スウェーデンのゴセンバーグ大学からの報告である。Faecalibacterium prausnitziiは，豊富に存在する一般的なヒト腸内細菌で，いわゆる善玉菌である。F. prausnitziiはプロバイオティクス製剤としての開発が期待されている。今回筆者らは，善玉菌であるF. prausnitzii と硫酸還元細菌Desulfovibrio pigerが共生関係にあることを見出し，さらには嫌気性菌であるF. prausnitziiから，酸素耐性のF. prausnitziiを作りだすことに成功した（News & Viewsの図参照）。

　まず筆者らは，健常者の便をグルコースあるいは酢酸を与えずに培養してみた（図1）。すると，F. prausnitziiとD. pigerが共培養されてきた。F. prausnitziiから乳酸がD. pigerに供給され，D. pigerで乳酸から産生された酢酸が再びF. prausnitziiへ供給されることがわかった。F. prausnitziiとD. pigerが共生関係にあることがわかり，D. pigerと共培養することで，F. prausnitziiをプロバイオティクス製剤として産業的に生産する可能性が示唆された。

　しかし，F. prausnitziiをプロバイオティクス製剤として産業的に生産するには，F. prausnitziiの酸素感受性が問題となる（D. pigerはF. prausnitziiより酸素耐性）。そこで徐々に酸素化することによって，酸素の存在下に順化したF. prausnitziiを作製した（図2）。

　そして最後に，D. pigerとの共培養で，酸素に順化したF. prausnitziiを大量培養し，プロバイオティクス製剤として健常人に投与した（図3）。プラセボ対照で50名に8週間投与したところ，高用量投与でD. pigerの増加は確認された。しかし，善玉菌であるF. prausnitziiの増加は高用量投与でも確認されなかった。健常人が対象だったことから，既にF. prausnitziiが十分量腸管に常在していたことが，F. prausnitziiの増加は確認されなかった理由と考察されている。

　米国サンデイエゴのカリフォルニア大学からの報告である。筆者らは，細菌が相同組み換えで外来遺伝子を取り込む水平遺伝子伝播に着目し，いわゆる弱毒菌であるAcinetobacter baylyiを用いて，これをがん診断に応用することを考えた（図1）。

　まず図2では，ドナーがん細胞として，KRAS遺伝子内部にカナマイシン耐性遺伝子とGFP遺伝子組み込んだヒト大腸がん細胞を準備した。この大腸がん細胞から抽出したDNA（図2D-G：RKO-KRAS群とLS174T-KRAS群）や細胞ライセート（図2D-G：Lysate群）と，菌をin vitroで培養すると，菌はカナマイシン耐性となり，相同組み換えが確認された。なお，2 kbの相同組み換えが必要な系（図2B）より，8 bpの相同組み換えだけが必要な系（図2C）の方が，相同組み換えの効率はよかった。

　次に図3では，がん細胞からのDNA抽出や細胞ライセートの作製を行わずに，がん細胞のオルガノイドと菌を共培養しても，さらには，マウス大腸にオルガノイドで作製した腫瘍内に菌を接種しても，菌はカナマイシン耐性となり相同組み換えが確認された。

　最後に図4では，ドナーがん細胞として，KRAS遺伝子内部にカナマイシン耐性遺伝子とGFP遺伝子組み込んだヒト大腸がん細胞ではなく，通常の大腸がん細胞を用いてみた。ドナーがん細胞を改変する代わりに，菌ゲノムにサプレッサーを入れたKRAS遺伝子と，カナマイシン耐性遺伝子を導入した。がん細胞との相同組み換えが起きない状態では，サプレッサーによって菌のカナマイシン耐性遺伝子は発現しない。がん細胞との相同組み換えが起きると，菌はサプレッサーなしのKRAS遺伝子になるため，菌のカナマイシン耐性遺伝子は発現してくる。これによって，菌とがん細胞との相同組み換えを検出する仕組みである。これに，野生型KRASを特異的にカスケードとCRISPRで破壊するシステムを組み合わせてみた（図2H〜J）。野生型KRASのがん細胞（図4EのRKO）では，相同組み換えが起きてもカスケードとCRISPRで菌ゲノムが破壊されてしまいカナマイシン耐性とならない。一方，G12D型KRASのがん細胞（図4EのLS174T）では，相同組み換え後にカスケードとCRISPRで菌ゲノムが破壊されず，サプレッサーが外れてカナマイシン耐性となる。これによって，がん細胞のKRAS遺伝子が，野生型なのかG12D型なのかを判定できることが示されている。

　米国シカゴのラッシュ大学メディカルセンターからのMINDダイエットについての報告である。MINDダイエット（Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay）は，心臓病を予防する地中海式ダイエットとDASHダイエット（Dietary Approaches to Stop Hypertension）を組み合わせて，神経変性を遅らせようと開発された食事法である。今回筆者らは，認知症の家族歴を有する認知機能正常者604名（平均70歳）を対象に，MINDダイエットの神経変性に対する効果を2施設の無作為化比較臨床試験で検証した（表1）。

　MINDダイエットでは，野菜，果物，ナッツ類，魚，オリーブ油をなるべく摂取する一方で，飽和脂肪酸を避け，乳製品，肉類，菓子類，揚げ物は控えめにすることが勧められている。本研究では，1日250 kcalにカロリー制限した対照群に対し，このカロリー制限にMINDダイエットを付加した効果を検討した。

　しかし残念ながら，MINDダイエットを開始3年後，両群を比べたところ，認知機能や脳MRIの評価で有意差は認めなかった（表2）。

　市中肺炎について，診断から治療まで，外来患者と入院患者に分けて網羅的に概説されています。ちなみに，外来患者では経験的治療がほぼ有効なので，新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス以外は，病原微生物の検索は基本的に推奨しない，と記載されています。一方入院患者では，喀痰グラム染色，血液培養，尿中抗原，新型コロナウイルスを含むようなマルチプレックス検査などが，病原微生物の検索として推奨されている。

（TK）