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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 219

公開日:2022.12.28


今週のジャーナル

Nature Vol. 612 Issue 7941(2022年12月22日)日本語版 英語版

Science Vol. 378 Issue 6626(2021年12月23日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 25(2022年12月22日)日本語版 英語版








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腸内細菌叢が運動のモチベーションも支配/体を消せる蛙の仕組み/難治性食道炎の新たな治療法

 今年も残すところ3日程度になりました,早いものでコロナ禍になって4年目になりますね。やる気を出す方法をネット検索すると,向上心ある仲間と共に過ごす,環境を大きく変える,規則正しく生活する,好きな音楽を聴く,などありますが,「運動して脳をすっきりする」とも出てきます。運動して脳をスッキリさせるのには,実は腸内細菌叢が関与していたというNature論文を筆頭に興味深い論文を紹介していきます。

•Nature

1)微生物学
運動するモチベーションを高めるマイクロバイオーム由来の腸–脳経路(A microbiome-dependent gut–brain pathway regulates motivation for exercise
 「健康には日常的な運動を取り入れましょう」というのは常識であり,それが生活習慣病を含めた慢性疾患や認知機能定価のリスクを下げることは数多くの研究成果でも明らかになっている。それでも多くの人は運動するのが億劫になってしまう,また運動を継続するモチベーションを保つことも難しい。気合が足りないせいか? 精神論の問題かと思っていたが,実は腸内細菌の働きにより長期的な運動のモチベーションを高める腸–脳経路が存在していた。本研究は米国ペンシルバニア大学微生物学教室からの報告で,マウスを用いた実験で身体活動中のドーパミンシグナル伝達を高めることで運動パフォーマンスを向上させる,腸–脳経路を明らかにしている。具体的には,腸内のマイクロバイオーム依存的なcannabinoid代謝物の産生が,#TRPV1(Transient receptor potential cation channel subfamily V member 1)を発現する感覚ニューロンの活動を刺激し,運動中に腹側線条体でドーパミンレベルが上昇するらしい。このメカニズムはNEWS and VIEWSで紹介されている図がわかりやすい(リンク)。
 意欲的な行動や身体活動の開始に決定的に関与するのが,脳内の線条体領域である。その線条体の運動反応に及ぼすマイクロバイオームの影響を探るため,抗菌薬を投与したマウスのトレッドミル運動前後の線条体のRNA-sequencingを実施し,合計44,100個の細胞の塩基配列を決定した。そこから神経細胞集団に着目し,ドーパミン受容体D1およびD2を発現する*中型の有棘細胞の主要なグループを同定している。その結果ArcやFosなどの即時型遺伝子の発現が運動によって強く上昇すること,そしてArcやFosなどの即時型遺伝子の上昇はマイクロバイオーム非存在下では減衰することも確認している(リンク)。さらに末梢でのエンドカンナビノイド受容体の阻害,脊髄求心性ニューロンの切除,あるいはドーパミンの遮断により,運動能力が消失することも確認している。これらの所見は,運動パフォーマンスの個体差はマイクロバイオームに依存する,腸内細菌のコロニー形成が運動を契機とした線条体の活性化に重要であることを示唆している。
 腸のTRPV1刺激とするならばカプサイシンに関連するので,キムチが運動能力アップになるということか?とAASJにも取り上げられている(リンク)。

*線条体の大多数を占める直径12〜20μの細胞体と樹状突起上に多くのspineを持つニューロンで,medium spiny neuron(MS細胞)と呼ばれる。動物の意欲を司るとも言われている(動物の意欲を司る2種類の線条体神経の活動と役割分担について解明:リンク
#TRPV1:Wikipedia

