•Nature
1)臓器移植:Article
異種移植用のヒト化ブタドナーの設計と検証(Design and testing of a humanized porcine donor for xenotransplantation) |
米国マサチューセッツ州ケンブリッジにある製薬企業eGenesis社からの報告である。ヒトへの移植に対するブタ臓器の有望性から,2022年1月ブタからヒトへ初めての心臓移植が行われたという
報告は記憶に新しいところである。この心臓移植では,
3種類の糖鎖(galactose-alpha-1,3-galactose,Sda blood group antigen,N-glycolylneuraminic acid)の遺伝子欠損を含む,10種の遺伝子を改変したブタ「Revivicor」が用いられた。本研究では,これら3種の糖鎖を含む69遺伝子を改変したYucatanミニブタ(血液型はOO)を作製して,そのブタからの腎移植の可能性をカニクイザルで検証している。
図1では,3種の糖鎖(galactose-alpha-1,3-galactose,Sda blood group antigen,N-glycolylneuraminic acid)の遺伝子を欠損させる(3KO)と,ブタの腎組織がヒトやヒヒやアカゲザルやカニクイザルのIgGやIgMが反応しなくなったことを示している。なお,「3KO.7TG」は3種類の糖鎖遺伝子を欠損させて7種類のヒト遺伝子を発現させたブタを,「3KO.7TG.RI」はさらに59コピーの
内在性レトロウイルスエレメントを不活化したブタを指している。「3KO.7TG.RI」で,糖鎖3遺伝子+ヒト7遺伝子+レトロウイルス59遺伝子=計69遺伝子を改変したことになる。なお,
発現させた7種類のヒト遺伝子(CD46,CD55,THBD,PROCR,CD47,TNFAIP3,HMOX1)は,血管内皮の保護や血栓予防や炎症の低減などを目的としている。
図2では,「3KO」,「3KO.7TG」,「3KO.7TG.RI」の順番で作製していったことを示している。
図3では,作製した遺伝子改変ブタから腎内皮細胞を初代培養して,ヒトやカニクイザルの補体沈着,活性化プロテインC,アポトーシスなどを調べることによって,7種類のヒト遺伝子を発現させた効果を示している。
図4では,「3KO.7TG」のブタ腎臓をドナーとすることによって,「3KO」のブタ腎臓より有意にカニクイザルの生存を延長させることが示されている。
•Science
「Brain cell census」の特集号で,12報の関連するRESEARCH ARTICLEが掲載されている。
1)合成生物学:RESEARCH ARTICLE
有益菌を用いたCAR-T細胞の固形腫瘍への誘導(Probiotic-guided CAR-T cells for solid tumor targeting) |
本研究では,細菌として大腸菌「Nissle 1917(EcN)」を用いている(
図1)。この大腸菌に遺伝子操作が施されており,菌密度が上昇すると,クオラムセンシング機構により溶菌して,菌内成分が周囲にばら撒かれるようになっている。この菌に,モデル抗原であるGFPに,placenta growth factor-2のヘパリン結合ドメインを結合させたProCAR-Target(Tag)を発現させた。このヘパリン結合ドメインによって,腫瘍周囲でばら撒かれたGFPは,固形腫瘍の細胞外マトリックスに接着するようになる。
図2では,免疫不全のNSGマウスにおける皮下腫瘍モデルを用いて,Tagを発現する大腸菌を腫瘍内に接種した後に,同じく腫瘍内にGFPを標的とするCAR-T細胞「GFP28z」を接種した。皮下腫瘍のがん種に依らず,良好な抗腫瘍効果を示した。
図3では,免疫能正常のマウスを用いて,図2と同様に皮下腫瘍モデルでTagを発現する大腸菌とCAR-T細胞「GFP28z」の抗腫瘍効果を確認した。
最後に
図4では,Tagに加えて
CXCL16を大腸菌に発現させた「Pro
combo」を用いて,経静脈的に大腸菌「Pro
combo」とCAR-T細胞「GFP28z」を投与した。期待した通り,大腸菌「Pro
combo」とCAR-T細胞「GFP28z」の投与で,良好な抗腫瘍効果が得られた。
細菌を腫瘍への分子デリバリーに利用とする試みは,実際既に
臨床試験も行われており,今後の展開が期待される分野と思われる。
•NEJM
1)感染症学:ORIGINAL ARTICLE
HIV陽性者の結核性髄膜炎に対するデキサメタゾンの補助療法(Adjunctive dexamethasone for tuberculous meningitis in HIV-positive adults)
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英国のロンドン大学衛生熱帯医学大学院からの報告である。ベトナムとインドネシアで行われた成人HIV陽性者の結核性髄膜炎患者を対象に行われた無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。実薬群263例,プラセボ群257例で,主要評価項目は12か月間の全死亡である。
一般に,2004年の
本誌に掲載された論文を基に,水頭症の防止と脳浮腫の軽減を目的に,結核性髄膜炎治療におけるステロイド薬の併用は広く行われている。本論文のタイトルを見た瞬間に,「HIV感染者の免疫応答は健常者とは異なるだろうけど,さすがにこれはポジテイブな結果だろう」と思った読者も多かったのではないかと推測される。しかし残念ながら,本試験の観察期間中(12カ月間),デキサメタゾン群の生存率はプラセボ群より上回ってはいたものの,すべての副次的評価項目も含め,デキサメタゾン追加の有用性は証明されなかった(
図2)。
デキサメタゾン追加の有用性を証明できなかった理由として,①有意差を検出するのに十分な症例数ではなかった,②組み入れ症例の26.5%で,ステロイドが盲検下で追加投与されていた,という2点が挙げられている。また結果の解釈は,VPシャントが容易に行えるような医療環境であると当然異なってくることも,discussionには記載されている。
今週の写真: ホワイトチョコレートストロベリーショコリキサーと,ショコリキサーチョコミント。カタカナが長すぎて,注文するのも一苦労です。 |
(TK)