" /> 炎症の延焼を食い止めろ!-細胞死の際のDAMPs放出を抑制する抗体-/ICSの効かない喘息をどうするか?-新たな標的としてのNET-/抗IL-23抗体の有害事象は?-潰瘍性大腸炎の第三相試験よりー |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 243

公開日:2023.7.6


今週のジャーナル

Nature  Vol.618 Issue 7967(2023年6月29日)英語版 日本語版

Sci Transl Med Vol.15 Issue 699(2023年6月7日)英語版

NEJM  Vol. 388 Issue 26(2023年6月29日)英語版 日本語版








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炎症の延焼を食い止めろ!-細胞死の際のDAMPs放出を抑制する抗体-/ICSの効かない喘息をどうするか?-新たな標的としてのNET-/抗IL-23抗体の有害事象は?-潰瘍性大腸炎の第三相試験よりー

•Nature

1)細胞死:Article
NINJ1抗体で細胞破裂を阻害すると組織修復が抑制される(Inhibiting membrane rupture with NINJ1 antibodies limits tissue injury
 細胞死の際には,瀕死の細胞が炎症性の細胞質内容物を放出する細胞膜破裂(plasma membrane rupture:PMR)といった事象が起こる。PMRによりDAMPsといった炎症性細胞内物質が放出され免疫細胞を活性化する。これはウイルスや細菌感染細胞ではその拡大を防ぐために必要なシステムと考えられている。しかしながら,がんや神経変性疾患などの慢性疾患の組織損傷にも大きく関わっていることが示唆されてきた。DAMPsの放出にはパイロトーシスにおけるガスダーミンDの関与が報告されてきたが,この系では細胞膜に開く孔は小さく,分子量の大きなLDHや大きなDAMPsの放出は説明できなかった。今回のNature誌ではBack to BackでNINJ1(Nerve injury-induced protein 1)という分子のPMRに果たす役割と,それを対象とした疾患治療の可能性について報告がされている。
 NINJ1は2006年にLDHやDAMPsを細胞死の際に放出するために必要である分子として報告されていたがそのメカニズムは不明であった。今回の1報目であるスイスのバーゼル大学からのレポートでは,さまざまなイメージング技術と生化学的アプローチを用いて,NINJ1が細胞膜状でオリゴマー化(自己会合)し,細胞膜を貫通させる不規則かつ大きな穴を形成させることが示されている(Fig1dFig2)。News and Viewsにわかりやすいが掲載されており,その姿がダム湖にあるグローリーホールを想像させ恐ろしい。 
 その上で紹介論文であるが,米国のGenentech社からの報告である。細胞死の際の炎症惹起物質の放出を抑制すれば慢性的な組織障害を原因とする疾患群をコントロールできる可能性を鑑みての研究である。実際にNINJ 1の欠損マウスではブレオマイシン誘発肺線維化が抑制されることが報告されている(Sci Rep 2018)。まず,マウスをNINJ1で免疫することにより,たくさんの抗体クローンを作成したのちに,LDH放出を指標としたPMR抑制作用の最も強いクローンD1という抗体を選択している(Fig1)。続いて,クローンD1のPMR抑制効果をNINJ1欠損マウス骨髄由来マクロファージを対象としながら,細胞形態学的観察,細胞内物質の放出抑制作用などの検討で明らかにしている(Fig 2)。また,一報目同様にNINJ1の細胞膜表面でのオリゴマー化を視覚的に示し,その作用がクローンD1で抑えられることをFig 3で報告している。
 最後に,TNFと転写阻害剤D–ガラクトサミンを用いたアポトーシス誘導型の劇症肝炎モデルマウスを用いて,PMRの肝炎における関与とその抑制による病態制御の可能性を検討している。NINJ1欠損マウスでは劇症肝炎誘導後の肝細胞形態がPMRの機能不全に伴う腫脹形態を示し(Fig 4b),AST,ALT,LDH上昇は少なく肝障害が軽減していること(Fig 4a)が示唆された。野生型へのクローンD1の投与でも同様の所見を認め(Fig 4e),またNINJ1依存的にDAMPsであるIL-18とHMGB1レベルを調整することが示された(Fig 4f,g)。
 これらの結果からは,細胞死の際の炎症惹起物質(DAMPs)放出にはNINJ1が大きく関わり,その機能を抑制することにより周囲組織への炎症の波及を抑えることにより対象疾患の改善をもたらす可能性が示唆された。PMRの慢性疾患への関与,またNINJ1を対象として治療することによる恩恵が本当に存在するのか今後の課題であるが,新たな治療標的の可能性に期待できる結果であろう。

