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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 242

公開日:2023.6.28


今週のジャーナル

Nature  Vol.618 Issue 7966(2023年6月22日)英語版 日本語版

Sci Transl Med Vol.15 Issue 700(2023年6月14日)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 25(2023年6月22日)英語版 日本語版








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紫外線曝露での悪性転換メカニズム/脳動脈瘤も内科的治療へ?!/より良い移植GVHDの予防治療

•Nature

1)腫瘍生物学
紫外線が皮膚における樹状細胞白血病の形質転換形成に関わっている(Ultraviolet radiation shapes dendritic cell leukemia transformation in the skin
 米国ボストンのダナ・ファーバー癌研究所からの報告で,紫外線(UV)による悪性形質転換の研究である。急性白血病の珍しいタイプで皮膚に孤立性悪性腫瘍を呈することが多いblastic plasmacytoid dendric cell neoplasma(BPDCN)の発生についての論文である。
 16人のBPDCN患者のデータセットを調査し,さまざまなゲノム解析(全ゲノム配列決定,scRNA-seqおよびscDNA-sqなど)を用いて腫瘍への変化を調べている。7人に皮膚と骨髄に癌の増殖がみられたが,9人は骨髄に病変はみられなかった。最も頻繁に関与した変異(個体の79%)は,TET2とIDH2に関与する細胞シグナル伝達経路を標的としたものであった。腫瘍の遺伝型判定と共に系統ゲノミクスや単一細胞トランスクリプトミクスを用いることで,BPDCNは骨髄のクローン性(前悪性)造血系前駆細胞から生じることを明らかにした。BPDCNの皮膚腫瘍は,日光に曝露された解剖学的部位で最初に発生し,UVによって誘発されるクローン増殖した変異で識別されることが観察された。このことは,腫瘍の系統発生の再構築により,UVによる損傷は,悪性形質転換に関連する変化より先に起こる可能性を示している。骨髄に病変のある癌では,免疫細胞の分化が形質細胞様樹状細胞(pDC)の産生に偏っていて,これらの細胞が皮膚に移動した後に突然変異の数が増加する。そして,CDKN2A,SETD2,TP53,RASというタンパク質を標的とした突然変異の証拠が繰返し見られ,これらの突然変異は皮膚でのみ観察された。さらに,scDNA-seqおよびscRNA-seqによる遺伝子発現解析から,pDCは疾患の発症と進行の両方に関連する変異をもつことを明らかにしている。
 次に,UVによって誘発されたDNA損傷が,BPDCNに関与する突然変異には直接結びついていなかったために,正常なpDCと比較して,前悪性腫瘍pDCがUV誘導細胞死に対してより耐性があるかを調べている。CRISPR-Cas9を用いて,BPDCNで最も一般的な前悪性度変異であるTET2変異を持つHOXB8前駆細胞を作製して成熟pDCに分化させUV照射した。正常なpDCではUV照射すると線量依存的に細胞死は増加したが,TET2に変異のあるpDCはUV誘発死に抵抗性を認めていた。これは,TET2には腫瘍抑制的役割があることを示している(Fig. 5)。ちなみに,TET(Ten Eleven Translocation)とはメチルシトシンをヒドロキシメチルシトシンに変換する酵素で,DNAの脱メチル化に重要な役割を果たしている。そのうちTET2遺伝子異常は,骨髄異形成症候群,骨髄増殖性腫瘍,慢性骨髄単球性白血病,急性骨髄性白血病などの骨髄球系造血器腫瘍のみならず,血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫,分類不能型末梢性T細胞性リンパ腫の一部といった濾胞性ヘルパーT細胞の特徴を有するT細胞性リンパ腫において高頻度に認められることが報告されている。
 本研究は,組織特異的な環境曝露がいかに前悪性腫瘍クローンの進化を促し,局所(皮膚など)や遠隔部位(骨髄),播種性癌を形成する仕組みを考えるうえで興味深い内容である。
 NEW &REVIEWでも取り上げられており,骨髄,皮膚,UV曝露からの悪性転換がわかりやすく説明されている(Fig. 1)。

