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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 207

公開日:2022.9.30


今週のジャーナル

Nature Vol 609, Issue 7928(2022年9月22日)日本語版 英語版

Sci Transl Med Vol.14, Issue 664(2021年9月28日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 9(2022年9月1日)日本語版 英語版








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日本発のCOVID-19のホストゲノム研究/ハムスターがLong COVIDの動物モデルになる/多剤耐性結核に対するリネゾリドの最適量・最適投与期間

•Nature

1)感染症:Article
COVID-19疾患感受性遺伝子DOCK2 の重症化機序(DOCK2 is involved in the host genetics and biology of severe COVID-19
 今回,紹介する研究は筆者がこの2年間,コロナ制圧タスクフォースで取り組んできた研究である。TJHで自分の論文を自分で解説するのが「夢」であったので,今週号の解説は個人的にも大変感慨深い。
2020年5月に,我々はCOVID-19のホストゲノム研究のために「コロナ制圧タスクフォース」を立ち上げた。コロナ対応の最前線に立つ医療従事者からも多大な協力を得られ,発足後わずか6カ月で100以上の施設が参加するネットワークが形成された(Extended Data Fig. 1)。2022年8月末現在,当初の目標を遙かに上回る6,000人以上の患者から血液検体と臨床データが集積されている。これは,生体試料を持つ新型コロナウイルス感染症のコホートとして,現在,アジアにおいて最大のものとなっている。
 今回,我々は,新型コロナウイルス感染症に罹患して重篤化し,酸素投与やICU入室が必要となった患者,亡くなられた患者の遺伝的背景の関与を調べるために,主に第1〜3波で集積した約2,400名分のDNAを用いて,ゲノムワイド関連解析を行った。その結果,日本人の新型コロナウイルス感染症患者では,DOCK2領域のSNP(rs60200309)が,65歳以下の非高齢者において約2倍の重症化リスクを有することを見出した(Fig. 1)。さらに第4波・第5波で収集した約2,400名分のDNAでも,DOCK2のバリアントが重症化リスクとなることを確認した。以前より,DOCK2はリンパ球遊走や1型インターフェロンの産生に重要な役割を担っていることが,九州大学の福井先生の研究(Link)から知られており,この点に注目し,さらに解析を進めた。
 実際のDOCK2発現量を調べるためにCOVID-19患者473人の末梢血単核細胞を用いてRNA-seq解析を行った。すると,COVID-19の重症化のリスクアリル(rs60200309-A)を持つ患者はリスクアリルを持たない患者に比べ,血球細胞のDOCK2の発現量が低下していた(Fig. 2a)。また,重症の患者でも非重症の患者と比べ,血球細胞のDOCK2の発現量が低下していた(Fig. 2b,c)。
次に,健常者31人,COVID-19重症患者30人の末梢血単核細胞を用いてsingle cell RNA-seq解析を行った。すると,DOCK2は単球系の細胞集団で発現が高く(Fig. 2h,i),そして,重症COVID-19患者では,健常者と比較して,その単球系の細胞集団でDOCK2の発現が特に低下していることが判明した(Fig. 2f,j,g,k)。さらに,COVID-19の剖検肺を用いてDOCK2の免疫染色を行ったところ,COVID-19による肺炎では,一般的な細菌性肺炎に比べて,単球系の細胞においてDOCK2の発現低下が確認された(Fig. 2m,n)。
 以上のヒト検体を用いた検討から,DOCK2はCOVID-19の疾患感受性遺伝子であるだけなく,重症化のバイオマーカーとなることが示唆された。
 最後に,SARS-CoV-2感染動物モデル(シリアンハムスターモデル)を用いてDOCK2の機能解析を行った。DOCK2の阻害薬であるCPYPPをSARS-CoV-2感染シリアンハムスターモデルに投与すると,コントロール群に比べて顕著な体重減少を認め,肺水腫を呈する重症肺炎が引き起こされた。さらに,CPYPP投与群ではコントロール群に比べて,鼻腔・肺でウイルス量が増加しており,肺内のマクロファージは減少し,抗ウイルス活性に重要な役割を果たすI型インターフェロン応答は低下している一方,炎症性サイトカインは上昇していた(Fig. 3)。
 以上より,DOCK2は,その機能を阻害するとSARS-CoV-2感染が重症化することから,SARS-CoV-2感染における宿主免疫応答に重要な役割を果たしていることが示された。本研究は慶應義塾大学医学部を始めとする各大学でプレスリリースを行った(Link)。
 本研究は,形式上,筆者が第一著者となっているが,多くの共同研究者,およびコロナ制圧タスクフォースに参加いただいた全ての医療従事者の成果だと改めて実感している。筆者としては,当然のことながらNature誌に掲載されてうれしい気持ちと,何とかここまで来れたという安堵の気持ちが混ざっている現状だ。100以上の病院の医療従事者と信頼関係をもとにネットワーキングし,研究を遂行できたことは,人生の中でも中々,経験のできない「財産」であり,ネクストパンデミックも見据えた研究体制づくりに,様々な反省点も含めて生かせればと考えている。

