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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 238

公開日:2023.6.2


今週のジャーナル

Nature Vol.617 Issue 7962(2023年5月25日)英語版 日本語版

Science Vol. 380 Issue 6647(2023年5月26日)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 21(2023年5月25日)英語版 日本語版








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がん悪液質における筋萎縮の新規メカニズム/エンドサイトーシスではなくエクトサイトーシス(エクトゾーム)によるT細胞受容体の運命/重症市中肺炎に対するステロイド

•Nature

1)がん
EDA2R–NIKシグナル伝達はがん悪液質に関連した筋萎縮を促進する(EDA2R–NIK signalling promotes muscle atrophy linked to cancer cachexia
 がんや感染症に罹患して慢性炎症が継続すると食欲は低下し身体は痩せていく。この骨格筋の萎縮は悪液質症候群の特徴の1つであり,蛋白質の異化が過剰となり筋量・筋力が低下する状態であり,がん患者の生存率や生活の質とも関連していると報告されている(リンク:悪液質について)。炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-6やTWEAKが悪液質に関与することが示されていたが,これらを標的とした臨床試験の結果は十分なものではなかった。
 本論文はトルコ・イスタンブールのコチ大学からの研究である。まずマウス肺癌(LLC)やメラノーマ(B16)による担がんマウスの筋組織解析においてエクトジスプラシンA2受容体(EDA2R)遺伝子の発現が上昇していることを認め,続いてヒト肺癌,大腸癌,膵癌の悪液質を伴うがん患者の筋組織でも同様のことを確認した(Fig.1a〜e)。初代培養細胞を用いてEDA2RのリガンドEDA-A2で筋管(myotubes)を刺激すると,筋萎縮関連遺伝子であるAtrogin1 (Fbxo32)とMuRF1 (Trim63)の発現が誘導され細胞萎縮が生じた。EDA-A2による筋管の萎縮には,non-canonical NFκB経路の活性化が関与しており(Fig.1f〜i),NIK(NFκB-inducing kinase)活性に依存していることが認められた(Fig. 2)。
 アデノウイルスベクターを用いてマウス筋組織にEDA-A2を過剰発現させると,その標的の筋委縮関連遺伝子の発現が誘導され,筋委縮がみられることが確認された(Fig. 3)。逆にEDA2R遺伝子欠損マウスあるいは筋組織特異的なNIK遺伝子欠損マウスの解析では,どちらも担がんマウスの悪液質をみたモデルにおいて,筋量と筋機能の喪失といった悪液質症状を妨ぐことができた(Fig. 4)。
 最後に筋組織におけるEDA2Rの発現を誘導する因子について様々なサイトカインを検索した結果,腫瘍により誘導されるオンコスタチンM(OSM)が誘因であることを同定している。そして,OSM受容体(OSMR)を筋組織特異的にノックアウトしたマウスでは,腫瘍誘導性の筋の消耗に対して抵抗性が見られることが見いだされた。本研究によって,がん悪液質の筋委縮が,OSM–OSMRに依存する様式でEDA2R–NIKシグナル伝達が重要であることが示され,新規治療法開発の可能性が示唆された。なお本論文はAASJで紹介され,Nature誌のNews and Viewsでも取り上げられており,そのシンプルなまとめのがわかりやすいので参照いただきたい。

