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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 211

公開日:2022.10.28


今週のジャーナル

Nature Vol. 610 Issue 7932(2022年10月20日)英語版 日本語版

Science Vol. 378 Issue 6617(2021年10月21日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 16(2022年10月20日)日本語版 英語版








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抗生物質の併用は細菌感染治療に本当に有効か?/嚢胞性線維症の画期的新薬の作用機序をクライオ電顕で解き明かす/SARS-CoV-2ワクチン接種後の心筋炎に自己抗体が関与する

•Nature

1)感染症:Article
抗生物質の併用が黄色ブドウ球菌の除去を減少させる(Antibiotic combinations reduce Staphylococcus aureus clearance
 昨今,AMR(Antimicrobial Resistance)の話題が飛び交っている。耐性菌の評価および耐性菌の有効な治療法開発がAMRには重要な課題である。日常臨床では,主に抗生物質を段階希釈し,そこに細菌を入れて培養することで,どの濃度で細菌の発育が阻止される(MIC)かを判定し,CLSIの基準に則り,「S」「I」「R」で報告することが常である。特に併用の場合には,チェッカーボードプレートなどを利用して,抗生物質の効果をin vitroで評価する場面もある(リンク)。
 イスラエルのグループは,黄色ブドウ球菌への抗生物質の長期曝露による効果を,コロニー計数を,DsRedとGFPと2つの異なる蛍光マーカーを用いて自動画像解析することでハイスループットな評価を可能にしている(Fig. 1)。実に25000枚を超えるマイクロプレートを評価している!
 14種類の多様な抗生物質の組み合わせを評価する過程で,各抗生物質の併用効果を「synergistic」「antagonistic」「non-reciprocal suppressive interactions(非相互抑制的相互作用)」に分類すると共に,また,先行研究に則る形でtwo-directional interaction scoresというスコアで相乗効果を定量化している。さらに,8時間という長期曝露の評価系を可能にしている。その過程で残存する細胞集団に注目することで,より多くの薬剤を追加すると,かえって長期的なクリアランス効果が低下することを示した(Fig. 2)。例えば,細胞壁阻害薬と静菌的なタンパク質合成阻害薬を組み合わせると,両方の薬剤を致死濃度で使用したにもかかわらず,単独で投与した場合よりも,残存する細菌集団が増加する。
 一方で,増殖しない‘persisters’を標的とする薬剤を使用すると,併用による抑制効果が回避できることを示している。また,β-ラクタム耐性株に対しては,一般的に使用されるβ-ラクタマーゼ阻害薬を追加すると,治療効果が高まるどころかかえって低下する可能性があることを示し,この知見をin vitroだけでなく,Galleria mellonella幼虫モデルを用いて示している(Fig. 4)(日本でもこの幼虫モデルに似通ったモデルとしてカイコのモデルが注目されている)。
 これらの結果から,より効果的で耐性のない多剤併用療法を設計するために,従来のMIC法ではなく,長期的なクリアランス効果を包括的に評価することの重要性を示している。なぜ,このように併用により効果が減弱してしまうかという詳細な機序に関しては,論文の中であまり触れられていないが,本論文はこれまでの臨床プラクティスに一石を投じる報告であると言えよう。