•Sci Transl Med

1)感染症学:Research Article 
ハムスター・ヒトのSARS-CoV-2感染では,回復後にも持続的かつ特異的な全身性の障害が生じる(SARS-CoV-2 infection in hamsters and humans results in lasting and unique systemic perturbations post recovery
 COVID-19は第7波も収まってきたが,むしろLong COVIDが社会的な問題としてクローズアップされている。米国では名だたる大学がこのようなコンソーシアム(Long Covid Research Initiative)を組み,莫大な研究資金が投資されているようである。当然のことながら,詳細な機能解析のためには,Long COVIDをより適切に評価できる動物モデルが存在することが望ましい。
ニューヨーク大学のグループは,このような背景のもと,SARS-CoV-2とインフルエンザAウイルス感染後のゴールデンハムスターの短期そして長期の解析を,肺と肺外臓器(心臓・腎臓・神経組織・嗅球組織)を各々比較検討することで,ハムスターがLong COVIDの評価系となり得ることを膨大な実験・解析から評価を進めた。
 まずは,SARS-CoV-2およびインフルエンザをハムスターに感染させ,急性期の反応を経時的に観察している。インフルエンザに感染させるとは感染3日目に107pfu/gの力価でピークとなり,その後,感染は急激に減少し,感染後7日目には完全に感染性が失われた(Fig. 1A)。SARS-CoV-2では,感染3日目に約108pfu/gとウイルス量のピークが見られ,感染5日目まで持続した後,その後,力価が減少した(Fig. 1B)。
 感染3日目にウイルス量がピークを迎えることから,急性期のホスト側の反応として感染3日目に解析している。インフルエンザおよびSARS-CoV-2に感染したハムスターの肺組織をHE染色では,肺胞領域と気管支領域への炎症細胞浸潤を認めていた(Fig. 1C)。免疫染色をすると,いずれの感染モデルにおいても好中球,T細胞,マクロファージが広範囲に浸潤していた。一方,インフルエンザ感染と違い,SARS-CoV-2感染では気管支およびlarge airwayを中心として周囲に広がる炎症細胞浸潤をより強く認めていた(Fig. 1C)。
 腎臓・心臓の遠隔臓器を,SARS-CoV-2とインフルエンザのいずれも感染3日目の時点で解析した。腎臓には感染3日目の時点で細胞浸潤は認められなかったが,COVID-19の合併症として問題になる心臓では白血球浸潤を認めていた。これらのデータから,ハムスターの急性感染の生体反応はSARS-CoV-2やインフルエンザに対するヒトにおける組織学的特徴と多く共通していたことになる。
 次に感染3日目の感染肺のRNA-seqを行っている(Fig. 1G)。SARS-CoV-2およびインフルエンザ感染肺の両方で,P-adj値が0.1未満の約100の発現変動遺伝子(DEG)が同定された。Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)では,どちらの感染に対してもIFN-I,IFN-II,TNF-α,およびIL-2シグナル伝達経路の活性化を示していた。
 次に感染31日目の時点をハムスターにおけるLong COVIDの時点と捉えて,感染31日目のハムスターの肺,心臓,腎臓のRNAseqを行った。これらの組織では感染31日目の時点で,IFN-Iまたはケモカインなどは上昇していなかった(Fig. 2D〜F)。しかし,腎臓の吸収能力や心臓の代謝に関わるパスウェイの活性化が見られた(Fig. 2D,E)。肺では,感染31日目の時点で肺の修復と再生に関係するパスウェイの活性化が見られた(Fig. 2F)。
 次に感染31日目のHE染色では,SARS-CoV-2およびウイルス感染肺は一般的な構造を維持していたが,肺胞上皮細胞が形質転換を起こし,気管支上皮様になるランバートーシス(Link)が見られ(Fig. 3A),インフルエンザ感染に比較するとSARS-CoV-2感染でより顕著にこの病理学的所見が観察された。遠隔臓器としては,心臓では感染31日目にはで白血球の浸潤は認めなかったが,腎臓ではSARS-CoV-2感染において,尿細管細胞の菲薄化と尿細管内腔の拡大を特徴とする尿細管萎縮を示した(Fig. 3B)。
