•Nature
1)免疫学:Article
サイトカイン,CD4 T細胞,CD11c+ B細胞を介したダウン症の自己免疫反応(Autoimmunity in Down’s syndrome via cytokines, CD4 T cells and CD11c+ B cells)
|
ダウン症候群は,21トリソミーあり,知的障害以外に,心奇形,消化管奇形,アルツハイマー病のリスク増加などを引き起こす。加えてダウン症候群患者は免疫機能の異常を認め,甲状腺炎やセリアック病などの自己免疫疾患のリスクが高い。最近の研究では,ダウン症候群患者の過剰なIFN応答や胸腺機能障害が21番染色体におけるIFN受容体サブユニットやAIRE発現によって解析されている。また,ダウン症候群患者ではB細胞数低下が知られており,この要因としてB細胞の増殖能低下やアポトーシスの増加が報告されている。一方で,ダウン症候群患者がどのような機序で免疫機能のdysregulationが生じ,臨床症状と具体的にどのように関連するかは十分に解析されていなかった。こちらの機序解明のために,NYのマウントサイナイの研究グループがダウン症候群患者の臨床検体を用いて報告している。共著者には,先天性免疫不全領域のビッグネームも多く名前を連ねている。
まず21人のダウン症候群患者と10人のHealthy Volunteerを対象に,血漿中のサイトカインアレイを行い,ダウン症候群患者が3つのカテゴリに分かれることを見出した(
Fig.1)。また,ダウン症候群患者のうち,約3分の1の患者で,サイトカインのサブセット(IL-13,IL-4,TNFβ,IL-6 ,IL-1α を含む)で有意に上昇しているクラスターを見出している。
次に
CyTOFを用いて,ダウン症患者の免疫系のサブセットについて網羅的解析を進めている(
Fig.2)。ダウン症候群患者ではnaïve T細胞が少ない一方で,CD4陽性T細胞・CD8陽性 T細胞が’memory phenotype’〔central memory(CD27+CD45RA-),effector memory (CD27-CD45RA-),terminally differentiated effector memory (TEMRA)(CD27-CD45RA+)として定義〕を呈していた。特に,CD4陽性T細胞でcentral memory T細胞の頻度が増加していた。さらに,ダウン症候群患者のCD4 陽性T細胞では,STAT3が活性化していた。
ダウン症候群患者では,従来から指摘されている通りB細胞が著しく減少しており,B細胞サブセットの相対的な頻度変化も観察された。Memory B細胞はわずかに減少した一方で,形質芽細胞はほぼ3倍に増加していた。
CD11c陽性 B細胞は,Germinal Center以外の場所でサイトカインやT細胞刺激,TLR刺激によって,ナイーブB細胞から由来すると考えられている。CD11c陽性B細胞の2つの主要なサブセットは,CD27陰性IgD陽性活性化ナイーブB細胞とCD27陰性IgD陰性B細胞(ダブルネガティブ解析)のサブポピュレーションに分類される。これらのB細胞の活性化はSLE,関節リウマチ,潰瘍性大腸炎,CVIDなどでも報告されている。ダウン症候群患者では,CD27陰性IgD陽性活性化ナイーブB細胞でもダブルネガティブ細胞の両方でCD11c陽性B細胞の頻度が増加していた。この頻度はSLEと同等の頻度で観察され,幼児期から見られる現象と考えられた。
また,このCD11c陽性B細胞に関してシングルセル解析を行い,V遺伝子領域において,ダウン症候群患者は健常者に比べて非参照ヌクレオチドが少なかった(
Fig. 5)。非参照ヌクレオチドは参照ゲノムには存在しないが,シーケンスされたサンプルには存在する新しいDNA配列のことを指す(
Link)。近年,非参照ヌクレオチドは機能的な要素を含んでいる可能性が示唆されており,ヒトゲノムの多様性として注目されている。ダウン症候群患者のCD11c陽性B細胞は,自己反応性が高く,特定の遺伝子の使用率が高かった。
ダウン症候群患者,同年齢の健常者,IPEX症候群患者(FOXP3遺伝子異常によって引き起こされる)の血漿を比較した。主成分分析ではダウン症候群患者のサンプルはIPEX症候群患者と同一のクラスターを形成した(
Fig.6)。
以上より,ダウン症候群患者の血漿中において,特徴的な自己抗体プロファイルを見出し,自己免疫に関連するB細胞およびT細胞の活性化がこれらの高親和性組織特異的抗体を形成する素因になっていると考えられた。
•Sci Immunol
1)免疫学:Research Article
SARS-CoV-2 mRNAワクチンブースター接種後の抗炎症性スパイク特異的IgG4抗体へのクラススイッチ(Class switch toward noninflammatory, spike-specific IgG4 antibodies after repeated SARS-CoV-2 mRNA vaccination)
|
mRNAワクチンの3回投与後にはIgG4が増加するというドイツのErlangen-Nuremberg大学からの報告を取り上げる。筆者らはまず医療従事者29名のコホートを用いて,経時的にSタンパク特異的なIgGサブクラスを観察している。最初の2回のmRNAワクチン投与後のIgG反応は主に炎症性のサブクラスに分類されるIgG1およびIgG3が占め,抗炎症性のサブクラスに分類されるIgG4の上昇は軽度であり,2回目の接種直後は総IgGのうち,IgG4は平均0.04%を占めるのみであった。一方,2回目の接種後から時間が経過すると共に総IgGの内,IgG4の占める割合は上昇し,3回目の接種後には19.27%にまで上昇する。
