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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 224

公開日:2023.2.16


今週のジャーナル

Nature Vol. 614 Issue 7947(2023年2月9日)日本語版 英語版

Sci Immunol Vol. 8 Issue 80(2023年2月)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 6(2023年2月9日)日本語版 英語版








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希少細胞を狙い撃ちでシングルセル解析/肺上皮由来の補体因子C3の新しい役割を発見/インターフェロン・ラムダの臨床治験

•Nature

1)シングルセル解析

核酸を用いた細胞単離で希少なアストロサイトの新規調節因子を同定(Identification of astrocyte regulators by nucleic acid cytometry
 シングルセル解析が普及し病気の責任細胞ごとの網羅的遺伝子解析が行えるようになってきたが,希少な細胞の場合にはあらかじめ細胞を単離して解析するなどの工夫が必要である。その場合も,適切な細胞表面抗原がなかったりすると,目的細胞を単離することすら難しい場合がある。この問題を解決するため,研究者たちは細胞1個ずつのRNAを回収できるpoly-dT付きアガロースビーズ内に閉じ込めて,ビーズ内で細胞特異的に発現する遺伝子をPCR増幅して蛍光で光らせることによって,目的の遺伝子を発現する細胞由来の遺伝子発現ライブラリのみをレーザーで単離可能な技術を開発し,シーケンスを可能にした。Focused Interrogation of cells by Nucleic acid Detection and sequencing(FIND-seq)と名付けられたこの方法(Fig.1)の応用例として多発性硬化症の中枢神経病変ではアストロサイトがミクログリアを刺激したりマクロファージを遊走させて炎症を引き起こすことが知られており(リンク),特にその病態を担っていると考えられるアストロサイトのごく一部の細胞集団(18,047個の中枢神経系細胞のうちアストロサイトが1,240個でそのうち14個が病態責任細胞)に着目した。FIND-seqを開発したUCSFと多発性硬化症など中枢神経系の炎症研究で有名なハーバード大学の研究室との共同研究成果である。

 多発性硬化症は中枢神経系の自己免疫性疾患で指定難病の1つでもあり,ERストレスの際にスプライシングされてできるXBP1(ERストレスについては第一人者の森和俊先生の研究室ホームページの解説がとてもわかりやすいです)が転写因子として働いて中枢神経病変を引き起こすことを過去の研究でこの研究チームが見つけていた(リンク)が,多発性硬化症の動物モデル(experimental autoimmune encephalomyelitis:EAE)を用いても従来の方法ではこのXBP1を発現するアストロサイトをシングルセル解析で同定することは難しかった。FIND-seqではEAEモデルでXBP1の転写産物であるEdem1とアストロサイトのマーカーであるAqp4を両方発現する細胞をTaqMan PCRで検出することができてアストロサイトのうちのXBP1発現細胞を定量して単離し,網羅的遺伝子発現解析を行うことができた(Fig.2)。このモデルではAqp4陽性Edem1陰性細胞でも炎症性サイトカインの発現プログラムが動いていることがわかり,中枢神経炎症に寄与していると考えられたが,Aqp4陽性Edem1陽性細胞とAqp4陽性Edem1陰性細胞を比較したところ,Aqp4陽性Edem1陽性細胞ではXBP1に制御される,より顕著な炎症性サイトカイン応答が認められた。

 次にシングルセル解析(scFIND-seq)ではEAEモデルの発症前後のマウスからAqp4陽性Edem1陽性細胞とAqp4陽性Edem1陰性細胞を単離して,計284細胞を解析したところAqp4陽性Edem1陽性細胞においてNR3C2のシグナル伝達系が抑制されていることわかり,CRISPR-CAS9を用いてレンチウイルスで髄腔内注射することでアストロサイト特異的にノックアウトする実験でもNR3C2のシグナル抑制がEAEを増悪させることを確認した(Fig.3)。さらにNR3C2抑制時にNCOR2の発現も低下することからCRISPR-CAS9を用いたレンチウイルス感染実験からNCOR2を抑制することでもEAEが増悪することがわかったことで,NR3C2-NCOR2シグナル伝達系がXBP1によるアストロサイトの炎症性転写応答を制限していることが示唆された。

