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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 205

公開日:2022.9.15


今週のジャーナル

Nature Vol 609, Issue 7926(2022年9月8日)日本語版 英語版

Science Vol.377, Issue 6611(2021年9月9日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 10(2022年9月8日)日本語版 英語版








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褐色脂肪細胞の新規イノシンthermogenesisシグナル/大脳皮質前頭葉増殖関与のTKTL1(トランスケトラーゼ)アミノ酸変異と現生人類/抗BDCA2抗体LitifilimabのSLE臨床試験

 Top Journal Hack,いやしくもHackingという以上は少なくとも呼吸器の専門外論文にも挑戦したい。領域はバイオ,医学に限られているが,それでもかなり広大ではある。
 21世紀に入り20年,ことに最近5年前後の方法論,その解析のための生物統計的展開は凄まじい。後期高齢者にとってこの壁は高いが,越えないとilliteracy(無学文盲)となることは自明である。医学教育そのものがこうした展開の速度にcatch upするための議論がなされていると聞く。
 Molecular Biology of the Cell第7版はどうか? Amazonから届いた本は,米国NIH留学時に初版を見た感動には程遠い。例えばscRNAseqの説明は方法論として章を分けるべきである。おそらく教科書自体のデジタル化(Kindle版のような形態ではなく),次なる工夫が必要か? クリックでMoviesによる視覚的反応理解,あるいはYouTube連携講義にリンク可能な,現代技術的革新が必要と思われる。実際,デジタル化すれば,自動AI翻訳,あるいは年次的改訂もかなり簡便だろう。初版からほぼ40年,次の第8版に期待するか?

•Nature

1)褐色脂肪組織(BAT),肥満治療創薬
アポトーシス褐色脂肪細胞は細胞外イノシンを介してエネルギー消費を促進する(Apoptotic brown adipocytes enhance energy expenditure via extracellular inosine
 今回紹介する論文主題はBAT(brown adipose tissue)である。不思議な細胞で恒温動物としての熱源である。私自身は別の視点から,UCP-1(uncoupling protein-1)には注目している。一方,肥満は全世界で大きな健康課題である。本論文はBAT由来のpurine体のinosineを取り上げ,EE(Energy expenditure)を介して体重抑制あるいは肥満治療薬開発のヒントを提示している。

 ドイツのBonnを中心とする研究グループで,BATに関しては長らく研究しているようである。BATとpurine体という新規な点から,News&Viewsにも紹介されている。
 論文の導入部はBATのapoptosisである。Thermogenesisがいらない快適な環境(マウス実験では30°)ではBATにapoptosisが惹起される。その時放出される物質が周辺のBATにEEを惹起することが知られている
 研究者たちはまずCD11,CD31などの細胞を対照に,apoptosisに関与するのはBA(brown adipocyte)であると同定した。その培養上清のmetabolome解析からpurine体成分が多く,それに含まれるAMP,inosine,hypoxanthineのうちinosineがBAに作用し,EE効果を示す事を,UCP-1発現やcAMP-PKA axisシグナル下流の遺伝子発現などで示す。実際にinosineのマウス投与で体重減少効果も示している(Fig.1)。
 次にBAにおけるinosineの受容体(G2 coupled P1 receptor:A2A,A2B),あるいは細胞内inosineを排出するtransporter(equilibrative nucleoside transporter:ENT1,ENT2)の関与を探索している。具体的には既存のA2A,A2B KOマウスを使ってその関与を示し,ENT1はBAでの発現が多いことを示している。当然ENT1はinosineを排出するので,これをKOするとinosine効果が増強する(Fig.2:先のNews&Viewsの図参照)。従ってENT1 KOではinosine効果でEEが亢進し,体重が減少する。
 ではENT1阻害ではどうか? その阻害効果が最近知られたdipyridamole(Persantin)を使用するとoxygen consumptionが増加することが示されている。
さらに実際にhuman BA(hBA)ではどうか? まずhBAをex vivoでmaturationした細胞を用い,同様のinosineの関与,それによるUCP-1の発現亢進などが示されている。ENT1に相当するヒトSLC29A1をCRISPR技術でKOすると,やはりUCP-1発現亢進が示された(Fig.3)。
 圧巻はSLC29A1のSNP(Ile216Thr)を多数例で解析し,ex vivoでのinosine排出低下を示す以外に,895例で体重(BMI)の分布を解析し,Ile216Thrの個体では優位にobesityが少なく,underweightが多い(Fig.3.J)事実を示している点である。
 言うまでもなく体温調節は交感神経系,adrenergic神経支配であるが,創薬としては困難である。今回BATのEEに関与するinosineとそれに関連する機構が明らかになり,肥満の創薬へのヒントが得られた点で大変興味深い報告である。

