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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 206

公開日:2022.9.22


今週のジャーナル

Nature Vol 609, Issue 7927(2022年9月15日)日本語版 英語版

Science Vol.377, Issue 6612(2021年9月16日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 11(2022年9月15日)日本語版 英語版








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COVID-19腸炎にも関連するトリプシンを分解する共生細菌の同定/コレステロール濃度を感知してmTORC1を活性化するリソソーム蛋白質LYCHOS/心筋梗塞後の二次予防に有効なポリピル

•Nature

1)腸内細菌研究
大腸においてトリプシンを分解する共生細菌の同定(Identification of trypsin-degrading commensals in the large intestine
 腸内におけるトリプシンなどのプロテアーゼの活性の上昇は,粘膜バリア機能などさまざまな腸炎などの病的状態と関連付けられてきているが,腸管腔におけるプロテアーゼレベルの調節の詳細な機構はこれまで不明であった。本研究は腸内細菌関連研究で有名な本邦の慶應大学および理研の本田先生の研究グループを中心とした腸管腔内トリプシン調節機構の報告である。はじめに,腸内細菌のない無菌マウス(Germ-free mice)(無菌動物:Wiki)と通常の腸内細菌のSPF(Specific pathogen free)マウスの糞便についてMass spectrometryを用いて蛋白質解析を行ったところ,両者で差のある蛋白質の1つに蛋白分解酵素であるトリプシンを同定した。消化管内ではどこもトリプシンの発現がみられるが,無菌マウスとSPFマウスでトリプシン量について発現に差がみられたのは大腸においてのみであったことから腸内細菌の関与が推察された(Fig. 1)。
 健常なコントロールに比べて,炎症性腸疾患患者や腸炎モデルであるIL-10遺伝子欠損マウスの糞便ではトリプシン活性が高いことから,腸内細菌によるトリプシンの調節が腸炎病態に重要である可能性が考えられた。そこで6人の健常人の糞便を無菌マウスに移植したところ,5人の糞便でトリプシン活性が下がることを確認され,抗菌薬投与により選別される条件を見出してスクリーニングを行い,トリプシン活性を下げる細菌の候補を絞っていった。糞便中の細菌の432個のコロニーから16SrRNA遺伝子解析を行い,候補となる35種類の細菌を同定し,さらに9種類まで絞った段階で各々の菌による効果を確認して,最終的にParaprevotella claraという細菌の同定に至り,これを含むParaprevotella属(Prevotellaceae:Wiki)の複数の株が,強力なトリプシン分解共生細菌であることを見つけている(Fig. 2)。
 Paraprevotella属細菌がトリプシン分解するメカニズムとしては,Paraprevotella clara細菌の遺伝子「00502」あるいはその相同遺伝子からつくられるIX型分泌系依存的に多糖アンカー蛋白質を介して,細菌表面にトリプシンを動員し,トリプシンの自己消化を促進することが明らかとなった(Fig. 3)。
 Paraprevotella属細菌が定着することにより,感染防御に重要なIgAがトリプシンによる分解から保護され(Fig. 4b),Citrobacter rodentiumに対する経口ワクチンの有効性が増強した。さらに,マウス肝炎ウイルス(MHV-2)は宿主細胞への侵入をトリプシンおよびトリプシン様プロテアーゼに依存するマウスコロナウイルスであるが,Paraprevotella属細菌の定着により,このウイルスによる致死感染が抑制された(Fig.4h,i)。
 ヒトにおいても,Paraprevotella clara細菌の遺伝子「00502」と相同性のあるトリプシン分解に関与すると推定される遺伝子配列をもつ細菌が同定された(Fig.4j)。興味深いことには,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染患者146人において解析したところ,腸のマイクロバイオームでこれらを保持する患者では下痢の重症度の低下と関連していることを確認している(Fig.4k,l)。以上から,トリプシン分解共生細菌の定着は,腸の恒常性維持や病原体感染の防御に関与する可能性があることが示唆された。
 なお,本研究については理研からわかりやすいプレスリリースが出されているので紹介する(リンク)。