次に,筆者らはSタンパク特異的なmemory B細胞の解析を行っているが,その前に,IgGサブクラスの遺伝子発現制御に関して,本文中でも議論されているので,ここでも紹介したい。活性化誘導型シチジンデアミナーゼ(AID)は,抗体の可変領域(V)の体細胞超突然変異 (SHM:somatic hypermutation)を触媒する酵素で,本庶先生が発見された有名な分子である。AIDはGerminal CenterのB細胞にも発現しており,Constant領域(C)の抗体遺伝子のDNAレベルでの組換え(クラススイッチ組換え:CSR)も担っている。γ3C領域がコードするIgG3は,14番染色体上の免疫グロブリン重鎖遺伝子座の最も5′側のCγ領域に位置する。AIDが持続して活性化すると,より下流のCγ領域に位置するγ1(IgG1をコード),γ2(IgG2をコード),γ4(IgG4をコード)へクラススイッチする(
Figure 1A)。2 回目の接種後期から抗 スパイクタンパク IgG4 抗体が出現したことは,B 細胞のmaturationが長期間継続し,CSR が遠位の IgG サブクラスに向かって増加し,時間をかけて IgG4 にクラススイッチしたmemory B 細胞が生成されることを示唆していると考えられた。実際にPBMCをFACSで解析すると,Sタンパク結合B細胞はほとんどCD27陽性B細胞に限られており,非Sタンパク結合B細胞のIgG4発現割合は1~8%の範囲であったが,Sタンパク結合B細胞に関してはあらゆるタイムポイントで有意に高い割合を認め,中には37%を占めるタイムポイントも認めた。
一方,この現象は,アデノウイルスベクターワクチンでは観察されず,また,破傷風トキソイドやRSVワクチンでも認めなかったことから,IgG4 へのクラススイッチというのは,ワクチン接種や複数回の抗原曝露後の一般的な現象ではないと考えられた。
IgG2 と IgG4 は,FcγR 依存性のエフェクター機能が低いと報告されており,THP-1細胞株を用いて抗体依存性細胞貪食(ADCP:antibody dependent cell mediated phagocytosis)(
Link)や抗体依存性補体沈着(ADCD:antibody-dependent complement deposition)(
Link)の活性を見ており,実際にIgG4ではADCP,ADCDが低下していた。
本論文からは,どのような機序がmRNAワクチンの継続接種がIgG4を引き起こしているのかは明らかにはされていないが,今後,mRNAワクチンを経時的に接種していく可能性が高いこの時代において,非常に興味深い報告である。
•NEJM
1)感染症:Original Article
リファンピン感受性結核の治療戦略(Treatment strategy for rifampin-susceptible tuberculosis) |
結核,そしてLTBI治療は,世界中で短期治療に向けたレジメン開発の努力がなされている。そのような潮流の中で,本臨床研究は,なんと結核を従来の6カ月治療から2カ月治療までの短縮の非劣性を示している。
臨床デザインは非盲検非劣性試験で,アダプティブデザインとなっている。アダプティブデザインはその理論的背景にはベイズ統計学があり,COVID-19でもRecovery Trialを中心に話題になった(
Link)。
本研究ではリファンピン感受性肺結核を,標準治療(リファンピンとイソニアジドを24週間,最初の8週間はピラジナミドとエタンブトールも投与)を行う群と,8週間のレジメンで初回治療を行い,病態が臨床的に持続している場合は治療を延長し,治療後は経過観察を行い,再燃した場合は再治療するという群とに,無作為に割り付けた。初回レジメンとしては4つの異なるレジメン群を設定し,その4つのうち,エントリー数が条件を満たした2つの治療群で非劣性を評価した。その2群は,初回レジメンが高用量リファンピン+リネゾリドの群と,ベダキリン+リネゾリドの群であった(いずれの群もイソニアジド,ピラジナミド,エタンブトールを併用)。主要評価項目は,96週の時点での死亡患者,治療が継続している患者,活動性の疾患を有する患者の複合とした。また,非劣性マージンは12%と事前設定された。
主要評価項目のイベント数としては,標準治療群では181例中7例(3.9%)で発生したのに対し,初回レジメンがリファンピン+リネゾリド群では184例中21例(11.4%)に発生し,標準治療群との補正後の差は7.4%(95%CI:1.7~13.2%)で非劣性基準を満たさなかった。初回レジメンがベダキリン+リネゾリド群では189例中11例(5.8%)に主要評価項目のイベントが発生し,標準治療群との補正後の差は0.8%(95%CI:-3.4~5.1%)で非劣性基準を満たした。総治療期間の平均は,標準治療群で180日,リファンピン+リネゾリド戦略群で106日,ベダキリン+リネゾリド戦略群で85日であった。グレード3または4の有害事象と重篤な有害事象の発現率は,3群間で同程度であった(
Fig.2)。
以上の結果から結核に対し,8週間のベダキリン+リネゾリド(+イソニアジド,ピラジナミド,エタンブトール)のレジメンで初回治療を行う治療戦略は,臨床転帰に関して,標準治療に対して非劣性であった。また,この治療戦略は総治療期間の短縮と関連し,有害事象とは関連しなかった。
本臨床研究は,奇しくも,筆者が先月,訪問したシンガポール国立大学,そして,英国のグループによって,計画・実行された臨床研究で,シンガポールの勢いを実感する研究である。
今週の写真:本年,訪れたシンガポール国立大学の病院群。 日本にはない多様性,勢いを肌で感じた。 |
(南宮湖)