•Science

1)呼吸器:Research Article
TrikaftaによるΔ508CFTRの相乗的なレスキューが分子構造から判明(Molecular structures reveal synergistic rescue of Δ508 CFTR by Trikafta modulators
 Trikaftaはelexacaftor/ivacaftor/tezacaftorの3剤合剤で,CFに対して初めて承認された3剤併用療法で,対象はCFTR遺伝子に1つ以上のF508del変異を有する患者である。これまでに%FEV1のベースラインからの変化を主要評価項目とした臨床試験で有効性を示されている(リンク1リンク2)。なお,関連論文も以前のTJH No.20で紹介されているので,こちらも参照されたい。
 ロックフェラー大学のABCトランスポーター(CFTRはABCトランスポーターファミリーに属する)を専門とするグループが構造生物学の観点から,このTrikaftaがいかにCFTRの機能を回復させているかを解き明かしている。
 CFTRはABCスーパーファミリーの中で,唯一,イオンチャネルとして機能する(リンク)。本論文の理解のためには,CFTRの構造理解が必須となる(リンク)。CFTRの構造は,主にアニオン伝導経路を形成する2つの膜貫通ドメイン(TMD),ATPを結合し加水分解する2つの細胞質ヌクレオチド結合ドメイン(NBD),チャネル開口にリン酸化が必要な独自の制御(R)ドメインから構成される。
 300を超える変異がCFの原因となっているが,(欧米の)CF患者の約90%は,Δ508 CFTRを少なくとも1コピー有する。このΔ508変異体は,チャネルが細胞内に留まり,早期に分解されるという細胞内のトラフィッキングの障害と,さらに,細胞膜に到達したわずかなチャネルが不安定で生理活性が損なわれている。
 F508はNBD1(1つ目の細胞質ヌクレオチド結合ドメインドメイン)の表面に存在しており,TMヘリックスの細胞質領域および細胞内ループと相互作用している。この相互作用が,CFTRのフォールディングとATP依存性のNBD二量体化と開孔口との結合に重要である。実際にΔ508を含むNBD1の結晶構造とWT NBD1とほぼ同一の構造を取るという知見から,ドメイン間の相互作用が重要であることを支持している。
 現在使用されているCFTRモデュレーターのうち,いくつかのものは薬理学的作用がよく研究されている。特にivacaftorとタイプIコレクター(tezacaftorはここに含まれる)の分子メカニズムは詳細に研究されている。しかし,elexacaftorは最近発見されたばかりで,その作用機序については不明な点が多かったが,著者らはクライオ電顕を駆使して解明している。
 前書きが長くなったが,まず著者らはクライオ電顕で観察するために,ATP結合およびNBD二量体化の構造を安定化させる必要があり,この目的のためにE1371をグルタミンで置換している。ゲルシフトアッセイによる未成熟型のタンパクと成熟型のタンパクの比率の観察,共焦点顕微鏡による観察でΔ508およびΔ508/E1371Q CFTRが共にERに保持されることから,Δ508 CFTRと同様に,二重変異体Δ508/E1371Qがその後の解析に使用可能なことを示している(リンク)。
 次にERに留まっているΔ508/E1371Q CFTR(つまり細胞膜へのトラフィッキングが起きていない状態の分子)を精製し,約6Åの解像度で構造を決定している。この構造からΔ508がドメイン間のアセンブリを阻害することを示しており,さらにWT CFTRでは,構造化されたRドメインがサイトゾルの裂け目(恐らくNBD1とNBD2の裂け目を指していると思われる)に挿入されるが,Δ508 CFTRのRドメインは主にNBD1の表面に沿っており,サイトゾルの裂け目の部分に存在していない。
 また,Δ508 CFTRでは,NBD1の安定性がなくなり,NBDの二量体化が起こりづくなる。NBDの二量体化はCFTRのチャネルゲーティングに重要なため,細胞膜に到達したとしてもチャネル機能の障害を起こすことになる。
 次に,CFTRに対するモデュレーターが具体的にどのような構造変化を生んでいるのか調べるために,(i)lumacaftor,(ii)elexacaftor,(iii)lumacaftor+ elexacaftor,(iv)Trikafta(ivacaftor+tezacaftor+elexacaftor)の存在下でΔ508/E1371Q CFTRのクライオ電顕による構造解析を行っている。
 Δ508 CFTRの構造は,lumacaftorの有無で変化しなかった。これはタイプIコレクター(lumacaftor)がCFTR生合成の初期段階でTMD1に結合して安定化し,早期の分解を防ぎ,完全に折り畳まれたCFTRが形成される確率を高めるという先行研究と一致するものであった。一方,タイプIIIコレクターであるelexacaftorはΔ508 CFTRのNBD1を安定化させ,しっかりと裂け目を有したNBDの二量体を形成した。elexacaftor+lumacaftorはΔ508CFTRのNBD二量体化をほぼ完全に復元した。
 Trikafta(ivacaftor+tezacaftor+elexacaftor)を結合したΔ508 CFTRのクライオ電顕では,ivacaftor,tezacaftor,およびelexacaftorが高密度に密集しており,TMDを取り囲む三角形のベルトを形成していた。詳細な構造生物学的解析・化学的な解析は十分に理解できなかったが,Δ508 CFTRに対して,Trikafta投与では,それぞれの薬剤がCFTRの適切なfoldingとチャネル機能の改善に相乗的に効果を発揮していることを示している。

