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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 222

公開日:2023.2.3


今週のジャーナル

Nature Vol. 613 Issue 7945(2023年1月26日)日本語版 英語版

Science Vol. 379 Issue 6630(2023年1月27日)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 4(2023年1月26日)日本語版 英語版








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ヒトのセリン/スレオニン・キナーゼのリン酸化基質の全貌/ワクチンにおけるリンパ節内での抗原の安定性と抗体産生の関係/早期体外循環式心肺蘇生は有効か?

•Nature

1)細胞生物学
ヒトのセリン/スレオニン・キノーム(セリン/スレオニンのリン酸化の包括的解析)の基質特異性アトラス(An atlas of substrate specificities for the human serine/threonine kinome
 タンパク質のリン酸化は,生物界で最も広くみられる翻訳後修飾の1つであり,セリン,スレオニン,チロシン,ヒスチジンといったアミノ酸にリン酸基を付加することで真核細胞の様々な重要な生命機能を担っている。セリン/スレオニンキナーゼ(Ser/Thr kinase)はセリンまたはスレオニンのヒドロキシ基をリン酸化する酵素であり,ヒトゲノムには300以上ものセリン/スレオニンキナーゼがコードされている。これまでに9万カ所のセリンとスレオニンのリン酸化部位が,質量分析をベースとするリン酸化プロテオミクスの進歩により明らかになってきており,そのうち数千カ所はヒトの疾患や生物学過程に関連しているが,個々のキナーゼと基質との関係性についての網羅的な解析はなされていなかった。
 キナーゼと基質の特異性は,両者が同じ組織や同じ細胞で発現していなければ作用しないといった外因的要因と特異的なアミノ酸配列や高次構造を認識してリン酸化するといった内因的要因によって規定されている。
 米国コーネル大学,MITおよびエール大学などからの本研究では,positional scanning peptide array(PSPA)解析という22アミノ酸の合成ペプチドライブラリーを用いた手法により,活性を持つと推定されるヒトSer/Thrキナーゼの84%以上に当たる,303のSer/Thrキナーゼの基質配列特異性のプロファイリングを行った(Fig.1)。News and Viewsでもわかりやすく解説されている。これら基質配列についてクラスター解析することで大きく17のクラスターに分類され,さらに個々のクラスター内でも特異的なモチーフの認識が確認され,少なくとも38のモチーフクラスに分類され,予想以上に多様性が認められた(Fig. 2)。また,認識モチーフにおけるアミノ酸残基のプラスかマイナスのチャージ(電荷状況による選択)も重要で,あるキナーゼはある性質の基質との組み合わせを避けるといった,強い負の選択性で決まっているものが多いことが判明した。
 次に既報のデータなどから得た89,752カ所のSer/Thrキナーゼモチーフについて上記のキノームデータをコンピューターによってアノテーションしたところ,それぞれの部位をリン酸化する可能性の高いキナーゼがほぼ明らかとなった(Fig. 3)。リン酸化部位のうち,関与すると推定されるプロテインキナーゼがすでに報告されている少数のリン酸化部位に対しては,本研究の予測が非常によく一致した。例えばglycogen phosphorylaseのSer15をリン酸化する候補として予測上位2つにPHKG1やPHKG2がランクされ(Fig.3b),実験的に最も報告数の多いリン酸化として有名なp53のSer15についてはDNA-damage-activated kinaseであるATMが予測一位として検出されている(Fig.3c)。
 個々のリン酸化モチーフについて様々な環境や刺激における変化が報告されデータが蓄積されてきている。そこでインスリンなどのホルモンや増殖因子といった刺激や分子阻害薬や遺伝子ノックアウトの効果や放射線照射やLPS刺激の影響について,既報のデータベースを用いて個々のリン酸化モチーフの網羅的解析をしたところ,細胞のシグナル伝達応答が明らかになり,リン酸化事象と生物学経路とを結び付ける基盤となる知見が得られた(Fig. 4)。今後の基礎研究や創薬などにおいて,とても有用なアトラスが作成されたといえよう。

