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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 221

公開日:2023.1.26


今週のジャーナル

Nature Vol. 610 Issue 7932(2022年10月20日)日本語版 英語版

Science Vol. 379 Issue 6628(2023年1月13日)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 3(2023年1月19日)日本語版 英語版








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脊髄Locomotionリズムの真の実態/Piezo2遺伝子GOF変異による拘縮は介入可能?/肝内胆管癌FGFR2 fusion変異陽性への非可逆阻害剤Futibatinib

 リスキリング Reskilling/再学習という言葉が話題である。
 最も大きな論点は,コロナ対応でも問題が山積したIT,オンライン関連環境の浸透を企業・官庁でいかに進めるかである。最右翼にはAIのChat GPTまで控える。

 しかし医学・生物学領域ではそれ以外のReskillingの認識が必要なのではないか? 高齢医師として最近思うことが多い。
 我々は視覚情報が学習の入り口である。20世紀医学は視覚情報である病理像・放射線画像で展開し,後半は分子生物学の領域に入った。目に見えない分子・遺伝子の認識が必要となった。
 21世紀に入り,分子群を数理情報化して表現する流れが続いている。TJHでも多く取り上げられるscRNAseqに対して,どれだけReskillingが進んでいるか?
 今回取り上げたNature論文では,神経生理学領域の数理情報化に驚いた。老医師としてはまさにハッキングの世界であるが,network oscillationという新しい世界が広がり始めていることは理解できる。やはりReskillingは避けては通れない。

•Nature

1)神経生理学
運動は脊髄運動神経網内で回転する神経ダイナミクスに支配される(Movement is governed by rotational neural dynamics in spinal motor networks
 紹介するのは,2022年10月にオンラインとなった論文で,多少古いが,上記のようにReskillingの一環として,その方向性を紹介したい。まったく分野が違い,どこまでハッキングできたろうか?(論文はNews&Viewsにも紹介されている:リンク
内容は我々の日常生活の根幹,運動しかも脊髄におけるlocomotion機構である。
 Locomotionの機構はCPG(central pattern generator)神経サーキットによる自動運動である。
 21世紀に入り,その神経細胞群が分子生物学的に同定され,進化の古いMMC(medial motor column: undulation運動)と,四肢に関連するLMC(lateral motor column) 等よりなるという,2020年初頭のGrillnerの総説(リンク)を知って,認識を改めたばかりである。
 デンマークの研究者による本論文は,このGrillner総説を文献1番に取り上げ,これは20世紀の左右交互連携説によるlocomotion理解で事実は違うと切り捨てる。そうではなく神経細胞群(excitatory-inhibitory neuron balance)によるnetwork oscillationがrhythmを生むという。ショックである。Hackingせざるを得ない!

 研究動物はカメ(赤耳ガメ:Trachemys scripta elegans,いわゆるミドリガメ:外来種として今後規制対象)である。このカメの脊髄・後肢領域を対象とする。まったく知らなかったが長いカメ脊髄の研究歴史があるようである(リンク)。さらに付け加えると脳切断し,リンゲル液で還流中のカメの体の後肢近傍を刺激する(Scratchと表現)ことにより(脳経由でない)自動的な運動系を誘発する。Last authorのBerg RWは2007年,Science誌(リンク)報告前後からこの研究を続け15年になる。

 もう1点は老医師にあまり馴染みのない細胞外記録(リンク)である。論文はcustom designed probeとして詳細は不明だが,256 recording sitesがあるという。これらからの信号をアンプにつないで,解析する記録はGitHubにアップしてある。これが論文中ではいわゆるraster plot(リンク)で表示されている。脳科学辞典の説明を読むと,プローブによっては「運動神経か介在神経か」あるいは「興奮性か抑制性か」も判別できるという。

 以上に加えprinciple component analysis(PCA)として多数の神経細胞に関するfiring ratesなどのベクトル表示(MATLAB:Wiki による)がなされている。ビデオ(リンク)ではこのベクトルがrotationする。重要な点だがまだ十分には理解はできていない。

 論文に戻ると,まず上記のように腰椎近辺の脊髄にプローブを刺入し,カメのhip flexor,knee extensorなどの電気信号を記録し,それと並行してraster plotで 数百の神経細胞活動が示される(Fig.1)。しかしそのraster plotでははっきりした特徴がないので,運動神経活動のraster plotのみ表示すると,連続するシークエンスが現れる(Fig.1c)。これをPCAベクトル表示で演算結果を見るとローテーションとして捉えられる(Fig.1f)。

