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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 209

公開日:2022.10.12


今週のジャーナル

Nature Vol. 610 Issue 7930(2022年10月6日)英語版 日本語版

Science Vol. 378 Issue 6615 (2021年10月7日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 14(2022年10月6日)日本語版 英語版








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PD-1阻害と改変型IL-2のシナジー効果でT細胞疲弊を克服する次世代がん免疫療法/がんと感染症のCRISPRスクリーニングでライソソーム関連の新規機能分子を同定/オミクロン株対応型2価ワクチン

•Nature

1)免疫チェックポイント阻害療法

PD-1陽性細胞でのIL-2R刺激は幹細胞様CD8陽性T細胞から好ましいエフェクター細胞を生み出す(PD-1-cis IL-2R agonism yields better effectors from stem-like CD8+ T cells

 製薬会社ロシュとエモリー大学の共同研究成果の報告である。PD-1阻害による免疫チェックポイント阻害療法を成功させるには,PD-1陽性かつTCF-1陽性の抗原特異的な幹細胞様CD8陽性T細胞の増殖とエフェクター細胞への分化能を維持することが重要とされ,PD-1阻害との併用による相乗効果が期待される因子としてIL-2刺激が重要なことが明らかにされた。同号のNatureにはPD-1阻害とIL-2刺激の相乗効果についてエモリー大学の日本人研究者らが筆頭となってもう1つの論文を報告している。


 PD-1阻害療法とIL-2刺激の併用はCD8陽性T細胞の疲弊を相乗効果的に脱却させる(PD-1 combination therapy with IL-2 modifies CD8+ T cell exhaustion program)


 この論文で明らかにされたメカニズムを応用する形で,ロシュがもともと開発して臨床応用の機会を狙っていた改良型IL-2に対して,抗PD-1抗体を結合させたキメラ分子を設計し,膵臓癌といった悪性腫瘍や慢性感染症の治療への有用性を疾患モデルマウスで証明した論文である。AASJにも取り上げられている。


 IL-2療法は腎癌や悪性黒色腫の治療手段としても用いられてきたが,制御性T細胞に発現するCD25に結合することで血管透過性亢進による全身症状を引き起こしたりする良からぬ副反応が問題となる。これを避けるためIL-2受容体β鎖とγ鎖だけに作用する遺伝子改変された改良型IL-2(IL2v)が開発され,CEA-IL2vやFAP-IL2vといったがん細胞の表面抗原に対する抗体と結合させたキメラ分子にして標的細胞特異的にIL2vを送達する方法が考案されていた。論文の出だしは正直言ってわかりにくかったが,研究者たちはLCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)慢性感染症モデルマウスに対して,マウス版muFAP-IL2wt(マウスFAP抗体と野生型IL2抗体のキメラ分子)とmuPD-L1(PD-L1阻害薬投与)を併用して投与した際に,muPD-L1阻害薬を単独投与したときよりもCD8陽性T細胞の疲弊が抑制されて急性感染時のように活性化して様子が違って見えたことがIL2刺激とPD-1阻害のシナジー効果を狙いに行くことになった背景のようである。ただ,改変型IL2v(muFAP-IL2v)に変更してmuPD-L1を併用したところLCMVとは非特異的にCD8陽性T細胞が活性化されてしまったので,PD-1陽性CD8陽性T細胞に特異的にIL2vを作用させたいと考えて抗PD-1抗体にIL2vを結合させたキメラ分子PD1-IL2vを開発したようだ。


 まず,PD1-IL2v投与によるT細胞活性化が同一細胞内(cis)で起きているのか細胞間相互作用(trans)によるのかを判定するために,PD1陽性ヒトCT4陽性T細胞を2群に分けてCFSEとCTVという色素で色分けし,CFSE標識されたT細胞はさらにPD-1抗体と反応させる群と抗体を添加しない群に分けてからCTV標識されたPD1陽性T細胞と共培養し,PD1-IL2vで刺激し,活性化を示すリン酸化STAT陽性T細胞の頻度を調べる実験を行ったところ,PD1阻害抗体でブロックされたT細胞では25%の活性化にとどまったのに対して,ブロックされていないT細胞はほぼ100%が活性化していた(Fig.1)ことから同一細胞内での作用(cis)が重要と結論付けた。また,PD1-IL2vはPD1阻害抗体とIL2vがキメラ分子として両方の機能を持ち合わせることによって制御性T細胞によるT細胞抑制効果を相殺できることも示した。また,PD1-IL2vを添加してGM-CSFやgranzyme Bの分泌で評価したところ,陰性対照として用いたFAP-IL2vよりも約10〜30倍の効果を認め,CD25を介する野生型IL2とは同等の効果だったことから,PD1抗体とIL2vがキメラ分子であることによって制御性T細胞を刺激しなくてもエフェクターT細胞としての機能を高められることを証明した。


