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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 235

公開日:2023.5.10


今週のジャーナル

Nature Vol.616 Issue 7958(2023年4月27日)英語版 日本語版

Sci Immunol  Vol. 8 Issue 83(2023年5月)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 17(2023年4月27日)英語版 日本語版








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寿命を延ばす!-転写伸長速度とヒストン-/ここまでやるか介入研究‐喘息症例の気道で起きている事/COVID-19に対するBCGワクチンの二重盲検試験

•Nature

1)老化:Article
加齢に伴う転写伸長過程の変化が寿命に影響する(Ageing-associated changes in transcriptional elongation influence longevity
 20歳の医学生の頃の自分と中年真っ盛りの現在の自分では外見が相当異なるように加齢により生体は大きく変化する。細胞レベルで考えた場合には転写やRNAスプライシングなどの細胞内プロセスに変化(障害)が生じ,タンパク質の質と量に影響を与えながら生理的な恒常性が損なわれていく。実際に転写産物(転写の結果)の多寡やエラーを伴うことが加齢によって増加すること,またそれが疾患に関与する可能性は今までも知られてきた。しかしながら,転写のプロセス(途中過程)が加齢によるどう影響されるのかは未解明である。今回,ドイツのケルン大学のグループが転写の動態が加齢によりどのような影響を受けるのか,またその変化がどのような影響を生体に与えるのかを明らかにし報告している。

 用いた主な手法はトランスクリプトームプロファイリング(バルクRNAシークエンス)であり,そのデータよりRNAポリメラーゼⅡ(PolⅡ)による転写産物伸長速度を求め,様々な条件下の試料で比較をしている。対象とした試料は5種の動物種(線虫,ショウジョウバエ,マウス,ラット,ヒト),マウスとラットの臓器(脳,肝臓,腎臓),ヒト血液と細胞株を用いてである。
伸長速度の推定法はFig1a,bにあるように,イメージとしては特定のイントロン領域にアノテーションされる転写産物量と長さから勾配を求め転写伸長速度として代用している。勾配が緩やかであるほど伸長速度は速く,急峻であるほど遅くなる。これを対象試料に対して行うと,いずれの試料においても加齢に伴い転写伸長速度が速くなることが示された(Fig1c青)。また同時に既知の寿命延長介入であるIGFシグナルの阻害と,食事制限を行うと加齢によるPolⅡ速度の増加を元に戻すことも示された(Fig1c橙)。
 次に,転写進展速度の増加を抑制することが寿命に影響するのかを検討している(Fig.2)。PoLⅡの進展速度を低下させた変異体をハエと線虫で作成したところ,ハエでは10%,線虫では20%の寿命延長効果を認めることが示され,さらにCRISPER-Cas9により線虫のPolⅡ変異を修復すると,寿命延長効果が消失することも確認している。
 これらの転写伸長速度がタンパク質合成に影響する可能性についても検討が行われており,Fig.3ではスプライシングの効率,稀なスプライスイベントの発生率,円形RNAの生成,転写エラーなどの,いずれも粗悪なタンパク質合成につながりかねないイベントが加齢とともに増え,既知の寿命延長介入で改善することを示している。

 最後に,PolⅡの転写進展速度亢進に影響すると考えられているクロマチン構造の変化について検討している。ヒト培養細胞において増殖期の生きの良い(若い)細胞と老化細胞を比較するとクロマチン構造の変化(緩み)が老化細胞で目立って認められることが明らかとなった(Fig.4)。またクロマチン構造の構成成分であるヌクレオソームを構成するヒストンはその量がクロマチン構造に影響を与えることが知られている。老化した培養細胞を調べると,実際にヒストン量の減少を認めた。更に老化細胞にヒストンの過剰発現を行うことによりクロマチン構造の緩みを改善させ,PolⅡの進展速度を緩徐にすること(Fig.5a〜f),ショウジョウバエのグリア細胞にヒストンを過剰発現させることにより寿命を延長させること(Fig.5g,h)が示された。

 本報告はAASJでも取り上げられている。加齢変化と寿命をRNAの転写スピードで説明しうるデータを創出した研究結果であり,加齢性疾患の病態解明や治療介入へのシーズとなり得る内容であろう。

