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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 214

公開日:2022.11.16


今週のジャーナル

Nature Vol. 611 Issue 7935(2022年11月10日)日本語版 英語版

Science Vol. 378 Issue 6618(2021年10月28日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 19(2022年11月10日)日本語版 英語版








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PD-L1*PD-1への介入は免疫監視増強で抗老化効果/抗老化物質SpermidineはMTP活性亢進でリンパ球疲弊改善/Long Covid関与のCCL11と活性化Microglia

 今週は老化現象に関する日本からの二論文の紹介となる。
 老化は実際に自分が経験しないと,その実態が理解できない。研究の遅れもそれゆえであろう。筆者の実感では,老化はまず視力等身体的な面が弱る。次に先輩から聞いてはいたが,75歳を越えると今度は記銘力の低下が進む。ド忘れの頻度が増え,その内容にも我ながら驚く。今週はレオナルド・ダ・ビンチの名前が出てこない(焦る!なぜ?どこが切れた?)。不思議なことにモナ・リザ(もちろん画像は見えている)の名も出てこない。何か連携して記憶収納されているようだ。
 もう長らく抗加齢といわれているが,サイエンスとしてどう展開しているのだろうか?

•Nature

1)Aging
PD-L1*PD-1のブロックで老化の監視と老化の表現型が改善される(Blocking PD-L1–PD-1 improves senescence surveillance and ageing phenotypes
 メディアでもニュースになった東京大学医科学研究所,中西グループの報告である。
 老化におけるimmune surveillanceの低下はいわれていたが,その抗原同定からして一歩一歩詰めるにはハードルは高い。中西グループは理研時代,老化モデルマウスとしてp16-creERT2-tdTomatoを作成(リンク)で老化特性を報告している(p16:Wikiリンク)。今回のNature論文でもこのマウスにより次々とデータが示される。
 まずnutlin3(Wikiリンク:MDM2のp53結合部を阻害)による老化細胞(n-Sen)とDNA障害による老化細胞(d-Sen),それに栄養遮断によりquiescentになった細胞(Quie)でどの分子が老化細胞マーカーになるかを調べたところ,実に免疫チェックポイントに関わる分子群が見出され,その1つPD-L1陽性がheterogenousに見られる(なぜheterogeneousに分布するかに関しても検討はなされているが略す)。
 これをp16マウスで調べると,月齢9ヶ月のold mouseのlung,liver,kidneyなどでPD-L1陽性,tdTomato陽性が高頻度に示される(Fig.1)。

 こうして免疫チェックポイント関連遺伝子が老化と相関する事実が見出されたところで,まずCD8+T細胞による殺細胞とどう関わるかをMPF(mouse pulmonary fibroblast)を用いたin vitro系で検討し,実際に活性化CD8+T細胞を加え,殺細胞効果を確認している。
 では何を抗原として認識しているのか?
 老化分子としてSASP(senescence associated secretory phenotype)など知られているが,意外にもendogenous retroviral elements(ERVs)がMHC class Iで認識されるneoantigenとして取り上げている。このERVsは最近の論文でも指摘されているが,tdTomato陽性(p16陽性)発現解析でERVs類似蛋白の発現を見るとvolcano plotで高発現されている(Fig.2f,g)。
 しかしCD8+T細胞でcytotoxicな変化を見るのはPD-L1陰性の細胞であって,PD-L1陽性細胞では効果がない。ここで当然,主役の抗PD-1抗体の出番となり,PD-L1陽性細胞においても抗PD-1抗体添加で殺細胞効果が出現する。

 この後は,研究グループはさらに,この効果が確かにCD8+T細胞によることを,anti-CD8抗体存在下に検討し(あるいはreviewerの要求か?),殺細胞効果が抗CD8抗体存在下で失われることを示している。
 最後にin vivoで抗PD-1抗体による老化性臓器障害,ひとつには老化性肺胞拡大の是正(こんなにも?!)(Fig.4c),あるいはhepatic lipidosisの改善(Fig.4d),またgrip strengthの改善(Extended Fig.7f)が示されている。
 本論文は東京大学医科学研究所からプレスリリースがある。また中西研の論文はSenolysisとしてTJH#129でも取り上げている。

 以上,cancer領域臨床試験での適用拡大にばかり気を取られている間に,実は老化細胞のeliminationに抗PD-1抗体が用いられる可能性が浮上している。
研究グループは最後のdiscussionの中で,実際にcytotoxic CD4+T細胞がsupercentenarianで見られるという理研の成績(リンク)を示している。さらに動物モデルではあるがPD-L1/PD-1系の抑制でAlzheimerモデル動物の脳病変や認知機能改善の報告論文(リンク)も上げている。
 癌治療におけるICBは自己免疫病態惹起など問題が多いが,少量,三か月程度ではAEは少ない可能性を指摘している。
 しかしsenescenceはcarcinogenesisと表裏関係である。低用量といえども長期的経過の臨床観察は重要だと考える。

•Science

(DOI: 10.1126/science.abj3510
※Figのリンク切れはdoiやFigタイトルのコピペで画像再検索を

1)Aging
スペルミジンはミトコンドリアMTPを活性化しマウスの抗腫瘍免疫を改善する(Spermidine activates mitochondrial trifunctional protein and improves antitumor immunity in mice
 今週は老化をKeywordに論文を解説している。
 皆さんはどこまでご存知か? 抗老化食品は,社会高齢化によりあちこちで目にする。その1つがポリアミンであり,中心的な物質がSpermidine(SPD)(Wikiリンク)である。その機能は2018年のScience誌総説に詳しい(リンク,また生体内合成に関しては総説のFig.1 Regulation of the intracellular spermidine pool)。

