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COVID-19疾患感受性遺伝子の最終報告/Th17細胞を制御する脂質の同定/やせ薬としてのGLP-1受容体作動薬
1)感染症:Matters Arising
COVID-19のヒト遺伝的構造の第2版アップデート(A second update on mapping the human genetic architecture of COVID-19) |
筆者を含めて,このコロナ禍において,ウイルス側だけでなく,宿主因子,特に疾患感受性遺伝子に関して,世界中の研究者が取り組んできた。そして,当然のことながら,疾患感受性遺伝子の研究はサンプルサイズが大規模になればなるほど,有意な遺伝子が同定されてくるため,世界中の研究者が協力し合い,メタアナリシスを行う流れが生まれる。
筆者が事務局を務めるコロナ制圧タスクフォースでは,Broad Instituteらのグループが先導し,世界で最大の新型コロナウイルス感染のホストゲノム研究であるCOVID-19 Host Genetics Initiative(COVID-19 HGI)に参画し,これまでも複数のプロジェクト(Link)に参画してきた。
今回,取り上げる論文は「A second update on mapping the human genetic architecture of COVID-19」というタイトルで,以前に参画した上記論文のアップデートされたバージョンとなっている。
実に35カ国から82の研究がエントリーされ,25万人以上のCOVID-19患者データが統合解析されている。手前味噌ではあるが,その中でも,コロナ制圧タスクフォースはアジアの中で最もサンプルサイズを提出している。
今回の結果から,51もの関連遺伝子(前回の論文では28の関連遺伝子)を同定された(Fig.2)。特にウイルスのentry,粘液における気道防御,I型インターフェロンのパスウェイに関連する遺伝子が多く浮かび上がってきている点がCOVID-19の病態に合致しており,大変興味深いと感じた(Extended Data Fig.1)。
一方で,以前に我々のグループが報告したDOCK2(Link)は今回の疾患感受性遺伝子には含まれていない(この点に関しては,本論文も触れられている)。そもそも,DOCK2は第1〜3波でしか重症化との相関を示さず,治療薬やワクチンが登場した流行波では,その相関が減弱している。この議論とは別に,このようなメタアナリシスでは,集団特異的な疾患感受性遺伝子,特にヨーロッパ人集団以外の集団においては,まだまだ未報告のものが存在すると推察される。
COVID-19 HGIによるCOVID-19重症化に関するメタアナリシスのプロジェクトは今回で最後ということであるが,Long COVIDの疾患感受性遺伝子やアジア人の疾患感受性遺伝子はまだまだ研究の余地があると考えられる。
1)免疫学:Research Article
Oleoyl-lysophosphatidylethanolamineがTh17細胞のRORγtを活性化する(1-Oleoyl-lysophosphatidylethanolamine stimulates RORγt activity in Th17 cells) |
近年,免疫細胞と代謝に関連する研究がホットトピックとなっている。これまでは,免疫細胞の制御にはサイトカインやシグナル伝達から迫る研究が中心であったわけだが,様々な代謝産物を網羅的に測定できる技術の発展もあり,新たな展開をみせている。
本研究はTh17細胞の分化を脂質の観点から迫った研究で,かずさDNA研究所(多くのヒト検体の遺伝子変異の受託研究も行っている),千葉大学,東京大学による国内の研究チームによる報告である。Th17細胞の分化はIL-6やTGFβによる制御が有名だが,彼らの以前の研究(Link)からオレイン酸(OA)を含む脂質がRORγt活性化に関与してTh17細胞分化を誘導できる仮説を得ており,ここから研究がスタートしているようである。Acaca遺伝子によってコードされるACC1は,ATP依存性のアセチルCoAからマロニルCoAへのカルボキシル化を触媒する酵素で,細胞の脂肪酸代謝の最初のステップを制御している(Link)。
ACC1の遺伝的欠損やACC1の阻害薬(TOFA)によりIl17aプロモーター活性は抑制され,一方で,外的にオレイン酸を補充するとIl17aプロモーター活性の抑制が解除することを示している(Fig.1A〜C)。さらにACC1の遺伝的欠失は,RORγtと核内受容体コアクチベーター1(NCOA1)との結合を減少させることを示している(Fig.1D)。つまり,代謝経路の観点からACC1の下流に位置する代謝産物のいずれかが,RORγtを活性化することが予想された。ここから,Th17細胞への分化に関してACC1の下流に位置する代謝酵素(31分子)を用いて,スクリーニングを行っている。ここから,Gpam,Gpat3/Agpat9,Lplat1/Agpat1,Pla2g12a,Scd2を含む脂質代謝がTh17細胞への分化に重要であることを示している。
