novo synthesis of coenzyme A from vitamin B5
 米国ボストンのハーバード大学医学大学院からの報告である。筆者らはアイソトープでラベルしたビタミンB5を添加し,インスリンでPI3Kシグナルを活性化したMCF10A乳癌細胞株を,液体クロマトグラフ質量分析した。その結果,PI3Kシグナルが,ビタミンB5からのCoAの新規合成を促進していることを見出した(図1)。以下,本研究ではPI3KシグナルとしてAKTに注目し,AKTがどのような機序でCoAの新規合成を促進しているのかを明らかにした。
 その結果,AKTは2つのパントテン酸キナーゼpantothenate kinase(PANK),PANK2とPANK4をリン酸化することを明らかにした(NEWS AND VIEWSの図参照)。なお,これまでPANK2がCoAの合成に関わっていることは知られていたが,そのパラログとして発見されたPANK4の機能は不明であった。PANK2はパントテン酸pantothenateをリン酸化して,リン酸パントテン酸4-phosphopantothenateへと変換する。さらにリン酸パントテン酸は変換されて,CoAの前駆体であるリン酸パンテテイン4-phosphopantetheineへと変換される。
一方PANK4にはリン酸化活性はなく,AKTによりリン酸化されたPANK4は,脱リン酸化活性を発揮して,PANK2が作製したCoAの前駆体のリン酸パンテテインをパンテテインpantetheineへ変換してしまうことがわかった。
 すなわちPI3Kシグナルの下流でAKTは,CoA合成のアクセルであるPANK2とブレーキであるPANK4,両方のPANKをリン酸化することによって,CoAの前駆体であるリン酸パンテテインの量を適度に調節しながら,ビタミンB5からCoAの合成を促していると考えられた。

•Science 

1)感染症学:RESEARCH ARTICLE
ナノ粒子によるサルベコウイルス感染予防(Mosaic RBD nanoparticles protect against challenge by diverse sarbecoviruses in animal models
 SARS-CoV-2ウイルスのワクチン開発研究で,米国パサデナのカリフォルニア工科大学からの報告である。現在私たちが接種しているワクチンのスパイク蛋白質のうち,本研究では特にそのreceptor-binding domain(RBD)に着目し,RBD蛋白質を含有する蛋白質ナノ粒子を用いている。そしてSARS-CoV-2ウイルスへのワクチン効果を,マウスとアカゲザルで検証している。
 SARS-CoV-2ウイルスは,ベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属(Sarbecovirus)に属している(図1D)。そこで筆者らは,サルベコウイルス亜属の中から,SARS-CoV-2ウイルスを含む8種類のウイルスを選択し(図1Cの上部「mosaic-8b」,図1Dの網掛けされたウイルス),それらウイルス由来の8種類のRBDを60個無作為に並べた蛋白質ナノ粒子「mosaic-8b」を作製した。コントロールはSARS-CoV-2ウイルス由来のRBDのみを有する蛋白質ナノ粒子「homotypic SARS-CoV-2」である。
 マウスを「mosaic-8b」あるいは「homotypic SARS-CoV-2」で免疫したところ,いずれのマウスもSARS-CoV-2ウイルスに対しては耐性を示した(図3B)。当然ながら,「homotypic SARS-CoV-2」で免疫したマウスはSARS-1ウイルスには耐性を示さなかった。これに対し「mosaic-8b」で免疫したマウスは,「mosaic-8b」にSARS-1ウイルスが含まれていないのにもかかわらず,耐性を示した。すなわち「mosaic-8b」で免疫すると,今後発生し得る未知の変異新型コロナウイルスに対しても防御能を発揮することが示唆された。
 この機序は図1Bに示されている。左図が「homotypic SARS-CoV-2」である。SARS-CoV-2のRBD単独のために,RBDの上部に露出している△部分(変異が起りやすい部分)に対してB細胞受容体の親和性が増してしまう。結果的に変異ウイルスに対する免疫能は誘導できない。
 図1Bの中央図が「mosaic-8b」で,同様に変異が起りやすい△部分に対するB細胞受容体の場合である。「mosaic-8b」上で隣接するRBDでは△部分が異なるため,親和性を増すことができない。
 これに対して,図1Bの右図がやはり「mosaic-8b」であるが,RBDの基部で露出していない〇部分(変異が起きにくい部分)に対するB細胞受容体の場合である。「mosaic-8b」上で隣接するRBDの〇部分は共通のために親和性が増していくことになる。
 その結果図6Aに示すように,上段「mosaic-8b」ではRBD基部の保存領域に対する抗体が,下段「homotypic SARS-CoV-2」ではRBD上部の可変領域に対する抗体がそれぞれ産生される。
 内容は決して簡単な論文ではありませんが,図の構成が秀逸で,まさに目の前で図解してもらっているように論旨が展開されます。

•NEJM

1)感染症学:ORIGINAL ARTICLE
マラリア感染予防のためのモノクローナル抗体(Low-dose subcutaneous or intravenous monoclonal antibody to prevent malaria
 ワクチンのない三大感染症として,マラリア,HIV,結核が永年挙げられてきた。マラリアについては,「接種後4年間で3割ほどのワクチン効果を子供で発揮する」として,RTS,S/AS01マラリアワクチンの接種が昨年10月にWHOから推奨された。しかし,その効果は決して満足できるものではなく,今回のモノクロナール抗体の第Ⅰ相臨床試験に至っている。
 米国国立アレルギー・感染症研究所からの報告である。本研究で用いたモノクロナール抗体「L9LS」の標的は,RTS,S/AS01マラリアワクチンの標的と同じく,マラリア原虫表面のCSP-1である。L9LSはヒト細胞との接着に重要なCSP-1に結合して,マラリア原虫がヒト細胞へ侵入するのを阻害することで抗マラリア活性を発揮する。さらに血中半減期を延長するために,Fc領域を改変してFc受容体との結合性を高めている。
 今回の第Ⅰ相試験では,主要評価項目としてL9LSの安全性を評価するために,マラリア罹患歴のない健康成人にL9LSを接種している(1/5/20mg/kgの静注と5mg/kgの皮下注の4群,図1)。さらに約1カ月後にマラリア感染した蚊に実際刺してもらい,感染防御能も副次的に評価している。
 その結果,L9LSによる有害事象は特段認められず(図2),L9LSの血中半減期は56日であった(図3図4)。蚊に刺されてから21日後までPCRでマラリア感染を調べたところ,L9LS群17名中2名と対照者6名全員で,マラリア感染が確認された。L9LS群でマラリア感染した2名は,1mg/kg静注群1名と5mg/kg皮下注群1名ずつであった(図5)。
 今回の結果を受けて,筆者らは「L9LSの単回接種で半年から1年間マラリア感染を防御できるのではないか」と予想しており,マラリア流行地の短期滞在であれば十分と思われる。ちなみに本論文のマラリア感染実験は米軍基地内で行われており,有事の際派兵の直前にL9LSを接種する,という有用性も当然想定される。
今週の写真:
第7版が出ましたので,早速購入してみました。
電子版が無料で付いていて,タブレット端末でも見られるのはとてもお値打ち感です。

(TK)

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