 次にin vivoモデルでの効果を検討した。LCMV慢性感染症モデルマウスでは,muPD-L1とmuPD1-iL2vの組み合わせがmuPD-L1単独療法よりもLCMV特異的なCD8陽性T細胞を増加させることを見出した。遺伝子発現を網羅的に調べたところ,Cd28やIl2raなどPD1阻害療法やサイトカイン応答を高めるために好ましい遺伝子が多数発現上昇し,T細胞の疲弊に関係する遺伝子は発現低下していることだけでなく,muPD1-iL2vが脾臓や肺におけるウイルス量の低下にも寄与することを見出した。さらに,CD45.2型のLCMV慢性感染マウスからPD-1陽性CXCR5陽性TIM3陰性の幹細胞様CD8陽性T細胞とPD-1陽性CXCR5陰性TIM3陽性の疲弊CD8陽性T細胞をそれぞれ単離して,CD45.1型のCMV慢性感染マウスに移植し,muPD1-IL2vを投与して増殖を調べたところ,幹細胞様CD8陽性T細胞を移植してmuPD1-IL2vを投与した群では増殖し,疲弊CD8陽性T細胞を移植した群では増殖しなかった。


 次に膵臓癌(Panc02-H7-Fluc)正所性移植モデルマウスを用いてmuPD1-iL2vの効果を調べてマウスの生存に寄与することを確認し(Fig.3a),組織を調べたところmuPD1-iL2v投与群ではPD1やgranzyme Bが陽性の腫瘍浸潤リンパ球を多く観察した。皮下移植モデルでもmuPD1-iL2v 投与群では腫瘍の縮小効果を確認し,リンパ球を詳しく解析したところ,腫瘍浸潤リンパ球でも血液中でもCD8陽性細胞がCD4陽性細胞に比べて著しく増加しており,muPD1-iL2vは腫瘍内リンパ球におけるエフェクターメモリー細胞の増加に寄与していると考えられた。muPD1-iL2v投与群でCD8陽性細胞を除去すると腫瘍抑制効果が認められなくなることも確認し,muPD1-iL2vがCD8陽性細胞を介していることも確認した。


 さらにヒトPD1-IL2vを開発して,ヒトPD1を発現するトランスジェニックマウスを用いてPanc02-H7-Flucを生着させた膵臓癌マウスモデルでの検証実験も行って腫瘍縮小効果を確認した。すでに臨床で使われているPD1阻害抗体ペンブロリズマブと併用してもPD1-IL2vの腫瘍抑制効果が落ちないことを確認した。PD1-IL2vは,ペンブロリズマブと高用量 IL2(アルデスロイキン)を併用するよりも腫瘍抑制効果が高く,PD1阻害抗体の併用は不要かもしれないと結論付けている。


 一連の研究から抗原記憶のあるPD1陽性TCF1陽性の幹細胞様CD8陽性T細胞が同定され,分化するとPD1陽性TCF1陰性となり,granzyme B陽性TIM-3陰性細胞の増加を定量することでmuPD1-iL2vの効果としての「より良いエフェクター細胞」を測定できることがわかってきた。一方で,granzyme B陰性TIM-3陽性細胞の増加はCD8陽性T細胞の疲弊を示しているとも考えられた。研究者たちはシングルセル解析も行って,この傾向を確認している。


 さらにメラノーマ細胞株(B16-F10-OVA)を生着させたメラノーマのマウスモデルでもmuPD1-iL2vの効果を調べたところ,マウスの生存に寄与することを確認し,腫瘍内CD8陽性T細胞の増加,特にOVA特異的なCD8陽性腫瘍内リンパ球の増加,granzyme B陽性TIM-3陰性および陽性細胞の増加を認めた。OVAペプチドで再刺激するとインターフェロンγなどが発現誘導され,エフェクター細胞としての良好な反応を確認した。さらにPD1阻害療法に部分的にしか反応しない線維肉腫(MCA-205)を生着させたマウスモデルでは腫瘍サイズの縮小効果,PD1阻害療法に反応しない膵臓神経内分泌腫瘍(RIP-Tag5)細胞を生着させたマウスモデルでは生存への効果を確かめており,従来のPD1阻害療法を上回る抗腫瘍効果が期待されている。



•Science

 2つの研究チームによりLYSETというライソソームの酵素輸送に関わる因子が,CRISPRを用いたそれぞれ独自のスクリーニング方法で同定され,その機能解析結果が論文投稿日と受理もピタリと一致したback-to-backで報告されている。


