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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 230

公開日:2023.3.28


今週のジャーナル

Nature Vol. 615 Issue 7953(2023年3月23日)日本語版 英語版

Science  Vol. 379 Issue 6638(2023年3月24日)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 12(2023年3月23日)日本語版 英語版








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ミトコンドリアの形態・分布・機能の連動から分類される非小細胞肺癌/進化的に保存された共感・情動伝染におけるオキシトシンの役割/コーヒーは健康に良いのか?

•Nature

1)肺癌
肺癌におけるミトコンドリアネットワークの構造と機能の空間解析(Spatial mapping of mitochondrial networks and bioenergetics in lung cancer
 本研究は,米国カルフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)からの非小細胞肺癌についてミトコンドリアの形態・分布・機能の連動から解析した興味深い報告である。
 PETのトレーサーとしては,[18F]FDGはグルコース代謝の評価に利用され,臨床的には腫瘍の可視化に利用されている。本研究グループは以前に4-fluorobenzyl triphenylphosphonium([18F]FBnTP)がミトコンドリアの膜電位の評価に有用であり,マウス肺癌モデルにおいてin vivoで検証してきている(リンク)。
 今回は[18F]FDGと[18F]FBnTPを用いたPET画像解析,respirometryによる細胞呼吸(ミトコンドリア機能)測定,試料から高解像度の三次元画像を再現可能な三次元ブロックフェイス走査型電子顕微鏡法(scanning block-face electron microscopy:SBEM,リンク),(シリアルブロックフェイスイメージング)を統合的に用いて解析している。KrasG12D;p53−/−;Lkb1−/−(KPL)マウスやKrasG12D;Lkb1−/−(KL)マウスの解析およびヒト肺癌細胞株のマウス皮下移植モデルの解析から,肺腺癌と肺扁平上皮癌で大きくミトコンドリアのPET結果と機能が分類された。すなわち肺腺癌ではミトコンドリアは主に融合した長細い形状で細胞内に広く分布し,酸化的リン酸化の速度が速く(OXPHOSHI)脂肪酸酸化の速度も速いのに対して,肺扁平上皮癌ではミトコンドリアは分断したものが多く核の周囲に分布し,OXPHOSの速度が遅く(OXPHOSLO)グルコース流入が早いことが観察された(Fig. 1)。
 SBEMデータについては機械学習を行い,一腫瘍組織あたり2万~5万個のミトコンドリアについて解析を行っている(Fig.2
さらに本研究ではミトコンドリアの詳細な構造解析によって3つのタイプに分類している(Fig.3)。タイプ1は高度に組織化された層状クリステをもつミトコンドリア,タイプ2はまばらでまとまりのないクリステをもつミトコンドリア,タイプ3は凝縮したクリステ構造のミトコンドリアである。肺腺癌ではタイプ1~3のいずれもみられるのに対して,肺扁平上皮癌ではタイプ1はほとんどみられず,タイプ3が多く観察されている。
 細胞内分布についての詳細な解析からは,肺腺癌ではミトコンドリアが脂肪滴に接して取り囲んだ脂肪滴周囲ミトコンドリアネットワークが見られ,対照的に肺扁平上皮癌では脂肪滴周囲ミトコンドリアはほとんど見られず,細胞内および核周辺局在が中心であった(Fig.4)。そして,この核周囲の局在はブドウ糖の取り込みを阻害するとなくなるというようにブドウ糖代謝によって調節されていることも明らかにされた(Fig.5)。
 本研究では非小細胞肺癌においてミトコンドリアが異なる亜集団に分類され,それらが腫瘍のエネルギー産生能を管理することが示唆された。なお本研究はAASJでも紹介されている。

