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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 245

公開日:2023.7.28


今週のジャーナル

Nature  Vol.619 Issue 7970(2023年7月20日)英語版 日本語版

Science Vol.381 Issue 6655(2023年7月21日)英語版

NEJM  Vol. 389 Issue 3(2023年7月20日)英語版 日本語版








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低たんぱく質食による腫瘍関連マクロファージのリプログラミング/人間の骨格についての遺伝子解析/2 型炎症を伴う慢性閉塞性肺疾患に対するデュピルマブ治療

•Nature

1)腫瘍免疫学
リプログラミングした腫瘍関連マクロファージががん細胞に競り勝つ(Reprogramming tumour-associated macrophages to outcompete cancer cells
 米国メモリアルスローンケタリングがんセンターからの報告で,がん免疫における腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophages: TAM)のリプログラミングの研究で「低たんぱく質食」が治療効果を示す興味深い内容である。

 様々ながんでがん遺伝子MYCが増幅しているが(Extended Data Fig. 1),それのみではがん化には不十分であり,他のシグナルも必要である。また,しばしばMYC高発現のがん細胞のそばにMYC低発現のがん細胞が存在し,それらはアポトーシスに陥っており,がん細胞同士での競合がみられる。
 乳癌のマウスモデルを用いた解析では,MYC増幅がん細胞においては代謝が亢進しており,細胞のサイズも大きく,mTORC1経路が活性化している。がん細胞特異的にmTORC1シグナルを欠損させると,MYC高発現がん細胞も死んでいくことから,mTORC1シグナル依存性であることが判明した(Fig.1)。MYC増幅がん細胞について網羅的遺伝子発現解析を行うと,アミノ酸代謝に関連する遺伝子の発現が亢進しておりmTORC1シグナルとの関連が示唆された(Fig. 2a)。そこで同じカロリーの低たんぱく質(2%)の食餌と普通食(たんぱく質15%)におけるがん細胞増殖を観察すると,MYC増幅のないがん細胞の増殖では差がみられなかったが,MYC増殖がん細胞では低たんぱく質食では腫瘍増大が抑制され,亢進していたmTORC1シグナルの抑制もみられた(Fig. 2b, d )。
 低たんぱく食の他の細胞への影響をみてみると,通常食のMYC増幅がんではコントロールのがんに比べてTAMの数が激減していたが,低たんぱく質食ではマクロファージの数が増えるとともにmTORC1シグナルの亢進もみられ,細胞数およびサイズの増大が観察された(Fig. 2c, e〜g )。次にこのMYC発現増幅とコントロールの乳癌マウスモデルにおいて,低たんぱく質食下における乳腺組織マクロファージとTAMについてsingle-nucleus RNA-seqを行った結果,3つのクラスターのうちの1つに「低たんぱく質食餌下のMYC増幅がんのTAM」は集中し,貪食機能(phagolysosome biogenesis, phagocytosis, endocytosis, cytoskeleton remodeling)の遺伝子発現増加がみられた。特に低たんぱく質食餌下のMYC増幅がんのTAMでは,リソゾームのマーカーであるLAMP1の高発現が確認された。LAMP1の発現にはTFEBやTFE3といった転写因子が重要であることが知られているが,マクロファージ特異的なこれらの遺伝子欠損マウスの解析などから,MYC高発現乳癌の低たんぱく食下におけるTAMの増殖はこれらTFEBやTFE3の遺伝子ならびにmTORC1シグナル依存性であることが判明した。
 mTORC1を調節している一つにRag GTPaseがあり,Rag GTPaseもまた,複数のたんぱく質複合体によって調節されている(リンク)。GTPase活性化たんぱく質(GAP)であるGATOR1について遺伝子欠損マウスを組み合わせて調べることにより,TAMにおける低たんぱく食はGATOR1によって感知され,TFEBやTFE3の遺伝子を活性化させていることが判明した。
 さらに興味深いことに低たんぱく質食餌下のMYC増幅がんのTAMではアポトーシスしたがん細胞を多く貪食していることが観察されたが,通常食下ではみられなかった。そこで貪食に関連してエンドリソソームの貪食調節因子(リン酸化酵素)であるPIKfyve(Wiki)について調べたところ,こうしたTAMの作用はPIKfyveに依存していることが明らかとなった。
 mTORC1シグナル伝達がTAMとがん細胞の間の競合を制御しており,がん治療の新たな標的となる研究内容(Extended Data Fig.10に図でまとめられている)であり今後の研究の進展が期待される。

