" /> PM2.5による炎症が肺腺癌を引き起こす/線維化を促進するマクロファージの同定/第三世代CAR-T療法による固形癌の臨床治験 |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 232

公開日:2023.4.12


今週のジャーナル

Nature Vol.616 Issue 7955(2023年4月6日)英語版 日本語版

Sci Immunol  Vol. 8 Issue 82(2023年4月)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 14(2023年4月6日)英語版 日本語版








Archive

PM2.5による炎症が肺腺癌を引き起こす/線維化を促進するマクロファージの同定/第三世代CAR-T療法による固形癌の臨床治験

•Nature

1)PM2.5
大気汚染物質による肺腺癌の発癌作用(Lung adenocarcinoma promotion by air pollutants
 フランシスクリック研究所を中心とする英国の研究チームからの報告で,EGFRドライバー変異による肺腺癌が東アジア地域,女性,非喫煙者に多いことは昔から有名でそれについては様々な原因が考えられているが,本研究では大気汚染の関与を疑ってPM2.5と発癌の関係性に注目した。しかし,多くの発癌物質はDNAへの変異を直接引き起こすものではないこともわかっており,研究者たちはEGFRドライバー変異は元から存在し,PM2.5がもたらす肺組織の微小環境における炎症によって癌化するのではないかという仮説を立てて研究を進めた。NEWS AND VIEWSでも取り上げられ,AASJ でも紹介されている。

 研究者たちは英国,韓国,台湾の3カ国の疫学情報を調べたところ,PM2.5とEGFRドライバー変異による肺癌発生率が相関関係にあることがわかった(Fig.1)。この疫学データには人の移動情報を加味することができなかったので,移動歴やPM2.5累積曝露量の記録のあるカナダのブリティッシュコロンビアの非喫煙者肺癌の女性患者のコホートも調査し(EGFRドライバー変異は46.7%),EGFRドライバー変異による肺癌症例は3年間に高容量曝露した群で73%,低用量曝露では40%と有意差を認めた。20年間の曝露期間で両群を比較しても有意差はつかなかったことから,3年間のPM2.5累積曝露量に着目して英国のバイオバンク407,509症例を見直したところ,EGFRドライバー変異に限らず,癌の発症と正の相関が明らかとなった。

 研究者たちはPM2.5による発癌メカニズムを調べるため,Creを発現するアデノウイルスを経気道的に投与することで薬剤誘導性にヒトEGFR^L858R変異をマウス肺に発現するように遺伝子改変したマウス(ETマウス)を作成し,EGFR^L858Rを発現しはじめてから3週間 PM2.5に曝露する実験を行った。このマウスの肺を10週間後に評価したところ,PM2.5曝露群では非曝露群に比べて,曝露量に応じて非浸潤性の結節が多く認められた(Fig.2)。  
 KRAS^G12D変異についてもマウスを作成して同様の結果だった。PM2.5に曝露後,曝露を休止してもEGFR^L858R変異細胞が増殖するか調べたところ,3週間後では曝露しなかった群との差がなかったが,10週間後には曝露群の方がその後の曝露休止があっても多くの結節を認めた。PM2.5がゲノムDNAに変異を引き起こしたのか全ゲノムシーケンスで調べたが,有意差はなく,免疫系がPM2.5による発癌と関係する可能性が考えられた。ヒトEGFR^L858R変異マウスを免疫不全マウス(T細胞,B細胞,NK細胞を欠損)と掛け合わせたところ,元のETマウスと異なり,結節ができなくなったことから,PM2.5による発癌には免疫系が必要なことがわかった。さらにPM2.5への一過性曝露でもその後の発癌促進効果を認めることについてはPM2.5曝露後10週間にわたって増加したマクロファージが浸潤した状態が持続することによると推測された。

 次に,上皮細胞側の腫瘍化メカニズムを調べるため,野生型マウスとETマウスでPM2.5曝露群と非曝露群のそれぞれから呼吸器上皮細胞を単離してRNA-seq解析を行ったところ,ETマウスのPM2.5曝露群では,IL-1β,GM-CSF,CCL6,NF-kB,alarmin IL-33などのマクロファージの遊走に関わる遺伝子群やII型肺胞上皮(AT2)細胞の幼弱化に関与する遺伝子の上昇が顕著だった(Fig.3b)。さらにAT2細胞を単離して線維芽細胞と共培養するオルガノイド培養も行ったところETマウスのPM2.5曝露群のオルガノイド形成率は他の条件よりも高く,幼弱化マーカーであるKRT8を発現していた。さらにETマウスからAT2細胞を単離してマクロファージと共培養して,PM2.5に曝露させる実験も行い,マクロファージとの共培養がEGFR変異AT2細胞のオルガノイド形成率を有意に高めること,マクロファージが産生するIL-1βがAT2幼弱化を引き起こすこと,EGFR変異による発癌マウスにIL-1βの中和抗体を投与しておくとPM2.5に曝露しても腫瘍形成が抑制されることを証明した。

