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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 225

公開日:2023.2.22


今週のジャーナル

Nature Vol. 614 Issue 7948(2023年2月16日)日本語版 英語版

Science Vol. 379 Issue 6633(2023年2月17日)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 7(2023年2月16日)日本語版 英語版








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CyTOF解析による肺腺癌5型とその予後予想/CD5?実は抗腫瘍免疫におけるCD5陽性樹状細胞が重要/アミノ酸変異導入RSVワクチンを用いた高齢者臨床試験

•Nature          

1)腫瘍学:Article
肺腫瘍免疫微小環境の単一細胞レベルでの空間的全体像(Single-cell spatial landscapes of the lung tumour immune microenvironment
 カナダのモントリオールにあるマギル大学からの報告である。416例の肺腺癌患者の腫瘍組織を,CyTOFと画像解析を用いたイメージングマスサイトメーターで解析した(図1)。発現マーカーによって,がん細胞と血管内皮細胞のほか,14種類の免疫細胞を識別した(拡張図1)。病理分類は5型で,高悪性度とみなされる微小乳頭型および充実型,中悪性度とみなされる腺房型および乳頭型,低悪性度とみなされる置換型に分類した。既報通り,充実型では免疫細胞の浸潤が44.6%と多かった。
 次に,臨床情報や病理分類と,浸潤している免疫細胞との関連を検討した(図2)。その結果,肥満細胞の割合が高いと予後良好,といった関連が見出された。また女性患者ではCD4陽性ヘルパーT細胞が多く,75歳以上の高齢者ではCD8陽性T細胞が減ることも示された。さらに細胞の表現形質を詳しく調べたところ,Ki-67陽性の血管内皮細胞率が多いと,HIF1α陽性の好中球が多いと,pERKのヘルパーT細胞が少ないと,それぞれ予後が悪化することもわかった(図3)。
 最後にこれら416例の肺腺癌患者データを教育コホートに深層学習を行った(図4)。その予後予測を60例の別個のコホートを用いて検証したところ,94.2%の正確性が示された。
 このように単一細胞レベルで解析する技術が進歩することによって,腫瘍免疫微小環境の複雑さが,次々と明らかになってきているように思われる。

•Science    

1)腫瘍免疫学:RESEARCH ARTICLE
樹状細胞のCD5発現はT細胞性免疫を指揮し,免疫治療の反応を維持している(CD5 expression by dendritic cells directs T cell immunity and sustains immunotherapy responses
DOI: 10.1126/science.abg2752

 米国セントルイスのワシントン大学からの報告である。CD5はもともとT細胞やB細胞表面上に発現していることが知られている糖タンパク質である。筆者らのグループは2017年に,ヒト皮膚のCD5陽性樹状細胞は,CD5陰性樹状細胞に比し,ヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞を効果的に刺激することを報告している(リンク)。今回はこの知見をさらに発展させ,CD5陽性樹状細胞が免疫治療の効果を維持するのに重要であることを示している(Summaryの図参照)。
 そこで今回筆者らは,転移性黒色腫患者の腫瘍所属リンパ節を用いて,単細胞RNAシークエンス解析を行った(図1)。そして腫瘍非含有領域にいるCD1c+CLEC10A+標準2型樹状細胞がCD5を発現していることを見出した。腫瘍非含有リンパ節と腫瘍含有リンパ節を比べると,このCD5陽性樹状細胞は腫瘍非含有リンパ節に多く認められた。そこでCD5の発現と予後との関連を,Cancer Genome Atlas(TCGA)黒色種コホート469例で調べたところ,CD5の発現やCD5陽性樹状細胞は良好な予後と関連していた。
 黒色腫患者の腫瘍非含有リンパ節や健常者のリンパ節から樹状細胞を分離してきて調べてみた(図2)。CD5陽性樹状細胞は,CD4陽性T細胞やCD8陽性T細胞の増殖を刺激し,これらのT細胞を活性化した。
 次にCD5陰性樹状細胞に,CRISPRa(CRISPRで遺伝子発現を誘導するシステム)を用いてCD5を強制発現してみた(図3)。CD5の発現は2日間続き,その後減弱した。この一過性のCD5発現によって,ナイーブT細胞の増殖や活性化が促進され,樹状細胞上のCD5はナイーブT細胞のプライミングに重要であることがわかった。
 続いてマウス腫瘍モデルを用いて,抗腫瘍免疫における樹状細胞上のCD5の役割を検討した(図4)。このOVAを発現する皮下腫瘍モデル(高抗原性)では,野生型マウスだと腫瘍は長径5mm程度まで増殖するものの,その後は免疫応答により縮小し自然退縮してしまう。これに対して,樹状細胞のCD5発現を欠損させたコンディショナル欠損マウスでは,腫瘍の増殖は長径5mmで止まらず,そのまま増殖を続けて行ってしまった。またOVAを発現していない皮下腫瘍モデル(低抗原性)では,野生型マウスでも腫瘍は自然消退しなくなるが,抗PD-1抗体治療が奏功し腫瘍は消失してしまう。そして,この抗PD-1治療の効果は,樹状細胞のCD5発現を欠損させたコンディショナル欠損マウスでは認められなくなってしまった。すなわち,樹状細胞のCD5発現は,抗腫瘍免疫を形成するのに,さらには抗PD-1治療が治療効果を発揮するのに重要であることがわかった。
 そして筆者らは,樹状細胞だけでなくT細胞上のCD5発現も,抗PD-1治療が効果を発揮するのに重要であること(図5)を示した上で,IL-6が樹状細胞のCD5発現を誘導していること(図6)を示している。