•Science

1)遺伝学
人間の骨格形態の遺伝的構造と進化(The genetic architecture and evolution of the human skeletal form
 二足歩行する唯一の大型類人猿である人間は独特の骨格形態を有し人類学的には研究されてきたが,個々の骨の特徴的な成長や進化の遺伝的基盤についての詳細は不明であった。
本論文は,30,000人以上の英国バイオバンク参加者からの画像データ〔31,221枚の全身二重エネルギーX線吸収測定(DXA)画像〕を使用し,深層学習モデルを適用してすべての長骨の長さ,腰と肩の幅を含む23の異なる画像由来の表現型を抽出して解析(Fig.1)した米国テキサス大学からの報告で,今週号の表紙を飾っている(リンク)。本研究では「人間の骨格」のプロポーションを特徴付け,これらの特徴の遺伝的基盤とそれらの相互の関係を研究している。結果として,すべての骨格比率(skeletal proportions:SPs)は遺伝性が高く(約30~50%)(Fig. 2),これらの形質のゲノムワイド関連研究により145の独立した遺伝子座が同定された(Fig. 3)。その中には骨格の発達を調節する遺伝子や,まれなヒトの骨格疾患や異常なマウスの骨格表現型に関連する遺伝子が多く含まれていた。さらに四肢の比率は遺伝性が強く見られたが,幅や胴体の比率とは遺伝的に独立していることが示された。表現型および多遺伝子リスクスコア分析により,股関節および膝の変形性関節症と,対応する地域のSPとの間の特異的な関連性が特定された(Fig. 4)。また,ヒトの腕と脚と腰の幅の比率が進化的に変化したことを示すゲノム証拠も見つかり(Fig. 5),これはヒト科の化石記録にあるこれらのSPの顕著な解剖学的変化と一致していた。バイオバンクからの画像データを使用した研究の有用性が示された情報量の多い内容である。

・NEJM

1)気管支喘息
好酸球数に示される2型炎症を伴う慢性閉塞性肺疾患に対するデュピルマブ(Dupilumab for COPD with type 2 inflammation indicated by eosinophil counts
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の20~40%では2型炎症を伴い,増悪のリスクが高いこと,さらに血液中の好酸球数の増加が2型炎症を示すと考えられている。2型サイトカインのIL-4とIL-13はIL-4受容体α鎖(Interleukin-4 receptor)を共通サブユニットとして共有する。このIL-4受容体α鎖に対する完全ヒト化モノクローナル抗体であるデュピルマブ(デュピルマブ)は,IL-4とIL-13の両者のシグナルを阻害して抗2型炎症効果としての有効性を示す。
 本研究は2型炎症を伴うCOPDに対する米国・英国・ドイツなどの施設の国際第3相二重盲検無作為化試験(BOREAS trial:ちなみにBOREASはギリシャ神話の北風の神)である。「血中好酸球数が300/μL以上で3カ月間以上のLAMA・LABA・ICSの標準的な3剤併用療法を行っても増悪リスクが高いCOPD患者」に対してデュピルマブ(300mg)(2週間隔で皮下投与)の効果について,「中等度または重度のCOPD増悪の年間発生率」の主要評価項目として研究された。939人の患者がデュピルマブ群468人とプラセボ群471人に無作為化された。デュピルマブの投与を受けた患者では,プラセボの投与を受けた患者と比較して増悪が少なく(中等度または重度の増悪の年間発生率:デュピルマブ群0.78 vs.プラセボ群 1.10),肺機能〔気管支拡張薬吸入前の1秒量(FEV1)の変化量〕とQOL〔セントジョージ呼吸器質問票(SGRQ)のスコア〕が良好で,呼吸器症状の重症度〔COPD 呼吸器症状評価(E-RS–COPD)のスコア〕が低かった。有害事象については両者で特に差はみられなかった。
 血中好酸球数の増加といった2型炎症を伴うCOPD患者におけるデュピルマブの投与の有効性が示された報告であり,EDITORIALSでも紹介されており,QUICK TAKEでは2分の動画でまとめられていてわかりやすい。

今週の写真:百日紅(サルスベリ)

(鈴木拓児)

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