•Sci Transl Med

1)アレルギー学:Research Article 
喘息における吸入ステロイド反応性に好中球細胞外トラップとCCL4L2が影響する(Neutrophil extracellular trap production and CCL4L2 expression influence corticosteroid response in asthma
 喘息の主たる病態が2型炎症であり基本治療が吸入ステロイド(ICS)であることはすでに常識となっている。90%近くの患者はコントロールの達成が可能だが,好中球性気道炎症を伴う症例では,治療が難しいことが議論されている。今回,台湾からの報告で,小児喘息コホートからICS治療に効果があった例となかった例の末梢血遺伝子発現解析をスタートとした研究で,ICS不応例に好中球細胞外トラップ(NET)が関与していることが示された。研究はヒトで見出した事実をマウスで検証する手法を用いており,まさにTranslational Medicineといった装いである。NETは細胞内のDNAやヒストンを顆粒球タンパク質とともに細胞外に投げ網のように放出する現象であり,異物を捉え,殺菌する自然免疫応答の一種として発見された現象である。
 台湾の小児喘息コホートであるTCCASコホートのなかでICS反応群(56名)と不応群(43名)を抽出し,末梢血のバルクRNA-seqで遺伝子発現比較を行い,大きな差のあるものとして好中球の関与する項目が抽出された(Fig 1)。この結果を基にマウス好中球性炎症喘息モデルを用いて好中球性炎症が喘息を悪化させること(Fig 2),そして,デキサメサゾンの使用でもその増悪は抑制できないこと(Fig 3)を示している。
これらの結果をふまえ,次に「好中球由来のNETが喘息患者におけるICS不応性に関与する」という仮説を検討している。TCCASコホート例から採取した末梢血好中球のin vitroでの検討では,PMA刺激によるNET濃度はICS不応群で有意に高いことが確認された(Fig 4B)。次に,前記の好中球性炎症モデルマウスでの気道でのNET増強の確認が行われ,そのモデルにDNaseⅠを経気道投与することにより気道過敏性を改善し,IL-1βやIL-6といった炎症性サイトカインの抑制をするものの,BALF中の細胞分画には影響を与えなかったことが示された。これによりNETが喘息病態に関わる可能性が強く示唆された(Fig 5)。
 次にICS不応性に寄与するNETに関連する分子を探索するために,コホートのヒト検体である末梢血好中球を用いてRNA-seqを行っている。ICS反応群との比較を全血データ,米国の小児喘息コホートであるCAMPコホートのデータを用いて検討し,ICS不応群で発現増加する遺伝子としてCCL4L2を同定した(Fig 6B,C)。機能的にもCCL4L2によるヒト好中球からのNET放出の増強効果(Fig 6F),コホート血清におけるICS不応群でのCCL4L2の上昇,好中球における発現増加を確認し(Fig 8),さらにマウスモデルでは相同分子であるCCL4の発現増加(Fig 6G,H),抗CCL47抗体を経気道投与することにより気道過敏性をはじめとした喘息様所見の改善を認めている(Fig 7)。
 以上の結果から,ICS不応の喘息の一部ではNETが病態形成に関与し,今後の治療標的になり得るNETを賦活化する分子としてCCL4L2が有力であることが示された。喘息様抗体製剤のラインナップが揃う中で,好中球性喘息に対しては有効な治療薬がほぼない状況である。DnaseⅠは囊胞性線維症では治療薬(プルモザイム®)で用いられている薬剤でもあり,ひょっとしたらと期待を持たせる報告である。

•NEJM

1)消化器:Original Article 
潰瘍性大腸炎の導入療法および維持療法としてのミリキズマブ(Mirikizumab as induction and maintenance therapy for ulcerative colitis
 呼吸臨床のTJHであるが,今週後のNEJMでは敢えて消化器領域から潰瘍性大腸炎に対する抗体製剤のMikirizumabの第三相試験の結果を取り上げたい。結果はResearch Summaryがまとまっている。
 IL-23は特有のP19サブユニットとIL-12と共有するP40サブユニットの2つからなるヘテロ二量体サイトカインである。今回のMikirizumabはp19に対しての特異的抗体であり,IL-23のみを中和する抗体となる。
 中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎を対象としての2つの二重盲検試験の結果報告である。潰瘍性大腸炎の治療目標は寛解導入と維持であるが,本試験での主要エンドポイントは寛解導入療法の12週時と,維持療法の40週時の臨床的寛解の達成とされた。臨床的寛解はMayoスコアという潰瘍性大腸炎の活動性指標を用いて行われている。導入療法試験では1,281例が無作為化され,Mikirizumabに反応した544例が維持療法試験で再び無作為化された.Mikirizumab群では,プラセボ群と比較して,臨床的寛解が得られた患者の割合が導入療法試験の12週の時点で有意に高く(24.2%対13.3%,p<0.001),維持療法試験の40週の時点でも有意に高かった(49.9%対25.1%,p<0.001)ことが示され,Mikirizumabの有効性が証明された。有害事象は,鼻咽頭炎と関節痛がMikirizumab群でプラセボ群よりも多く発現したことが報告された。統計学的検討はなされていないものの,日和見感染症と悪性腫瘍が散発的に認められることが示されている。
 今回,この報告を取り上げた大きな理由はIL-23特異的抗体というところにある。抗酸菌などの細胞内寄生菌に対しての感受性が高い遺伝背景を持つ疾患群をメンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(mendelian susceptibility to mycobacterial diseases:MSMD)と呼んでいるが,IL-23レセプターの欠損がMSMD表現型を示すことが2018年に報告されている。当然,人工的なIL-23-KOであるMikirizumabでも同様の疾患感受性が高まることが予測されるが,今回の報告では日和見感染症の増加は報告されたものの抗酸菌感染症は1例のみであった。また,最近ではIL-23が抗酸菌感染の際にNKTからのIFN–γ合成に大きな役割を果たすことも報告されており(Science Immunology 2023),拡大解釈ではあるが,腫瘍免疫とも関連する可能性と,その結果としての本試験での悪性腫瘍増加につながるのではなどと妄想をしてしまう。抗体医薬品はさまざまな領域で開発が続いているが長期での副作用については細やかな配慮が必要であろう。

今週の写真:エスコンフィールド
先日,北海道にでかけ,球場まで足を延ばしました。
とてもきれいな球場でした。


(坂上拓郎)

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