" /> VTA(腹側被蓋野)での2系統neuro-transmitterによる強力なDopamine増強機構:脳内の神経核でのCRISPR-Cas手技/心房細動病態形成関与のSPP1(オステオポンチン)とCCR2/肺癌術後Adjuvant療法としてのOsimertinib最終報告 |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 244

公開日:2023.7.21


今週のジャーナル

Nature  Vol.619 Issue 7969(2023年7月13日)英語版 日本語版

Science Vol.381 Issue 6654(2023年7月14日)英語版

NEJM  Vol. 389 Issue 2(2023年7月13日)英語版 日本語版








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VTA(腹側被蓋野)での2系統neuro-transmitterによる強力なDopamine増強機構:脳内の神経核でのCRISPR-Cas手技/心房細動病態形成関与のSPP1(オステオポンチン)とCCR2/肺癌術後Adjuvant療法としてのOsimertinib最終報告

 梅雨明け間近で,全国的に豪雨,酷暑のニュースが届いている。
 ChatGPTは大きな話題である。Top Journalにおいても紹介記事は多い。今週ScienceではこうしたAIが特集である。数週前NEJMでも医学AI関連総説が見られた。
 さて今週のTJHは,Nature誌から脳科学,Science誌は循環器,NEJM誌は呼吸器を選んだ。呼吸器の世界から,外の領域を覗いてみるのもいいことであると思う。

•Nature

1)脳科学
対立する神経ペプチドおよび神経伝達物質シグナルの回路共調整(Circuit coordination of opposing neuropeptide and neurotransmitter signals
 筆者は自身の座禅の経験から,大学院時代までは脳科学志向であった。最近になってTJH紹介論文にもそれが反映している。2013年のObama大統領のBrain Initiative(Wiki)から10年,その間の研究が続々と表面化しているのか?とにかく面白い。

 今回取り上げた論文は,脳科学研究のひとつの核となるDopaminergic neuron(脳科学辞典,リンク)の活性化の解析である。なんとマウス脳でのCRISPR-Cas系手技を用い,それに関与するGABA(リンク)やneurotensin(Nts)関連機能をK/Oして,エレガントに証明するという論文である。一読して,医学部卒後50年,脳生理学実験に使用する電極の使用が電気刺激から,注射針の遺伝子改変試薬混合液に変わったというべきか?

 米国SeattleのWashington大学のグループの報告である。
 要するに1つの神経細胞から2種のneuro-transmitterが分泌される場合の相互作用のin vivo解析である。素人は1つの神経細胞が多種のneuro-transmitterを分泌する事実を認識する必要がある(リンク)。
 まずLH神経核(lateral hypothalamus;視床下部,Wiki)にはどの程度にGABA,Ntsを共分泌する神経があるか? 研究者らはGABA分泌に関与するvesicular GABA transporter(Vgat)遺伝子や,Nts遺伝子でin situ hybridizationをして割合を算出している(Fig.1b)。一方VTA核(Wiki)においては,dopaminergic神経(DA)のマーカーとしてTH(tyrosine hydroxylase)を使用し,他方DA神経でのNts受容体(Ntsr1)をマーカーとして算出している。ここではVTA神経核のDA神経のほとんどがNts受容体を発現している(Fig. 1h)。

 では次に実際にこれらマーカー遺伝子をK/Oすれば何が起こるか?
 ここで詳細説明はしないがCRISPR-Cas系システムが使われるている(Fig. 2a,b)。反応液注入針はstereotacticに行い,先行論文がある。DA神経の活性化はCa2+イオン流入でGCaMPの緑色変化を計測する。電気刺激間隔(1s,3s)と周波数(5,10,20,40Hz)を変化させた結果がFig.2eである。
 これは二峰性であり,GABAによるdisinhibit効果とNtsによる修飾が波形にどう関わるかは,Fig. 2bのconstructを使用し,Fig.2 jに示される。すなわち波形の後半のplateau 的な大きな活動がNtsによるものと理解できる。これはNtsr1下流のPLC(Phospholipase C)signalingが関与する。

 準備ができたところで,マウスに課題と報酬系実験をさせる。実際には①レバーを踏み,②3秒間のプレゼンテーション(光と音),③報酬が出てくると頭を入れて(head entry)手に入れる(Fig. 3a)。確かに報酬を得たところで,Ca2+流入(DA放出)が起こる(Fig. 3d)。これにもCRISPR-Cas系constructを使って,GABA,Nts単独K/Oで行動減少,共にK/Oの場合は行動がほぼ起こらない。

 最後にreal-time place preference(RTPP)assayでGABA系,Nts系シグナル遮断によるレバー踏み強度への効果を時系列で見ている(Fig. 4)。実際にレバーを踏む圧やその学習向上性などが,これらシグナル遮断で影響を受けることが示されている。

 現在,脳科学研究技術では神経核間の神経結合をretrogradeに同定する方法が広く使われている。今回の論文では,VTA-DA神経細胞におけるそれらの神経結合や複数neuro-transmitter間の相互作用など,実際にCRISPR系K/O手技で明瞭に示してある。しかも大型動物のサルではなく,マウスのstereotactic操作でin vivoで可能になるなど,専門外から見ると刮目する成績である。今後はこうした複雑な,進化的に旧い大脳辺縁系の多様な神経核の機能を解析しうる時代となるのか?

