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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 253

公開日:2023.10.5


今週のジャーナル

Nature  Vol.621 Issue 7980 (2023年9月28日) 英語版 日本語版

Sci Transl Med Vol.15 Issue 715(2023年9月27日)英語版

NEJM  Vol. 389 Issue 13(2023年9月28日)英語版 日本語版








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AHR活性化による肺内皮細胞のバリア機能/肝細胞由来のCYR61はマクロファージを介してNASH線維化を促す/厳格な血糖コントロールはICUの治療アウトカムに影響せず

•Nature

1)微生物学・呼吸器病学
肺内皮細胞におけるAHR活性はウイルス感染における肺バリア破綻を阻止する(Endothelial AHR activity prevents lung barrier disruption in viral infection
 呼吸器ウイルス感染後の肺内皮−上皮細胞バリアの破壊は,気腔に細胞浸潤や体液を蓄積させ,生命維持に重要なガス交換機能を障害する。内皮細胞の機能障害は,組織障害を悪化させることが報告されているが,肺内皮細胞がウイルス病原体に対する宿主の抵抗性に寄与するかどうかは不明である。今回ロンドンのFrancis Crick Instituteからの報告では,aryl hydrocarbon receptor(AHR)が肺内皮細胞で高度に発現しており,インフルエンザ誘発肺血管漏出の防御に関わることを示している。
 AHRはリガンド活性化転写因子で,バリア部位や免疫系に広く発現し,生理的刺激や環境刺激への応答に備えている。著者らは,まずAHR-tdTomatoマウスおよびcytochrome p450(CYP1)酵素のCYP1A1-eYFPマウス(CYP1A1は,酸化を通じてAHRリガンドの代謝クリアランスを促進)を用いて特にCD31陽性の内皮細胞で,気道上皮・肺胞上皮・免疫細胞と比較してAHRの発現が顕著に高いことを示している(Fig. 1)。次にCyp1のKOマウスを作成したところ,肺内皮細胞でAHRリガンドの代謝が滞るために,持続的にAHRシグナルが亢進することを示している。そこでインフルエンザウイルスX31株を野生型とCyp1KOマウスにそれぞれ感染させたところ,Cyp1KOマウスではBALF中の出血・白血球浸潤や蛋白漏出など肺血管漏出の所見が有意に軽減し,感染に対する抵抗性を示した。さらに内皮でのAHRの重要性を確認するため,Cdh5cre-Ert2Rosa26LSL-YFP;Ahrflox/floxを作成し,タモキシフェンを投与すると内皮特異的にAHR発現が欠損するマウス(以降ECΔAh)を用いて同様の実験を実施した。同様に,内皮におけるAHRが感染時にバリアとして機能することを確認している(Fig. 2)。
 次に野生型マウスと血管特異的AHR欠損マウスECΔAhから,インフルエンザウイルス感染あり・なしで内皮細胞をsortingし,RNAシークエンスを実施した。ECΔAhr内皮では,バリア破壊と血管漏出・アポトーシス・補体凝固・低酸素・炎症などに関わる遺伝子発現の有意な上昇が観察された。一方,特に発現の低下が著しかった遺伝子として,apelin関連のシグナルが見出された。Apelin(リンク)は血管内皮細胞によって産生される血管作動性内因性ペプチドであり,アペリン受容体を介して血管機能の調節に関与している。APLNとその受容体APLNRの発現はともに肺の内皮細胞に限られている。この結果から,野生型にインフルエンザウイルスを感染させた際に,apelinを同時に投与したところ,肺障害と血管漏出が有意に減少することを示している(Fig. 3)。最終的に,AHRリガンドは食事から摂取できることから,高濃度で食餌として供給した場合,インフルエンザウイルスによる肺障害を軽減できることを明らかにしている(Fig. 4)。
 食事摂取によるAHRリガンドの供給によって,バリア強化を介した肺障害の抑制ができるという点は大変興味深い。またインフルザウイルスに限らず,肺障害の防止に関わるメカニズムとなる可能性があり,ヒトでの役割も含め今後の可能性が期待される。

