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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 260

公開日:2023.11.30


今週のジャーナル

Nature  Vol.623 Issue 7988(2023年11月23日) 英語版 日本語版

Science  Vol.382 Issue 6673(2023年11月24日)英語版

NEJM Vol.389 Issue 21(2023年11月23日)英語版 日本語版








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細胞外マトリックスが遺伝子変異によるがんの発生・浸潤を制御する/モルフォゲンによる弾性や粘性の変化が組織の形態形成に関わる/EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対するオシメルチニブと化学療法の併用効果

 以前から生物学と物理学の融合的な解析アプローチを行う生物物理学(Biophysics生物物理学 - Wikipedia)という研究領域が存在するが,近年の生体イメージング技術やシングルセルシークエンス技術の進歩により,1細胞レベルの時間的空間的変化の解像度が格段に向上している。今回,この領域に関連した論文がNatureとScienceのいずれにも掲載されていたので紹介させて頂く。

•Nature

1)腫瘍学
細胞外マトリックスは腫瘍の発生における局所の増殖力を規定する(The extracellular matrix dictates regional competence for tumour initiation
 皮膚表皮は常にターンオーバーを繰り返している。細胞の新生と分化のバランスが崩れると,制御不能な細胞増殖やがんの発生につながることが知られている。しかしながら,がん細胞の遺伝子変異が,細胞の新生と分化のバランスにどのような影響を与え,クローン拡大・細胞競合・コロニー形成・発がんが引き起こされるのか,その詳細がわかっていない。
 今回ベルギーのブリュッセル自由大学のグループは,SmoM2(皮膚の基底細胞がんの発生を誘導するSmoothenedの活性化型がん遺伝子変異)が,細胞のクローン形成と競合・がんの発生増殖にどのような影響を与えるか,生体イメージングやシングルセル解析を用いることで,リアルタイムに評価している。興味深いことに,遺伝子変異SmoM2をマウスの耳の表皮と背中の表皮で同じように誘導した際に,耳の表皮では,がん発生・浸潤とクローン拡大が認められるのに対して,背中の表皮では,真皮への浸潤やがん形成を伴わずに,側方細胞と競合しながらクローン拡大が認められるのみであった(図1図2)。
 さらに時間経過とともに,がん遺伝子変異が生じた表皮周辺にどのような変化が起こっているのか評価するため,SmoM2発現前・発現後3週間後・6週間後でシングルセルRNAシークエンスを実施している。その結果,がん遺伝子の発現は,耳の表皮ではinterfollicular cells(毛包間細胞)が胚性毛包前駆細胞(embryonic hair follicle progenitor: EHFP)の状態にリプログラミングされる一方で,背部の表皮ではそのような変化が全く生じなかった(図3)。耳と背中の皮膚を比較すると,真皮の構成が大きく異なっており,背中ではI型コラーゲンのネットワークが密で,硬くなっていることがわかった(図4)。がん発生の周辺環境が腫瘍の増殖や浸潤に与える影響を評価するため,背中の表皮に対して,コラゲナーゼの処理や慢性的な紫外線照射,もしくは自然老化によって背部皮膚のコラーゲンの発現を減少させたところ,SmoM2発現後のEHFPリプログラミングが耳の場合と同じように誘導され,がんの発生が認められた(図5)。
 以上から,細胞外マトリックスの組成が,生体の様々な部位におけるがんの発生・浸潤に対する感受性に関わることがわかった。わかりやすいまとめの図が掲載されているので参照頂きたい(Extended Data Fig.14)。同じ遺伝子変異が同じ細胞に生じたとしても,その細胞の周辺環境ががんの発生・分化・進展に大きく影響することが示された。一方で,特定の臓器にしか認められないがんの遺伝子変異が環境によって規定されうる可能性も示唆する,大変興味深い報告である。

