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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 265

公開日:2024.1.16


今週のジャーナル

Nat Commun Vol. 15 Article number 241(2024年) 英語版

Sci Immunol Vol. 8 Issue 90(2023年12月英語版

NEJM  Online ahead of print(2024年1月英語版








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AIロボットを用いる気管支鏡/ヒト胎児肺を用いて肺における免疫細胞の発生を解き明かす/医師は何のために「労働」するのか?

•Nat Commun

1)呼吸器:Article
AI気管支鏡ロボット(AI co-pilot bronchoscope robot
 筆者はこれまであまりアップデートできていなかったが,AIを活用した気管支鏡のアプローチの実用化が迫っているようである。この分野をリードするのはMONARCH Platform(Ethicon社)とIon Endoluminal Systemのようである。
 今回,紹介するのは中国の浙江大学が開発したAI気管支鏡ロボットの研究である。Fig. 1に,この気管支鏡の全体像が示されている。気管支鏡ロボットはロボットアームと一体化されており,手術台の横に設置されたブースのような所で,医師が遠隔操作する。気管支鏡は,直径3.3mm(1.2mmのワーキングチャネル付き)と2.1mm(ワーキングチャネルなし)の2種類が設計されている。MONARCH PlatformやIon Endoluminal Systemが開発する気管支鏡よりも径が細く第9分岐までアプローチが可能とのことである。また,AIを活用して人間の操作を制御することで,周辺組織への損傷のリスクを最小限に抑えていることが,このシステムの1つの特徴である。
 このAIの制御システムに関する理論的背景はFig. 2に紹介されている。この気管支鏡ロボットは気管支鏡の手技中に画像を取得し,医師はロボットの方向を決定するために操作(=コマンドと呼んでいる)を行う。この画像と人間のコマンドの双方がポリシーネットワーク(Link)に入力され,カテーテル先端が気管支内腔の中心に位置するように制御される。このポリシーネットワークはAlpha Goでも活用されたAIのコンポーネントであり,メインタスクとして操作の動作予測が設定され,サイドタスクは奥行き推定から構成され,複数ステップによるタスク構造を有している。
 このAIシステムの中に仮想環境を構築するために,CTから気道モデルを構築し,気道中心線が参照経路として抽出される。そして,気管支鏡画像と深達度はrendering(データを処理または演算することで画像や映像を表示させること)により仮想環境の中で「模擬」ロボットにより観察される。次に,AIが監督する「専門家エージェント」が,人間のコマンドとアクションを自動生成する。このAIエージェントは,トレーニング中にも必要な情報に優先的にアクセスできる。
 このAIエージェントが気管支鏡の進路を決定する上で重要な決定点としてウェイポイント「Pa」「Pf」が定義されている(Fig. 2)。Paは,ロボットが現在どのように位置しているかを考慮して,最適なステアリングアクションを決定するために使用される点である。一方,Pfは,人間のコマンドを決定するために使われ,Paよりも遠位に設定されている。このシステムをもとに,さらに,AIの汎用性を高めるため,気道モデルをランダムに回転させたり,気管支鏡の光量を調整したり,ロボットが気管支壁に非常に近づいた時のランダムなノイズの追加などのAIシステムの中で調整因子として加えられているとのことである。
 仮想気管支鏡システムを用いた評価では,AI支援により初心者医師が専門家よりも低い操作エラーを達成した(Fig. 4)。さらにブタを用いた気管支鏡の評価においてもAI支援を受けた担当医師は専門家と比較して滑らかな操縦と小さな画像エラーを達成した(Fig. 5)。
 以上より,このAI気管支鏡ロボットシステムは気管支鏡検査の安全性,正確性,効率性を向上させる低コストかつ効果的なソリューションを提供すると筆者らは結論付けている。