Scd2を単独で欠損すると,Th17細胞への分化が部分的に阻害され,Scd2,Lplat1,Gpat3のトリプルノックアウトはTh17細胞への分化がさらに阻害された(Fig.2B)。5つの脂質代謝酵素をすべてノックアウトした細胞(quintuple knockout:QKOと命名)は最も阻害効果が高く,RORγt欠損とほぼ同等レベルのTh17細胞への分化阻害が観察された。一方で,これらの酵素の過剰発現もIL-17Aの産生上昇も確認している。
これらのQKOしたTh17細胞,TOFA(ACC1の阻害作用)で処置したTh17細胞,sgRorc-Th17細胞を用いた網羅的なリピドミクス解析により,脂質の中でも機能性脂質1-オレオイル-リゾホスファチジルエタノールアミン〔LPE(1-18:1)〕がTh17細胞に必須であることを見出している(Fig.3)。さらに,ChIPアッセイによりLPE(1-18:1)がRORγtと特異的に結合することでTh17細胞への分化に寄与していることを示している(Fig.5)。この機序にはp300を介してRORγtへの結合することを見出しており,実際にp300の阻害薬curcuminを使用すると,LPE(1-18:1)誘導性のIL-17A産生の阻害を確認している。
このTh17細胞における脂質の役割を病態モデルで証明するために,研究グループは多発性硬化症のモデルであり,Th17細胞がその病態悪化に重要な役割を果たすEAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎:Experimental Autoimmune Encephalomyelitis)を用いている。同定した5つの代謝酵素の内,脂質代謝の最終段階で作用するPLA2G12Aを用いて実験を進めている。このEAEモデルにおいて,PLA2G12Aの機能阻害を行うとTh17細胞(特にpathogenic Th17と呼称している)を介して,EAEの病態が顕著に改善されることを示している(Fig.6)。
私はこの発表内容を,in pressの段階の時に,国際学会(国内開催)においてオーラルプレゼンテーションとして拝聴する機会があったが,自分たちの先行研究から得た仮説を非常に理路整然と一つ一つ解き明かして,大きなストーリーにまとめ上げていることが大変印象的であった。
1)代謝:Original Article
肥満に対するGLP-1受容体作動薬オルフォルグリプロン(Daily oral GLP-1 receptor agonist orforglipron for adults with obesity) |
肥満に対するやせ薬は何かと話題になっており,ネットで取引されているという噂もよく耳にする。今回の研究はGLP-1受容体作動薬オルフォルグリプロンの肥満成人の体重減少を目的とした1日1回経口投与の有効性と安全性に関する報告である。カナダ,米国,ハンガリーで研究が実施され,イーライリリー社がスポンサーとなっている。
無作為化二重盲検試験で,肥満もしくは過体重を有し,併存疾患を1つ以上有する非糖尿病成人を対象としている。参加者を,オルフォルグリプロンを4群(12mg,24mg,36mg,45mg)に割り付け,1日1回,36週間投与する群と,プラセボ投与群に無作為に割り付けられている(Link)。
272例が無作為化された.ベースライン時の平均体重は108.7kg(!)で,BMIは37.9であった。26週時点でオルフォルグリプロンの4群ではベースラインからの減少は-8.6~-12.6%である一方,プラセボ群では-2.0%であった。36週時点では,オルフォルグリプロンの4群ではベースラインからの減少は-9.4~-14.7%であり,プラセボ群では-2.3%であった。36週目までに体重の10%以上の減少が得られた割合は,オルフォルグリプロン投与群では46~75%であったのに対し,プラセボ群では9%であった(Link)。オルフォルグリプロン群で頻度の高い有害事象は消化器系の有害事象であった。
今回の研究にエントリーされた被験者は,平均体重108.7kg,BMI 37.9という,なかなか日本ではお目にかかれないクラスターを対象としているが,日本においてメタボリックシンドロームで特定保健指導に引っかかるような群でどのような効果をもたらすか,興味深い点である。
今週の写真:ストックホルム市庁舎 夏に訪れたストックホルム市庁舎。ここでノーベル賞の晩餐会が開かれる。 |
(南宮湖)