•Sci Immunol  

1)アレルギー学:Research Article 
ヒト喘息増悪モデルで明かになったアレルギー性喘息特異的な気道転写プログラムと細胞環境(A human model of asthma exacerbation reveals transcriptional programs and cell circuits specific to allergic asthma
 アレルギー性喘息はいわゆるⅡ型炎症を主体として機序が理解されているが,実際の疾患の現場である気道上皮には炎症の主役である免疫細胞以外にも上皮をはじめとした気道構成細胞が存在する。しかしながら,それぞれがどのような形で疾患の成立に寄与しているのかに対する理解は不十分である。米国ハーバード大学からの報告では,そのメカニズムの一端を実際のヒト検体を用いたscRNA-seq解析より明らかにしている。
 本研究のストラテジーはFig.1にまとめられている。アレルギーのみを持つコントロール症例(AC)とアレルギーに加え軽症喘息を持つ症例(AA)を対象に,気管支鏡下セグメントアレルゲンチャレンジ(SAC)という,選択的に気管支内にアレルゲンを散布する前後でBAL検体と気道ブラシ検体を採取し解析に用いている。
 結果は上皮系,リンパ球系(Th2),単球系の各細胞群でそれぞれ示されている。データが多いので詳細は割愛するが以下にまとめられる。

(1) 喘息例ではコントロールと比較して,アレルゲン負荷後に上皮系細胞の転写プロファイルを大きく変化させた。そのコアとなる反応は炎症性シグナル伝達,組織リモデリング,解糖関連遺伝子,IL-13誘導遺伝子の発現増加と障害修復にかかる遺伝子群や抗酸化遺伝子群の発現低下によって特徴づけられていた(Fig.3)。
(2) アレルゲン負荷後の喘息例において特異的にIL-9を発現する病原性Th2細胞が出現した。(Fig.4
(3) アレルゲン負荷後の喘息例においてⅡ型樹状細胞(DC2)とCCR2発現単球細胞が特異的に増加し,2型炎症を維持し病的な気道リモデリングを促進すると考えられる遺伝子群の発現上昇を認めた。一方でコントロール例では組織修復を促す遺伝子群の発現を増強したマクロファージ様単球が豊富であった。(Fig.5,6

 さらに,それら登場人物の相互作用の解析を行い,喘息症例においては上皮(特に基底細胞),単球系,TH2細胞による相互作用が強く推測される結果であった(Fig.7a)。この相互作用が喘息とコントロールを分別するクロストークであることを裏付けるために相互作用細胞間のリガンド-標的結合を予測する方法であるNicheNet解析を行っている。その結果として非喘息コントロールで認められる障害-修復反応をTNF関連シグナルの増強,細胞代謝の変化,抗酸化応答の欠如,成長因子シグナルの喪失などによりⅡ型炎症シグナルを維持し増幅する可能性のある経路で上書きしていることが明らかとなった。

 Ⅱ型炎症は現在の喘息診療においては最重要の治療ターゲットであり紹介論文掲載号の表紙にあるようにICSが主力である。しかしながら,さらに強力にⅡ型炎症を抑制する抗体製剤をもってしても,実臨床ですべての症例がコントロールできるわけではないことは明白である。今回の報告からは,Ⅱ型炎症に反応する組織の微小環境の再プログラミングが喘息症例では生じていることが明らかになっており,臨床に還元しうるために別の視点からのアプローチの必要性を感じた。

•NEJM

1)感染症:Original Article 
医療従事者の Covid-19 予防を目的とした BCG ワクチンの無作為化試(Randomized trial of BCG vaccine to protect against Covid-19 in health care workers
 BCGワクチンのオフターゲット効果は以前より言われていたが,2020年のCOVID-19流行当初にもその効果が議論された。そのタイミングで立案された臨床研究の結果であるが,わずか1年のうちにmRNAワクチンのすさまじい効果が明らかになったことから,忘れられていた臨床研究という位置づけであろう。
 デザインは医療従事者を対象とした二重盲検試験である。12カ月間の観察期間を持ち,主要評価項目は6カ月までの有症状と重症COVID-19の罹患である。3,988名がランダム化され,BCG群1703例,プラセボ群1683例と割り付けられた。6カ月までの有症状のCovid-19の推定リスクは,BCG群14.7%,プラセボ群12.3%であった(Risk difference,2.4percentage points,95%CI:-0.7~5.5,p=0.13)(Fig.2A).6カ月までの重症Covid-19の推定リスクは,BCG群7.6%,プラセボ群6.5%であった(Risk difference,1.1 percentage points,95%C:-1.2~3.5,p=0.34)(Fig.2C)。経過を通して安全性には懸念事項はなかった。結果はResearch summaryにまとめられている。

今週の写真:早春の高千穂峡
熊本市内からは車で1時間半くらいの距離。
昔々,神様がいらした地です。

(坂上拓郎)

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