•Science

1)神経行動科学

DOI: 10.1126/science.abq5158
ゼブラフィッシュにおける社会的恐怖感の伝染におけるオキシトシンの進化的に保存された役割(Evolutionarily conserved role of oxytocin in social fear contagion in zebrafish
 共感(empathy)は,他者と喜怒哀楽の感情を共有することを指す(共感:Wikipedia)。他の人が楽しそうにしている様子を見ると何だか自分も明るくなる,逆に苦しそうな姿をみると自分自身も暗くなる,といった他者の特定の感情を知覚することによって,自分自身も同じ感情を経験する。こうした他者と感情を共有する現象は「情動伝染(emotional contagion)」と呼ばれ,「知覚」して「反応」する単純な系であることから,ヒト以外の動物でもみられる進化的にも古い「共感」の形式と考えられているが,その詳細については不明であった。
 ポルトガルのグルベンキアン科学研究所からの本研究では,すでに哺乳類で共感行動を調節する役割が知られているオキシトシンについて,最近ゼブラフィッシュにおいて知られるようになってきた「社会的恐怖感の伝染(social fear contagion)」について解析している。傷害をうけたゼブラフィッシュは皮膚から警告物質を放出して「警告反応の伝播」をすることで他の魚の動きを止めること(freezing behavior)が知られているが,単に他のゼブラフィッシュが苦痛をうけているのを見るだけでも同様の反応を示すことがわかってきていた。そこで本研究では水が接していない隣の水槽での出来事に対してでも同様の反応を示すかどうかについて実験を行った。正常なゼブラフィッシュでは期待通りに隣り合わせの水槽内での様子に反応して恐怖反応を有意に増強したが,オキシトシン遺伝子あるいはその受容体遺伝子の変異のあるゼブラフィッシュでは増強しなかった。さらにオキシトシン遺伝子変異ゼブラフィッシュにオキシトシンを投与して実験すると,この反応が回復することから恐怖感の伝染にオキシトシン・シグナル伝達が必須であることが証明された(Fig. 1)。
 神経細胞の活性化はS6リボゾームのリン酸化(pS6)で調べられるため(リンク),次に脳内の神経活動についてpS6の免疫染色で解析を行った。その結果,恐怖感の伝染に腹側被蓋野の2つの核が関与していることが同定したが,どちらも哺乳類における情動伝染に重要なことが知られている脳の外側中核と線条体に相当する部位であることが判明した(Fig. 2)。さらに興奮性ニューロンや抑制性ニューロンの活動について詳細に解析したところ,哺乳類での知見に一致して脳の外側中核に相当する部位で興奮性ニューロンが働き,線条体に相当する部位で抑制性ニューロンが活動していること,オキシトシン・ニューロンが前視覚領域からこれらの部位に投射しており重要な働きをしていることが示された(Fig. 2)。
 ゼブラフィッシュの恐怖感の伝染におけるオキシトシンの役割をさらに客観的に示すために,水槽の向かい合わせの両側の面にビデオモニターを設置し,片方はコントロールの苦痛なく泳いでいるゼブラフィッシュを見せて,もう一方では苦痛をうけているゼブラフィッシュを映して観察する実験を行った(Fig. 3A)。その後は両方とも正常に泳ぐゼブラフィッシュのビデオを映し出して観察した。正常のゼブラフィッシュもオキシトシン遺伝子やその受容体遺伝子の変異のゼブラフィッシュも同様に苦痛を受けた魚が映し出されると,その画像の方を向くので「注意する方向」に差はなかったが,その後の恐怖反応の示し方には差がみられた。すなわち正常のゼブラフィッシュでは苦痛を受けた魚を見た後に恐怖反応を示すとともに,その後に正常に泳ぐゼブラフィッシュのビデオを流していても,以前に苦痛を受けた魚を映したモニターの側へ寄っていくという共感行動がみられたが,オキシトシン・シグナルに異常があるゼブラフィッシュでは恐怖反応も示さず,近寄る行動もみられなかった。これらの反応は,オキシトシン遺伝子変異ゼブラフィッシュにオキシトシンを投与することによって回復がみられた(Fig. 3)。
 以上のようにゼブラフィッシュの実験を通して,脊椎動物全体の基本的な共感行動の重要な調節因子としてのオキシトシンの役割が数億年という進化的に保存されていること示された。本研究はPERSPECTIVESでも紹介されている。

•NEJM

1)健康疫学
自由行動下の成人におけるコーヒー摂取の健康に対する急性影響(Acute effects of coffee consumption on health among ambulatory adults
 コーヒーは世界で最も多く摂取されている飲料の1つである(コーヒー:Wikipedia)。長期摂取における健康についての多くの疫学研究があるが,コーヒー摂取による健康に対する急性の影響については不明である。本論文は,米国カルフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)を中心としたCRAVE (the Coffee and Real-time Atrial and Ventricular Ectopy)試験の報告で,カフェイン入りコーヒーが及ぼす健常人の特に不整脈への急性の影響について研究している。
 成人100人について前向き無作為化症例クロスオーバー試験を行い,カフェイン入りコーヒーが心臓の異所性興奮と不整脈,1 日の歩数,睡眠時間,血糖値に及ぼす影響について調べている。参加者は持続記録式の心電図機器,手首装着型の加速度計,持続血糖モニターを装着し,地理的位置データを収集するためのスマートフォンアプリケーションを使用した。14 日の期間中は「カフェイン入りコーヒーを摂取する」または「カフェインを避ける」への無作為割付けについてテキストメッセージを送信することによって行った。参加者の平均年齢は39±13歳であり,51%が女性,51%が非ヒスパニック系白人であった。無作為割付けがしっかりとできているか(遵守度)については,参加者が記録するリアルタイムの指標,毎日の調査,コーヒー購入時の日付入りレシートに対する払戻し,コーヒー店への訪問をGPSによる位置情報通知を用いて調べたところ高い遵守度評価であった。
 主要評価項目の1日の心房性期外収縮数の平均数については,コーヒーの摂取は1日58回の心房性期外収縮と関連したのに対し,カフェインを避けた日は1日53回と差はみられなかった〔率比:1.09,95%信頼区間(CI):0.98~1.20,p=0.10〕(Table 2)。副次評価項目については「カフェイン入りコーヒーの摂取」と「カフェイン摂取なし」とを比較すると,1日の心室性期外収縮数はそれぞれ154と102(率比:1.51,95%CI:1.18~1.94),1日の歩数は10,646と9,665(差の平均:1,058,95%CI:441~1,675)(Figure 1),夜間の睡眠時間は397分と432分(差の平均:36,95%CI:25~47)(Figure 2)と差がみられたが,血清グルコース値は95mg/dLと96mg/dL(差の平均:-0.41,95%CI:-5.42~4.60)と同等であった。
 今回の急性効果についての研究では,「カフェインを避けた場合」と比較して「カフェイン入りコーヒーを摂取」は,心房性期外収縮が多いこととは関連しなかったが,心室性期外収縮が多いこと,1日の歩数が多いこと,睡眠時間が短いことと関連していた。QUICK TAKEでは約2分間の動画で簡潔にまとめられており非常にわかりやすい。

今週の写真:千葉の満開の桜

(鈴木拓児)

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