1)ライソソーム

ライソソーム酵素輸送因子LYSETは細胞外蛋白質の栄養利用を可能にする(Lysosomal enzyme trafficking factor LYSET enables nutritional usage of extracellular proteins

 ドイツがん研究センターとオーストリアの分子病理学研究所の共同研究結果である。細胞が細胞外から栄養を取り込むためにはアミノ酸単量体を直接取り込むかマクロピノサイトーシス(Wiki)によって細胞外蛋白質を取り込んでライソソームで分解する機能が必要となる。がん細胞では栄養の乏しい状態でも細胞外蛋白質を取り込むことでアミノ酸を利用しやすくしており,研究者たちはこれに関わる因子を同定するため,必須アミノ酸であるロイシン欠乏環境下でもアルブミンを取り込んでアミノ酸に分解することで増殖を続けられる膵臓癌細胞株MIA PaCa-2に着目した。ドキシサイクリンでCAS9を発現誘導できるシステムでガイドRNAライブラリーを遺伝子導入し,アミノ酸成分が満たされた培地とロイシン欠乏培地を用意し,それぞれにアルブミン4%を添加する群,添加しない群に分けて培養し,生き残った細胞のガイドRNAをシーケンスして各条件依存性の遺伝子群を調べたところ,ロイシン欠乏培地でアルブミンを添加した条件の時にTMEM251(LYSET)の遺伝子がリストに挙がった。検証のため,薬剤誘導によってLYSETをノックアウトできる細胞株を樹立したところ,LYSETを欠損すると,通常培地では問題なく増殖するが,ロイシン欠乏培地にアルブミン添加して培養した時には増殖できないことがわかったため,さらに肺癌含む様々な細胞株でも調べたところ,同様の傾向を確認した(Fig.1)。その後,LYSET欠損細胞株を用いて解析を進めたところ,アルブミン取り込み後のライソソーム分解が障害されており,オートファジー関連蛋白質が蓄積する一方で,ライソソームの蛋白質分解酵素であるカテプシンBやL,グリコシダーゼの酵素活性が著しく低下することなどを確認した(Fig.2)。さらに,LYSET欠損細胞ではライソソーム酵素が未熟な状態にとどまったまま細胞外に放出されてしまうことがわかった。ライソソームへの輸送にはmannose-6-phosphate(M6P)による糖鎖修飾が関わっていることが知られており,LYSET欠損細胞ではM6Pによる糖鎖修飾が低下していたことからLYSETはM6P経路を担っている因子と考えられた。次に,M6P経路に関連するGNPTABというGlcNAc-1-phosphotransferase complexと呼ばれる酵素複合体を構成する遺伝子も先述のCRIPSRスクリーニングでLYSETと同じリストに含まれていたのでLYSETとGNPTABの関係性を調べることにした。GNPTAB欠損細胞ではLYSET欠損細胞と同様にオートファジー関連蛋白質の蓄積,ライソソーム酵素活性の低下,細胞外への放出を認めた。細胞内ではともにゴルジ体に共局在しており,免疫沈降で結合することを確認したが,LYSET欠損細胞ではGNPTABが蛋白質レベルで失われている一方で,GNPTAB欠損細胞ではLYSETの発現は失われていなかった。また,LYSET欠損細胞ではGNPTABを強制発現させてもそのプロセッシングには影響がなかったことからLYSETは成熟したGNPTABの安定化に寄与していると考えられた。

 GNPTABはムコリピドーシスⅡ型とIII型の原因遺伝子として知られており,LYSETも同様の所見になることが考えられ,LYSET欠損細胞とGNPTAB欠損細胞をそれぞれ電子顕微鏡で観察したところ,ライソソームは腫大し,サイズが不均一になり,細胞質内に多数認められ,各細胞とも類似した形態を示すことを確認した(Fig.4)。最近報告されたLYSET遺伝子バリアントの症例に言及し,R45W,Y72XについてLYSET欠損細胞にR45W,Y72Xのそれぞれのアミノ酸変異を持つLYSETを強制発現させたところ,野生型に比べてカテプシンやグルコシダーゼの酵素活性は回復しないことがわかり,LYSETの機能欠損によるライソソーム蓄積症がムコリピドーシスⅡ型とIII型に寄与している可能性を述べている。 


LYSETはライソソーム酵素の輸送とウイルス感染症に必須である(The human disease gene LYSET is essential for lysosomal enzyme transport and viral infection

