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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 263

公開日:2023.12.26


今週のジャーナル

Nature Vol. 624 Issue 7991(2023年12月14日) 英語版 日本語版

Sci Transl Med Vol. 15 Issue 725(2023年12月6日英語版

NEJM Vol.389 Issue 24(2023年12月14日英語版 日本語版








Archive

腎障害をおこす腫瘍関連ホルモン/タバコが結核にも悪い理由/遺伝子組み換え型インフルエンザワクチンは有効

•Nature

1)腫瘍学
腫瘍誘導性腎機能障害を引き起こす新規抗利尿ホルモン(A novel antidiuretic hormone governs tumour-induced renal dysfunction
 中国の武漢大学における研究で,腎機能障害を引き起こす悪性腫瘍からの抗利尿ホルモンを新規に発見した報告である。腎機能維持と体液輸送,これは脊椎動物・無脊椎動物ともに生理学的および病理学的にも不可欠である。悪性腫瘍の患者では腎機能障害や乏尿を発症することが多く,これらにはシスプラチンをはじめとする化学療法の副作用は常識であるが,腫瘍関連の炎症が関わっていることも以前から報告されている。しかし,腫瘍が腎機能を直接調節するようなメカニズムが存在するのか?
 本研究では,キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の腫瘍モデルを用いて,イオン輸送ペプチドアイソフォームF(ITPF)がハエの抗利尿ホルモンであり,これはyki3SA腸腫瘍細胞の一部から分泌されて腎機能を障害し,重度の腹部膨満と体液の蓄積を引き起こすことを明らかにしている。機構的には,腫瘍に由来するITPFは,尿細管に相当する排出器官であるマルピーギ管の星細胞でGタンパク質共役受容体TkR99Dを標的とし,一酸化窒素シンターゼ–cGMPシグナル伝達を活性化して,体液の排出を阻害する(Fig.3)。さらに,さまざまな悪性腫瘍を持つマウスで,ハエのTkR99Dのホモログである哺乳類ニューロキニン3受容体(NK3R)を薬理学的に阻害すると腎尿細管機能不全が効果的に軽減されることから,NK3Rの抗利尿機能も明らかにした。本研究は,さまざまな種にまたがって腫瘍と腎臓のクロストークを仲介する新たな抗利尿経路が存在することを提示しており,がん関連腎不全という事象を再認識させられる内容である。

•Sci Transl Med

1)感染免疫学
タバコ煙の曝露は炎症性気道単球を肺にリクルートし,結核菌増殖を促進させる(Tobacco smoke exposure recruits inflammatory airspace monocytes that establish permissive lung niches for Mycobacterium tuberculosis
 タバコの喫煙は活動性結核のリスクを倍増させ,全世界の活動性結核患者の20%を喫煙者が占めている。この関連性は以前から指摘(リンク)されており,肺結核の罹患リスクを2倍以上高めるリスクと言われている。しかし,喫煙がどのように結核菌(Mtb)増殖と肺微小環境に関連しているのかは不明である。本研究は米国ハーバード大学からのもので,シングルセルRNAシークエンシング(scRNA-seq),フローサイトメトリー,およびファンクションナルアッセイを用いて,喫煙者および非喫煙歴の気管支肺胞洗浄液(BALF),および末梢血中の細胞を結核菌と培養して解析している。まず興味深いのは,喫煙者では非喫煙者と比較して,BALF中に未熟な炎症性単球が多数存在していることである。これらの単球は,COPDでも類似していて血液からのリクルートメント,分化,活性化が亢進している表現型を示している。本研究では,scRNA-seqとフローサイトメトリーでの解析により,この末梢血から肺へとリクルートされた喫煙関連肺単球のサブセットマーカーがCD93(Fig.3)であることが同定され,さらに,そのリクルートがCCL11を含むCCR2結合ケモカインによって媒介されることを明らかにしている(Fig.4)。また,これらの細胞は,成熟マクロファージと比較して,Mtbにさらされると炎症反応が上昇し,Mtbの細胞内増殖が促進される。このMtbの増殖促進は抗炎症性低分子化合物によって抑制されることからも,喫煙からの炎症誘発状態はMtbの増殖促進に関連していることを確認している。
 ちなみに喫煙は肺炎球菌性肺炎の罹患リスクを4倍以上高めること(リンク)も有名であり,百害あって一利なしですね。

•NEJM

1)感染症学
65歳未満の成人における遺伝子組換えインフルエンザワクチンの効果は?(Recombinant or standard-dose influenza vaccine in adults under 65 years of age
 4価遺伝子組換えインフルエンザワクチンの臨床的有用性を検討したものでサノフィ社の治験である。このワクチンは,3倍量のヘマグルチニン蛋白が含まれており,遺伝子組換え技術による製造なので頻発する抗原性変化(抗原ドリフト)の影響を受けにくいのが利点とされている。遺伝子組換えワクチンの,65歳未満の成人のインフルエンザ関連転帰,標準用量のワクチンと比較した相対的な有効率を評価している。クラスター無作為化観察研究として,カイザーパーマネンテ北カリフォルニアの施設で高用量の遺伝子組換えインフルエンザワクチン(Flublok Quadrivalent),または標準用量のインフルエンザワクチン(2種類のうち1種類)を,2018~2019年と2019~2020年のインフルエンザシーズンに,50~64歳の成人(主要年齢群)と18~49歳の成人にルーチンに接種している。主要評価項目はPCR検査で確認されたインフルエンザ(AまたはB),副次評価項目はインフルエンザA,インフルエンザB,インフルエンザ関連入院転帰である。対象集団は18~64歳のワクチン接種者1,630,328例(遺伝子組換えワクチン群632,962例,標準用量群997,366例),遺伝子組換えワクチン群では1,386例,標準用量群では2,435例にインフルエンザが確認された。50~64歳ではPCRでインフルエンザ陽性は,遺伝子組換えワクチン群で559例(1,000例あたり2.00例)に対し,標準用量群では925例(1,000例あたり2.34例),つまり相対的ワクチン有効率は15.3%,95%信頼区間(CI)5.9~23.8であった。そして同年齢群におけるインフルエンザAに対する相対的ワクチン有効率は15.7%(95%CI 6.0~24.5)であった。インフルエンザ関連入院に対する効果は,遺伝子組換えワクチンは標準用量のワクチンと比較して有意差はなかった。なんらかの既往症を有する同年齢のサブグループでは,相対的ワクチン有効性の指標は,PCRで確認されたインフルエンザで14.3%(95%CI 2.4~24.8),インフルエンザA感染でも14.9%(95%CI 2.6~25.7)であった(リンク)。50~64歳の成人において,高用量の遺伝子組換えワクチンは,標準用量のワクチンと比較して,インフルエンザに対して高い防御効果が得られた。長期的な副作用などは今後の課題であろう。

今週の写真:河口湖と富士山
(石井晴之)

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