•Sci Transl Med

1)消化器病学・炎症・線維化
肝細胞由来のCYR61は線維化促進型マクロファージを介してNASHの線維化を誘導する(Hepatocyte CYR61 polarizes profibrotic macrophages to orchestrate NASH fibrosis
 肥満は世界的にも増加傾向にあり,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む多様な疾患の火種になることが知られている。Cysteinerich angiogenic inducer 61(CYR61)はNASHの進行に関連することが知られているが,抗炎症作用と炎症促進作用の両面性があることが報告されている。本研究はピッツバーグ大学とイェール大学のグループからの報告で,NASHの進行における肝細胞のCYR61の役割を解明している。もともと同グループは,CYR61がYAP/TAZとともに肝炎の遷延と線維化に関わることすでに報告している(リンク)。今回は,肥満・脂肪肝との関連から,CYR61の役割を評価している。
 NASHを誘導するためマウスに高コレステロール・スクロース飼料と毎週carbon tetrachloride(CCl4)を注射した。その結果,12週から通常の飼料を与えたマウスと比較して,肝臓にCYR61と線維化マーカーでもあるaSMAの発現が亢進してくること,さらにマクロファージの浸潤(同時にこれらのマクロファージは肝臓に常在するクッパ―細胞とは異なり,流入してくる単球由来のCD68陽性VSIG4陰性マクロファージであることを示す)が促進されることを明らかにした。次に,Cyr61fl/flマウスにAAV8-thyroid hormone binding globulin(TBG)-creを投与し,肝細胞特異的にCyr61の欠損を誘導した場合(Cyr61ΔHep),aSMAやマクロファージ浸潤の減少・耐糖能の20%程度の改善を認めた(Fig. 1)。
 次に,NASH食を摂取した野生型マウスとCyr61ΔHepマウスの肝臓の遺伝子発現プロファイルを比較したところ,Cyr61ΔHepの肝臓では,代謝遺伝子(Acox1Fabp1Ppara)の発現の増加やそれらの関連シグナルのenrichmentが認められた一方,線維化遺伝子(CtgfCol1a1Tgfb1およびActa2)および炎症性遺伝子(TnfTlr1/2Ccl2)の発現が減少した。以上からマウスにおける肝細胞特異的Cry61欠損は,野生型と比較して,糖代謝および脂肪代謝の改善,ならびに炎症および線維化の抑制と関連していた(Fig. 2)。次に肝臓のscRNAseqを行い特にミエロイドと線維芽細胞にfocusしたところ,5つのクラスターが同定された:クッパ―細胞(Adgre1Csf1rClec4fVsig4),MoMΦ(H2-Ab1Cd11c),infiltrating monocytes(Ly6c2),patrolling monocytes(Cd11b),線維芽細胞(Col1a1)。線維芽細胞はCyr61ΔHepでは野生型と比較して,線維芽細胞およびMoMΦが減少し,クッパ―細胞が優位になっていた。線維化を促進するPdgfbや炎症関連遺伝子(Nfkb1/2)は,クッパ―細胞と比較してMoMΦで増加していた。さらに蛋白レベルでの発現評価のためCyTOF(リンク)を実施している。評価したいずれのマクロファージ・単球(liver capsular MΦ,Ly6Chi MoMΦ,Ly6Clo MoMΦs,Mono)においても,IRAK4,SYK,NFkBのリン酸化がCyr61ΔHepで低下していた(Fig.3)。
 さらにCry61の機能を評価するためAAVで肝細胞にCry61を発現誘導することで生じる変化を確認している。Cry61の発現誘導によってコラーゲン沈着が促進され,Ly6C+MHCII-に対してLy6C+MHCII+の割合が増加していた。さらにCCR2欠損マウスではAAVによるCry61誘導で表現型に変化がないことから,Cry61が単球浸潤を促進しているのではなく,in situで肝臓内の単球・マクロファージの分化・活性化を誘導していると考えられた(Fig.4)。そこで,Cry61が単球・マクロファージに対して直接的にどのような分化誘導を起こしているのか明らかにするため,マウス骨髄から誘導したマクロファージの刺激実験を行ったところ,IRAK4/SYK/NFκBシグナルを介して,マクロファージを炎症性・線維化促進型へ偏位させ,TNFaPDGFaPDGFbの発現を誘導した(Fig. 5Fig.6)。
 最後にCry61を標的とした治療によってNASH食による肝線維化が阻害できるかを確認した。Figure1と同じモデルで,はじめにNASH食を6週間継続したあと,AAVによってCry61を欠損させる群とさせない群で比較した。その結果,Cry61欠損によってMoMΦsの浸潤および線維化の有意な改善を認めた。同様の結果が,Cry61に対するブロッキング抗体を投与した場合にも改善が確認された(Fig. 7)。
 HCVウイルスの克服により肝線維化を生じる疾患背景は大きく変化した。NASHによって長期的に炎症が誘導される際にCry61がどのように線維化の後押しをしているか,治療標的としての可能性も含めて,マウスモデルを用いてきれいに説明されていた。今後の臨床的な検討が楽しみな内容である。

