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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 218

公開日:2022.12.21


今週のジャーナル

Nature Vol. 612 Issue 7940(2022年12月15日)日本語版 英語版

Science Vol. 378 Issue 6625(2021年12月16日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 24(2022年12月15日)日本語版 英語版








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オミクロン株の病原性や感染性/CAR-T治療を強化するIL-2サイトカイン回路/二重特異性抗体の効果と今後の課題

•Nature            

1)感染症学:Article
SARS-CoV-2オミクロン変異株のBA.4/BA.5系統をBA.2系統と比較する(Characterization of SARS-CoV-2 Omicron BA.4 and BA.5 isolates in rodents
 最近のCOVID-19の状況を見ていると,ワクチン接種の効果もあってCOVID-19自体の重症者は少ないものの,双方サージカルマスクしていても感染したと思われるような事例に遭遇しては,「BA.4株やBA.5株のオミクロン株は感染伝播しやすい?」と感じることが多い。本論文では,BA.4株やBA.5株と,初期のオミクロン株であるBA.2株やデルタ株との違いを,ハムスターやマウスの動物実験で調べている。東京大学医科学研究所の河岡義裕先生らのグループからの報告である。
 図1では,感染した野生型ハムスターの体重減少やウイルス増殖を観察している。デルタ株感染後の体重減少に対し,いずれのオミクロン株も体重減少は認められなかった。またデルタ株の肺内増殖能に比し,いずれのオミクロン株も有意に肺内増殖能が低下していた。ヒトACE2を発現しているハムスターを用いても同様の結果であった(図3)。野生型ハムスターの病理所見を見てみると,オミクロン株で惹起される肺の炎症所見は,デルタ株に比し軽度であった(図2)。やはりオミクロン株では病原性が低下していることが窺われるものの,BA.2株とBA.4株とBA.5株では違いは認められなかった。
 さらに,ハムスターに2種類のオミクロン株に接種した競合実験を行った(図4)。BA.2株とBA.4株との増殖性は同程度であったものの,BA.5株はBA.2株よりも肺や上気道での増殖性は高かった。BA.5株はBA.2株よりもウイルスの適応力が高く,これがBA.5株の感染伝播のしやすさにつながっていることが示唆された。

•Science

DOI: 10.1126/science.aba1624)        
1)合成生物学:RESEARCH ARTICLE
合成サイトカイン回路を用いて免疫回避の腫瘍内へT細胞を集積させる(Synthetic cytokine circuits that drive T cells into immune-excluded tumors
 腫瘍抗原に対するCAR(キメラ抗原受容体,chimeric antigen receptor)を発現させたT細胞(CAR-T)は,固形腫瘍の治療として試みられているものの,その効果は芳しくない。そこで本論文では,CARが認識する腫瘍抗原Aとは異なる腫瘍抗原Bを認識してIL-2を産生するサイトカイン回路「synNotch」をCAR-Tに導入した。このsynNotch-CAR-Tを担癌マウスに投与してみると,腫瘍内に著名なT細胞浸潤が認められるようになり,腫瘍の縮小と生存の延長が得られた(PERSPECTIVESの図サマリーの図参照)。University of California San Franciscoからの報告である。
 筆者らの開発したサイトカイン回路「synNotch」は,Notchの膜貫通ドメインに細胞内ドメインとして,IL-2遺伝子の発現を惹起する転写因子が接続してある(図1B:Synthetic synNotch→IL-2 circuits can drive local T cell proliferation independent of TCR activation or cooperatively with T cell killing)。腫瘍抗原Bを認識する細胞外ドメインにこのsynNotchを接続することにより,腫瘍抗原Bを認識すると転写因子が細胞内に遊離して,IL-2を産生分泌するようになる仕組みである。この自己が分泌するIL-2によってCAR-T細胞は活性化され,抗腫瘍効果を発揮するようになる(オートクライン系)。なお筆者らは,synNotchの基本コンセプトを,2016年に2報Cell誌に連報で報告している:一報はNotchの膜貫通ドメインについて,もう一報は抗原を認識する細胞外ドメインについてである。
 CARとsynNotchを発現するT細胞を別々にしたパラクライン系では,抗腫瘍効果が認められなかった(図2B:Autocrine synthetic IL-2 circuits strongly improve T cell cytotoxicity against multiple models of immune-excluded syngeneic tumors)。腫瘍内のT細胞を調べてみると,CARとsynNotchを発現するT細胞が同じオートクライン系では腫瘍細胞に特異的なT細胞の数が増加していたのに対し,CARとsynNotchを発現するT細胞を別々にしたパラクライン系ではナイーブなT細胞の数が増加していた(図5A:Profiling of the tumor microenvironment shows expansion and activation of CAR T cells with the autocrine IL-2 circuit)。またCARが認識する腫瘍抗原AとsynNotchが認識する腫瘍抗原Bを同一にしても,抗腫瘍効果は認められなかった(図3D:Synthetic Notch–based cytokine delivery is required for effective control of KPC tumors)。
 CAR-T療法を強化する手法としてsynNotchは面白い手法である。しかしながら,本論文では,最適なモデル抗原を自由に選択できる動物実験で抗腫瘍効果を調べており,臨床応用する際に,最適な腫瘍抗原を2種類用意してそれぞれにCARとsynNotchを用意するのは大きな課題のように思われる。

