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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 210

公開日:2022.10.19


今週のジャーナル

Nature Vol. 610 Issue 7931(2022年10月13日)英語版 日本語版

Science Vol. 378 Issue 6616 (2021年10月14日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 15(2022年10月13日)日本語版 英語版








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無胸腺ラット脳に移植したヒト皮質オルガノイドによる神経構築/結核菌が宿主免疫応答を回避する仕組み/心血管疾患スクリーニングの有用性

•Nature

1)神経発達学:Article
移植されたヒト皮質オルガノイドの成熟と回路への統合(Maturation and circuit integration of transplanted human cortical organoids
 米国カルフォルニアのスタンフォード大学からの報告である。自己組織化する神経オルガノイドは,神経組織の発達や疾患をin vitroで解析するのに有力ではあるが,組織の成熟は不十分で,他の神経回路との統合的な解析もできない。そこで今回筆者らは,幼弱なラット脳へ神経オルガノイドを移植することによって,移植したヒト神経オルガノイドがラットの神経回路に組み込まれることを示し,他の神経回路との統合的な解析を試みた(News & Viewsの図参照)。
 筆者らはまず,ヒトiPS細胞を皮質細胞へ分化させ,ヒト皮質オルガノイドを作製した(図1図2)。移植したヒト皮質オルガノイドが拒絶されないように無胸腺ラットを用いて,神経回路が発達段階の出生3〜7日後に,ヒト皮質オルガノイドを体性感覚皮質へ移植した。移植したヒト皮質オルガノイドは,成熟した皮質の様々な細胞タイプにまで分化していた。
 次に筆者らは,疾患関連の遺伝子異常が神経細胞に及ぼす影響を,この移植モデルで検討した(図3)。カルシウムイオンチャンネル蛋白質CaV1.2の遺伝子異常に起因するTimothy症候群(QT延長症候群の他,神経学的発達障害を呈する)を取り上げ,Timothy症候群の患者由来のヒト皮質オルガノイドを作製しラットへ移植してみた。その結果,患者由来のヒト皮質オルガノイドでは,形態的にも機能的にも神経細胞の異常を呈し,ラット体内で皮質オルガノイドを成熟化させて解析する有用性が示唆された。
 そして筆者らは,オプトジェネティクスと言われる技法を用い,ヒト皮質オルガノイドが移植したラットの神経回路に組み込まれるかを検証した(図4図5)。オプトジェネティクスは光活性化チャネルを利用してレーザー光で神経活動を制御する技法で,具体的には,光活性化チャネルchannelrhodopsinをあらかじめ発現させた神経細胞に,体外から青色レーザーを照射することによってその神経細胞を刺激する。  
 この技法を用いることによって,ヒト皮質オルガノイドが感覚(図4)および行動動機(図5)に関連したラットの神経回路に組み込まれていることを示した。
 ヒトiPS細胞のオルガノイドを移植したらラットが喋りだした,というわけではないが,今後さらに高次の脳機能をオルガノイドで再構築できるようになることを期待(懸念?)させる論文である。

•Science           

1)微生物学:RESEARCH ARTICLE
結核菌は宿主細胞のユビキチンをハイジャックして感染細胞のピロトーシスを防いでいる(A bacterial phospholipid phosphatase inhibits host pyroptosis by hijacking ubiquitin
 結核菌が宿主免疫から逃避する機構を解析した研究で,中国北京の中国科学院からの報告である(SUMMARYの図参照)。
 一般に感染した宿主細胞は,ピロトーシス(炎症性サイトカインの産生遊離を伴うプログラム細胞死)を起こすことによって,感染の収束を図っている。そこで筆者らは,結核菌が分泌する201種類の蛋白質の中から,宿主細胞のピロトーシスを阻害する蛋白質をスクリーニングした(図1)。その結果,PtpBを見い出した。
 PtpBが宿主細胞のピロトーシスを阻害する機構はピロトーシスの最終段階で,IL-1βやIL-18などの炎症性細胞質成分が宿主細胞から流出するステップであった(図2)。炎症性細胞質成分が宿主細胞から流出する際には,インフラマゾームで切断され活性化したガスダーミンDのN断端(GSDMD-N)が細胞膜に孔を形成する必要がある。PtpBはGSDMD-Nが細胞膜に孔を形成するのを防いでいた。
 PtpBにはリン脂質から脱リン酸化する酵素活性があり,この脱リン酸化活性がPtpBが宿主細胞のピロトーシスを阻害する機構に重要であった(図3図4)。PtpBは細胞膜内側のイノシトールリン脂質,PI4PやPI(4,5)P2を脱リン酸化してしまう。PI4PやPI(4,5)P2が脱リン酸化してしまうと,GSDMD-Nが細胞膜に結合できなくなり,結果的にGSDMD-Nによる細胞膜の孔は形成されなくなる。
 さらに,PtpBが宿主細胞のピロトーシスを阻害する機構には,宿主細胞のユビキチンとPtpBとの結合が重要であった(図5図6)。PtpBは,脱リン酸化酵素ドメインとUIM様ドメインの2つのドメインから成る。PtpBのUIM様ドメインと宿主細胞のユビキチンが結合することによって,PtpBは活性化され,上述の脱リン酸化活性を発揮するようになる。これが「ユビキチンのハイジャック」と,タイトルになっている。
 結核菌が感染したマクロファージ内で宿主免疫応答をなるべく回避しようとする機構を,丹念に示した論文である。

•NEJM              

1)循環器病学:ORIGINAL ARTICLE
DANCAVAS試験の5年転帰〔Five-year outcomes of the Danish Cardiovascular Screening (DANCAVAS) Trial
 人口ベースの心血管疾患スクリーニングが死亡リスクを減じるかを,人口ベースの並行群間無作為化比較試験で検討した。デンマークのオーデンセ大学からの報告である(SUMMARYの図参照)。
デンマークに居住する65~74歳の男性4万6千人を対象に,心血管疾患のスクリーニングを勧める群と勧めない群(対照群)へ1:2の割合で無作為に割り付けた。なお対照群には本試験で割付されていることは知らせずに試験を進行させている。心血管疾患のスクリーニングは,心電図同期単純CT(冠動脈石灰化・動脈瘤・心房細動の評価),足関節上腕血圧(末梢動脈疾患・高血圧の評価),血液検査(糖尿病・高コレステロール血症の評価)の3つの手法で行った。主要評価項目は全死因の死亡である。
 心血管疾患のスクリーニングを勧める群においては,62%に当たる1万人が実際スクリーニングを受けている。中央値5.6年の経過観察によるintention-to-treat解析では,スクリーニングを勧めた群で12.6%,対照群で13.1%の死亡が確認された。スクリーニングを勧めた群で死亡割合がやや低い傾向は認められたものの,有意差には至らなかった(95%信頼区間:0.90-1.00,p=0.06,図1)。
 実際スクリーニングを受けた方が62%というintention-to-treat解析で,有意差ぎりぎりとはいえ,スクリーニングの有用性を示すことができなかった。より長期の経過観察で,今後有意差が付く可能性が期待される。

今週の写真:
この夏,暑い盛りにGODIVAのショコリキサーを初体験。まず無難にカカオ50%を試し「次回はカカオ99%に挑戦」と思っていたら,季節はあっという間に寒くなってしまいました。


(TK)

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