•NEJM

1)免疫:Correspondence
SARS-CoV-2ワクチン接種後の心筋炎におけるIL-1RA抗体(IL-1RA antibodies in myocarditis after SARS-CoV-2 vaccination
 SARS-CoV-2ワクチンによる有害事象は大きな注目を浴び,その中でも特徴的な事象として心筋炎が挙げられる。日本においても,かなり生データに近いが,こちらにSARS-CoV-2ワクチン接種後の心筋炎のデータが列挙されている(リンク)。成人および小児の多系統炎症症候群(MIS-C)の症例で,IL-1RAを標的とする中和自己抗体が認められた(リンク)という最近の報告を受けて,本研究ではドイツのグループがSARS-CoV-2ワクチンの接種後の心筋炎でもIL-1RA抗体が関与するかどうかを精査・解析している。
 SARS-CoV-2ワクチン接種後に臨床的に心筋炎が疑われた69人の患者(14〜79歳)が本研究にエントリーされた。さらに,69人の患者のうち,61人が心内膜心筋生検を受け,40人が心筋炎の診断に至った。
 組織学的に心筋炎が確認された患者40人のうち,抗IL-1RA抗体は,21歳以上の患者28人中3人(11%)を検出し,さらに,21歳未満の患者12人中9人(75%)で検出された(Fig. 1)。生検で心筋炎の診断が除外された21人の患者では抗IL-1RA抗体は検出されなかった。生検で心筋炎が確認されたIL-1RA抗体陽性の患者は,2回目のワクチン接種後,早期に症状が出現し,IL-1RA抗体陰性の患者よりも心筋炎の経過が軽度であった。
 また,IL-1RA抗体は,ワクチン接種を受けた対照者214人中2人(1%)と低値であり,また,COVID-19パンデミック前に診断され,組織学的に心筋炎が証明された患者に関しても125人中2人(2%)と低値であった。
 ウエスタンブロットでは,IL-1RA抗体陽性・陰性の患者共に,遊離IL-1RA(16kDa)が認められている一方,IL-1RA抗体陽性患者では,様々なIL-1RAのアイソフォーム(IgGやIgMと結合した複合体)を認めていた。さらに,IL-1RAアイソフォームは,スレオニンの111位で過剰リン酸化されており,一方,コントロールから得られたサンプルではどの検体でも過剰リン酸化は起こっていなかった。
 抗IL-1RA抗体陽性の患者では,遊離IL-1RA血漿レベルは陰性患者より優位に高く,遊離IL-1RA血漿レベルと心臓損傷のマーカー(トロポニンT,CK,CK-MB,またはpro-BNO),CD3+ T細胞およびCD68+マクロファージの心臓組織浸潤,およびCRPと負の相関があった。
 以上より,SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後,生検で確認された心筋炎の若年患者では,IL-1RAおよび過剰リン酸化IL-1RAアイソフォームに対する中和抗体を認め,これらの中和抗体が,in vitroでIL-1RAの生物活性を阻害している機序が考えられた。

今週の写真:日の丸飛行隊が表彰台を独占した大倉山ジャンプ競技場。果たして,2回目の札幌五輪はあるのか。
(南宮湖)

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