•Science

1)免疫学・細胞生物学
エクトサイトーシスにより,免疫シナプスにおけるT細胞受容体のシグナル伝達が自己制限される(Ectocytosis renders T cell receptor signaling self-limiting at the immune synapse
 ウイルス感染細胞やがん細胞を殺す免疫細胞として重要な細胞傷害性Tリンパ球(Cytotoxic T Cell:CTL)は,T細胞受容体(T cell receptor:TCR)認識を通じて標的を認識し攻撃するが,CTLがどのようにして活性化した後に信号伝達を終了するように調節されているかは実は不明であった。英国ケンブリッジ大学ケンブリッジ医学研究所からの本研究では,多くの受容体がエンドサイトーシスによってその発現が内部に取り込まれて調節されているのとは異なり,TCRは活性化後にエクソサイトーシスという形で細胞外に分泌され,さらに標的細胞に取り込まれていくことが報告された。800枚以上の透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)(Wiki)の写真と,8,000枚以上の標識画像を用いて3次元高解像を解析することでTCRの運命について詳細に観察し追跡している。
 高解像画像でT細胞上のTCRの局在をみると,標的細胞に迫るアクチン豊富なラメアポデイア(Wiki)の先に局在し,免疫シナプス(Wiki)を形成することが観察される(Fig.1)。このTCRの発現の低下の様子を詳細に観察したところ,細胞内にエンドサイトーシスとして取り込まれるのではなく,大部分(98%)のTCRが37~210nmのエクトソームとして細胞外に出芽するように放出されている(エクトサイトーシス:ectocytosis)ことが明らかとなった(Fig. 2)。さらに,このエクトサイトーシスを契機に,T細胞と標的細胞の免疫シナプスが解除されて隙間が形成されることによって免疫シナプスの形成は解除されていくように調節されていた。興味深いことには,放出されたTCRのエクトソームは死んでいく標的細胞の中にクラスリンを介して取り込まれていることも観察されている(Fig. 3)。
 TCRからの細胞内シグナルはZap70を介してキナーゼであるLckへと伝達されていくが,Zap70はTCRとともにエクトソームとして分泌され標的細胞に取り込まれるのに対して,Lckは細胞外へは移らずにT細胞内に残ることで活性化シグナルは収束していくと考えられた(Fig. 5)。CTLから放出されるグランザイムBなどはエンドソーム膜由来のRab27分子が必須な「エクソソーム(exosome)」(Wiki)として放出されるが,本研究で示されたTCRの移動は細胞膜から出芽する形式の「エクトソーム(ectosome)」という別の形式で放出されている。このエクトソームの形成に関しては,TCR刺激によりPLC-γ(Phospholipase C-γ)によってPIP2からDAG(Diacylglycerol)が産生されるが,放出されるエクトソームにはDAGが豊富であり,このDAGが免疫シナプス内の膜について負の膜湾曲を誘発する性質があることが関わっているようである。その結果,細胞膜の外側がエクトソームの膜の外側になるように,裏返しにならずに形成されている。なお,本論文もAASJで紹介されている。

•NEJM

1)感染症
重症市中肺炎に対するヒドロコルチゾン(Hydrocortisone in severe community-acquired pneumonia
 オンラインでは発表されているのですでに御存知の読者も多いかと思うが,フランスのトゥール大学など31施設が参加したCRICS-TriGGERSepネットワークの重症市中肺炎に対するヒドロコルチゾンの効果についての第3相多施設共同二重盲検無作為化比較試験「CAPE COD試験」の報告である。重症肺炎に対するステロイド治療の効果はこれまでも報告はあるが,多くの試験においてこれまで「死亡率の低下への効果」については明らかではなかった。
 本試験では,重症市中肺炎で集中治療室(ICU)に入室していた成人に対してヒドロコルチゾンを静脈内投与する群(最初の4日間は200mg/日で臨床的改善度に応じて漸減し,計8日間または14日間投与)とプラセボを投与する群を比較した。全例に抗菌薬と支持療法を含む標準治療を行い,28日の時点での死亡率を主要評価項目としている。計画されていた2回目の中間解析後に試験は中止され,その時点で800例が無作為化され,795例のデータが解析された。
 28日目までの死亡は,ヒドロコルチゾン群では400例中25例〔6.2%,95%信頼区間(CI) 3.9~8.6〕と,プラセボ群の395例中47例(11.9%,95%CI 8.7~15.1)に比べて有意に低かった(p=0.006)(表2)。人工呼吸管理を受けていなかった患者では,ヒドロコルチゾン群では222例中40例(18.0%)で気管挿管が施行されたが,プラセボ群では220例中65例(29.5%)であった(ハザード比 0.59,95%CI 0.40~0.86)。昇圧薬の投与が開始されたのは,ヒドロコルチゾン群では359例中55例(15.3%)に対して,プラセボ群では344例中86例(25.0%)であった(ハザード比 0.59,95%CI 0.43~0.82)。院内感染および消化管出血の頻度は2群で同程度であった。治療の最初の1週間におけるインスリンの1日量はヒドロコルチゾン群のほうが多かった。なお本論文は,EDITORIALSで紹介されており,過去の臨床試験との違いとして,本試験では比較的女性患者が多かったこと(31%)やヒドロコルチゾン投与開始が24時間以内(他の試験では96時間以内など)といった点を挙げている。QUICK TAKEでは2分の動画でまとめられており,非常にわかりやすい。

今週の写真:ATS2023で訪れたワシントンDC。G7広島サミットで大統領が不在の豪華なホワイトハウス。
(鈴木拓児)

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