•NEJM            

1)血液病学:EDITORIAL
二重特異性抗体 ― 何を,なぜ,どのように?(Science behind the study: the expanding clinical role of bifunctional antibodie
 本号では,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するグロフィタマブと多発性骨髄腫に対するタルケタマブと二重特異性抗体を用いたORIGINAL ARTICLEが報告されている。タルケタマブの報告についてはAASJサイトでも取り上げられている。グロフィタマブもタルケタマブもどちらも二重特異性抗体で,CD3を介したT細胞との結合と,腫瘍抗原(グロフィタマブはCD20,タルケタマブはGPRC5D/G protein–coupled receptor,family C,group 5,member D)との結合を目論んでいる。グロフィタマブは第1/2相試験で,患者の39%で完全奏効が得られた一方で,グロフィタマブを投与された患者の63%でサイトカイン放出症候群が認められ,投与患者の4%ではグレード3以上のサイトカイン放出症候群が認められた。タルケタマブは第1相試験で,やはりサイトカイン放出症候群や皮膚障害や味覚障害などの有害事象があったものの忍容性はあり,抗腫瘍効果に期待が持てる結果であった。
 このEDITORIALでは,モノクローナル抗体と二重特異性モノクローナル抗体の作製方法や,今回報告されたグロフィタマブなどの構造などが図1でわかりやすく図解さている。
また二重特異性抗体には2種類あることが解説されている。1種類がグロフィタマブやタルケタマブのように,T細胞と腫瘍抗原との結合を目論む二重特異性抗体で,「bifunctional T-cell engagers(BiTEs)」と呼ばれている。もう1種類が2種類の腫瘍抗原を認識する二重特異性抗体で,EGFRとc-METを認識して非小細胞肺がんに有望視されているアミバンタマブが例として挙げられる。
 このように抗腫瘍効果が示されて臨床応用されてきている二重特異性抗体ではあるが,その臨床効果を発揮する機序はよくわかっていない。そもそも高分子が浸透しにくい腫瘍組織へ高分子である二重特異性抗体がどれ程浸透できるのか? BiTEsだけで免疫チェックポインド機構などの免疫抑制状態を解除できるのか? など今後解明すべき点がこのEDITORIALでは挙げられている。

今週の写真:
自動販売機で「ラーメンスープ」という飲み物を見つけました。高血圧には良くなさそうですが,実際飲んでみるとどんな感じなんでしょうか。
(TK)


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