 さらに筆者らは,同様の手法で神経系の組織(嗅球,内側前頭前野,線条体,視床,小脳,三叉神経節)を個評価している。ハムスターモデルにおいて,神経組織からインフルエンザのウイルスRNAは検出されなかったが,先行研究と同様に,SARS-CoV-2感染ハムスターでは,一部の神経系にウイルスが検出された。ほとんどの神経組織においては,SARS-CoV-2ウイルスのヌクレオカプシド(Nタンパク)の転写産物を認めたことから,感染時にヌクレオカプシドが優勢となる末梢組織から循環したゲノムRNAの一部が神経組織に沈着していることが示唆された(Fig. 4B)。
 次に嗅球に関しても,感染31日目に評価を進めている。ハムスターモデルにおいても,SARS-CoV-2感染に対して,嗅球で持続的な免疫応答を認めていた。具体的には,SARS-CoV-2もしくはインフルエンザに感染31日後の嗅球では,Mx1の発現レベルの上昇を示し,Mx1の免疫染色では陽性であった。また,Mx1以外のISGの上昇に加えて,Cxcl10とCcl5等のケモカインが長期間上昇していた(Fig. 5E)。
 次に,嗅球で遷延する炎症反応に関与する免疫細胞の構成を明らかにすることを目指した。感染31日後の嗅球のトランスクリプトームデータを用いて,デコンボリューション解析(Link)によって,細胞種ごとの遺伝子セットを同定すると,SARS-CoV-2感染ハムスターにおいて,ミクログリア系とミエロイド系の遺伝子セットに発現遺伝子が強く濃縮されていた(Fig. 5G)。これらの知見は免疫染色によっても確認されている。興味深い動物実験として,匂いのついた餌にハムスターがどの程度の時間でたどりつけるかという評価系を用いて,SARS-CoV-2罹患後のハムスターの嗅覚が低下していることをin vivo実験でも示している(Fig. 6)。
 さらに,嗅球組織について,ヒト検体を用いて,ハムスターと同様のRNAseq,DEG解析およびデコンボリューション解析を行っている。DEG解析およびデコンボリューション解析により,Long COVIDの症例ではコントロール群と比較して,ハムスターで観察された現象と同様に,補体およびインターフェロン(Fig. 7A,B)の炎症系の遺伝子セットが濃縮されていた。補体遺伝子セットの濃縮は,C3,F8,C1QAなどの直接補体カスケードの遺伝子,また補体制御タンパク質S100A9,SERPINE1の発現上昇によって誘導されていた(Fig. 7A)。ISG15,OAS3,ISG20,CXCL10,MX1,IFIT3,IFIT1,IRF2などのISGの上昇を認めており,これらは抗原提示(B2M,HLA-DQA1,CD74)およびサイトカインシグナリング(IL7,IL6,IL4R)の発現上昇によって誘導され(Fig. 7B),Long COVIDではこの傾向がより顕著であった。嗅覚上皮組織についても,ケモカイン関連およびT細胞の活性化に関連する遺伝子セットの濃縮を認めていた。
 SARS-CoV-2感染ハムスターの感染31日目の検体とLong COVIDのヒト検体の嗅球と上皮を比較すると,転写プログラムには相関関係があった。嗅球に関しては,ハムスターとヒトのSARS-CoV-2回復組織の双方が,IFN-II,白血球のchemotaxis,および免疫応答経路の誘導の増強を示していた(Fig. 7E)。さらに,共通の代謝経路のプログラムを示し,ハムスターとヒトのSARS-CoV-2感染後の組織はともにリボソーム生合成の経路が上昇していた(Fig. 7E)。嗅上皮に関しても,ヒトとハムスターの両方の組織で白血球のchemotaxis,およびT細胞活性化の遺伝子群の濃縮を示していた(Fig. 7F)。
 本論文は,ハムスターの各臓器を(ストレイトフォワードな感染実験ながら)多角的に評価しており,ヒトのLong COVIDと比較・評価を進めていく上で,重要なリソース論文である。

