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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 261

公開日:2023.12.6


今週のジャーナル

Nat Med  Vol.29 Issue 11(2023年11月) 英語版

Sci Transl Med  Vol.15 Issue 724(2023年11月15日)英語版

NEJM Vol.389 Issue 22(2023年11月30日)英語版 日本語版








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気道マイクロバイオームでARDSと院内肺炎を鑑別/融合蛋白質でファーストインクラスの抗癌薬を発明/治療抵抗性小細胞肺癌に対する新規治療薬Phase 2臨床治験

•Nat Med

1)感染症
マイクロバイオームでARDSと院内肺炎の予後を予測する(Robust airway microbiome signatures in acute respiratory failure and hospital-acquired pneumonia
 臨床現場で急性呼吸窮迫症候群(ARDS)なのか院内肺炎なのかの鑑別が難しく,オーバーラップしている可能性を念頭に置いて治療せざるを得ないことが多い。このような悩みに応えられないかということでマイクロバイオームに着目した研究である。フランスのナント大学からの報告で公開データベースを活用して膨大なデータから仮説を導き出し,自分たちのコホートで検証した内容となっており,その要点をまとめた。

 ①ICU患者と健常者の呼吸器マイクロバイオームについて,16S rRNA解析を行った17件の研究(米国,スイス,ドイツ,中国)のデータを収集し,1,029症例の重症患者から採取された気管支肺胞洗浄液(BAL)310検体,気管内分泌液(ETA)1083検体,口腔咽頭スワブ(OPS)784検体の計2177検体のデータベースを構築した。BAL,ETA,OPSのそれぞれのマイクロバイオームを調べ,臨床的にアクセスしやすくて正確さを期待できるETAに絞って検討を進めた。
 ②ARDSと非ARDSのICU患者のETAの菌叢の内訳を調べて,菌量に違いのあった30菌属を同定し,予後予想に使えるスコアを定義するため,fast-and-frugal tree(FFT:Wiki )による機械学習を行い,Staphylococcus,Ralstonia,Enterococcusの有無でARDSか非ARDSかを感度92%,特異度63%,AUC 0.751で鑑別することができた(Fig.2 g, h)。非ARDSと判定した患者では抜管できた割合が多く(ハザード比1.338),死亡率も低かった(27% vs. 37%)。
 ③HAPと非HAPのICU患者についても同様にETAを調べ,菌量に違いのあった66菌属を同定して,FFTによる機械学習を行ったところ,Streptococcus,Atopobium,Oribacterium,Veilonellaの有無でHAPか非HAPかを感度73%,特異度71%,AUC 0.72で鑑別できた。非HAPと判定した患者では抜管率が高く(ハザード比1.505),死亡率には有意差はなかった(29% vs. 21%)。
 ④早期抜管(<4日間)と抜管遅延(>10日間)を予想するためのスコアを開発し(Fig. 4b),lactobacilliales菌量が多い場合は早期抜管ができること,lactobacillialesが少なくてRothiaやStereptococcusが多い場合は抜管遅延する傾向にあることを見出した(感度85%,特異度60%,AUC 0.727)。死亡率についても有意差があり,早期抜管では23%,抜管遅延では36%だった。
 ⑤ETAのマイクロバイオームに基づいたこの予測スコアを自分たちの患者コホートの前向き研究で答え合わせをした(Fig.5)。脳外傷のためICUで人工呼吸が必要な136名の患者(ARDSは38%,HAPは51%)に当てはめたところ,ARDSと非ARDSではAUC 0.75,HAPと非HAPではAUC 0.70,早期抜管の可否ではAUC 0.68で予測できた。抜管遅延についてはそれぞれのハザード比はARDSでは非ARDSに対して1.56,HAPでは非HAPに対して1.51,早期抜管の可否では1.50だった。

 研究者たち自身のコホートは1つでも大変だったと想定されるが,過去の研究で取得されたマイクロバイオームのデータを十分に活用することにより,日常臨床でも遭遇するような課題に最大限の答えを出そうとした研究で,着眼点やストラテジーも参考になった。

•Sci Transl Med

1)癌
T細胞受容体TCRβを標的とした抗体融合分子で抗腫瘍T細胞を増幅し活性化する(A T cell receptor β chain–directed antibody fusion molecule activates and expands subsets of T cells to promote antitumor activity
 免疫チェックポイント阻害薬を含めT細胞を用いた固形癌の治療手段には限界が知られ,特にT細胞の浸潤やネオアンチゲンが少ない場合の免疫療法を効果的にする手段が必要とされてきた。この研究ではこれまでの免疫療法のストラテジー上の課題を克服するために発明したファーストインクラスの新規治療分子STAR0602の非臨床研究で,ボストンのスタートアップ企業と米国NCIの共同研究成果として報告されている。ヒトαβT細胞のVβ6とVβ10 T細胞受容体に結合する抗体ドメインとヒトIL-2を融合させた新規両能性蛋白質を用いて同一細胞におけるT細胞受容体とIL-2Rを活性化することにより,CD8陽性もしくはCD4陽性Vβ6/Vβ10 T細胞の選択的活性化と増殖をもたらすことで,免疫チェックポイント阻害薬に耐性をもった癌に対しても長期間にわたって抗癌活性をもたらすことを期待した治療薬である。AASJにも紹介された(リンク)。

