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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 220

公開日:2023.1.11


今週のジャーナル

Nature Vol. 613 Issue 7942(2023年1月5日)日本語版 英語版

Science Vol. 379 Issue 6627(2023年1月6日)英語版

NEJM  Vol. 387 Issue 26(2022年12月29日)日本語版 英語版








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やはりCOVID-19流行で超過死亡は増加/マクロファージによる肥満の記憶〜覆水盆に返らず/ICU入室者のせん妄に対するハロペリドールの効果

•Nature

1)疫学:Analysis
WHOによるCOVID-19パンデミックによる超過死亡の推定(The WHO estimates of excess mortality associated with the COVID-19 pandemic
 COVID-19の19は言わずもがな2019年の19であるが,そこに+4をした2023年が明けてパンデミックも4年目となった。来年こそは,来年こそは,と言い続けているが,さて今年はいかに? 今回のNature誌にはWHOからのCOVID-19流行により世界各地域でどれほどの死者数の超過(超過死亡数:通常と比較して増加した死亡者数)があったのかについての推定が報告されている。
 WHOは世界各地を6つの管轄地域に分けて地域事務局を置いている(ちなみに日本は西太平洋事務局管内)。その中でも人口動態統計が完全に取れている国々は多くはなく,全死因死亡率の月別データを保有する国は加盟国中の52%(100カ国)のみである。もちろん地域別の偏りは存在し,アフリカ地域は13%(6/47),アメリカ地域は66%(23/35),東地中海地域43%(9/21),ヨーロッパ地域51/53(96%),東南アジア地域18%(2/11),西太平洋地域33%(9/27)となっている。そのような元データの不足する状況のなかで,報告のそれなりの誌面を使い今回の推定に用いたポアソン分布ベイズ推定についての妥当性と結果解釈における注意点に割いており,今回公表するデータは絶対的なものではなく,今後もより確実なデータと手法をもとに改訂されていくことが強調されている。
 結果は主に上述の推定による絶対値と,P-scoreと呼ばれる,超過死亡推定値を分析期間中の予測死亡数で標準化した相対値を用いて示されている。P-scoreは具体的には,単位期間あたり100人の死亡が予測され,実際の死亡数が140人であった場合には(140〜100)/100で40%となる。
 数字的なサマリーはExt Data 1に記載されている。2020年1月から2021年12月までの世界全体の超過死亡数は1,438万人と推定され,その期間にWHOに報告されたCOVID-19による死亡数542万人の2.74倍であった。P-scoreによるパンデミックがなかった場合の予測死亡数との比較では2020年に7.97%,2021年には18.3%の死亡者数の増加が推定された。Ext Data 2に示されるように,推定された超過死亡の50%以上は低中所得国で発生していた。全世界の超過死亡数の累積は2020年中盤より増加に転じその傾向は現在も継続しており,COVID-19による報告死者数よりはるかに多くなっている(Fig.1a)。
 これら推定超過死亡者数には国による大きな差があり,上位25カ国がFig.3に示されている。上位20カ国で世界人口の約半分を占め,世界の推定超過死亡数の80%以上を占めていた。このデータは人口の比較的多い国が超過死亡者数が大きく見えるために,P-scoreで同様に比較するとFig.5のようになる。COVID-19の報告死亡数に対する推定超過死亡数の比率をマッピングしたものがFig.6である。アフリカ諸国で著しく高くなっていることがわかるが,これらの諸国では元データの正確性に懸念があり,COVID-19で死亡したのか,それ以外で死亡したのか等のバイアスが存在する。しかし,比較的に人口動態統計の確実性と頑健な医療システムのある米国や欧州,韓国などでも1倍以上となっており,パンデミックの期間にCOVID-19以外での死者が増加したことが示唆される。

 流行の全体像を把握することの難しさを認識したが,今回のデータは現在でき得るデータ解析の粋を集めて公表されたものである。このパンデミックにより2020年からの2年間で本来は命を失わなくてもよい1,500万人近い人々が命を奪われていることはおそらく真であると感じることができる。また,Fig.6に示されているように日本はパンデミックの世界では優等生であることも改めて認識した。