 こちらはドイツのハンブルグ大学と米国のスタンフォード大学の共同研究成果の報告となっている。ウイルスが細胞に感染するときにはライソソームの蛋白質分解酵素が重要な役割を果たすことが知られており,研究者たちはウイルス感染に対して保護的役割を持つ因子を同定するために,CRISPR-Cas9を用いてヒト神経膠芽腫細胞株(U87MG)にガイドRNAライブラリーを用いて変異導入し,レオウイルス(reovirus type 3D)感染に対して耐性を獲得した細胞から,シーケンスによりガイドRNAの配列を取り出して因子を同定するという方法でスクリーニングを行った(Fig.1)。結果,M6P依存性のライソソーム輸送に関係するカテプシンやGNPTABやS1Pなどの遺伝子群が同定された中で,TMEM251が同定された。機能がわかっていなかったので,lysosomal enzyme trafficking factor(LYSET)と命名することにしたことが述べている。ウイルス感染における役割を調べるため,LYSET,GNPTAB,S1Pをそれぞれ欠損させた細胞を樹立したところ,レオウイルス感染に対する強い耐性が確認できた。GNPTABやS1Pはライソソーム酵素の輸送を担うことがわかっていたので,LYSETも同様に作用するのではないかと考えてLYSET欠損細胞等を用いて機能解析を進めて,おおむね先述の論文と同様の結果を報告している。こちらの研究は感染症に対する役割に着目しており,LYSET欠損細胞はエボラウイルス感染への耐性があることをシュードウイルスを用いて確認し,さらにSARS-CoV-2(デルタ株,オミクロン株)のシュードウイルスに対してもTMPRSS2の発現とは関係なくLYSET欠損細胞では感染が抑制された。


•NEJM

1)COVID-19


COVID-19に対するオミクロン株対応2価ワクチン(A bivalent omicron-containing booster vaccine against Covid-19

 9月末から始まったオミクロン株対応2価ワクチン(リンク)についてモデルナ社で開発されたmRNA-1273.214の第2〜3相試験の中間解析結果で安全性と免疫原性に絞った報告となっている。mRNA-1273.214にはWuhan-Hu-1型(mRNA-1273と同じ成分)とオミクロンBA.1型のS蛋白質をコードするmRNAが25μgずつ計50μg含まれている。


 3カ月以上前にmRNA-1273を3回接種済みのコホートに対して,2価ワクチンであるmRNA-1273.214を接種する群(437名)とmRNA-1273を接種する群(377名)に分けており,2022年2月から3月にかけて過去の2つの治験コホートから被験者がリクルートされ,ランダム化はせずに連続的に登録する形で実施された。スクリーニングの3カ月以内にCOVID-19に罹患歴のある症例は除外されたが,過去に感染歴のある被験者はmRNA-1273.214で22.0%,mRNA-1273で26.8%含まれていた。


 安全性については(Figure.2)注射部位の痛み,倦怠感,頭痛,筋肉痛,関節痛がいずれの群にもおおむね同様に認められ,おおむね軽症から中等症(grade 1〜2)だった。倦怠感と筋肉痛が重症(grade 3)とみなされた症例が一部にあったが同等だった。超重症(grade 4)の有害事象はなかった。ワクチン接種に関連すると考えられる有害事象はmRNA-1273.214接種群で5.7%,mRNA-1273接種群で5.8%だった。死亡例も心筋炎や心膜炎の症例もなかった。


 免疫原性については(Figure.3)接種後4週間の抗体力価は過去に感染歴のない症例ではSARS-CoV-2(D514G)に対してmRNA-1273.214接種群が5977.3,mRNA-1273接種群が5649.3,オミクロンBA.1株に対しては2372.4 vs. 1473.5だった。年齢や接種前の抗体力価を補正すると,mRNA-1273.214接種群はmRNA-1273接種群に対して1.22倍の抗体力価を得られており,非劣性の基準を満たしていた。また,オミクロンBA.1株に対しては1.75倍の抗体力価となり,優位性があると判断された。オミクロンBA.4/5株に対しては,過去に感染歴のない症例では,727.4 vs. 431.1,感染歴のある症例では2337.4 vs. 1270.8だった。S蛋白質に対する抗体反応性はD614G,BA.1,alpha,beta,gamma,deltaのいずれに対してもmRNA-1273.214はmRNA-1273に対してわずかに高い抗体力価(過去に感染歴のない症例で1.11〜1.24倍)が得られた。


 SASR-CoV-2感染例については観察期間が短く今回の評価対象にはなっていないが,mRNA-1273.214接種群では11例,mRNA-1273接種群では9例患者がいたことが付記されている。現時点では薬効にはまだ言及できないが,mRNA-1273.214の安全性は従来のmRNA-1273と同等であり,オミクロン株への免疫原性は証明されたと報告している。

今週の写真:息抜きに京都市京セラ美術館の横を散策しました。


(後藤慎平)


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