 STAR0602はすべての癌の腫瘍浸潤リンパ球に共通に認められるVβ6 TCR陽性T細胞を狙って開発された。まず,肺癌含め様々な腫瘍に浸潤するT細胞と同じドナーの末梢血単核球を調べ,Vβ6ファミリーに最も多いとされるVβ6-5陽性T細胞が2〜8%程度存在することを示し(Fig.1),Vβ6-5をコードするFab断片とIL-2をFcドメイン(抗体の定常領域をヘテロダイマーを形成しやすく,かつ抗体自体のエフェクターを失活した形に加工)に融合した蛋白質を設計し,Vβ6-5とIL-2Rを共発現するT細胞に結合すること,健常者のPBMCに添加すると,Vβ6陽性T細胞と配列の近いVβ10陽性T細胞が選択的に増えることを確認した。

 次にSTAR0602を可溶性IL-2RやVβ6-5抗原で阻害する実験でも機能を確認し,CD95+CCR7+CD45RA−のCD8陽性のメモリーT細胞を誘導すること,TCRとIL-2Rの同時活性化によるpERKやpSLP76やpSTAT5などの下流シグナル活性化を確認し,CD25やgranzyme B,IFNγなど細胞傷害性CD8陽性T細胞のタンパク質発現まで誘導することを確認した。

 マウスでのin vivo実験ではマウスにはVβ6がないため,代わりにVβ13をターゲットとしてヒトIL-2との融合蛋白質をmSTAR1302として開発し,Vβ13陽性CD8陽性T細胞が選択的に増えたりSTAR1302と同様の機能をもつことを確認した。乳癌細胞株EMT6を移植したマウスにmSTAR1302を投与し,投与量を検討した。組換えヒトIL-2を投与したときにみられるような肺や肝臓での血管周囲へのリンパ球浸潤はmSTAR1302を1.5mg/kg/週まで増やしても認められられず,1mg/kg/週で十分な腫瘍縮小効果は得られたことから安全性を期待できる結果となった。腫瘍縮小効果はCT26(大腸癌細胞株)で98%,MC38(大腸癌)では70%,RENCA(腎臓癌)では66%,RM1(前立腺癌)では57%,B16F10(メラノーマ)では86%といずれの腫瘍にも効果があり,生存率も改善した(Fig.3)。免疫チェックポイント阻害薬に耐性となった腫瘍(MC38,RENCA,RM1)でマウス抗PD-1抗体との比較試験も行い,mSTAR1302が生存率を改善することを証明した。

 mSTAR1302を乳癌細胞株であるEMT6移植マウスに投与する実験では,CD8陽性T細胞,Vβ13陽性CD8陽性T細胞,granzyme B陽性CD8陽性T細胞が増えていることを確認し,投与前にVβ13陽性T細胞やCD8陽性T細胞を除去すると抗癌作用が失われることを確認した。また,mSTAR1302で治癒したEMT6移植マウスにEMT6を再移植するとmSTAR1302を投与しなくても腫瘍は形成されなかったが,CT26を移植すると拒絶されなかったので,腫瘍特異的にCD8陽性T細胞による抗腫瘍免疫能が維持されることが分かった。さらにEMT6移植マウスの腫瘍浸潤Tリンパ球のシングルセルRNA-seqも行い,mSTAR1302を投与することでVβ13陽性腫瘍浸潤リンパ球がエフェクターメモリーT細胞やエフェクターT細胞に誘導され,T細胞疲弊を回避してTCRシグナルへの感受性を維持することを明らかにした。また,mSTAR1302を投与されたマウスから単離した腫瘍浸潤リンパ球を調べると増殖したVβ13陽性リンパ球の中にT細胞受容体のCDR3レパートリーの多様性を生み出しており(Fig.6),多くはエフェクターメモリーT細胞だった。TCRのレパートリー解析も実施してところ,CDR3のシーケンスの多様性が増大していた。

 次に薬物動態を確認するため,カニクイザルを用いてSTAR0602の投与試験を実施した。経静脈での単回投与試験ではSTAR0602自体はすぐに消失するにもかかわらず,Vβ6/Vβ10陽性T細胞は増加したまま維持されていた。1mg/kgの投与ではIL-2関連毒性はごくわずかで,肝障害,体重減少,死亡は認められなかった。最後に直腸癌患者由来の腫瘍オルガノイドを用いて,STAR0602がex vivoで患者由来腫瘍浸潤リンパ球を増殖させることを確認した。また,非小細胞肺癌2例と大腸癌2例の移植マウスモデルから作成したオルガノイドではペンブロリズマブとSTAR0602のex vivoでの比較試験を行い,非小細胞肺癌2例と大腸癌1例でペンブロリズマブよりも強い抗腫瘍効果を確認した。最後に,STAR0602によって増殖したヒトパピローマウイルス-16(HPV-16)に特異的なCD4陽性やCD8陽性のT細胞をHPV-16ペプチドで刺激すると,IFNγやTNFαやIL2などの産生T細胞が増殖したが,抗Vβ6/Vβ10抗体を添加すると抑制された。