•NEJM

1)感染症:Original Article 
薬剤耐性結核に対するベダキリン,プレトマニド,リネゾリドレジメン(Bedaquiline-pretomanid-linezolid regimens for drug-resistant tuberculosis
 多剤耐性結核は,日本では日常臨床で遭遇する機会は少ないものの,発展途上国をはじめとする世界の現場では大変重要な問題である。2020年のNEJMにリネゾリド1200mgを26週間使用するレジメンが発表され,その有効率は90%と高かったが,末梢神経障害が約8割,骨髄抑制が約半分と,その有害事象が問題となっていた(Link)。そのため,超多剤耐性結核に対する有効性を維持しながら,有害事象を最小限に抑えるために適切なリネゾリドの用量と投与期間の設定に向けて,イギリスのMRCユニット(Link)が中心となって研究が進められてきた。
 超多剤耐性結核(リファンピシン,フルオロキノロン系,アミノグリコシド系に耐性)の患者,超多剤耐性結核の前段階の結核(リファンピシン耐性で,フルオロキノロン系またはアミノグリコシド系に耐性)の患者,治療が奏効しなかったか副作用のために二次治療レジメンが中止されたリファンピン耐性結核の患者がエントリーされた。
 ベダキリンの26週間投与(200mg/日を8週間,その後100mg/日を18週間)とプレトマニド(200mg/日)の26週間投与に加えて,リネゾリドの連日投与を1200mgで26週間行う群,1200mgで9週間行う群,600mgで26週間行う群,600mgで9週間行う群に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは投与終了後26週の時点での(臨床的または細菌学的な)治療失敗または疾患再発とした。安全性も評価した。今回の研究の主要な結果はこちらのグラフィックは美しいポスターにまとめられている(Link)。
 エントリーされた181例のうち,88%が超多剤耐性結核または超多剤耐性結核の前段階の結核であった。奏効率はAリネゾリド1200mg,26週間群,Bリネゾリド1200mg,9週間群,Cリネゾリド600mg,26週間群,Dリネゾリド600mg,9週間群の4群においてリネゾリド600mg,9週間群では奏効率がやや低かったこと以外は,その他の3群で約9割と大きくは変わらなかった。副作用は,Aリネゾリド1200mg,26週間群,Bリネゾリド1200mg,9週間群,Cリネゾリド600mg,26週間群,Dリネゾリド600mg,9週間群において末梢神経障害はそれぞれ38%,24%,24%,13%に出現し,骨髄抑制はそれぞれ22%,15%,2%,7%に発現した。リネゾリドの用量変更(中断・減量・中止)はそれぞれ51%,30%,13%,13%で認められた。リネゾリド1200mg 26週間投与群の9%に視神経症が発現したが,いずれも回復した。
 ベダキリン+プレトマニド+リネゾリドを投与した全4群の参加者の84~93%が好ましい転帰をとった。全体的なリスク・利益比は,リネゾリド600mgを26週間投与した3剤レジメン群で良好であり,有害事象の頻度は低く,リネゾリドの用量変更も少なかった。
 今回の研究のサマリーはこちらの動画に簡潔にまとめられている(Link)。

今週の写真:美空ひばりも歌う北海道美幌峠。向こうに見えるのは,日本最大のカルデラ湖の屈斜路湖。
(南宮湖)

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