•Science

1)発生生物学
モルフォゲンは細胞への直接的な作用を超えた周辺組織の機能を制御することで臓器構造を生み出す(Morphogens enable interacting supracellular phases that generate organ architecture
 脊椎動物の器官形成において,形態の複雑さは形態遺伝子の発現と密接に結びついている。米国ロックフェラー大学のチームが実施した今回の研究は,羽毛包(トリの皮膚から羽が生えてくる過程)の形態形成における鳥の皮膚におけるモルフォゲン(今回はFGFとBMPに着目)の役割について,細胞の集積あるいは単一細胞レベルではなく間質領域の変化などが,臓器形成にどのような影響を与えるかを調べている。わかりやすいサマリーが掲載されている(リンク)。
 卵胞原基が形成された直後,卵胞特異的な遺伝子の発現が誘導されることが最近明らかになったことから,この時期よりも後に起こる細胞および構造の変化を時空間的に解析した。ニワトリの胚6日目(E6)からE8までの背部皮膚切片について,核・アクチン・基底膜・表皮細胞膜を可視化して評価した。その特徴から,卵胞の発生は3つの時期:「前凝縮期」「凝縮期」「出芽期」に分類できることがわかった。「前凝縮期」では,表皮は単細胞層を維持しているが,基底膜が湾曲した構造に移行した。「凝縮期」では,表皮が肥厚をはじめ,基底膜はアクチンrichな真皮の凝縮によってさらに湾曲した構造を形成した。凝縮期の終わりには,表皮と基底膜が,真皮に落ち込み,基底膜の湾曲は減少した。この時点までは,皮膚組織の表面は平らに維持されている。しかしながら,毛包原基が形成された後,毛包遺伝子発現プログラムが開始されると,表皮と基底膜は下向きの湾曲から上向きの湾曲へと反転し,表皮と真皮が背部皮膚の平面から突出し始めた(出芽)。この段階で,出芽の中心にある基底膜内のラミニンシグナルは減少し,真皮毛包凝縮物内に点状として現れた。特に凝縮体期に2つのドメイン「コア」と「マージン」が出現した。これらのドメインでは,細胞骨格・核・ECMの配置に違いがみられた。「コア」ではアクチンが増加し,核は丸く等方的に配列し,フィブロネクチンは減少した。一方,「マージン」では,核が伸長し整列し,アクチンは減少,フィブロネクチンは増加した(図1)。コアとマージンの存在が明らかになったため,それぞれのドメインにおける遺伝子発現プロファイルの違いを評価した。E8ニワトリ背部皮膚のシングルセルRNAシークエンスを行ったところ,真皮は主に線維芽細胞前駆細胞で構成され,4つの皮膚線維芽細胞集団が同定された(ナイーブ:postnが特徴,エマージング:jam3が特徴,コア:mmp27が特徴,マージン:fat4が特徴)。それらの形成を制御するシグナルとして,FGFシグナルとBMPシグナルに着目したところ,FGFシグナルに関しては,pERKシグナルが毛包真皮のコア領域と一致していたが,辺縁部では一致していなかった。一方,pSMADは凝縮期には局在していたのが,出芽期には縁辺に局在するようになった(図2)。
 さらに,牽引力顕微鏡を用いて,BMPが収縮力を増加させるかどうかを調べた。採取したばかりの真皮前駆細胞をポリアクリルアミドハイドロゲルの上で培養し,個々の細胞が分離した状態で牽引力を評価した。FGFでは,牽引力はコントロールと同様であったが,BMP処理により,真皮細胞の牽引力が増加した。そのメカニズムとして,BMP-pSMAD活性縁がより強いフィブロネクチン染色を示すことから,コラーゲンの収縮増加と,相互結合したECMネットワークによる牽引力の増加であると考えられた。BMP処理したコラーゲンディスク培養物は,よりフィブロネクチンの沈着を示す一方,BMP阻害薬LDNで処理した場合,フィブロネクチン沈着はほとんどみられなかった。これらの結果から,BMPの下流にあるフィブロネクチンが,収縮を促進していることがわかった。生体内では,辺縁細胞はより固いコアの周りに整列することから,BMPによって整列が可能になるのは,隣接する固い組織が存在する場合に限られるのではないか,という仮説に基づき,著者らは,アガロースビーズを密な真皮培養に組み込み,丸い固いコアを模倣した。実際,BMPを投与した細胞は,コントロール細胞よりもビーズの周囲で整列することを示した(図5)。
 複雑な細胞培養系を駆使した解析であるが,形態形成に関わる因子は,鳥類の羽毛包の形態形成において,単純な細胞内シグナルを誘導するだけでなく,硬さや収縮力・粘性などにも影響することで,複雑な形態形成を誘導することを明らかにしている。シングルセルでわかる発現データをいかに機能的なアウトカムとして捉えるか,非常に緻密なアプローチで解析されている研究であった。

•NEJM

1)肺癌
EGFR 変異陽性 NSCLC に対するオシメルチニブと化学療法の併用(Osimertinib with or without chemotherapy in EGFR-mutated advanced NSCLC
 第三世代のEGFR-TKIオシメルチニブに,化学療法を追加することで,EGFR-TKI療法の治療効果改善が示唆されているが,今回フェーズ3の国際共同オープンラベル試験(試験名:FLAURA2)で,未治療のEGFR変異陽性非小細胞肺癌(Exon 19欠失またはL858R変異)の患者を対象として,オシメルチニブ(80mg1日1回)に化学療法(ペメトレキセド500mg/m2体表面積と,シスプラチン75mg/m2またはカルボプラチン pharmacologically guided dose)を併用する群と,オシメルチニブ単剤療法を行う群に1:1の割合で無作為に割り付け,主要エンドポイントとして,試験担当医師が評価した無増悪生存期間を評価した。奏効および安全性も同時に評価している。サマリーと2分間動画については,リンクを確認して頂きたい。
 併用治療群279例,単剤治療群278例の合計557例が無作為に割り付けられた。試験担当の主治医が評価したPFSは,化学療法併用治療群のほうが,オシメルチニブ単剤治療群に比べて有意に延長した(病勢進行もしくは死亡のハザード比0.62,95%信頼区間0.49~0.79,p<0.001)。24カ月の時点で,無増悪生存の割合は,併用治療群で57%(95%CI 50~63),オシメルチニブ単独治療群で41%(95%CI 35~47)であった。中央の判定委員会で評価したPFSは,主要解析と一致した(ハザード比 0.62,95%CI 0.48~0.80)。奏効率(CRもしくはPR)は,併用治療群で83%,オシメルチニブ群で76%,奏効期間の中央値はそれぞれ24.0カ月(95%CI 20.9~27.8)と15.3カ月(95%CI 12.7~19.4)であった(図1)。併用治療の有効性は,特に脳転移のある症例で認められた(図2)。あらゆる原因によるグレード3以上の有害事象の発現率は,併用治療群のほうが単剤療法群よりも高く(64% vs. 27%),既知の化学療法関連有害事象と同様のものであった。以上から,EGFR変異陽性の進行非小細胞肺癌に対するオシメルチニブ+化学療法の併用療法は,一次治療において,オシメルチニブ単剤療法と比較して無増悪生存期間が有意に延長した。
 本試験の結果については,読者の先生方も全く同じ印象を受けていると思うが,G3以上の毒性が増加する点,点滴通院を継続する必要がある点,OSに関する優位性はまだわかっていない点,そもそも併用薬として他の選択肢と比べて化学療法が優れているかという点など,Editorialでもいくつかの課題が提案させているので参照して頂きたい。

今週の写真:日向坂周辺(港区)の紅葉




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