•Science

DOI: 10.1126/science.abn8934
1)免疫学
B細胞濾胞でプロテアーゼ活性が低いことが,免疫後の抗原の安定性を促進する(Low protease activity in B cell follicles promotes retention of intact antigens after immunization
 ワクチンのメカニズムとしてタンパク/ペプチドの抗原を接種後にリンパ節の胚中心においてB細胞によってより親和性の高い抗体の産生へ向けて液性免疫反応が引き起こされることが重要である。より有効なワクチン開発に向けてさまざまな研究がなされてきたが,抗原のとくにリンパ節内における安定性についての詳細は不明であった。
 米国ボストンのMITを中心とした研究グループからの本論文では,リンパ節内の細胞外における抗原を分解し得るプロテアーゼについて解析し,B細胞濾胞内における抗原の安定性とワクチン効果について興味深い研究をしている。
 ワクチン接種後の抗原の挙動について,蛍光色素を用いた抗原でFRET(fluorescence resonance energy transfer)(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した実験系でマウスで解析をしてみると,リンパ節に移動してきた抗原は皮質洞(subcapsular sinus:SCS)と呼ばれるリンパ節の辺縁側の領域やリンパ濾胞外の領域(参考:リンパ節の解剖)では半減期48時間ぐらいで分解されていくことが示された(Fig. 1:FRET-based analysis of antigen integrity reveals spatially compartmentalized antigen degradation in LNs)。すなわちT細胞領域などでは壊れてしまう抗原も,逆に液性免疫反応の中心であるB細胞濾胞内では安定であることが判明した。そこでプロテアーゼの発現や活性について調べてみると,見事にSCSや濾胞外領域ではプロテアーゼの発現も活性も高く,濾胞内では低いことが明らかとなった。そこで分子機構を明らかにするためにリンパ節におけるscRNA-seq解析を行った結果,30遺伝子以上のプロテアーゼの発現がみられた(Fig. 2:After immunization, a significant proportion of antigen remains extracellular and is degraded over time, correlating with the expression of ADAM and MMP proteases by macrophages and stromal cells in the LN)。なかでも抗原分解の強いSCS領域ではSCSマクロファージやリンパ管内皮細胞において,ADAM17,ADAM10,MMP14,MMP9といったメタロプロテアーゼの遺伝子発現がみられ,免疫染色によって蛋白質発現が確認され,さらにin vitroにおいてこれらメタロプロテアーゼによる抗原分解の活性についても検証された(Fig. 3:Metalloproteinases are expressed by sinus-lining cells and contribute to rapid antigen degradation in LNs)。その他のプロテアーゼの存在の可能性についても検索するために,生体内でプロテアーゼの活性を観察できるimaging zymographyという手法を用いて検討したところ,確かにSCSマクロファージ,リンパ管上皮細胞,樹状細胞といった細胞が高いプロテアーゼ活性があることが示され,一方で濾胞内の液性免疫反応に重要なfollicular dendritic cell(FDC)(リンク)やB細胞,またT細胞ではプロテアーゼ活性は低いことが確認された(Fig. 4:Protease activity is spatially heterogeneous in LNs, with high levels in the SCS and low activity in B cell follicles)。
 次にワクチンによる有効な抗体産生を目指して,抗原の安定性が期待できるB細胞濾胞内のFDCに抗原がより多く到達するような容量増大投与法を試みたところ(Fig. 5:Immunizations targeting antigen to FDCs preserve antigen integrity in vivo),従来の方法に比べてより大きな胚中心が形成することや抗原反応性B細胞が増加すること,そして抗体産生も増加することを確認することができた(Fig. 6:Targeting of immunogens to FDCs amplifies GC B cell responses against intact antigens without increasing the response to antigen breakdown products)。
 本研究では,リンパ節内でもプロテアーゼの存在に局在性があることが見いだされ,抗原の安定性についての理解が深まり,B細胞濾胞内のFDCに抗原を届けるような手法がより有効な抗体産生に結びつく有効な戦略であることが示された。なお本論文はPERSPECTIVEAASJでも詳細に解説されている。

•NEJM

1)救急医療
難治性院外心停止に対する早期体外循環式心肺蘇生(Early extracorporeal CPR for refractory out-of-hospital cardiac arrest
 心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)の進歩と普及によって心停止患者の救命は進歩してきているが,院外での心停止患者の生存は10%程度といわれている。心室細動の場合に除細動措置に反応した場合の生存は期待できるが,約半数の患者では除細動蘇生処置に反応しない難治性であると報告されている。脳自体には酸素を蓄える能力がなく,呼吸停止後4〜6分で低酸素による不可逆的な状態に陥るため,「良好な神経学的転帰」は重要な課題である。難治性心室細動に対しては,自己心拍が再開しない患者の循環と酸素化を回復させる手段として観血的な処置である体外循環式CPR(ECPR;体外循環式心肺蘇生法)が選択肢としてあるが,その結果として「良好な神経学的転帰」を得られるかどうかの効果については十分な研究がなされていなかった。
 本研究はオランダで行われた多施設共同無作為化比較試験〔INCEPTION(Early Initiation of Extracorporeal Life Support in Refractory Out-of-Hospital Cardiac Arrest)trial〕の報告であり,対象は18~70歳の院外心停止患者で,居合わせた人によるCPRを受けて初期に心室性不整脈が認められ,CPR開始後15分以内に自己心拍が再開しなかった患者についてである。体外循環式CPRを行う群と従来のCPR(標準的な二次救命処置)を行う群に無作為に割り付け,主要転帰は「良好な神経学的転帰を伴う生存」とし,「発症30日の時点での脳機能カテゴリー(CPC)のスコア(1~5で,数値が高いほど障害が重度)が1または2」と定義し,intention-to-treatの原則で解析した。
 160例がエントリーされ,入院時に組み入れ基準を満たさなかった26例は除外され,2群に無作為化された(図1)。発症30日の時点で,体外循環式CPR群70例のうち14例(20%)が良好な神経学的転帰を伴って生存していたのに対し,従来CPR群64例では10例(16%)であった(オッズ比:1.4,95%信頼区間:0.5~3.5,p=0.52)(Table 4)。重篤な有害事象の件数は2群で同程度であった。
 以上から,難治性院外心停止患者に体外循環式CPRを行った場合と従来のCPRを行った場合を比較した結果,良好な神経学的転帰を伴う生存に対する効果については両者で同程度であったという結論である。なお,本論文は2分間の動画(QUICK TAKE)でも概略が紹介されており,さらにEDITORIALSでは詳細に解説されているので参考にしていただきたい(リンク)。

今週の写真:稲毛海岸から東京湾の眺め。左に富士山,右に小さくスカイツリーがみえます。

(鈴木拓児)

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