 すなわち運動神経群のnetworkは,左・右という両側交互によるリズムではなく,片側でもその発火現象にリズムを認めるという(説明が下手だが,老婆親切をいうと,ローテーションは視覚現象として捉えたものではなく,PCA表示という数理操作による表現である点が重要)。
 古典的なintracellularな電極によるaction potentialの研究,また動画での視覚表示される刺激/動作の研究としての理解が,raster plotを数理変換することで21世紀の新たな理解に進んでいることが漠然とは理解できる。
 Reskillingとしては ひとまずよしとしよう。

 以下この概念で著者らは論旨を展開する。

 Fig.2はこうした多数の神経細胞発火の数理処理の考え方が示されている。重要な点は,こうしたlocomotionリズムの発生は,個々の細胞の性質というより,多数の神経細胞群networkによるoscillationからrhythmが生まれるという点である。
 この理念はBergが2019年の総説(リンク)で説明しているが”balanced network”と呼んでいる。
 Balancedとは現実のnetworkとして,興奮性・抑制性神経が無数に発火している状態で,それらが相互に一つの機能をアウトプットする(図リンク)。こうした概念から著者らはBalanced sequence generator(BSG)という言葉を使用する。

 著者らは,この理念のもと,実験データの実際と数理モデル結果等を比べながら,locomotionのリズムの変化が歩幅を変化させることを示す(Fig.3)。
一方でリズム(時間関数)の変化も,このBSGで説明できる(Fig.4)。ここで興味ある点は,神経細胞の中にはbrake cell/speed cellと考えられる集団の存在は指摘できるが,それはそれぞれ興奮性あるいは抑制性神経細胞が混ざっていて,特別な細胞というより,network上の位置によるのではないかと述べている。
 最後にカメの後肢の股関節運動と膝関節運動という,一見レベルが異なる過程の運動事象も,こうした脊髄神経networkの数理解析で説明している(Fig.5)。

 老医師にとっては,まったくの未知分野に対するReskillingである。
 興味ある点は,著者らはDiscussionで同様のnetworkがmultiple movement patternとして大脳皮質運動野でも報告されている(リンク)と述べている。
 まったく新規の21世紀脳科学研究に衝撃を受けたReskilling/再学習であった。しかしこの内容は,卒後20年レベルの医師もあるいはReskillingが必要なのではないかと思われる。再勉強をしなければ21世紀医学に追いつけない。
〔なおBergのTwitter(@RuneWBerg)をフォローすると,1月に入りeLifeの脊髄premotor神経に関する同様の解析論文がTweetされた〕

•Science

DOI: 10.1126/science.add3598
1)GOF遺伝子異常と稀少疾患
感覚ニューロンにおける過剰メカノトランスダクションは関節拘縮を惹起する(Excessive mechanotransduction in sensory neurons causes joint contractures
 紹介する論文は,2週間前のものである。
 あまり呼吸器では関心のないPiezo遺伝子。ことにgain of function(GOF)に関する内容である。しかしなぜScience論文になったかが理解できる驚きの展開で,TJHで紹介しておきたい。
 米国Scripps研究所からの報告である。この研究所はPiezo同定を報告した施設である。
 Piezo遺伝子を説明すると長くなる。TJHでも#62#63と取り上げている。2003年全ゲノム解読後の遺伝子機能同定のため,推測チャンネル遺伝子を同定する中でPiezo遺伝子はScrippsで同定された(リンク)。
 TJH#63にはその分子構造がリンクされている。プロペラ・ブレードのような分子が3量体である(工学的イメージそのものが分子形状で,事実は小説より奇なり)。Piezo2のノックアウトは致死性である。しかしこの約2800アミノ酸から成る巨大な分子にGOF変異が入ると病的で,遠位関節拘縮症(distal arthrogryposis:DA)の5型を惹起する(NIHサイトに詳細あり。さすが!:リンク)。
 DA5を発症した3例の臨床報告は2013年にPNASになされている(リンク)。呼吸器的には肺拘束性病態が示されている。Autosomal dominant(AD)遺伝形式である。