 そこでEGFRドライバー変異が正常組織の細胞にどれくらい起こりやすいのかを調べた。前向き研究として未治療の肺癌患者195症例から非癌肺組織を取って調べたところ,38例(19%)で癌組織にはなかったEGFRドライバー変異を見つけた。1例のみ癌組織にEGFR^L858Qが見つかり,非癌肺組織にEGFR^L858RとEGFR^L858Qが見つかった症例があったが,ほとんどの場合で正常肺組織にできたEGFRドライバー変異を持つ細胞が,非小細胞性肺癌を発症する過程で選択されていないことが判明した。肺以外の癌で亡くなった症例で正常とみられた剖検肺組織(19症例から59サンプル)についても調べたところ3症例(16%)でEGFRドライバー変異が見つかった。EGFRドライバー変異の入りやすさを計算すると554,500肺細胞に1個の割合と推定された。

 EGFRドライバー変異と大気汚染との関連を調べるため,炭粉沈着との関係性を調べたところ,非癌組織ではEGFRドライバー変異との相関関係は見出だせなかったが,変異アレル頻度との関連性は認めたことから,大気汚染によってEGFRドライバー変異の頻度が増えるのではなく,変異を持つ細胞が増殖しやすかったと考えられた。また,癌患者コホートの非癌肺組織や別のコホートの健常な肺組織を用いてEGFRとKRASのドライバー変異について調べたところ,54サンプル(18%)でEGFRドライバー変異,43サンプル(53%)でKRASドライバー変異が見つかった。EGFRやKRASを含む31原因遺伝子について調べたところ,加齢と変異数には有意な相関関係を認めた(Fig.4e)。

 以上を簡単にまとめると,大気汚染下で生活していると非喫煙者でもEGFRドライバー変異による発癌リスクが高まること,PM2.5は炎症によって肺癌を誘発すること,EGFRドライバー変異は加齢でも非癌肺組織に起こり得るもので炎症刺激を受けることで癌化しやすいことを疫学から動物実験までカバーして証明した内容となっている。

•Sci Immunol

1)臓器線維化
3型炎症によって誘導される線維化促進マクロファージの同定(Identification of a broadly fibrogenic macrophage subset induced by type 3 inflammation
 Pfizer社からの報告だが,筆頭著者は2018年にカナダのモントリオール大学から3型炎症によるIL-17AやIL-22によってTGF-βを介した肝臓線維化を同誌に報告しており(リンク),そこから発展させる形で今回は肝臓と肺の線維化の両方に関わるマクロファージを同定したことを報告している。近年,TREM2やCD9を発現する“scar-associated macrophages(SAMs)”が注目されており,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や特発性肺線維症(IPF)での線維化とSAMsがどのように関与するかやSAMsのどのような特徴をもった細胞集団が重要かを調べた。bioRxivにもプレプリントが掲載されていた。

 公開されているscRNA-seqのデータセットを用いて,肝臓については健常者44例と肝硬変患者5例,肺については健常者51例と肺線維症患者66例(うち10例は全身性強皮症に伴う間質性肺疾患,56例はIPF)を再解析した臓器ごとの統合データベースを作成し,そこから骨髄球のデータを抽出して合体させたところ167,856個からなるscRNA-seqのアトラスができた(うち37,575個は肝臓で130,281個は肺)。その中でKupffer細胞は肝臓に,肺胞マクロファージは肺に特徴的だったが,SAMsの特徴とされるCD9+TREM2+マクロファージは肝臓と肺の両方の線維症患者に特に有意に集積していることがわかった(Fig.1)。CD9,TREM2に追加する形でより特異的な細胞集団を同定できるマーカー探したところ,SPP1とGPNMBを組み合わせた上でFABP5もしくはCD63を追加した時に線維化に最も特異的な細胞集団を選択できることを見出した(Fig. 2)。患者由来の病理組織で免疫染色を行って整合性も確認し,CD9,TREM2,SPP1,GPNMBにFABP5もしくはCD63を追加した5つのマーカーが陽性のSAMsを「Fab5」と呼ぶことにした。

 次にマウスを用いて四塩化炭素と高脂肪食による肝臓線維化モデルのscRNA-seqを行い,Fab5の特徴をもつマクロファージを同定して,分化の方向性をRNA velocityの手法で解析した結果,単球が炎症性マクロファージとなってFab5の特徴をもつSAMsに分化することが推定され,フローサイトメトリーと免疫染色を組み合わせて線維化に近いところにFab5マクロファージが集積することを確認し,同様の結果をブレオマイシン肺線維症モデルでも確認した。