 このBATやイノシンに関しては,過去にTJHで紹介したものがある。腸内細菌産生のイノシンと腫瘍免疫活性化(#113),一方最近,腫瘍組織に対し低温化ではBATがthermogenesisのためエネルギーを枯渇させ抗腫瘍活性の論文(#203)が紹介されている。今回の論文も踏まえ,BAT,イノシンは今後どう展開するか関心が深まるところだ。

•Science

1)神経学,大脳皮質,脂質代謝
ヒトTKTL1は現生人類の前頭葉新皮質における神経新生がネアンデルタール人よりも大きいことを意味する(Human TKTL1 implies greater neurogenesis in frontal neocortex of modern humans than Neanderthals
 「事実は小説より奇なり」というバイロンの言葉のような論文内容であるが,同時にこれをもとに新たな小説が何本か書けそうな内容でもある。
メディアでも取り上げた現生人類とNeanderthal人(象徴的な名前の使用であるが,現生人類以前のマウスからNeanderthalの哺乳動物種では共通残基)の前頭葉大脳皮質の神経細胞増殖に関与するTKTL1(transketolase-like1)という酵素が主題である。
 ドイツ,DresdenのMax Planck研究所よりの報告である。このグループは2020年にも慶応大学との共同研究でScience誌にヒト特異大脳皮質増殖関連遺伝子を報告している(リンク)。
 論文の前半は,hTKTL1(human TKTL1,現生人類では261番残基がArgである)の神経progenitor細胞の細胞増殖変化や形態特性を中心に調べ,後半はその酵素としての機能が何であるかを脂質代謝阻害薬を使用しながら解明している。
 本論文はPerspectivesに紹介されているが,各種神経progenitor(bRG,aRG,bIP細胞等),さらに大脳皮質の6層構造に関しては,その図が絵解き理解を助ける(概念図)。ここで知るべきは,これらのprogenitor細胞の組織学的位置と,その細胞分裂がsymmetricalかasymmetricalかという考え方であり,hTKTL1が関与するbRG(basal radial glia)はasymmetrical細胞分裂形態である点である。
 さてTKTL1はbRG細胞で高発現するほか,腫瘍における増殖性で着目され,2014年に全ゲノムが解読されたNeanderthalやDenisovan人と現世人類でアミノ酸変異(Lys261Arg)がある数少ない遺伝子の1つである。

 まずTKTL1の発現はVZ(ventricular zone),SVZ(sub-ventricular zone)に見られ,その上層のCP(cortical plate)では見られない。また大脳皮質の領域としては前頭葉に見られる(先の概念図参照)。
 ではどの細胞がbRGであるのか? マウス脳にhTKTL1,aTKTL1(archaic,Neanderthal等旧人の遺伝子)をelectroporationして発現,形態比較すると,bRGでhTKTL1が関連することが示される(Fig.1)。この細胞はSox2+Tbr2-である。
 さらにこのbRG progenitor細胞はasymmetricに分裂しhTKTL1存在下にはその細胞増殖が加速され,指数関数的な増殖となる(Fig.2)。
 こうしたマウス脳所見に加え,ferret脳にTKTL1を発現すると,bRGに分化した細胞が増殖するとともに,脳回(gyrus)形成が認められる(Fig.3)。
 一方,ヒト胎児大脳皮質組織培養の系でCRISPR-Cas9でhTKTL1をKOしてその影響を見ると,bRG progenitor細胞が減少する。逆にヒト胎児幹細胞H9 hESCにCRISPR-Cas9 系でaTKTL1を導入すると,元々のhTKTL1に比べSox2+細胞は減少する。