•Science

1)生化学
リソソームのGPCR様蛋白質LYCHOSはコレステロール濃度を感知してmTORC1を活性化する(Lysosomal GPCR-like protein LYCHOS signals cholesterol sufficiency to mTORC1
 健康上は有害物質のように語られることが多いが,コレステロール(コレステロール:Wiki)自体は細胞膜や各種のホルモンや胆汁酸を作る材料となり,体に必要な物質である。活発に分裂する細胞においては,PI3K-AKT-mTORC1のシグナル伝達経路がコレステロールの合成や取り込みを調節することは報告されているが,細胞内のどこでどのように調節されているかは不明であった。
 リソソーム(リソソーム:Wiki)は細胞内で栄養を感知するが,コレステロールなどの細胞内栄養が高いとmTORC1は移動してリソソーム膜に局在し活性化する。このmTORC1(mechanistic/mammalian target of rapamycin complex 1)(mTORC1:Wiki)のリソソーム膜への局在には,RagAあるいはRagB(RagA/B)とRagCあるいはRagD(RagC/RagD)のヘテロダイマーであるRag GTPaseの作用が重要であることが知られている。
そこで米国カルフォルニア大学バークレー校からの報告である本研究では,リソソームが栄養を感知して影響を与える分子について,リソソームプロテオームのデータベースからバイオインフォマティクスをもちいて探索した。その結果611個のリソソーム蛋白質のリストから,膜蛋白で比較的大きめのループ構造を有する64の特異的膜蛋白に絞り,さらにシグナル伝達可能なドメインをもつ5つを選択し,最終的にGPR155という17回膜貫通構造を有するG蛋白質共役受容体たどりついた(Fig.1A)。リソソームへの局在やmTORC1の活性化が確認され,改めてこの分子はlysosomal cholesterol signaling protein(LYCHOS)と名付けれた(Fig.1D)。
 LYCHOSの機能について生化学的に詳細に解析した結果,LYCHOSがコレステロールを介したmTORC1の活性化に必要であること,N末側でコレステロールと結合することが明らかとなった。さらに蛋白質相互作用を調べるのに際して,感度の高い近接依存性標識(Proximity labelling)という,目的蛋白質の近位にある蛋白質の標識(この場合はビオチン化)を可能にする実験技術を駆使している(リンク)。実際には,大腸菌由来のビオチンリガーゼ(BirA)変異体の1つで活性が大幅に高く,より時間分解能を示すTurboIDをLYCHOSのN末側に組換え発現させることにより,近接する相互蛋白質がビオチン化されることを利用してストレプトアビジンで近接蛋白を生成することによって同定し(リンク),その後に免疫沈降で確認している。
 その結果,高コレステロール濃度下では,コレステロールはLYCHOSのN末端パーミアーゼ様領域(permease-like region)と結合し,LYCHOS effector domain(LED)と呼ばれる部位を介してGATOR1複合体のサブユニットであるNPRL2とNPRL3と結合し,続いてGATOR1がKICSTORとの結合を阻害することによってmTORC1を活性化することが明らかとなった(Fig.3B,G,4F)。冒頭で述べたように,mTORC1の活性化にはmTORC1のリソソーム膜への局在が重要で,その際に必要となるRagAのGTPase activating protein(GAP)がGATOR1複合体であるからである。
 以上から,LYCHOSはリソソームにおいてコレステロール濃度を感知する役割があるとともにmTORC1を活性化する重要な役割を担っている。

•NEJM

1)循環器診療

心血管イベントの二次予防におけるポリピル戦略(Polypill strategy in secondary cardiovascular prevention
 心筋梗塞後の心血管死や心血管合併症といった二次予防にはアスピリン,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,スタチンの3種類の内服が良好な予後に影響することが報告されているが,服薬アドヒアランス悪さによる問題点が指摘されてきている。そこで,これら主要3種類の薬剤を配合した「ポリピル」が心血管イベントの二次予防に簡易な方法として提案されてきた。
 本研究はスペインなど欧州を中心としたSECURE研究グループによる第3相無作為化比較臨床試験である。過去6カ月以内に心筋梗塞を発症した患者を,「ポリピル」を用いる群と通常治療を行う群に割り付けた。ポリピルによる治療群ではアスピリン(100mg),ラミプリル(ramipril;2.5mg,5mg,10mgのいずれか),アトルバスタチン(20mgまたは40mg)を内服した。主要複合転帰は,心血管死,非致死的1型心筋梗塞〔主要な冠動脈イベント(例,プラークの破裂,びらん,または亀裂;冠動脈解離)に起因する虚血により自然に生じた心筋梗塞〕,非致死的脳梗塞,緊急血行再建のいずれかとし,重要な副次的転帰は心血管死,非致死的1型心筋梗塞,非致死的脳梗塞の複合とした。本研究では2,499例が無作為化され追跡期間の中央値は36カ月であった。主要転帰イベントは,ポリピル群の1,237例中118例(9.5%),通常治療群の1,229例中156例(12.7%)に発生した(ハザード比:0.76,95%信頼区間 [CI]:0.60~0.96,p=0.02)(Figure.1)。重要な副次的転帰イベントはポリピル群の101例(8.2%),通常治療群の144例(11.7%)に発生した(ハザード比:0.70,95%CI:0.54~0.90,p=0.005)。患者報告による服薬アドヒアランスはポリピル群のほうが通常治療群よりも高く,有害事象は2群で同程度であった。
 以上より,心筋梗塞発症後6カ月以内にアスピリン,ラミプリル,アトルバスタチンを配合した「ポリピル」で治療した患者では,通常治療を行った患者と比較して,主要有害心血管イベントのリスクが有意に低いことが示された。医学的には同じ治療でも実臨床的により効果のある結果が示されており,「ポリピル」治療の有効性についての現実的な非常に興味深い報告である。
 なお本論文は約2分間の動画でQUICK TAKEにまとめられておりわかりやすい。


今週の写真:千葉県南房総野島崎から望む太平洋

(鈴木拓児)

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