•NEJM

1)集中治療医学
ICUにおける早期静脈栄養を行わずに厳格な血糖コントロールを実施した際のアウトカム(Tight blood-glucose control without early parenteral nutrition in the ICU
 集中治療室(ICU)に入院した重症患者では,高血糖がよく認められ,予後不良と関連している。しかしながら,互いに因果関係があるかどうかについては,これまで血糖コントロールのランダム化比較試験の結果が異なっており,議論が分かれている。もともと,単施設無作為化比較試験において,インスリンを用いて血糖値を健康な年齢調整空腹時の範囲まで下げた患者群(厳密な血糖コントロール)は,高血糖を認めた患者群よりも転帰が良好であると報告された(リンク1リンク2)。しかし,その後の多施設共同ランダム化試験では,厳格な血糖コントロールの有益性は確認されなかった(リンク)。この背景には,早期静脈栄養の実施とインスリン誘発性重症低血糖の発生率の違いが関連する可能性が示唆されている(リンク)。
 ベルギーを中心として実施された本臨床試験では,ICUに入院した患者9,230例のうち,4,622例が厳密ではない血糖コントロール群(血糖値が215mg/dLを超えた場合のみインスリン開始),4,608例が厳格な血糖コントロール群(LOGICインスリンアルゴリズムを用いた目標血糖値80~110mg/dL)に無作為に割り付けられた。静脈栄養は両群とも1週間は行わなかった。プライマリーエンドポイントは,ICUで治療を必要とした期間(ICU入院から生存退室するまでの期間)。安全性アウトカムは90日死亡率とした。朝の血糖値の中央値は,厳格でない血糖コントロール群では140mg/dL(122~161),厳格な血糖コントロール群では107mg/dL(98~117)であった。重症低血糖は,非厳格な血糖コントロール群では31例(0.7%),厳格コントロール群では47例(1.0%)に発生。ICUで治療を必要とした期間は2群で同程度だった(厳格な血糖コントロール群で,生存退室が早くなるハザード比は1.00,95%信頼区間0.96~1.04,p=0.94)。90日死亡率も同程度であった。事前に規定した8項目のセカンダリーアウトカムの解析では,新たな感染症の発生率・呼吸補助の時間・血行動態補助の時間・生存退院までの期間・ICU内死亡・院内死亡は2群で同程度であった。重症急性腎障害と胆汁うっ滞性肝機能障害については,厳格な血糖コントロールの方が少ない傾向にあった。
 以上から,早期静脈栄養を受けていないICUの重症患者において,厳格な血糖コントロールは,ICUでの治療期間と死亡には影響を及ぼさなかった。今回の検討から,厳格な血糖コントロール自体はICU治療のアウトカムには影響しないことが分かったが,腎不全や肝機能障害に関しては発生を抑えられる可能性が示唆された。
 本研究内容のサマリーは,1枚のスライドと短い動画でまとめられている。

今週の写真:彩雲。大阪大学周辺にて


(小山正平)

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