•Science

DOI: 10.1126/science.abj8894

1)免疫学:Research Article 
過去の肥満歴が自然免疫の持続的なエピジェネティック変化を誘発し神経炎症を増悪させる(Past history of obesity triggers persistent epigenetic changes in innate immunity and exacerbates neuroinflammation
 年末年始にしっかりと3食いただけた幸せをかみしめたいが,わずか数日で体重がプラスX kgとなっていることはどうもいただけない。「肥満が健康によろしくないからダイエットをしましょう」というスローガン的なものはすでに当たり前として認識されているが,じゃあ,一度太ってもダイエットしたらすべて元通りなのか? という問いに答えられるヒトは少ないのではないかと思う。カナダのオンタリオ大学のグループは動物実験によりこの問に対して解答を明示している。
 眼科疾患である加齢黄斑変性(AMD)は神経炎症性の疾患であり加齢に伴う失明の主要な原因として知られている。AMDのリスク因子として肥満があるが,肥満が長期的な免疫反応に及ぼす影響や,疾患自体が減量により改善するかどうかについては明らかではなかった。病理学的な特徴の1つとして脈絡膜新生血管(CNV)という異常血管の増生がある。そこで,本報告ではレーザー誘発AMDモデルマウスにおけるCNVを指標として,過去の肥満刺激が免疫システムに記憶され将来の炎症に影響を及ぼすことを示している。

 実験系は,通常食(RD)を続け肥満を起こさない通常マウスと,高脂肪食(HFD)で肥満にしたのちに,通常食(RD)へ戻し肥満を解消した過去肥満マウスの比較を行うことにより検討を進めている。過去肥満マウスにAMDを誘発すると通常マウスと比較してCNV増強する(Fig.1H-K:DIO triggers long-term changes in eWAT that exacerbate pathological angiogenesis)ことから,脂肪組織中の免疫細胞の関与を仮説として実験が進む。野生型に過去肥満マウスの脂肪組織を移植した上でAMD誘発を行うと同様の増強所見を認めた(Fig.1M-S)。さらに蛍光色素を単球系で発現するように操作したマウスからの脂肪組織移植実験ではAMD誘発をすると,レシピエントマウスの網膜からドナー脂肪組織由来のマクロファージが検出された(Fig.2J-L:ATMs are primed by prior obesity and maintain a proinflammatory profile after weight loss)。また,過去肥満マウス由来の骨髄移植を行ったマウスにAMD誘発すると増強されることも証明(Fig.2N-Q)され,炎症サイトとは異なる遠隔に存在する組織レジデント細胞や骨髄由来細胞が肥満を介して免疫記憶を有する可能性が示唆された。
 過去肥満が免疫学的な記憶を誘導し,将来の炎症指向性に及ぼす機序としてエピジェネティックなクロマチンリモデリングをゲノム網羅的に検出できるATACシークエンスで解析している。転写アクセス可能な領域をDARとして表し,脂肪組織マクロファージにおける過去肥満マウスと通常マウスの比較を行った。Fig.3B−D(Prior obesity induces epigenomic reprogramming of ATMs toward proinflammatory and proangiogenic phenotypes)に表されるように通常マウスは過去肥満マウスと大きく異なっており共通のDARはなく,HFDにより生じた肥満でいったん異なったオープンクロマチン領域は少なくとも9週間にわたり維持されることが示唆された。それらのGO解析からは過去肥満マウスでは血管新生,炎症反応に関連するパスウェイが濃縮されていたことから,血管新生や炎症性反応に陥りやすくしている可能性が示唆された(Fig.3G-H)。実際に脂肪組織における炎症サイトカインの遺伝子発現,蛋白発現はAMD誘発により有意に増加することを確認している(Fig.3I-P)。
 肥満時には遊離脂肪酸(FFA)や中性脂肪なども自然免疫系を活性化することが考えられていることから,本実験系での脂質の関わりを検索したところFF Aの1つであるステアリン酸が過去肥満マウスの中では最も増えていることがわかった。FFAはTLR4を介して炎症を誘発することから,骨髄由来マクロファージを一過性にステアリン酸に晒してから5日後にLPS刺激をした際の炎症性サイトカインの発現,産生は亢進すること,また,過去肥満TLR4−KOマウスではAMD誘発の際にCNVの増強は認めなかったことが示され,マクロファージの免疫記憶にステアリン酸刺激が関与していることが示された(Fig.4:SA potentiates macrophages through activation of TLR4 signaling and induces sustained metabolic rewiring)。さらに前述のオープンクロマチン領域の網羅的な検討で明らかになった過去肥満マウスの脂肪組織マクロファージにおけるシークエンスモチーフの上位8位までは転写因子であるAP-1ファミリーの認識配列に相当していたことから,その細胞生物学的な確認を行ったところ,ステアリン酸で処理した細胞ではクロマチンリモデリングを生じAP-1ファミリーであるc−JunがTNF遺伝子のプロモーター領域に動員されることが示された(Fig.5:Essential role of AP-1 in chromatin remodeling during obesity-driven reprogramming of macrophages)。最終的にレーザー誘発とは異なる光刺激によるAMDモデルを用いて過去肥満の影響を確認しており,同様に視神経損傷の増強が認められることを確認している(Fig.6:Depletion of adipose tissue or retinal myeloid cells reverses a proinflammatory and proangiogenic phenotype in formerly obese mice and restores vision loss associated with retinal degeneration after light exposure)。