 さらに単離したヒト由来単球を用いてFab5マクロファージへの分化を誘導する因子を探した。肝臓線維化病変にはIL-17AとGM-CSFを産生する好中球がマクロファージと共局在し,TGF-βを活性化するintegrinβ1(CD29)とMMP9も同部位に集積していることから,GM-CSF,3型炎症のサイトカインであるIL-17AやTGF-β1が,単球をFab5マーカー陽性のマクロファージへと分化させることがわかった(Fig.5)。分化マーカーだけでなく機能を調べるため,肝星細胞(伊東細胞とも呼ばれる)と共培養してIFN-γやTGF-β1を添加すると,線維化に寄与するI型Collagenを産生するだけでなく,IFN-γやTGF-β1刺激によってI型Collagenは分解せず,IV型Collagen(ここでは正常な細胞外マトリックスとして使用)を分解することやTGF-β1刺激でMMP活性が高まることを示した。

 四塩化炭素による肝臓線維化モデルマウスでIL-17A,GM-CSF,TGF-βのそれぞれによる阻害実験を行い,いずれも線維化が抑制されたが,IL-17AやGM-CSFの抑制実験ではTGF-βとは異なり,肝臓に集積する骨髄球が減少し,特にSAMs(CD9+TREM2+)ではFab5マクロファージだけが減少し,作用点の違いが推測された。最後はTGF-β阻害実験で,肝臓線維化モデルマウス(四塩化炭素と高脂肪食)と肺線維化モデルマウス(ブレオマイシン)でFab5マクロファージが減少することを確認して締めくくられている。

 まとめると公開されているscRNA-seqのデータベースからマウスとヒトで保存されたFab5マクロファージ集団を同定し,3型炎症サイトカインによって単球から誘導されることを示し,in vitroin vivoでその病的役割を明らかにした内容となっている。本文では触れられていなかったが,今回とは異なるアプローチで2017年に報告された当時大阪大学におられた佐藤先生(現東京医科歯科大学)らが発見されたSatM(リンク)との関係性がどうなっているのかなど今後の研究の進展も興味深い。

•NEJM

1)CAR-T
第三世代CAR-T療法(GD2-CART01)による再発もしくは治療抵抗性の高リスク神経芽腫の第1〜2相臨床治験(GD2-CART01 for relapsed or refractory high-risk neuroblastoma
 神経芽腫は頭蓋外の小児固形癌で最も多く小児癌死亡の11%を占め,5年生存率は40〜50%,初回治療に反応しない場合には5〜10%とされる。disialoganglioside(GD2)を分子標的とする抗体療法が開発され,本邦でも使用可能になっている(Wiki)。GD2を標的としたCAR-T療法も開発が進められており,GD2-CART01というイタリアからの第1〜2相臨床治験の報告である。今回使用されたCAR-Tの特徴はCD28と4-1BBという2つの共刺激ドメインを持つことでメモリーT細胞を誘導しやすいなどのメリットのある第三世代CAR-T療法である(Wiki)。第1相試験では再発や初回治療から治療抵抗性の高リスク神経芽腫の症例を対象に安全性の確認を目的とし,第2相試験では転移やMYCN増幅を認める症例を対象として治療効果を調べた。2018年1月から2021年10月にかけて2次治療以降で治療抵抗性の計27症例(治療抵抗性12例,再発が14例,一次治療後完全寛解が1例)が登録された。

 安全性については細胞数で有害事象が増える傾向はなく,検討した上限値であるCAR-T細胞10x10^6個/kgを1回あたり推奨投与量に決定したが,有害事象としてサイトカイン放出症候群(Cytokine release syndrome) は20症例(74%)に認められ,Grade 3の1例だけtocilizumabが投与されてすぐに回復した。血液毒性は全例に認められたが,CAR-T細胞投与前の前処置で行う化学療法に伴う所見で説明できた。GD2-CART01は体内で増えて26例では投与後最大30カ月まで末梢血中に検出された(中間値は3カ月)。

 GD2-CART01では輸注後のCAR-T細胞が問題を起こしたときに除去できるようにrimiducidという薬剤を投与すればアポトーシスを引き起こすCaspase9の発現を誘導できるように設計されており(iC9),輸注後に意識障害を来した1例(後でCAR-T細胞ではなく脳出血が原因だったことが判明)でiC9を発動させたところ,計画通りにCAR-T細胞を死滅できることも確認された(Figure 1I)。

 有効性についてはCAR-T細胞輸注後6週間後の評価で,9症例(33%)で完全緩解,1症例は完全寛解後の投与だったが完全寛解が維持され,1.7年間(中間値)のフォローアップで5例で完全寛解維持,4症例が再発(うち2症例は第1相試験の際の投与細胞数の少なかった症例),8症例は部分奏功,5症例は変化なし,5症例は反応なしという結果で(Figure 2A),3年間の全生存率は60%,無イベント生存率は36%だった。複数回投与は11症例で実施され,1回目投与後に完全緩解したが再発した1例では再投与で完全寛解に至り,2例は完全寛解の維持,3例で部分奏功と一定の効果を期待できた。
今週の写真:
夜桜を見に行ったら知恩院がライトアップされていて初めて見る光景でした。
(後藤慎平)

※500文字以内で書いてください