2)免疫学:REVIEWS
細胞外マトリックスと免疫システム(The extracellular matrix and the immune system: A mutually dependent relationship
DOI: 10.1126/science.abp8964

 細胞外マトリックスと免疫細胞が,相互にどのような影響を及ぼし合っているかについての総説である(まとめの図参照)。図1では,肺組織の間質がどのように維持されているかも示されており,最新知識の整理に役立つ論文である。

•NEJM            

1)感染症学:ORIGINAL ARTICLE
高齢者に対するRSウイルスの融合前Fタンパク質ワクチン(Respiratory syncytial virus prefusion F protein vaccine in older adults
 グラクソ・スミスクライン(GSK)社が昨年10月本邦で承認申請し,承認されれば世界初となるRSウイルスワクチンについてである。本報告では高齢者におけるワクチン効果を検証した。
 RSウイルスワクチンの開発は1960年代のホルマリン不活化ワクチンから始まり,RSウイルスの外殻にあるFタンパク質(融合後)のワクチンと,多くの失敗をこれまで繰り返してきた。その失敗の原因は,融合前Fタンパク質の抗原エピトープが,RSウイルスが宿主細胞に吸着し膜融合した後では,消失してしまうことであった。さらに,融合前Fタンパク質の構造は不安定で,容易に融合後Fタンパク質の安定化構造に変化してしまうため,融合前Fタンパク質をワクチンとして用いることが困難であった。そこで今回GSK社の支援で行われた第3相試験では,融合前Fタンパク質の構造を安定化させるためにアミノ酸変異が人為的に導入されている(PERSPECTIVEの図参照)。
 イタリアのフェラーラ大学からの報告で,国際プラセボ対照無作為化二重盲検試験である。対象は60歳以上の成人(ワクチン群12,467例・プラセボ群12,499例)で,ワクチンあるいはプラセボを1回接種して,中央値6.7カ月の経過観察を行った。
 その結果,RSウイルス関連の下気道感染(主要評価項目)は,ワクチン群で7例,プラセボ群で40例となり,ワクチン効果は94.1%と驚異的な高さであった(図2)。またワクチン接種に伴う有害事象の多くは一過性で,軽症から中等症であった(表3)。
 なお本号では,アデノウイルスベクターによるRSウイルスワクチンを同じく高齢者に接種した試験も報告されている。Janssen社の支援で行われた後期第2相試験である。Janssen社のワクチンでは,3つ以上の症状を伴うような下気道感染症に対するワクチン効果は80.0%で,ワクチン効果の数字だけを見ると,GSK社のワクチンに比べ,やや見劣りする結果となっている。

今週の写真:
左が私の誕生日ケーキ,右がうちの愛犬の誕生日ケーキ。
昨今,わんちゃんのケーキも結構クォリティが高くなっています。

(TK)

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