 以上の検討より過去の高脂肪食による肥満歴が脂肪組織マクロファージなどの組織常在マクロファージに長期的なクロマチンリモデリングを誘発し免疫記憶を植え付けること,それはダイエットによる肥満の改善でも持続すること,その結果として網膜などの遠位組織における実験的組織損傷後の神経炎症に影響を与えること可能性があることが示唆された。

 まさに「覆水盆に返らず」である。

•NEJM

1)集中治療:Original Article 
ICU入室例のせん妄に対するハロペリドールの効果(Haloperidol for the treatment of delirium in ICU patients
 せん妄は急性期の注意力・意識障害であり,重症例における急性脳機能障害の最も一般的な徴候である。ICU症例の30〜50%が経験し死亡率の増加と関連することが知られている。ハロペリドールはせん妄時の治療に最も頻繁に使用される抗精神病薬であるが,その効果に関するエビデンスは明確ではなくガイドラインではサポートされていない。しかしながら,実際にはせん妄のあるICU症例の約半数がハロペリドールの投与を受けていたことが知られている。そこで,デンマークの研究グループは多施設二重盲検無作為化前向き試験(AID-ICU試験)を計画し,せん妄出現時にハロペリドールによる介入が院外生存日数に影響するかを報告した。結果はResearch Summaryにまとめられている。
 主要評価項目は登録から90日後の院外生存日数とし,参加施設のICUに入室した成人症例を実薬群とプラセボ群に割り付けた。合計で1,000人がランダム化され,510例がハロペリドール群,490例がプラセボ群に割り付けられた。結果はTable 3に示されている。90日後院外生存日数はハロペリドール群vs.プラセボ群で35.8日vs.32.9日,p=0.22と有意差はなく主要評価項目は達成できなかった。有害事象もほとんど認められず,両群での有意差はなかった。90日後までの全生存率はFig.2Aに示されており,ハロペリドール群で36.3%,プラセボ群で43.3%であった。
 ICU入室者へのせん妄例へのハロペリドールの使用は90日後の院外生存日数には効果は認められなかったが,有害事象もほとんど認められなかったという点からは,アウトカムをICU管理におけるさまざまなエフォートとした場合にはメリットはあるのかもしれないと感じた。

 新年号のNEJM誌には話題の薬剤であるレカネマブの早期アルツハイマー病に対する臨床試験結果が掲載されている(リンク)。これを受けて米国FDAは早期承認を発表したが,治験後の延長試験では複数の脳出血が有害事象として報告され,それに対しての真摯な回答が開発企業からは得られていないことがサイエンス誌でも取り上げられた。効果,薬価含め今後の動向を注視する必要があるだろう。

今週の写真:水前寺成趣園内にある出水神社
近所の神社へ初詣に行きました。快晴で冷え込んだ大晦日の夜です。
(坂上拓郎)