 XBP1とNR3C2-NCOR2シグナル伝達系の関係を調べるため,アストロサイト特異的にXBP1をタモキシフェン誘導性にノックアウトできるマウスを作出した。XBP1をアストロサイトで欠損するとEAEは優位に改善した。RNA-seqでXBP1欠損アストロサイトを調べたところ,NR3C2で転写調整される遺伝子群の発現は亢進し,サイトカインやUPR関連の遺伝子群は抑制されることがわかった。最後に多発性硬化症のヒトのアストロサイトについて公共データベースを使って調べたところ,NR3C2とNCOR2の発現はXBP1関連の遺伝子発現や活性酸素種の産生とは負の相関関係にあった。また,多発性硬化症の臨床検体を用いて脳白質の免疫染色まで行い,NR3C2陽性のアストロサイトの数が健常者よりも少なかったことを報告している(Fig.4)。

•Sci Immunol

DOI: 10.1126/sciimmunol.abp9547
1)補体因子C3
肺上皮細胞由来の補体因子C3は肺炎による肺障害に保護的効果をもたらす(Lung epithelial cell–derived C3 protects against pneumonia-induced lung injury
 補体というと教科書的にもすでに確立された知見(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A3%9C%E4%BD%93 )で,大部分は肝臓で生産されて全身に行きわたって機能するというのが一般知識だが,この研究では肺の上皮細胞で生産される補体因子C3は細菌性肺炎に対する肺障害に特別な防御的役割を担っているという内容で,米国セントルイスのワシントン大学からの報告である。予備知識としてC3は補体系の活性化に役立っていてC3からC3aとC3bが生じて,C3aはC3aRに結合して免疫細胞の活性化に関わり(https://en.wikipedia.org/wiki/C3a_(complement) ),C3bはオプソニン化をもたらすだけでなく,alternative pathway(副経路)の中心的役割を担い,補体因子B(Factor B: FB)に結合して細菌に対して殺菌的に働いて宿主防御に貢献している(Wiki)。

 まず,C3欠損マウスを用いて,緑膿菌による急性肺炎モデルでは,感染24時間後には野生型マウスに比べて様々な炎症性サイトカイン応答を伴う重度の肺炎を来すことを示した。肺が固くなることもプレシスモグラフィでも確認している。さらに熱殺菌した緑膿菌を経気道投与しても同様の所見が得られることを確認し,C3による殺菌効果によって緑膿菌による炎症が抑制されていたわけでもないと考えられた。気管支肺胞洗浄液(BAL)中の補体活性は,緑膿菌感染24時間後で野生型では変化なかったのに対して,C3欠損マウスでは数千倍に上昇していた。全身からBALへのC3供給を調べるため,緑膿菌を経気管投与してすぐにC3欠損マウスに野生型マウスの血清を腹腔投与したところ,24時間後にBAL中にC3を検出したが,1時間後では検出されず,緑膿菌を投与しなかったマウスもBAL中にC3は検出されなかったことから,肺胞毛細血管バリアが障害されないと全身循環しているC3は気腔側には入りにくいことがわかった。また,肝臓特異的にC3を欠損したマウスを作出したところ,緑膿菌感染24時間後,感染前はBAL中に検出されなかったC3が検出され,補体活性も伴うようになったことから,BAL中のC3は肺で分泌されたものと考えられた。

 次にヒト肺でのC3産生細胞についてLGEAやLungMAPの公共データベースで調べたところ,上皮,線維芽細胞,単球が産生源と考えられた。緑膿菌感染24時間後では気道上皮,I型肺胞上皮細胞,II型肺胞上皮,線維芽細胞,血管内皮細胞で3〜4倍程度にC3産生が上昇していた (Fig.3)。研究者らは以前の研究で,気道上皮のなかでもクラブ細胞が肺での主なC3産生細胞と見つけており,クラブ細胞特異的にタモキシフェン誘導でC3欠損可能なマウス(C3f/f:Scgb1a1-CreERT2+/−マウス)を作出したところ,緑膿菌感染後は野生型よりも強い肺障害の所見を呈した。熱殺菌した緑膿菌の経気管投与でも同様の結果だった。