•Science

DOI: 10.1126/science.abl6620
1)動物学
ガラス蛙(和名:アマガエルモドキ)は肝臓に血液を隠し,透明性を保つ(Glassfrogs conceal blood in their liver to maintain transparency
 米国デューク大学からの報告で,ガラスフロッグ(蛙)から透明性の教訓を学べという論文を紹介したい。この蛙が今週号の表紙も飾っており,体が透き通っていてまさに葉のように見える。筋肉や腹部の皮膚組織が非常に透明であるのは,組織の透明性を保つために光を吸収する赤血球のほとんどを循環から外し,鏡のような肝臓の中に隠しているからである(リンク:The glassfrog “hides” red blood cells in its liver during sleep, thereby appearing transparent on its ventral side)。マンガの透明人間も同様の仕組みならありえる?とまで考えてしまうほどの驚きでした。
 地球上の生物の特徴として,ほとんどの動物や植物は見ることができる。この可視化は捕食,摂食,交配に重要であるが,すべての動物に当てはまるわけではなく,中には透明な動物もいる。ガラス蛙の名前は体が透明で皮膚が半透明であることから付いており,外敵から逃れるために,寝床となる葉に対してカモフラージュしている。本研究ではガラス蛙の透明度が活動によって変化し,睡眠中に最も高い透明度が得られることを発見した(リンク:Glassfrog transparency and leaf-like coloration changes with activity)。脊椎動物の透明性を阻むものの1つに,ヘモグロビンなどの呼吸色素の存在がある。光音響顕微鏡(PAM)の3つの手法(高解像度,深部透過,高速)を用いて,安静時と運動時の全身および特定組織の赤血球灌流を非侵襲的に測定。これにより,赤血球循環のダイナミックな変化を高精度でリアルタイムに捉えることができ,ヘモグロビンの飽和度(sO2)により酸素化状態を測定している。ガラス蛙は睡眠中に赤血球を肝臓に「隠し」,腹側に高い透明度を実現させ,目覚めて活動的になると循環赤血球量がかなり増加する。睡眠時は赤血球の約89%を肝臓に高密度に詰め込むことができるが,それにより肝臓内や血管内の凝固障害が生じていないのも驚くことである。ちなみに,ガラス蛙は腹部の皮膚にメラニン色素や反射構造を持たないため,透明性がさらに向上しているらしい。
 本研究は,ガラス蛙が赤血球を再配分するための抗凝固メカニズムが注目されており,ヒトの血管障害や凝固異常の研究を発展させる可能性をもっている。
 こちらもAASJに記事掲載されている(リンク)。


•NEJM

1)アレルギー学
成人および青年時の好酸球性食道炎におけるデュピルマブの有効性(Dupilumab in adults and adolescents with eosinophilic esophagitis
 デュピルマブは,インターロイキン-4とインターロイキン-13のシグナル伝達を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体であり,呼吸器内科医が使用する難治性気管支喘息の抗体製剤の中でも多くの保険適用疾患を有する薬剤である。本研究は,好酸球性食道炎に対してデュピルマブの有効性を検証した米国主体の第3相臨床試験である。
 本試験は3つのパートで構成され,パートAではデュピルマブ300mgを週1回皮下投与群とプラセボ群に(1:1),パートBではデュピルマブ300mgを週1回投与群および2週間隔で投与群とプラセボ群(1:1:1)を24週まで投与している。最後にパートCは,パートAを完了した患者にはデュピルマブ300mgを週1回で52週まで投与(パートA〜C群)。24週時点での主要エンドポイントは,組織学的寛解(好酸球が強拡大1視野あたり6個以下)と,嚥下障害症状質問票(DSQ)のスコア(0~84で,数値が高いほど嚥下障害が高頻度または重度)のベースラインからの変化量にしている。
 結果として,パートA:組織学的寛解はデュピルマブ群42例中25例(60%)に対してプラセボ群39例中2例(5%)と有意に効果を示していた。パートB:組織学的寛解はデュピルマブの週1回群80例中47例(59%),デュピルマブの2週間隔群81例中49例(60%)に対してプラセボ群79例中5例(6%)であった(リンク)。しかし,DSQスコアの平均(±SD)は,デュピルマブの週1回投与群はパートA,Bともプラセボ群と比較してスコアが改善していたが,デュピルマブの2週間隔群では改善されなかった。重篤な有害事象は,パートAまたはBの投与期間中9例(デュピルマブの週1回投与を受けた7例,デュピルマブの2週間隔投与を受けた1例,プラセボの投与を受けた1例)に発現したが1例のSIRS以外は因果関係が不明と判定されていた。
 好酸球性食道炎患者に対するデュピルマブ300mgの週1回皮下投与により,組織学的転帰が改善し症状も軽減することが示された。2週間毎の投与では症状改善が得られなかった(リンク)のは,2週間毎が治療内容になっている難治性喘息や好酸球性副鼻腔炎と異なる点である。本試験では対象者の約7割がステロイド治療を受けて不応性であったことからも,本試験の有効性は大きな成果である。

今週の写真:コブダイ,寒鯛とも言われ冬が旬で脂が程よくのった白身の高級魚である。1m近くにも成長するが50cm前後が最も美味しく,クエより好む人も多い。コブダイは雌性先熟で大きく育つまではメスで,卵を産む。大きくなるとオデコのコブが張り出しきて,オスに性転換する。写真は淡路島の雄のコブダイ。

(石井晴之)

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