 Discussionの最後のほうにはすでにPhase 1/2に進んでいることが書かれており,アイデアから非臨床研究が完結するところまで1本の論文にまとめられていた。相当な労力や研究費を要した内容だが,ファーストインクラスの創薬らしい内容で取り上げた。

•NEJM

1)癌
既治療小細胞肺癌患者を対象とするtarlatamabの有効性(Tarlatamab for patients with previously treated small-cell lung cancer
 進展型小細胞肺癌は標準治療が確立されているが,2nd lineの化学療法は選択肢が限られ奏功期間は3.6〜5.3カ月と短く,全生存が8カ月を超えることは珍しいとされており,新薬の開発が必要な領域である。Tarlatamabは小細胞肺癌の細胞表面に発現するDLL3と患者由来T細胞に発現するCD3の両方に結合することで,T細胞のエフェクター機能により腫瘍細胞を殺傷することを狙ってAmgen社が開発した二重特異性抗体である。本研究は多施設国際共同研究によって行われたPhase II臨床治験DeLLphi-301の結果で日本からは岡山大学,国立がん研究センター,和歌山県立医科大学が参画した。

 Phase IIでは過去に治療歴のある小細胞肺癌患者222症例が2021年12月から2023年5月にかけてPart 1~3に分けて17カ国56カ所で登録され,10mg投与群は100例,100mg投与群は88例で治療効果を解析した結果が示されている(Figure 1)。2週に1回,tarlatamabの10mgもしくは100mgが経静脈的に投与され,抗腫瘍効果と安全性が調べられた。客観的奏効率は10mg投与群で40%,100mg投与群で32%,奏効期間は59%で最低6カ月の走行を保っていた。無増悪生存期間は10mg投与群で4.9カ月,100mg投与群で3.9カ月だった。最も多かった有害事象はサイトカイン放出症候群で10mg投与群で51%(Grade 3は1%),100mg投与群で61%(Grade 3は6%),他は食欲低下,発熱,神経障害,好中球減少が挙げられた。治療中断は3%,治療関連死が10mg投与群で1症例報告された。

 本成果をもとに現在はPhase IIIが進められているとのことで今後の展開に期待したい。本号にはもう1点新しい抗癌薬amivatabmabのPhase III臨床治験が掲載されていた。

エクソン20挿入EGFR変異を持つ非小細胞肺癌に対するamivantabmabと化学療法の併用(Amivantamab plus chemotherapy in NSCLC with EGFR exon 20 insertions

 非小細胞肺癌のドライバー型EGFR変異のうち12%まで占めるのがexon 20の挿入変異ではEGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)があまり効かないことが問題だった。全生存は一般的なEGFR変異では38.6カ月まで改善したが,exon 20の挿入変異では16.2~24.3カ月,5年生存率は8%と予後が悪く,新規治療薬の開発が必要とされてきた。

 Amivantamabはヤンセンファーマ社が開発したEGFRとMETを両方標的とする二重特異性抗体(Wiki)であり,EGFR受容体の機能阻害だけでなく,Fc領域を介してマクロファージ,単球,NK細胞を動員して癌細胞を障害すると考えられ,キナーゼ活性を直接阻害するEGFR-TKIの耐性獲得の際に需要なMETも阻害して抗腫瘍効果を発揮することが期待されている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2023)での最新情報を和歌山県立医科大学の山本教授が日経メディカルで解説されていた(リンク)。

 本研究はそのPhase III臨床治験でありPAPPILON試験という名前の多施設国際共同研究で日本からはがん研有明病院と静岡がんセンターが参加した。2020年12月から2022年11月までかけて308名がリクルートされて153名がamivantamab+全身化学療法,155名が全身化学療法のみに割り付けられた。無増悪生存期間は前者で11.4カ月,後者で6.7カ月となり(Figure 1),データ開封時の完全および部分奏効は73% vs. 47%,全生存でのハザード比は0.67だった(Figure 2)。有害事象は主に前者において可逆的な血液障害とEGFR関連毒性を主体に認められ,7%の患者は有害事象のためにamivantamabを中止した。治験薬最終投与後30日以内の死亡はamivantamab+全身化学療法の群で7例(7例とも明らかな治療薬の毒性による所見ではなかったが1例はamivantamabに関連すると考えられた),全身化学療法のみの群で4例だった。

 今回取り上げたSci Trans Medの1報とNEJMの2報はもともと別の2種類の蛋白質だったものを1つの蛋白質分子に融合したデザインによる創薬の例であり,こうした融合蛋白質の実績が近年急速に増えている。今後もアイデア治療薬の候補が次々と生まれてくることを期待したい。

今回の写真:少し前になりますが,今年の詩仙堂(京都)の庭を見てきました。


(後藤慎平)

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