 C3による保護効果がC3aかC3bによるのかを調べるため,C3aR欠損マウスと補体因子B欠損マウスでそれぞれ緑膿菌感染実験を行ったところ,補体因子B欠損マウスでのみ顕著な肺障害を認め,熱殺菌した緑膿菌でも同様の結果だったことから,C3とFBが急性肺障害に保護的効果を持つと考えられた。初代ヒト気道上皮細胞に緑膿菌感染したところC3とFBの産生は亢進し,C3は細胞内でFBと共局在し,C3aRとは一致しなかった。C3とFBとの共局在はクラブ細胞特異的にC3を欠損したマウス肺でも,緑膿菌感染後と熱殺菌した緑膿菌投与後のそれぞれで観察された。

 緑膿菌感染後のC3やFB欠損の気道上皮培養細胞(BEAS-2B)ではAktリン酸化が抑制されており,FB欠損前の細胞と比較して細胞死が起きやすかった。また,C3の分泌を阻害するprotein transport inhibitor(PTI)を添加する実験も行い,緑膿菌感染後の細胞死はFB非欠損細胞よりもFB欠損細胞の方が多くなる傾向にあったことから,C3による細胞保護効果にはFBが必要と考えられた。C3の産生は上皮細胞だけでなく,線維芽細胞や単球などでも行われていることから,今後,肺におけるC3の供給源となりえる上皮以外の細胞の関与についても検討する必要があることが述べられている。C3はありふれた蛋白質ではあるが,肺の局所での役割を地道に研究した点で興味深い。

•NEJM

1)インターフェロン・ラムダ

COVID-19へのペグインターフェロン・ラムダ早期投与の有効性(Early treatment with pegylated interferon lambda for Covid-19
 インターフェロンといえば,インターフェロン・アルファの製剤は実臨床でも使用されてきたがI型インターフェロンに相当する。III型インターフェロンであるインターフェロン・ラムダの製剤は安全性と副作用はクリアできたものの薬効については治験段階にある。

 ペグインターフェロン・ラムダの薬効を調べるためのこの第3相ランダム化比較試験ではSARS-CoV-2抗原テスト陽性の18歳以上で,発症7日以内に外来受診した患者で重症化リスク因子を最低1つは持つ症例,もしくはハイリスク因子は持たないが重症例を対象とした。83%の患者はワクチン接種済みで変異株も推移していた状況で,ブラジルとカナダで実施されている。2021年6月から2022年2月にかけて933名がペグインターフェロン・ラムダの180μgの皮下注単回投与,1,018名がプラセボに割り付けられ単回投与(注射もしくは経口内服)で実施された。

 結果はTable 2にまとめられている。主要評価項目はランダム化後4週以内のCOVID-19関連入院もしくは三次救急病院への転院とし,インターフェロン投与群では2.7%,プラセボ群では5.6%(相対危険度 0.49)で,副次評価項目でもおおむね入院と死亡で一貫してペグインターフェロン・ラムダ投与群で有効という結果だった。発症後3日以内の投与例に限定した解析も行っており,主要評価項目・副次評価項目いずれも入院と死亡でより効果を期待できる結果だった。また,オミクロン株・デルタ株・アルファもしくはガンマ変異株のそれぞれでサブ解析を行ってペグインターフェロン・ラムダによる治療効果を確認しており,高ウイルス量の患者で投与7日目までにウイルス量が激減することも示されている。有害事象についてはすでに臨床現場で使用されているインターフェロン・アルファとの直接比較ではないため,わからない点もあるが,プラセボ群と差がなかったことは,興味深い結果と思われた。

 NEJMの今週号では他にStage IA末梢性非小細胞肺癌に対して肺葉切除か縮小手術の第3相ランダム化比較試験 “Lobar or sublobar resection for peripheral stage IA non–small-cell lung cancer” が掲載されており,無病生存期間と全生存期間について縮小手術が肺葉切除と非劣性だったことが報告されている。こちらの論文中では,本邦から同様の第3相試験(JCOG0802/WJOG4607L)結果が2022年4月のLancet誌に報告されていたこともしっかり引用されていた(リンク)。

今週の写真:日曜日に自転車で通った荒神橋からの鴨川の様子です。

(後藤慎平)

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