 ここから研究はTKTL1の代謝上の背景を探索する。
 もともとtransketolaseはPPP(pentose phosphate pathway:ペントースリン酸経路)の酵素で核酸成分に関与すると習った。しかしWiki等の代謝マップではTKTL1の位置づけが不備で,本論文Fig.5,Fig.6の代謝マップから理解する必要がある。実際には順次各段階の阻害薬を用いながら生理的意義を絞り込んでゆく。結果は組織におけるbRG progenitor細胞の減少である。研究者達は代謝マップに対応する各種阻害薬を使って脂肪代謝の意義をつめ,最終的にFAS(fatty acid synthase)阻害薬でもbRG細胞が減少することを示した。逆にhTKTL1酵素では細胞膜合成に必要なbRG細胞のacetyl CoAが増加する(Fig.6.G)。

 以上が概略のデータである。Neanderthal遺伝子というややセンセーショナルな面でなく,真面目にTKTL1の機能を,大脳皮質bRG progenitor細胞による神経細胞増殖の解析として考えると,非常にユニークな優れた研究である。

 さて以下は無駄話。
 「事実は小説より奇なり」。ではこの論文の事実を元に空想小説の種は??
①マウス脳にTKTL1を過剰発現すると,cognitionや学習能は格段に改善するのか?
②hTKTL1過剰発現胎児を帝王切開(骨盤通過サイズ制限なく)で誕生させると,かつての空想宇宙人のような巨大頭脳人間になるのか?
などが妄想される。
 一方,ホモサピエンスも結局は文字の発明以降の2000年間の知識外在化で,TKTL1により肥大化した大脳皮質を使えるようになった。ということは,結局学習が必要なAI基盤,あるいは使いこなせなければ意味のないiPhoneのA15,A16 Bionic CPUのようにhTKTL1遺伝子はそれだけでは宝の持ち腐れとなるのか?

•NEJM

1)膠原病,抗体医療
全身性エリテマトーデスに対するリティフィリマブ(Litifilimab for systemic lupus erythematosus
 呼吸器専門医といえども,初期研修において1例はSLE(全身性エリテマトーデス)症例を受け持ち,その難病性,殊に若年女性の病態であることから,新規治療への関心はあるのではないか? 最近,片頭痛などの難病にも抗体医療の効果を耳にすると,SLEに関しての開発状況が知りたくなる。
 SLEに対する抗体療法はTJH #80で抗I型インターフェロン受容体サブユニット1対するAnifrolumabを取り上げている。
 SLEはinterferonopathyといわれながら,その広範な炎症病態の何を抗体医療のターゲットに取り上げるのか? 本臨床試験ではplasmacytoid dendritic cellに発現するdendritic cell antigen2(BDCA2)の抗体で,BDCA2のinternalizationを来し,炎症連鎖反応を抑える効果を狙った。
 この論文にはEditorialがあるが,こうした背景を短時間で理解するのに非常にわかりやすい。またB細胞系の炎症誘発抑制の創薬意義に関する論文も紹介してある(リンク)。

 さて抗BDCA2抗体(Litifilimab)の第II相臨床試験(ClinicalTrials.gov #02847598)は132例(64例は450mg,6例は150mg,6例は50mg,56例はプラセボ)で行われた。評価は24週後でprimary endpointは有症状関節数で評価し,使用前値:抗体群19.0+8.4;プラセボ群21.6+8.5で,24週後:抗体群−15.0+0.2;プラセボ群−11.6+1.3と,その差−3.4(95%conf;−6.7 to −0.2,p<0.04)であった(リンク)。副作用はherpes zoster等virus感染症が見られている。
 本抗体臨床試験はSLEとcutaneous lupusに分けて施行され,後者はすでに優位性が報告されている(リンク)。今後多数例で長期の臨床試験評価が予定されている。

今週の写真:全国的にも知られる相馬野馬追いの神事。その起点となる相馬市の神社。しかし相馬駅周辺は全国の地方都市同様,昭和の活気が失われ,人口減でやや寂しい(松川浦へドライブして)。


(貫和敏博)

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