 本論文は10月末のScience誌のResearch Articleで京都大学本庶研グループ,東北大学加齢医学研究所小椋グループも加わっての解析である。この論文は検索しても日本のメディアは取り上げていない。しかしいわゆるサプリメントとして知られるSPDが,実はmitochondria内膜の脂肪酸酸化のMTP(Mitochondrial trifunctional protein,Wikiリンク)に結合し,Allosteric効果でFAO(Fatty acid oxidation),ATP産生を亢進する。しかもその効果はNature論文でも紹介した抗PD-1抗体効果を増強するという。抗老化に関心があれば読まざるを得ない。

 研究グループはまずSPDがマウス血清やCD8+T細胞では加齢で減少することを示す(Fig.1A,B SPD combination Improves antitumor activity of PD-1 blockade therapy and enhances mitochondrial function of CD8+ T cells)。老化マウス腫瘍モデルの腹腔に抗PD-L1抗体+SPDを投与すると抗腫瘍活性が増強される(Fig.1C)(もちろんSPDのみでは効果はない)。それは実際に腫瘍組織CD8+T細胞が増殖することでも示される。
 こうした殺細胞効果増強の背景にいかになる細胞生理の変化があるのか? 研究者らは腫瘍draining lymph nodes中のCD8+T細胞のOCR(oxygen consumption rate),OXPHOS(oxidative phosphrylation),ATP産生,増殖能などがSPDで亢進することを示す(Fig.2)。

 次に研究グループは,このSPD効果としてまず蛋白合成亢進(eIF5AのhypusinationでSPDが関与)等検討した。その結果,むしろSPDが直接mitochondriaに関与するとして,SPDをcoatingしたbeadsを用い,関与するmitochondria蛋白を探索した。ゲル電気泳動などの操作をへて目的蛋白を均一化することにより,これらはMTPを構成するHADHAとHADHBであり,一対一結合をしていることを示した(Fig.3)。

 ではSPDが結合することにより,FAO活性はどう変化するか? 懐かしい酵素学enzymologyのkinetic dataで示される(Fig.4 SPD allosterically activates enzymatic activities of MTP)。筆者が50年前親しんだMichaelis plotやdouble reciprocal plotのデータで,SPDのHADHAへのKmは0.4μMと高親和となり,またVmaxでは2倍以上と示される。HADHAをリンパ球特異にKOすると,抗PD-1抗体抗腫瘍増強のSPD効果はなくなる。
 SPDが関与するとされるeIF5Aへのhypusination反応のKmは6μM,あるいはEP300への親和度も同様に比較的高く,むしろSPD効果の本質はMTP活性化にあるのではないかとDiscussionでは述べている。なお本論文には京都大学からプレスリリースが出ている(リンク)。

 以上,臨床的なCD8+T細胞のexhaustと表現される背景にいかなる細胞生理があるかが示された。抗老化サプリメントで知られるSPDが実はmitochondriaのFAOやOXPHOSを増強するのが生理的意義だと理解される。同時に呼吸器専攻で遠く離れていたmitochondriaのβ-oxidationの復習にもなった。大変興味深く,勉強になる論文であった。
 SPDの生理機序がわかると,創薬への道も開ける。抗老化の臨床展開はどう進むだろうか?

•NEJM

1)Covid-19
Long Covidの認知障害(Cognitive deficits in long Covid-19
 SARS-CoV-2感染で話題であり,臨床的には深刻な「Long Covid」がある。
 pathogenesisから理解できるような短い総説が今週号に見つかったので紹介する。
 一体cognitive deficiencyとは何を指しているのか?

 ドイツのハイデルベルク大学病院神経内科の医師達による。
 引用文献は5つであるが,その1つが2022年のCell誌の論文(リンク:Yale大学岩崎先生が最後から2番目の著者)である。
 後期高齢者がギクッとする「Brain fog」の状況とは,注意集中力,決断能,言語,処理速度,記憶などの障害が,不安,抑うつ状態,疲労感などとともに見られる状態という。

 このCell論文にはポイントが2点ある。
 1つは病態形成に関連する細胞がmicroglia(マクロファージ機能:Wikiリンク)である。2つ目は関与する炎症性サイトカインとしてのCCL11(eotaxin:Wikiリンク)である。CCL11によりmicrogliaは活性化され,活性化microgliaは皮質下の白質部ではoligodendrocyteによるmyelinationを障害する。一方記憶に関連する海馬では活性化microgliaはneurogenesisを障害しcognition不全となる(Fig.1:Cell論文の内容が一目でわかる)。
 同じようなpathogenesisは老化過程でも慢性に進行するのか?

 これらのlong covidは感染による呼吸器症状がマイルドでもCCL11の反応が惹起され脳に病態が発生する。著者らはこうした点から,将来的にCSFにおけるCCL11の計測,あるいはMRIで局所的なdemyelinationが診断できないかと論じている(一部に臨床データ記述あるが出典不明)。

 以上,日本でも議論されているように,まず病態が不明でそれに基づく診断が困難なlong covidは,主治医がその主訴を受け入れないこともある。コロナの流行は3年を経て世界的にend stageに近いと思われるが,今回コロナで表面化したlong covidはインフルエンザ感染も含め将来的課題を提起している。
 コロナに関する後遺症は,TJH#197でも取り上げている。

 なお今週のNEJMには呼吸器関連のoxygen saturation targets論文もあるが,negative studyである。患者数が多い(約2500症例)と何らかの有意差が期待されると考えたのか? ICU入室病態のpathogenesis分類やintervention状況など層別しないでは,long covid同様,真実は闇の中である。

今週の写真:秋深まる仙台郊外夕暮れの大観音
隣接ホテルのスポーツセンターで3年前からコアトレに参加。75歳,キツイ!抗加齢?加齢促進?いつまで続くか?
(貫和敏博)

※500文字以内で書いてください