•Sci Transl Med

1)脳神経外科学
脳動脈瘤では体細胞変異によるPDGFRBおよびNF-κBシグナリングが亢進(Increased PDGFRB and NF-κB signaling caused by highly prevalent somatic mutations in intracranial aneurysms
 杏林大学の中富教授が研究代表にて理化研,東京大学,山梨大学を含めた国際共同研究で,ヒトの脳動脈瘤検体から脳動脈瘤の発生に重要な体細胞遺伝子変異を同定し,遺伝子導入したマウス脳動脈瘤新生・抑制モデルを確立した内容である。
 外科手術時に摘出された脳動脈瘤の遺伝子を解析し,405個の遺伝子に体細胞遺伝子変異を同定した。そのうち90%以上の検体で変異が確認された16個の遺伝子は,炎症反応や腫瘍形成に関わるNF-κBシグナル伝達経路に関連していた。その中の6個の遺伝子の変異が,脳動脈瘤全体の90%以上を占める囊状動脈瘤と10%弱の紡錘状動脈瘤の異なる形状である両方に共通することを見つけた。さらに,この6遺伝子の中で最も頻度の高かった血小板由来成長因子受容体β(PDGFRβ)の遺伝子変異をマウスに導入し,PDGFRβ遺伝子の変異によって実際に紡錘状動脈瘤様の血管拡張が生じること,またその動脈瘤形成をチロシンキナーゼ阻害薬(スニチニブ)の全身投与で抑制できることを証明している()。スニチニブは,PDGFRβを中心とした複数の受容体チロシンキナーゼを阻害する薬剤で,腎癌の治療に使われている。
 日本人の約5%が未破裂脳動脈瘤に罹患しているにもかかわらず,脳動脈瘤の治療法は開頭手術または血管内カテーテル治療という二択しかないのが現状である。本研究のマウスモデルを確立したことは,今後の治療薬開発に役立つ情報であり,かつ脳動脈瘤を予防できる内科的な治療も進んでいく可能性を示唆している。

•NEJM

1)血液学
シクロホスファミドをベースとする移植後GVHDの予防法(Post-transplantation cyclophosphamide-based graft-versus-host disease prophylaxis
 同種造血幹細胞移植(HSCT)では,カルシニューリン阻害薬とメトトレキサートの併用療法が,移植片対宿主病(GVHD)の標準的予防法となっている。第2相試験(リンク)にてシクロホスファミド,タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチルを用いる移植後レジメンの優越性の可能性が示されたために,第3相臨床試験が行われた。
 造血器腫瘍を有する成人例に対して,シクロホスファミド+タクロリムス+ミコフェノール酸モフェチルを投与する(実験的予防法)群と,タクロリムス+メトトレキサートを投与する(標準的予防法)群に1:1の割合で無作為に割り付けている。患者は,強度減弱前処置後に,HLAが適合する血縁者または非血縁者のドナー,もしくはHLAの7/8が適合(HLA-A,HLA-B,HLA-C,HLA-DRB1座のうち1座のみが不適合)する非血縁者のドナーからHSCTを受けた。主要エンドポイントは1年時でのGVHD非発症無再発生存率とし,生存時間(time-to-event)解析で評価している。イベントはグレードIIIまたはIVの急性GVHD,全身免疫抑制療法を要する慢性GVHD,疾患の再発または進行,全死因死亡と定義されていた。実験的予防法群214例,標準的予防法群217例を対象とした多変量Cox回帰分析では,GVHD非発症無再発生存率は,実験的予防法群のほうが有意に高かった〔グレードIIIまたはIVの急性GVHD,慢性GVHD,疾患の再発または進行,死亡のハザード比 0.64,95%信頼区間(CI)0.49~0.83,p=0.001〕()。1年の時点での補正GVHD非発症無再発生存率は,実験的予防法群で52.7%(95%CI 45.8~59.2),標準的予防法群で34.9%(95%CI 28.6~41.3)であった。実験的予防法群の患者では,急性または慢性GVHDの重症度は低く,1年の時点での免疫抑制療法なしでの生存率が高い傾向にあった。全生存率,無病生存率,再発,移植関連死,生着に2群間で大きな差はなかった。強度減弱前処置を行う同種HLA適合HSCTを受けた患者のうち,移植後にシクロホスファミド+タクロリムス+ミコフェノール酸モフェチルの投与を受けた患者は,タクロリムス+メトトレキサートの投与を受けた患者よりも,1年の時点でのGVHD非発症無再発生存率が有意に高かった。
 本邦での造血幹細胞移植ガイドラインGVHDは第5版は2022年11月に発刊されたばかりであり,標準的予防法としてシクロスポリン+メトトレキサート,タクロリムス+メトトレキサート,シクロスポリン/タクロリムス+ミコフェノール酸モフェチル,が上位に記載されている。
 Quick Takeはいつもながらわかりやすい。

今週の写真:
東京都に唯一残っている路面電車「都電荒川線」をパッケージにした,都電もなか。私の実家近くの老舗和菓子屋で販売しています。昭和の時代には黄色しかなかったのに,現在はカラフルな車両が増えています。

(石井晴之)


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