•Science

1)循環器
リクルートされたマクロファージが心房細動を誘発する(Recruited macrophages elicit atrial fibrillation
 米国ボストン,Harvard大学MGHからの論文である。
 循環器領域疾患ではあるが,実臨床では脳梗塞発症,その結果要介護となる原因背景に,心房細動病態が存在する。心房細動(著者らはAfibと略)は最も高頻度の不整脈であり,明らかに加齢とともに増加する。その背景の病態機序には21世紀医学として何を検証するか?
 循環器領域では最近,心不全機序をはじめ,新たな分子生物学的研究展開がなされている。本論文ではAfib病態惹起モデルとして,HOMER(hypertension,obesity,mitral valve regurgitation)マウスとAfib患者手術検体より,scRNAseq解析などで関与する遺伝子として炎症要因としてのSPP1(オステオポンチン,Wiki),monocyteのリクルート要因としてCCR2などを取り上げている。

 まずヒトのデータ(Fig. 1)としてはAfib患者7名,対照5名の検体からatriumにいかなるmesenchymal細胞が増加するかをscRNAseqで調べると,MP&DC(macrophages,dendritic cells)分画に増加傾向がある事実が明らかになった(Fig. 1B,C)。その分画で大きな発現差を示す遺伝子がSPP1,TREM2,CCR2,CD9などである(Fig. 1G,J,L)。

 次にはマウスモデルでHOMERを作成する(Fig. 2)。マウスに僧帽弁閉鎖不全発症手術,4週後より高脂肪食を20週,さらにAngiotensin 2で高血圧を誘発してHOMER病態を準備する(Fig. 2A〜C)。そうするとこの病態ではAfib発症頻度が高くなる(Fig.2,D)。このHOMERマウスと,Sham手術マウス心房のscRNAseqを施行すると,ヒトに類似のMP&DC分画の増加(Fig. 2F),さらにはマウスでもSPP1遺伝子発現増加(Fig2. J,L)が注目される。

 さてもう1つの遺伝子候補,monocyteのatriumへのリクルートに関与するCCR2をGFPマーカーを使い検討すると,同じHOMER条件下でも,CCR2-/-ではLy 6C陽性細胞が少なくなり(Fig. 3C),Afibのinducibilityも低い(Fig. 3E)。
 さらにSPP1はmacrophageで産生されるので,SPP1 -/-のマウスから骨髄血移植をして,その後HOMER病態を作成すると,予想通りAfibのinducibilityは低い(Fig. 4A)。

 以上より,HOMERというAfib病態惹起モデルを使用し,ヒト手術検体scRNAseq解析とほぼ同様の結果,並びに心病理組織所見からHOMER病態における炎症性マクロファージのリクルートと,それによるatriumの線維化病態が心調律の異所性pacingを惹起すると考えられる。加えてinterventionの可能性として,SPP1(オステオポンチン)やCCR2制御への創薬の可能性を示すものとして,大変興味深い報告である。
 なおこの論文はAASJにも西川先生が紹介している(リンク)。

•NEJM

1)腫瘍
EGFR変異陽性非小細胞肺癌に対するオシメルチニブ(Overall survival with osimertinib in resected EGFR-mutated NSCLC
 EGFR変異陽性(L858R,Ex19Del)の肺癌患者(IB~IIIA)の術後アジュバント治療としてのOsimertinib投与効果のファイナルリポートが出ている(リンク)。
 このADAURA試験はプライマリー・アナリシスとして2020年に報告されている(リンク)。今回,その最終版としてその結果を長期予後で確認するものである。

 臨床試験は2015年11月から2019年2月まで682名(Osimertinib群339名,Placebo群343名,無作為)で施行。最終解析としては,2022年4月11日にはすべての患者で治験レジメンを完了または中止し,最終Cut-offは2023年1月27日である。
 主解析の臨床病期II~IIIAでは,5年生存がOsimertinib群で85%,Placebo群で73%,(CI:0.3~0.73,p<0.001)。さらに臨床病期IB~IIIAの副解析でも,5年生存率がOsimertinib群88%,Placebo群78%であり,いずれもOsimertinib群の有用性を示している。
 こうした長期予後試験であるからか,“Time to first subsequent treatment or death in the overall population”(Fig. 4)が示されている。Osimertinib群では70%以上が80カ月時点でまだ次の治療(あるいは死亡)にいたっていない,という視覚的には大きなインパクトある図が示されている。

 さて以上が結果である。
 TKI治療とICI治療は,現在肺癌治療の双璧でありながら,相互にexclusiveである状態が続いている。もちろんTKIはEGFR変異陽性という,肺癌患者の一部の限られたグループへの治療ではある。しかしこのグループにICIはなぜ効果がないのか?まだその背景解析報告を耳にはしていないと思う。
 TJH#230には,肺腺癌と肺扁平上皮癌でミトコンドリアの細胞内局在と形態に大きな差が報告され,身近な疾患だけに大変驚いた。これは癌細胞エネルギー代謝を反映した細胞形態であろうが,組織形成に関与するhost側間質細胞,免疫細胞系に何らかの影響をもたらしているのではないのか? EGFR陽性頻度が高い日本として,このグループへのICI治療のbreakthroughは,さらなる免疫療法を他臓器癌への展開可能性として待たれるところだ。

今週の写真:暑さを避け早朝ジョグで見た,仙台市青葉区ウドウ沼の一面の睡蓮開花。

(貫和敏博)

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