•Sci Immunol

1)呼吸器:Article
ヒト肺初期免疫細胞の発生と上皮細胞運命におけるその役割(Early human lung immune cell development and its role in epithelial cell fate
 英国のUniversity College London,Wellcome Sanger Instituteからヒト胎児肺を用いて,肺の器官形成において,免疫細胞と組織幹細胞がどのように相互作用しているか詳細に解析した研究を紹介する。慈恵会医大から留学されていた吉田先生も共同筆頭著者として参画されている。この研究のハイライトは,5〜22週の胎児肺を使用して,scRNAseqを含めて,様々なオミックス解析を行っていることである。
 まず,研究チームは発生初期には自然リンパ球(ILC),NK細胞,骨髄系細胞などの自然免疫細胞と種々の前駆細胞が多く認められていることを確認している(Fig. 1)。そして,発生の時間経過とともに,Bリンパ球とTリンパ球の割合が徐々に増加していた。これらの免疫細胞は,内皮細胞,上皮細胞,間質を含むすべての肺の領域に存在していた。肺細胞全体における免疫細胞の割合が最も高かったのは8週で,その後,一旦減少し20週において再び約9%まで上昇していた。
 さらに胎児肺の免疫細胞のsubpopulationを包括的に解析すると,前駆B細胞,リンパ球原性多能前駆細胞(LMPP),ILC前駆細胞(ILCP),巨核球-赤血球前駆細胞(MEP),共通骨髄球前駆細胞(CMP),巨核球前駆細胞,T細胞前駆細胞など,胎児の発生初期段階で様々な前駆細胞が認められた(Fig. 2)。マクロファージ,DC,巨核球,顆粒球は胎児肺で8週から確認され,15週までに数が増加していた(10X Genomics scRNA-seqにおいては,顆粒球数は過小評価されている可能性はある)。T細胞,NK細胞,B細胞は免疫染色で,また,顆粒球系はRNA scopeを用いて解剖学的に局在を明らかにしている。
 臍帯血中の免疫細胞には母親由来の細胞が存在することが報告されているが,胎児肺の免疫細胞には母親由来のものは確認されなかった。また,免疫細胞の割合が8週と20週で二峰性のピークを示しており,これは肺内の血管の成熟が関与している仮説を立て,PECAM1の割合を解析している。その結果,血管成熟の度合いが免疫細胞の二峰性の分布に影響を与えていることが示唆された。また,肺組織切片のCD31+血管系に対するCD45+/CD68+細胞の割合を定量化することで,免疫細胞が循環細胞由来か組織常在細胞由来かを判別しており,免疫細胞の大部分は組織常在性であることも判明している。
 次に,胎児肺のB細胞に焦点を当てて分析を進めている。胎児肺では,LMPP/ELP,pre-pro-B,pro-B,大型pre-B,小型pre-B,未熟B細胞,成熟B細胞のB細胞系列のすべての細胞を認めていた(Fig. 3)。元来,B細胞の成熟は主に胎児骨髄で起こると考えられていたが,最近の研究では胎児の皮膚や腎臓でもB細胞の発生の中間体にあたる細胞集団が検出されることが示されている。これと同様に,胎児肺でもB細胞の発生経路を代表するすべての集団が見られ,B細胞の成熟が胎児の肺内で局所的に起こることが示唆された。
 さらに,胎児肺のT細胞に焦点を当てて分析を進めている。リンパ球のLineageを解析すると,conventional T細胞とunconventional T細胞(1型自然リンパ球と3型自然リンパ球の中間形質を有する)T細胞,ILC,NK細胞,さらに胸腺由来のT細胞progenitor集団(PTCRA+RAG1+RAG2+)が同定された(Fig. 4)。CD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,制御性T細胞は,ナイーブT細胞とメモリーT細胞の両方の特徴を有していた。さらに胎児肺と新生児/小児ドナーのナイーブT細胞を比較すると,胎児のサンプルではGZMAやNKG7のような細胞傷害性マーカーがより多く含まれていた。T細胞の発生の成熟に関しては,B細胞とは違い,肺内では起こらず,胸腺などの器官で成熟した後に肺内に流入することも明らかにしている。
 また,胎児肺の免疫集団と他臓器の免疫細胞との相違を解析し,ILCとNK細胞は,胎児肺で有意に濃縮されていることを示している。この現象は,マウスの発生における最近の知見とも一致するようで,ヒトにおいても胎児肺でこれらの免疫細胞集団が増殖しやすいニッチを有する可能性を指摘している(Link)。
 最後にミエロイド系の免疫細胞に焦点を当てている。マクロファージや樹状細胞は発生中,気道の先端に位置するSOX9陽性の幹細胞の近傍に存在していた。しかもこれらの,ミエロイド系の免疫細胞はIL-1Bを分泌する特徴を有していた。SOX9+幹細胞から作成したオルガノイドをIL-1Bで刺激すると,気道の上皮細胞への分化が促進した(Fig. 6)つまり,免疫細胞が上皮細胞との相互作用により気道形成に関与することが示唆された。
 胎児肺という貴重な研究リソースをシングル解析により詳細に解析した壮大な研究である。

•NEJM

1)医学教育:Medicine and Society 
天職—特権階級のプロから資本主義の歯車へ?(On calling -- From privileged professionals to cogs of capitalism?
 日本では医師の働き方に関するトピックが賑わせているが,米国でも医療従事者の働き方やキャリア観に対する問題は共通の深い問題であるようだ。
 医療を「天職」(calling)として捉えるのか,「仕事中心主義」(workism)として捉えるのか,という対立軸で議論されている。特に米国ではCOVID-19のパンデミックを経て,ライフスタイルが変化し,仕事を生活の中心として捉える「仕事中心主義」に疑問を持つ若手の声が高まっていることが触れられている。医療を「天職」として捉えることは,医療従事者に過度の犠牲を強いることに繋がりかねず,それがひいては医療の質や医療従事者の福祉に悪影響を与える可能性があるとされている。
一方で,医療を「天職」として捉える医師は,80時間ルール(米国の研修医の労働条件)を遵守していては十分な臨床能力が獲得できないと考える医師もいる。また,そのような考えを持っていたとしても,若手医師には特段,直接指摘せずに,「静かに」立ち去ることを選ぶ者が多いことを筆者は指摘している。
 私はこれまで多くの指導者にコストパフォーマンス(コスパ)・タイムパフォーマンス(タイパ)度外視で指導を受けてきたが,この「働き方改革」時代に,私が受けてきた指導を下の世代にできているかと問われると自信がない。
 最後に,この文章の末尾は印象的な文章で締められている。
「Why does believing that the sacrifices trainees and physicians make are worthwhile feel increasingly taboo? (研修医や医師が犠牲を払うことに価値があると信じることがますますタブー視されるようになったのはなぜなのか?)」

今週の写真:学会前に立ち寄った鳴門の大塚国際美術館
巨大な展示スペース,世界中の絵画の作品もさることながら,鳴門の「砂」から陶板を作成し,原寸大で美術品を作り出す構想には圧倒された。

(南宮湖)

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