 さて本論文は,このGOF型Piezo2をマウスで遺伝子改変し,検討としたものである。Perspectivesにも取り上げられている(リンク)。
 多彩なconditional改変遺伝子群がFig.1(Gain-of-function (GOF) PIEZO2 increases mechanosensitivity of sensory neurons)に示され,細胞レベルでの膜電位レスポンスも示されている。改変マウスの臨床的な関節形状変化,それによる運動等の障害がFig.2に示される。

 驚きはこの拘縮はいつから始まるかの解析である。
 それには多くのconditional constructsが威力を発揮する。
 まずどの細胞のPiezo2発現が拘縮に関与するのか? Mesenchymal細胞とsensory神経で比べ,sensory系でのGOF Piezo2発現の関与が示される(Fig.3A〜D)。

 次にembryo,あるいはpostnatalのどの時期が病態発現に関与するのか?
 Tamoxifenを用いた遺伝子発現コントロールでE12.5,P7〜10での発現が病的拘縮に関連するという(Fig.3E〜H)。

 ではこの拘縮をinterventionできるか?
 研究グループはsensory neuron系への介入としてボツリヌス毒(Botox:末梢性筋弛緩)筋注をE7-10に行い,拘縮症状の改善を示す(Fig.4)。
 この反応に関与するのがsensory系で運動系でない事は運動神経・筋接合部をブロックするα-bungarotoxinを対照として,これでは拘縮がみられないことを示している。

 最後が治療への対応である。
 別のex vivoでの論文で,Piezo1のGOF効果を改善するEPA(eicosapentaenoic acid)(リンク)を著者らも試している(Fig.5:EPA diet rescues joint defects in GOF mice)。妊娠および授乳期の母親マウスに脂質としてomega-3を添加した食事を与えることで,拘縮の改善効果が示されている。

 以上,Piezo2のGOF変異によるDA5の臨床例解析から,遺伝子改変マウスを用いてその機序の解明,そして治療応用の可能性まで示した。
 希少疾患解明・治療探索への大きな流れの中,非常にencouragingな論文である。


•NEJM

1)腫瘍
FGFR2 再構成肝内胆管癌に対するフチバチニブ(Futibatinib for FGFR2-rearranged intrahepatic cholangiocarcinoma
 腫瘍に対するtargeting therapyは小分子の経口薬投与という,患者にとって医療上のメリットは大きい。慢性骨髄性白血病,肺腺癌などではドライバー変異としての頻度が高いが,一方まれな変異にも積極的な開発がなされている。
 2014年国立がんセンターのグループが胆管癌検体の遺伝子解析により,FGFR2遺伝子と複数遺伝子のfusion蛋白(染色体translocation)を報告した(リンク)。それによると,intrahepatic cholangiocarcinoma(ICC)では,実に13.6%(9/66)の高頻度でFGFR2 fusion蛋白がみられ,KRAS/BRAF異常とは相互にexclusiveである。
 FGFR2(Wiki)関与は先天異常の口蓋裂などで知られるが,fusion蛋白としてのドライバー性が腫瘍では問題となる。すでに細胞内tyrosine kinase domainのreversible阻害薬(AZ4745など)が用いられたが,薬剤耐性発生が問題であった。

 これに対し大鵬薬品がirreversible阻害薬Futibatinib(FGFR1-4 inhibitor)を開発(リンク)した。
 本論文はその第II相single arm,103列の国際臨床試験報告である(Table 1)。患者はFGFR2 fusion,あるいはFGFR2 rearrangement (+)で,先行するsystematic治療歴のあるものがenrollされた。Futibatinib 20mg/d経口投与で,3週をサイクルとして,disease progressionや重篤副作用発現までくり返された。
 Fig.2にwaterfall plotが示され,43例がPR/CRであった。Median PFSは9.7Mで,promisingな成績であると思われる。
 FGFRという重要な全身に分布する受容体標的に対し,irreversible阻害薬であるが,AEはhyperphosphatemia以外に重要なものはなさそうである。
さらに第III相,新たな併用療法臨床試験の成績を待ちたい。


今週の写真:山形県の啓翁桜(リンク)。
正月前に蕾の枝が店に並ぶ。寒い時期,自宅では暖房で開花し,春の雰囲気が嬉しい。

(貫和敏博)

※500文字以内で書いてください